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最終章 幸せ
絆 20
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この大陸に来てから早くも4ヶ月が過ぎようとしていた。魔獣の間引きはまだ残っているが、早々に国家としての体裁を確立しておこうという考えで、明日にはこの第一地区において新国家樹立の宣言と、新国王の戴冠式が控えていた。
既に今日のうちに各地区の代表者達は僕の〈空間転移〉で招待しており、先程まで豪勢な立食パーティーを行っていた。新国家の住民になることを渋っていた数地区も、僕の魔法を使った作物の即時収穫の現場を見たことで考えを改め、喜んで住民になることに賛同してくれた。ただ、この能力を見たほとんどの住民達は、僕を神のように崇めてくるのには何とも言えない居心地の悪さがあった。
(僕はそんな大層な人間じゃないんだけどな・・・ただ自分に出来ることを、やりたいようにやっているだけなんだけど・・・)
僕は僕の目的の為に力を使っているに過ぎない。それが結果として周りにいる人達に恩恵をもたらすものであっても、僕の意図した事ではなかった。しかし、そんな僕の無自覚な行動の結果、一国の王に祭り上げられるなんて昔の僕には想像も出来なかった。それでも、みんなと共に幸せに暮らせる場所を自分達で作り出せるという状況は、とても幸運だったのではないかと思えるようになった。
そんなことを考えながら、僕は屋敷の自分の部屋へ戻り、明日の建国宣言の言葉を間違えないように書類を読み返しながら復習していた。ちなみに、この宣言の内容は事前にシャーロットが考えてくれたものだ。
しばらく練習していると、部屋の扉をノックする音が聞こえてくる。練習に集中していたために気付かなかったが、時刻は既に夜11時を過ぎており、外はパーティーの照明も消えていて、漆黒の闇が辺りを支配していた。
「どうぞ。開けて良いよ」
空間認識で扉の外に誰がいるかは分かっていたので、彼女達に入ってきても大丈夫だと告げる。
「・・・失礼しますね。明日は大事な日なのに、夜遅くにごめんなさい」
先頭で入ってきたメグが、申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にしてから部屋に入ってきた。
「あっ!明日の練習をしていたんですね。どうですか?」
フリージアが僕の手にしている書類に目を向けると、明日の仕上がり具合を聞いてきた。
「一応全て頭の中には入っているけど、心配だったから見直していただけだよ」
「・・・ダリア君、疲れてない?大丈夫?」
僕の顔を覗き込んできたシルヴィアが、心配そうに体調を気遣ってくれる。
「疲れてないと言ったら嘘になるけど、明日が終われば少し休めそうだし大丈夫だよ!それより、みんなの方が疲れてない?大丈夫?」
僕は肉体的に疲れることは【才能】を使えばあり得ない。精々が精神的な疲労だ。ただ、それはみんなも同じで、僕が回復速度を上昇させているとはいえ、ここ数日は彼女達が中心となって新国家の法律や地区間の街道をどう通すか、国家の方針と政策等をファラさんや他の地区の代表達と議論しているので、精神的な疲労は僕以上ではないかと感じていた。
「ん、問題ない。寧ろ新国家の建国に立ち会えるなんて、これ以上名誉なことはない。それに、国王の婚姻制度についてはもう完成したので、心配要らない!」
普段のティアからは想像できない眩しい笑顔で語るその言葉に、本当に疲労感を感じていなそうな雰囲気だった。
(きっと、自分のやりたいことがやれているから、疲労を感じないのかもな)
彼女達の充実した表情を見てそう考えると、ジャンヌが真剣な表情で口を開く。
「それでダリア、私達が訪ねてきた理由なのだが・・・」
そう前置きするも、彼女は顔を赤らめ、目を泳がせながら中々続きを話そうとしなかった。そんな彼女にしびれを切らしたのか、メグがジャンヌに近づいて言葉を掛ける。
「ちょ、ちょっとジャンヌさん、さっきまではあれほど威勢良く任せろって言ってたじゃないですか!」
「そ、そうは言うがな・・・やはり本人を前にしてしまうと、何というか、その・・・」
「もう・・・分かりました。で、では、私が・・・」
話がついたのか、メグが僕に振り返って声を出そうとしたところで、彼女もジャンヌと同じように固まってしまった。その状況に見かねたのか、ティアが僕の腕を掴んできた。
「ん、ダリアは疲れているから、私達で疲れを癒す」
「そ、そうなの?ありがとう」
「ん、だから一緒に来て」
「・・・?何処かに行くの?」
「ん、その場所でないとダメ。そ、それに、わ、私達はダリアの奥さんになるんだから、これは妻としての当然の勤め」
具体的なことは何も言わずに、最後の方は顔を赤らめながら強引に腕を引っ張り、僕を椅子から立ち上がらせて彼女達の目的の場所に誘導される。そんなティアに先導される僕に続いて、みんなも後ろから付いてくる。
(・・・?一体どこにいくんだ?)
「ん、脱いで」
連れて来られたのは屋敷の浴室だった。その脱衣所でティアに端的に伝えられた言葉に、しばらく思考が停止してしまった。
「・・・えっ!?あ、その、えっと・・・つまり、一緒にお風呂にってこと!?」
突然の状況に狼狽えながら、しどろもどろに言葉を絞り出す。
「ティ、ティアさん!それじゃあ言葉が足りないですよ!ダ、ダリア君、これを着てください!」
そう言ってシルヴィアが、いつか公国の保養地で着た水着を僕に渡してきた。どうやら水着を着てみんなでお風呂に入るということのようだ。
「ん、私は別にダリアが裸でも・・・は、裸でも問題ない!」
「めちゃくちゃ動揺しているじゃないですかっ!というか、そ~ゆ~事は結婚式が終わってからって事になったじゃないですか!」
「ん、本番で慌てないように、事前に慣れておこうと思った」
「・・・その考えは分かるけど、こ、心の準備が・・・」
彼女達のやり取りをドキドキしながら聞いていると、話が進まないと思ったのか、ジャンヌが真っ赤な顔をしながらも服を脱ぎ始めた。その様子に驚きながらも、凝視しないよう顔を背けた。ただ、衣服を脱ぐ音に聴覚が敏感に反応してしまっていた。
(ど、どどど、どうすればいいんだ?やっぱり脱いでいる姿を見るなんて・・・そ、そんな大胆なまねなんて出来ないし・・・)
「さ、さぁ、みんな早く行くぞ!わ、私達は先に湯船で待っているから、ダリアも着替えて来てくれ!!」
思考を高速回転しながらどうしたらいいのか考えていると、ジャンヌが恥ずかしさを隠すように大声でそう言い残して、彼女は浴室へと入っていったようだ。そうしてみんなも次々と服を脱ぎ始めるような音が後ろから聞こえてきた。
彼女達が脱衣所を出ていってから、僕も意を決して水着に着替えて浴室に足を踏み入れた。
「・・・・・凄い」
ポツりと本音が口から溢れてしまった。僕を出迎えるように浴室で待っていたみんなは、色とりどりの水着を身に付けていた。
メグは薄い緑色の上下セパレートの水着で、凹凸のしっかりした女性らしいスタイルが目に眩しい。
フリージアは純白の水着で、彼女の透き通った白い肌が若干赤みを帯びている様を強調しているようで目が引き付けられる。
ティアは水色の上下一体となった水着で、スカートのようになっているフリルが、彼女の可愛らしさを一層引き立てている。
ジャンヌは大人っぽい漆黒のセパレートの水着で、引き締まった身体とアップに纏められた黒髪が、彼女をより扇情的に見せていた。
そしてシルヴィアは、たくさんのフリルをあしらった可愛らしいピンクのセパレート水着なのだが、どうしても目を引かれてしまうのは普段より強調されている彼女の大きな胸だろう。恥ずかしがってモジモジと体を捩るその姿は、とても魅力的だった。
「ダ、ダリア・・・こっちに来て」
メグが恥ずかしながら手招きしてくるのでそちらを見ると、椅子が用意されていた。みんなその手にタオルを持っているので、どうやら体を洗ってくれるらしい。それからはみんなにされるがままだった。恥ずかしさで困惑している内にいつの間にか湯船へと移動していた。結構余裕のある広さと思っていた浴槽も、こうしてみんなで入ると手狭に感じてしまう。
そんな、あまりの衝撃的な光景と体験で、しばらくボーッとみんなの姿を眺めていると、不意にジャンヌが口を開いた。
「ど、どうだダリア?少しは私達に癒されたか?」
「・・・えっ?あっ、うん。ビックリしたけど、その・・・嬉しいよ///////」
嬉しいという表現で合っているのか分からないが、彼女達の僕の疲れを取りたいという想いは伝わってきたので、純粋に嬉しかった。
「そ、そうか!やはりダリアも男の子なのだな。そ、その・・・私達のこういう姿は見ていて嬉しいのか?」
そう言いながらも彼女は恥ずかしいのか、体をくねらせながら聞いてきた。嫌いな訳がないが、そのまま素直に伝えると、彼女達をイヤらしい考えで見ていると伝えるような気がして、何と答えていいか返答に困ってしまった。
そんな僕の様子に、フリージアが助け船を出してくれる。
「ジャンヌさん、そんな答え難い質問はダメですよ?それに、ダリア君の表情を見れば、分かりますよ?」
「ん、ダリアの表情が明るくなった。私達のおかげ!」
ティアが僕の顔をじっと見ながら笑顔でそう指摘してきた。そう言われると、なんだか肩の荷が降りたというか、重責を感じなくなったというか、明日の事で緊張していたさっきまでの自分が消えていることに気付いた。それはきっと、建国宣言の事なんてどうでもいいと思えるような、この衝撃的な事件のせいだろう。
「そ、そうだな!やはり夫の体調を管理し、癒すのは妻である私達の責務だからな!」
そう言って恥ずかしがるジャンヌの表情は真っ赤なままで、この中では大人なはずの彼女がこんなに恥ずかしがっていると考えると、ちょっと可愛らしい。そんな考えが見透かされたのか、僕が笑みを浮かべていると、彼女はプイッとそっぽを向いてしまった。
(みんなには気を遣わせちゃったようだな。本当に僕の事を良く見ていてくれている・・・ありがとう)
言葉に出すのが少し気恥ずかしくて、心の中でみんなにお礼を告げておく。
そうして幸せな時間を満喫していると、シルヴィアが寄ってきた。彼女の大迫力な2つの塊が湯船にプカプカ浮かぶ様子に目を奪われてしまったが、強靭な意思でねじ伏せ、何食わぬ顔で彼女の顔に視線を向けた。しかし・・・
「む~、ダリア君・・・見過ぎです。わ、私だって恥ずかしいんですから・・・」
「ご、ごめん・・・」
そう言いながら腕で胸を隠そうとされてしまうと、余計に強調されて意識せずにはいられないのだが、ぐっと視線を我慢する。
「もう・・・ダ、ダメじゃないですけど、ふ、2人っきりの時にしてね」
「・・・はい」
何故か彼女の言葉に敬語になってしまった。どうやら僕は彼女達に敵いそうにない。そんな予感をヒシヒシと感じてしまった。
「そ、それよりも、ダリア君に聞きたいことがあるの」
「聞きたいこと?」
「うん。・・・ダリア君の目的、達成できた?」
彼女の言葉に目を見開くも、少し考える素振りを見せて、僕は笑顔を浮かべながらみんなの顔を順に見つめてから口を開いた。
「あぁ、僕は今、とても幸せだよ!」
「ふふふ、じゃあ次の目的は、その幸せがずっと続くようにすることだね!」
そう言われて僕は気付かされた。幸せになるということは、なって終わりじゃない。その後もずっと幸せなことが重要なんだと。
「そうだね、ありがとう!!うん!次の目的は、みんなとずっと幸せでいることだね!」
「「「はいっ!!これからもずうっと一緒に幸せでいようね、ダリア(君)!!!」」」
ダダダダダダダダダダ・・・・・
その時、脱衣所の方から足音が聞こえきた。
『ま、待ちなさいアシュリー!今はみんなお風呂にーーー』
『や~!アシュリーもみんなと一緒に入るの!』
『い、今はダメよ!』
『ダリアお兄ちゃんも居るんでしょ?一緒に入るの!』
『な、何でそれを!?せ、せめて水着を着なさい!』
『面倒なの!』
何やら不吉な会話が脱衣所から聞こえてくる。シャーロットが押し止めようとしているようだが、それをすり抜けるように近づいて来ているのが分かる。
(・・・これって不味いかな?)
そう思いながらみんなの顔を見ると、苦笑いをしながら脱衣所への扉を見つめていた。そしてーーー
『バタンッ!!』
「お兄ちゃん!アシュリーも入るの~!!」
「す、すみません!」
攻防の結果なのか、可愛らしい白の下着姿で浴室へ飛び込んできたアシュリーちゃんと、止めきれずに申し訳なさそうな表情をしているシャーロットと目が合う。
「ハハハ・・・。じゃあもう全員で入ろうか?」
「アシュリー達だけ除け者なんてダメなの!」
「・・・で、では私も着替えますね」
そう言いながらシャーロットは服を脱ぎだすと、何故か下に鮮やかな赤い水着を着込んでいた。内心を顔に出さずに湯船に入ってくる彼女は、僕だけに見える角度で悪戯が成功した子供のように舌をペロッと出してきた。
(はは・・・、アシュリーちゃんを誘導して一緒に入浴しに来たんだな・・・)
そうして僕達は温かく幸せな時間を一緒に過ごした。きっと彼女達となら、この先もずっとこんな穏やかな時間が過ごせるだろう。彼女達とはもっとずっと前から知り合っていたような感覚もあるのだが、彼女達との想い出はこれからいくらだって作っていけるだろう。
僕と彼女達との間には、確固とした絆を感じるのだ。それが壊れることなんてこの先ないし、そんなことは絶対にさせない。そして、彼女達との幸せな時間を過ごすために、新しい国は全ての国民が平穏な生活が出来るように、みんなと協力して豊かな国家を築き上げていこうと決意した。
翌日ーーー
広場に集まる住民達に新国家樹立を宣言し、初代国王に就くことを宣言すると、集まったみんなからは割れんばかりの拍手喝采が巻き起こった。
新たな国の国民となったみんなの期待を裏切らないようにしていこう。この先大変なことなんて何度もあるだろう。でも、みんなとならどんな困難だって乗りきっていける。宣言を終え、そんな自信を胸に後ろを振り向くと、そこには綺麗にドレスアップしたメグ、フリージア、シルヴィア、ティア、ジャンヌ、シャーロット、アシュリーが弾ける笑顔で僕を見守っていた。
「みんな、ありがとう!愛してるよ!!」
~~~~~~ 完結 ~~~~~~~
既に今日のうちに各地区の代表者達は僕の〈空間転移〉で招待しており、先程まで豪勢な立食パーティーを行っていた。新国家の住民になることを渋っていた数地区も、僕の魔法を使った作物の即時収穫の現場を見たことで考えを改め、喜んで住民になることに賛同してくれた。ただ、この能力を見たほとんどの住民達は、僕を神のように崇めてくるのには何とも言えない居心地の悪さがあった。
(僕はそんな大層な人間じゃないんだけどな・・・ただ自分に出来ることを、やりたいようにやっているだけなんだけど・・・)
僕は僕の目的の為に力を使っているに過ぎない。それが結果として周りにいる人達に恩恵をもたらすものであっても、僕の意図した事ではなかった。しかし、そんな僕の無自覚な行動の結果、一国の王に祭り上げられるなんて昔の僕には想像も出来なかった。それでも、みんなと共に幸せに暮らせる場所を自分達で作り出せるという状況は、とても幸運だったのではないかと思えるようになった。
そんなことを考えながら、僕は屋敷の自分の部屋へ戻り、明日の建国宣言の言葉を間違えないように書類を読み返しながら復習していた。ちなみに、この宣言の内容は事前にシャーロットが考えてくれたものだ。
しばらく練習していると、部屋の扉をノックする音が聞こえてくる。練習に集中していたために気付かなかったが、時刻は既に夜11時を過ぎており、外はパーティーの照明も消えていて、漆黒の闇が辺りを支配していた。
「どうぞ。開けて良いよ」
空間認識で扉の外に誰がいるかは分かっていたので、彼女達に入ってきても大丈夫だと告げる。
「・・・失礼しますね。明日は大事な日なのに、夜遅くにごめんなさい」
先頭で入ってきたメグが、申し訳なさそうに謝罪の言葉を口にしてから部屋に入ってきた。
「あっ!明日の練習をしていたんですね。どうですか?」
フリージアが僕の手にしている書類に目を向けると、明日の仕上がり具合を聞いてきた。
「一応全て頭の中には入っているけど、心配だったから見直していただけだよ」
「・・・ダリア君、疲れてない?大丈夫?」
僕の顔を覗き込んできたシルヴィアが、心配そうに体調を気遣ってくれる。
「疲れてないと言ったら嘘になるけど、明日が終われば少し休めそうだし大丈夫だよ!それより、みんなの方が疲れてない?大丈夫?」
僕は肉体的に疲れることは【才能】を使えばあり得ない。精々が精神的な疲労だ。ただ、それはみんなも同じで、僕が回復速度を上昇させているとはいえ、ここ数日は彼女達が中心となって新国家の法律や地区間の街道をどう通すか、国家の方針と政策等をファラさんや他の地区の代表達と議論しているので、精神的な疲労は僕以上ではないかと感じていた。
「ん、問題ない。寧ろ新国家の建国に立ち会えるなんて、これ以上名誉なことはない。それに、国王の婚姻制度についてはもう完成したので、心配要らない!」
普段のティアからは想像できない眩しい笑顔で語るその言葉に、本当に疲労感を感じていなそうな雰囲気だった。
(きっと、自分のやりたいことがやれているから、疲労を感じないのかもな)
彼女達の充実した表情を見てそう考えると、ジャンヌが真剣な表情で口を開く。
「それでダリア、私達が訪ねてきた理由なのだが・・・」
そう前置きするも、彼女は顔を赤らめ、目を泳がせながら中々続きを話そうとしなかった。そんな彼女にしびれを切らしたのか、メグがジャンヌに近づいて言葉を掛ける。
「ちょ、ちょっとジャンヌさん、さっきまではあれほど威勢良く任せろって言ってたじゃないですか!」
「そ、そうは言うがな・・・やはり本人を前にしてしまうと、何というか、その・・・」
「もう・・・分かりました。で、では、私が・・・」
話がついたのか、メグが僕に振り返って声を出そうとしたところで、彼女もジャンヌと同じように固まってしまった。その状況に見かねたのか、ティアが僕の腕を掴んできた。
「ん、ダリアは疲れているから、私達で疲れを癒す」
「そ、そうなの?ありがとう」
「ん、だから一緒に来て」
「・・・?何処かに行くの?」
「ん、その場所でないとダメ。そ、それに、わ、私達はダリアの奥さんになるんだから、これは妻としての当然の勤め」
具体的なことは何も言わずに、最後の方は顔を赤らめながら強引に腕を引っ張り、僕を椅子から立ち上がらせて彼女達の目的の場所に誘導される。そんなティアに先導される僕に続いて、みんなも後ろから付いてくる。
(・・・?一体どこにいくんだ?)
「ん、脱いで」
連れて来られたのは屋敷の浴室だった。その脱衣所でティアに端的に伝えられた言葉に、しばらく思考が停止してしまった。
「・・・えっ!?あ、その、えっと・・・つまり、一緒にお風呂にってこと!?」
突然の状況に狼狽えながら、しどろもどろに言葉を絞り出す。
「ティ、ティアさん!それじゃあ言葉が足りないですよ!ダ、ダリア君、これを着てください!」
そう言ってシルヴィアが、いつか公国の保養地で着た水着を僕に渡してきた。どうやら水着を着てみんなでお風呂に入るということのようだ。
「ん、私は別にダリアが裸でも・・・は、裸でも問題ない!」
「めちゃくちゃ動揺しているじゃないですかっ!というか、そ~ゆ~事は結婚式が終わってからって事になったじゃないですか!」
「ん、本番で慌てないように、事前に慣れておこうと思った」
「・・・その考えは分かるけど、こ、心の準備が・・・」
彼女達のやり取りをドキドキしながら聞いていると、話が進まないと思ったのか、ジャンヌが真っ赤な顔をしながらも服を脱ぎ始めた。その様子に驚きながらも、凝視しないよう顔を背けた。ただ、衣服を脱ぐ音に聴覚が敏感に反応してしまっていた。
(ど、どどど、どうすればいいんだ?やっぱり脱いでいる姿を見るなんて・・・そ、そんな大胆なまねなんて出来ないし・・・)
「さ、さぁ、みんな早く行くぞ!わ、私達は先に湯船で待っているから、ダリアも着替えて来てくれ!!」
思考を高速回転しながらどうしたらいいのか考えていると、ジャンヌが恥ずかしさを隠すように大声でそう言い残して、彼女は浴室へと入っていったようだ。そうしてみんなも次々と服を脱ぎ始めるような音が後ろから聞こえてきた。
彼女達が脱衣所を出ていってから、僕も意を決して水着に着替えて浴室に足を踏み入れた。
「・・・・・凄い」
ポツりと本音が口から溢れてしまった。僕を出迎えるように浴室で待っていたみんなは、色とりどりの水着を身に付けていた。
メグは薄い緑色の上下セパレートの水着で、凹凸のしっかりした女性らしいスタイルが目に眩しい。
フリージアは純白の水着で、彼女の透き通った白い肌が若干赤みを帯びている様を強調しているようで目が引き付けられる。
ティアは水色の上下一体となった水着で、スカートのようになっているフリルが、彼女の可愛らしさを一層引き立てている。
ジャンヌは大人っぽい漆黒のセパレートの水着で、引き締まった身体とアップに纏められた黒髪が、彼女をより扇情的に見せていた。
そしてシルヴィアは、たくさんのフリルをあしらった可愛らしいピンクのセパレート水着なのだが、どうしても目を引かれてしまうのは普段より強調されている彼女の大きな胸だろう。恥ずかしがってモジモジと体を捩るその姿は、とても魅力的だった。
「ダ、ダリア・・・こっちに来て」
メグが恥ずかしながら手招きしてくるのでそちらを見ると、椅子が用意されていた。みんなその手にタオルを持っているので、どうやら体を洗ってくれるらしい。それからはみんなにされるがままだった。恥ずかしさで困惑している内にいつの間にか湯船へと移動していた。結構余裕のある広さと思っていた浴槽も、こうしてみんなで入ると手狭に感じてしまう。
そんな、あまりの衝撃的な光景と体験で、しばらくボーッとみんなの姿を眺めていると、不意にジャンヌが口を開いた。
「ど、どうだダリア?少しは私達に癒されたか?」
「・・・えっ?あっ、うん。ビックリしたけど、その・・・嬉しいよ///////」
嬉しいという表現で合っているのか分からないが、彼女達の僕の疲れを取りたいという想いは伝わってきたので、純粋に嬉しかった。
「そ、そうか!やはりダリアも男の子なのだな。そ、その・・・私達のこういう姿は見ていて嬉しいのか?」
そう言いながらも彼女は恥ずかしいのか、体をくねらせながら聞いてきた。嫌いな訳がないが、そのまま素直に伝えると、彼女達をイヤらしい考えで見ていると伝えるような気がして、何と答えていいか返答に困ってしまった。
そんな僕の様子に、フリージアが助け船を出してくれる。
「ジャンヌさん、そんな答え難い質問はダメですよ?それに、ダリア君の表情を見れば、分かりますよ?」
「ん、ダリアの表情が明るくなった。私達のおかげ!」
ティアが僕の顔をじっと見ながら笑顔でそう指摘してきた。そう言われると、なんだか肩の荷が降りたというか、重責を感じなくなったというか、明日の事で緊張していたさっきまでの自分が消えていることに気付いた。それはきっと、建国宣言の事なんてどうでもいいと思えるような、この衝撃的な事件のせいだろう。
「そ、そうだな!やはり夫の体調を管理し、癒すのは妻である私達の責務だからな!」
そう言って恥ずかしがるジャンヌの表情は真っ赤なままで、この中では大人なはずの彼女がこんなに恥ずかしがっていると考えると、ちょっと可愛らしい。そんな考えが見透かされたのか、僕が笑みを浮かべていると、彼女はプイッとそっぽを向いてしまった。
(みんなには気を遣わせちゃったようだな。本当に僕の事を良く見ていてくれている・・・ありがとう)
言葉に出すのが少し気恥ずかしくて、心の中でみんなにお礼を告げておく。
そうして幸せな時間を満喫していると、シルヴィアが寄ってきた。彼女の大迫力な2つの塊が湯船にプカプカ浮かぶ様子に目を奪われてしまったが、強靭な意思でねじ伏せ、何食わぬ顔で彼女の顔に視線を向けた。しかし・・・
「む~、ダリア君・・・見過ぎです。わ、私だって恥ずかしいんですから・・・」
「ご、ごめん・・・」
そう言いながら腕で胸を隠そうとされてしまうと、余計に強調されて意識せずにはいられないのだが、ぐっと視線を我慢する。
「もう・・・ダ、ダメじゃないですけど、ふ、2人っきりの時にしてね」
「・・・はい」
何故か彼女の言葉に敬語になってしまった。どうやら僕は彼女達に敵いそうにない。そんな予感をヒシヒシと感じてしまった。
「そ、それよりも、ダリア君に聞きたいことがあるの」
「聞きたいこと?」
「うん。・・・ダリア君の目的、達成できた?」
彼女の言葉に目を見開くも、少し考える素振りを見せて、僕は笑顔を浮かべながらみんなの顔を順に見つめてから口を開いた。
「あぁ、僕は今、とても幸せだよ!」
「ふふふ、じゃあ次の目的は、その幸せがずっと続くようにすることだね!」
そう言われて僕は気付かされた。幸せになるということは、なって終わりじゃない。その後もずっと幸せなことが重要なんだと。
「そうだね、ありがとう!!うん!次の目的は、みんなとずっと幸せでいることだね!」
「「「はいっ!!これからもずうっと一緒に幸せでいようね、ダリア(君)!!!」」」
ダダダダダダダダダダ・・・・・
その時、脱衣所の方から足音が聞こえきた。
『ま、待ちなさいアシュリー!今はみんなお風呂にーーー』
『や~!アシュリーもみんなと一緒に入るの!』
『い、今はダメよ!』
『ダリアお兄ちゃんも居るんでしょ?一緒に入るの!』
『な、何でそれを!?せ、せめて水着を着なさい!』
『面倒なの!』
何やら不吉な会話が脱衣所から聞こえてくる。シャーロットが押し止めようとしているようだが、それをすり抜けるように近づいて来ているのが分かる。
(・・・これって不味いかな?)
そう思いながらみんなの顔を見ると、苦笑いをしながら脱衣所への扉を見つめていた。そしてーーー
『バタンッ!!』
「お兄ちゃん!アシュリーも入るの~!!」
「す、すみません!」
攻防の結果なのか、可愛らしい白の下着姿で浴室へ飛び込んできたアシュリーちゃんと、止めきれずに申し訳なさそうな表情をしているシャーロットと目が合う。
「ハハハ・・・。じゃあもう全員で入ろうか?」
「アシュリー達だけ除け者なんてダメなの!」
「・・・で、では私も着替えますね」
そう言いながらシャーロットは服を脱ぎだすと、何故か下に鮮やかな赤い水着を着込んでいた。内心を顔に出さずに湯船に入ってくる彼女は、僕だけに見える角度で悪戯が成功した子供のように舌をペロッと出してきた。
(はは・・・、アシュリーちゃんを誘導して一緒に入浴しに来たんだな・・・)
そうして僕達は温かく幸せな時間を一緒に過ごした。きっと彼女達となら、この先もずっとこんな穏やかな時間が過ごせるだろう。彼女達とはもっとずっと前から知り合っていたような感覚もあるのだが、彼女達との想い出はこれからいくらだって作っていけるだろう。
僕と彼女達との間には、確固とした絆を感じるのだ。それが壊れることなんてこの先ないし、そんなことは絶対にさせない。そして、彼女達との幸せな時間を過ごすために、新しい国は全ての国民が平穏な生活が出来るように、みんなと協力して豊かな国家を築き上げていこうと決意した。
翌日ーーー
広場に集まる住民達に新国家樹立を宣言し、初代国王に就くことを宣言すると、集まったみんなからは割れんばかりの拍手喝采が巻き起こった。
新たな国の国民となったみんなの期待を裏切らないようにしていこう。この先大変なことなんて何度もあるだろう。でも、みんなとならどんな困難だって乗りきっていける。宣言を終え、そんな自信を胸に後ろを振り向くと、そこには綺麗にドレスアップしたメグ、フリージア、シルヴィア、ティア、ジャンヌ、シャーロット、アシュリーが弾ける笑顔で僕を見守っていた。
「みんな、ありがとう!愛してるよ!!」
~~~~~~ 完結 ~~~~~~~
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※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
ダリアは、余りにも考えなしですね!
能天気バカと言うか、周りの人達が危惧していることを、ただただ大袈裟だとしか、とらえてないって、バカとしか言いようがない!
最後まで読んだけど、野党や罪のない兵士は平気で殺すくせに女共々毒盛って生け贄にして
殺そうとした奴らは「なにか理由があるはずだ」と許してたけど
野党だって自分たちが生きるための理由があってやってるし兵士は仕事でやってるんだから
大陸村人の行動のほうが極悪でよっぽど酷くない?と思った。
それに女の言いなり奴隷に自ら進んで成っていくよう努めてるようにも見える
あと師匠が装備に付けてくれたロゴマークって結局なんか意味あったのだろうか?
第8章の途中まで読みました。
5歳の幼い頃から粗食で栄養が足りず、修行では骨をポキポキされて育ったせいか
ダリアくんは脳に栄養が行かずまるで発達障害ような、同年代と比べても知力が圧倒的に
劣っている様子が時折みられて、そんな風に育ってしまいとても不憫に思う。
あと父を復讐に選んだ理由が「自分の殺害」だったなら、命令した本来の大元である
王様に対して復讐すべきなのに、2度めの招集時とか王様をコロ助する機会は十分あったのに
憎しみが湧かないどころかなぜか殺さないように気を使っているのが不思議だったけど、
脳の障害だったら仕方ないかなと納得した。
どうせお尋ね者なんだから図書館の本全部空間収納するとかいう、思い切りもなかった。
父の遺言で幸せになるように生きるには、どう考えてもこの王様の存在は邪魔だし
ある意味父と自分を苦しめて父を死なす元凶ともなった、父の仇を目の前にしても
初期の賊を相手にしたように「邪魔だからついコロしちゃったけど別にイイや」的なノリで
解決できれば楽だった筈だけど、ダリアくんにそこまで求めるのは酷だったろうか。
それと、空間移動で結構自由に行動できるようになったんだから学園トーナメント終わって大分経つのでそろそろ皆でケーキ食べにこっそり街中に行かないのかな?とも思った