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第一章 はじまり
プロローグ
しおりを挟む『カンカンカン・・・』
静寂が漂い、朝霧が立ち込める早朝の森の中、木剣がぶつかり合う音がこだましている。そこは人里離れた深い森の中なので、誰に騒音を気にすることなく延々と音が鳴り止むことはない。
「違う違う!もっと動きを少なく、最小限にっ!」
「はぁはぁ・・・分かってるよっ!」
「だったら出来るだろ?」
「ぐぬぅ・・・」
そんな森の中で、赤い短髪が特徴的な背の高い青年と、耳まで掛かる暗い金髪で、まだ幼い顔立ちをしている少年が木剣をぶつけ合っていた。青年は少年の父親で今年33歳、少年は今年10歳になる。
まだまだ発展途上の少年は、父親の剣術にいいようにあしらわれ、指導と言う名の怒声が飛んでくる。それに対して最近思春期に突入し始めた少年は、憎まれ口を叩くが即座に父親に言葉でも斬って返され、ぐうの音も出なくなってしまった。
「さぁ、母さんが朝食の準備を整えるまであと少しだ!集中しろよ!」
「はぁはぁ・・・今日こそ絶対一撃入れてやる」
「くくく、その意気だ」
再び森に響き渡る木剣のぶつかり合い。父親は少年の言葉に笑みを浮かべながら、常人では視認できないような鋭い斬戟を連続して放つ。それを少年は木剣を巧みに操り、いなして躱して防いでいく。
ただ、とてもではないが反撃に移ることは出来ない。防戦一方に追いやられてしまっている。
「ぐっ・・・父さん、大人気ないぞ!」
「ははは!鍛練中は親ではなく、師匠と思えと言っているだろう?それに、これ以上手加減されてまで、お情けの一撃を入れさせて欲しいのか?」
「な、なに~!!そんなこと言ってないだろうっ!!」
「だったら、実力で一撃入れれるだけの力を付けるんだな!」
父親は息子の心を巧みに操って向上心を引き出していく。少年は父親のそんな考えには気づかず、先程よりも更に増して動きを鋭くしていく。そんな掌で踊る我が子を見る彼の目は、父性に満ちた表情をしていた。
しばらくして少年は体力が尽きたのか、地面に大の字で倒れ込んでしまうと、それを見計らったかのように母親から風魔術に乗せた声が届けられた。
『2人とも朝食が出来たから戻ってきなさい!』
「おっ!?ちょうど良いな。では、朝練はこれまでだ。飯を喰ったらその後は母さんの番だから、たっぷり扱かれてこいよ!」
無慈悲な言葉を掛ける父親に、少年は恨めしそうな目を向けながら返事を返した。
「分かってるよ。父さんより母さんの方が厳しいし・・・」
その言葉に父親は苦笑いを浮かべ、未だ動けないでいる息子を背中に背負って家路へと歩き出す。
「まぁ、母さんも俺もお前が大切なんだよ。この世界で生きていくには力が必要だ。だから俺も母さんも、自分の持てる技術は全てお前に伝えたいんだ」
「・・・分かってるけど、もう少し息子に優しくしたって良いんじゃないの?」
「ははは!それじゃあ、そう母さんにも言ってみろ?」
「嫌だよ!そんなこと言ったら鍛練の厳しさが倍になるよ!」
「甘いぞ!最低5倍の厳しさになるだろうな!」
「・・・父さんはよくそんな鬼のような母さんと結婚したね」
「ふっ、あれで母さんは可愛い所がたくさんあるんだよ。何より世界一美人だ!」
「いや、親のノロケは勘弁してよ!鳥肌が立つよ!」
2人の親子は軽口を叩きながら山奥に佇む我が家へと戻った。扉を開けると、柔らかな笑みを浮かべている青色のロングヘアーを靡かせた母親が出迎えた。今年30歳になる母親は、見た目まだ若々しく美しい。身長は息子より少し高めだが、女性としては平均より低めだ。
ただ、身体の凹凸ははっきりしている。一見、一児の母親とはとても見えない彼女は、最近息子と町へ買い物に行った際に、お姉さんに間違えられるのが密かな楽しみになっている。
「2人ともお帰り。先に顔を洗って綺麗にしていらっしゃい」
「「は~い」」
少年は水瓶に溜まっている水を桶に取り出し、それを持って外に出て顔を洗う。父親もその隣で同じように顔を洗い、汗を洗い流していた。
『『ぐぅ~・・・』』
家の外まで漂ってくる朝食の良い香りに、2人のお腹は空腹の叫び声を上げた。
「父さん、早くご飯食べよう」
「そうだな。母さんの料理は世界一美味しいから、早く食べたいと胃が暴れているな」
「いや、ノロケはいいから」
「ははは!いずれお前も女性を好きになるという事が分かる日が来るさ!そん時は一杯付き合え!」
「お酒はほどほどにしないと、また母さんに怒られるよ?」
「う~む、母さんの説教は長いからな・・・」
顔を洗い、身支度を整えると食卓へと座った。今日の朝食はジャガイモと鶏肉のスープにサラダ、そして、スクランブル状にした卵を乗せた食パンだった。飲み物は牛乳だ。最近は成長期だから、牛乳を水のように飲めと言われている。飲まなければ身長が低いままだぞ、と脅しをつけて。
「いただきますっ!」
「「いただきます」」
息子が元気良く手を合わせて食事を始めると、その姿を両親は微笑みながら見つめていた。そんなどこにでも居るような穏やかな生活をする家族だが、こんな山奥でひっそりと暮らしているのには理由があった。
息子はその理由を知らされていないし、両親としても教える気はなかった。息子が言い触らすことは無いと思っているが、教えることで息子に良からぬ事を考える輩が近寄ってくることを危惧しているのだ。
その為、対外的な理由として父親の職業が鍛冶師だからということになっている。調理具や農具、武具など幅広く手掛けているが、金床を叩く音が近所に迷惑を掛けるからということと、金属を融解する為の燃料が森の中であれば容易に入手出来るという理由だ。しかし、本当の理由は当然ながら全く異なる。
この世界には2つの人種が存在している。剣武術を扱えるか、魔術を扱えるかだ。
剣武術は、体内に【闘氣】を巡らせることで、人智を越えた動きと力を得ることが出来る。
逆に魔術は、【魔力】を体内から放出することで、高威力の破壊力を有する魔術を放つことが出来るのだ。
この大陸には現在、3つの国が存在している。剣武術こそ至高とするグルドリア王国。魔術こそ至高とするオーラリアル公国。どちらも是とするクルニア共和国だ。この3カ国は極めて仲が悪く、戦争が絶えない日々が続いている。
とはいえ、一年中戦争をしているわけではなく、数年に一度という単位での争いだ。そもそも、そう何時も戦争ばかりしていては、やがてどの国も疲弊して滅亡してしまう。その為、国際的な誓約に則って戦争を行っているのだ。
そんな時代に今から12年前、戦場にて【剣神】と呼ばれた剣武術の天才と、【魔神】と呼ばれた魔術の才女が居た。
2人はそれぞれ、グルドリア王国の騎士として、オーラリアル公国の魔術師として戦場で幾度となく戦いを繰り広げていた。そんな2人は、幾度も戦場で顔を合わせるうちに、次第にお互いの強さを、正々堂々と立ち合う高潔さを認めていくこととなった。
そして、やがてその感情は本来抱いてはならない感情へと変化し、更に大きくしていった。やがてその想いを我慢することが出来なくなった2人は国を捨て、クルニア共和国へと駆け落ちしたのだった。
新たな地で結ばれた2人は、2年後に一人の子供を授かる。これは、【剣神】と言われた父と、【魔神】と言われた母を親に持つ、一人の少年の物語である。
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