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黒蓮

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第四章 長期休暇 編

フロストル公国 3

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 公国への道中、多少の騒ぎはあったが、3日目の午前中には予定通りフロストル公国首都『レイクウッド』に到着した。盗賊の襲撃直後には僕の使用していた剣についてどこに持っていたか聞かれはしたが、ローブに隠し持っていたという事で押し通した。皆は納得はしていないような感じがしたが、それ以上は突っ込まれることは無かった。ちなみに、襲撃の際に聞いたロイヤルナイツというのは、公国の騎士団の中でも特に武勇に優れた者達で、さらに王族の護衛を務められるだけの人間性を持ち合わせる公国で最も誉れ高い職業なのだという。


「お疲れ様です。ようこそフロストル公国の首都、レイクウッドへ!」

 マーガレット様がそう言い、手を伸ばすその先に見えるレイクウッドは、正方形の外壁で囲まれていた。中心部には湖があり、その中ほどに島があるのだが、そこには立派な白亜の城がそびえ立っていた。街にある建物はほとんどが3階建て以上で、2階建てが主流の王国と比べるとその建築技術の高さが窺えた。マーガレット様曰く、外壁が四角いのは魔法で建築しているので、円形よりも四角形の方が建て易く、補修もしやすいという事らしい。豪奢な正門から列をなしている人達を横目にスムーズに通過できたのは、さすがに王族専用の馬車なだけあって優遇されている。

 首都へ入り速度を落とした馬車が大通りを進んでいくと、目に入ってくるのは馬車に手を振るエルフの民達だった。よほど王族は人気があるのか、皆笑顔だった。

(王国の王子への対応とは違うな。王国はもっと恭しいというか、なんとなくビクビクしていた印象もあったけど、公国はもっとフレンドリーというか、距離が近い感じがする)

 馬車の窓からそんな様子を見てると、エルフの人達は一つ段が上がった所からは降りてこずにしている。何故かと思い周りを見ていると、どうやら馬車の通る道と人が歩く道は完全に別れているらしく、馬車に人がぶつかるという事故を防ぐようになっているのだろう。感心していると、マーガレット様がこの様子について話してくれた。

「我が国は対外的に見て人口は少ないのです。その為国民同士の繋がりは非常に強いものとなっています。それに、私達は長命だから皆家族のようなものですね」

 なるほど、エルフは長い人生の間に他者との交流も密なものになっていくのだろう。加えて人口もそう多くないので繋がりが更に強くなるという事か。同じ人間同士でも王国では貴族と平民は大きな溝があるし、そもそも王都では住む場所さえも分けられていることを考えれば、この国は理想的な国なのか、それとも種族的なもので真似することはそもそも不可能なのか。ともあれ、住むならこんな環境の方が良いなと感じた。

「確かに皆良い笑顔で手を振っていますね。とてもいい国の様です」

「ん、王族に対しても皆フレンドリーな感じ」

「ふふふ、ありがとうござます。といっても昔からこうだった訳ではないです。過去には色々な衝突もありましたが、お母様が皆をまとめ上げて、こうして今では素晴らしい国になったと私も思っています」

どこの国でも争いと言うものは絶えないらしい。それでもこうしてみんながまとまった国が出来ていることは素直に凄い。

 首都の大通りを抜け、中央にある湖に立つ城へと架かる大きな橋へと到着した。ここからは馬車は使えないようで、歩いて行くのかと思いきや橋の両側の道が動いているのだ。

「な、なんだこれ!?」

「ん、地面が動いてる!どうするのこれ?」

「これはムービングロードです。これに乗って王城まで向かいます。湖岸こがんから城までは少し距離がありますので、こうしないと荷物の運搬も大変ですから。そのまま立っていていただければ2分ほどで着きますのでとても便利なんですよ」

「ん、さすが魔法先進国!こんな大規模な魔具も開発されているとは驚き」

「これはこの国を見て回るのが楽しみですね!」

「既に先触れは出しているので、城に着いてからお母様とお父様に少し挨拶する事になると思いますので、心の準備だけお願いしますね」

「・・・マーガレット様の両親と言うとこの国の王ですか?」

「そうなりますが、今回の訪問は公式なものではありませんので、そう気になさらず」

「ん、そうは言っても相手は一国の王。拝謁はいえつする前に出来れば着替えたい」

「分かりました。別室で着替えられるように手配します。ダリア殿はどうしますか?」

「いや、王様に会うような服は無いから・・・どうしよう?」

「それではこちらで適当な服をご用意してもよろしいですか?」

「すみませんマーガレット様、お願いできますか?」

「もちろんです」

 城に到着すると大きな槍を携えている4人の門番の1人がマーガレット様に駆け寄ってきた。

「無事の御帰還にお喜び申し上げます、マーガレット殿下。謁見えっけんの間にて女王陛下がお待ちしております」

「分かった。案内せよ」

 門番が携えていた槍を地面に置き、跪きながらマーガレット様に伝えていた。その後ろからメイドと執事のような衣服に身を包んだ4人の女性と2人の男性が足早に近付いてきている。

「殿下!お久しぶりでございます!お元気そうで安心しました!」

「おお、ミーシャ!久しいな!そなたも元気そうでなによりだ」

 メイドの中の1人が抱き着かんばかりの勢いで駆け寄り、近過ぎる距離感で話している。そんな様子を見ていると、マーガレット様は城についてから王族口調になったような気がする。そんな事を思いながらその会話を聞いていると、一段落したのか、こちらに視線を移してきた。

「ところで殿下、ダリア殿はどちらに?男性であると聞いていますが、別行動をしているのですか?」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「ん、ダリアはここ」

ティアが僕の肩に手を置きながらミーシャと呼ばれたメイドに伝える。

「・・・彼がダリア殿だ。知っての通り我が祖母の恩人でもあるのだ、丁重に頼むぞ」

「し、失礼いたしました!オーガジェネラルを単独討伐した男性と聞いていたので、その、もっとゴツい男性の方かと誤解しておりました!」

「いえ、慣れてますので・・・」

「大変申し訳ありません!直ぐご案内をします!あなた達、ダリア殿をお願いします!ティア様もあちらのメイドに付いていって頂けますか?」

「よろしくお願いします」

「ん、分かった」

僕は執事姿のエルフに、ティアはメイドにそれぞれ城の中へと案内された。

 案内された先はなんとなくフリージア様の部屋を思い起こされる、大きなクローゼットが置いてある広々とした部屋だった。

「では、ダリア様、こちらでお召し替えを致しますので、今着ているお召し物はこちらに。こちらで替えのお召し物は用意しておりますが、どのような物がよろしいでしょうか?」

執事姿の男性がそう言いながらクローゼットを示すと、もう1人がクローゼットの扉を全て開けていた。中には色とりどりの衣装があり、軍服調から騎士の様な服装まで様々だ。

(このクローゼットの中の服ならどれでも良いなら・・・あの黒を基調とした騎士風の服がカッコいいな!)

完全に僕の趣味なのだが、見た目が気に入ったのでそれをお願いする。

「かしこまりました。私もお手伝いしますので、早速お召し替えしましょう」

1人でも着替えられると思ったのだが、借り物の服だし、何より王族の所有物であると考えると、汚したり破けたりしたら大事になると思いお任せすることした。

着替え終わり少し時間をもて余していると、扉がノックされティアが現れた。

「ん、ダリアも準備出来てる?」

「うん、もう終わったよ。ティアのそのドレス凄く似合ってるね!薄いベージュの色がティアの赤い髪に良く合ってるよ」

「・・・ん、ありがと・・・」

いつものティアにしてはなんとなく歯切れが悪かったが、そんな事を指摘する前にティアと一緒に来たメイドが謁見の間に案内するので付いてきて欲しいと言われ、ティアと共に付いていった。


 白と緑色を基調とした謁見の間は天井も高く広々としていた。上を見れば豪華なシャンデリアが吊り下がっており、その荘厳な雰囲気に圧倒される。奥に行くと5段ほどの階段の上に大きな翡翠色の椅子が置いてあり、そこには新緑色のドレスを着た美しいエルフが悠然と座ってこちらを見ていた。その容姿はどことなくマーガレット様に似ており、アップに纏めている深緑色の髪も彼女達が親子だと思わせるものだった。

 隣には壮年の男性エルフがおり、恐らくはマーガレット様のお父さんと思われる。こちらは薄い緑色の髪を短髪にした偉丈夫だった。そして、さらに隣にマーガレット様が緑のドレスに着替えてそこに居た。

「初めましてフロストル公国女王陛下。私はオーガスト王国ロキシード侯爵家のティア・ロキシードと申します。本日はご尊顔そんがんを拝見でき、ありがたく存じます」

スラスラと挨拶の弁を述べるティアはいつもの短い喋り口調から一転して、貴族令嬢然としたまさにお嬢様だった。ドレスの裾を少し上げる所作も実に優雅だ。

(これが貴族が・・・そんな教育は実家ではなかったからまるで分からない・・・男の場合は一応片膝をついた方がいいのかな?)

「初めまして女王陛下、私はダリア・タンジーと申します。・・・ご尊顔を拝見でき・・・恐悦至極に存じます」

僕は片膝をつき、無い知識をフル活用してなんとか言葉を絞り出した。

「初めまして、わらわがフロストル公国女王、ヴァネッサ・フロストルです。本日は私的な場ですので、どうか2人とも肩の力を抜いて下さい」

女王の砕けた言葉にほっとして、立ち上がった。一応謁見の間には数人の護衛騎士の姿も見えるが、私的な場ということで格式張った言葉でなくても良いのならありがたい。

「それに、ロキシード宰相とは休戦協定の際に幾度か言葉を交わしておりますので、知らぬ方でもありません。ティアさんの事も少しマーガレットから聞いていますよ」

「ありがとうございす。マーガレット殿下とは良き友人として学びを共にしています」

「それに、ダリア殿には私の母上とマーガレットの窮地を救った恩人でもありますので、訪問頂いたこと大変嬉しく思い歓迎いたします」

「マーガレット殿下とはその場の偶然の成り行きですので、お気になさらず。私の行動が良き結果をもたらしたなら幸いです」

「娘からは魔具や書物に興味があると聞きましたので、購入に際して可能な限り便宜を図りましょう。どうぞ、我が国を見て楽しんでください」

「はい!ありがとうございす!」

「本日の夕食は歓迎のパーティーを準備させますので楽しみにしてくださいね。といっても大々的なものではなく、あくまで身内でのものなので緊張しなくて良いですからね」

「ありがとうございす。楽しみにさせて頂きます」

「滞在中は王城の1室をお貸ししますので、自分の家と思ってくつろいで下さいね。また、執事を付けますので、お困りの時には申し付けて下さい。では、今後とも娘のマーガレットと仲良くして上げて下さいね」

そう言って微笑むと、女王は椅子から立ち上がり夫なのだろう男性と共に退出していった。壇上からマーガレット様が降りてきて労いの言葉を掛けてくれた。

「堅苦しくなってすみません。とはいえこういった挨拶をしないわけにはいきませんでしたので、お疲れ様です」

「ふぅ~・・・一国の王に挨拶する時が来るとは思わなかったよ」

「ん、ダリアは今後こういった事が増える可能性も有るから学ぶべき」

「そうですね。きっとその場は、そう遠い将来の事ではないでしょう」

「えっ?僕は単なる平民だし、こんな事もう無いんじゃないかな?」

「ダリア殿にとって良いことかは分かりませんが、力を持つということは権力に近づくと言うことです」

「ん、きっと誰もがダリアの事を欲しがる」

 それがダリアという人物ではなく、ダリアという人物が持っている武力を指しているのなら、なんとなく悲しい思いになる。が、この世界とはそう言うものとも理解しているので、2人には微妙な笑顔を返してしまった。

(マーガレット様が言った、良いことかどうかという言葉は、僕の考えを尊重して言ってくれたんだろうな・・・)

 今はまだそんな場面の想像が出来ないので、とりあえず考えないようにして公国を楽しむことに専念しようと頭を切り替えた。
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