変幻自在のアルマ遣い

黒蓮

文字の大きさ
10 / 92
出会い編

キャンベル・ドーラル 2

しおりを挟む
 演習場の中央付近、僕は沈痛な面持ちでキャンベル殿下と向かい合うように対峙していた。その中間にエンデリン先生が立会人のように佇み、事の成り行きを見守っているようだった。
さらに、そんな僕達を取り囲むようにクラスの生徒達が、そして校舎からも生徒達が顔を出してこの様子を見ようと、興味津々な眼差しを向けている人々が多数いた。その中には教師らしい人の姿も見受けられ、僕について懐疑的な考えを持つ先生が値踏みしているような気がする。

「準備はいいこと?」

この状況に内心辟易としている僕に対して、キャンベル殿下が挑発的な声と共に見下すような視線を向けてくる。

「問題ありません、キャンベル殿下」

不敬だと言われないように、最大限敬意を払った返答をしたのだが、彼女は眉間にシワを寄せながら苛ついた表情を浮かべた。

「あなたに名前を呼ぶことを許可した覚えはありません!いくら元序列二位の方の子供だとしても、分をわきまえなさい!」
「も、申し訳ありません!」

王女に対しては殿下という敬称を付けなさいと学んでいたが、許可がなければ名前で呼んではいけないという事を失念していた。

「ふん!これだから、まともな教育を受けていない男性は嫌なのよ!」

嫌悪感丸出しで叱責してくる殿下に、僕は萎縮してしまい、身体を丸めるようにして俯いた。

「こらこら、キャンベル。学園は完全実力主義。身分をここに持ち込むな。それに、入学初日で緊張してるんだ。そんなに彼をイジメてやるなよ?」

そんな殿下の言動に対して、先生が呆れたような口調で諌めてくれた。

「別にイジメてなどいません!王族である私が、そんな下賤な真似などするわけないです!私はただ、事実を言っただけです!」
「はぁ・・・まったく。その勝ち気な性格も何とかしないと、将来クルセイダーとしても王女としても、民衆からの支持は得られないぞ?」
「心配は無用です、先生。私は自分の実力で、周りからの支持を勝ち取ります!」

先生は殿下に思うところがあるのか、心配した眼差しを向けながら指摘していたのだが、当の殿下はその言葉をまったく聞き入れようとはしていなかった。

「そういう事じゃないんだが・・・まぁ、頑張りなさい。それじゃあ、ギャラリーも待たせてしまってるし、さっさと試しを始めようか!」

先生は場の雰囲気を切り替えるように少し大きな声でそう言うと、手に持っていた籠手を殿下に差し出した。

「そうですね。さっさと彼がでこの学園に入学したことを、白日の元に晒してあげる!」
「・・・・・・」

最初から随分棘のある対応だと思ってはいたが、どうやら殿下は、僕が母さんの威光を使って不正入学を行ったと思っているようだ。そして「不正」という言葉を強調した殿下の言葉に対して、この場にいる皆は、その発言に頷くようにして同意を示しているようだった。

(僕って、皆からそんなに嫌な人物だと思われているのかな・・・?)

会ったこともない人からそういった視線を向けられるのはとても辛いが、これが僕の選んだ道なのだと考え、ぐっと我慢した。きっとこの学園の生徒達にとってみれば、自分達の領分を侵されたと思っているのかもしれない。

「いくわよ?早く顕在化して見せなさい!」

自分が周りからどう見られているのか思いを巡らせていると、鋭い視線で殿下が顕在化するように促してきた。これからする測定は単純なもので、顕在化して身体に纏ったアルマエナジーの強度を、先生が持ってきた強度測定用の籠手で殴り付けるというものだ。
測定する側もアルマエナジーを顕在化して渾身の一撃を放ってくるのだが、この学園に編入する際に、その程度で防御を突破されてダメージを負うようでは話にならないと言われていた。無事に防御しきることが当然で、その上で強度が数値となって表示される。ちなみに学園の編入基準数値は100だった。
それが高いのか低いのかはその時には分からなかったが、後で母さんに聞いた話では一般的なクルセイダーに求められる強度が100ということだった。どれだけ僕を編入させたくないのだろうと苦笑いを浮かべたが、結果として僕はその試験を難なくクリアすることができている。

「それじゃあ、顕在化します」
「「「っ!?」」」

僕がそう宣言してアルマエナジーを顕在化させると、見学していた人達から驚きとも呆れともつかない息が漏れ聞こえた。

「ふふふ・・・あっははは!!何よその顕在化、垂れ流しじゃない!そんな量を無駄にしてたら、3分も立っていられないわ!やっぱりね!男子がこの学園に編入なんて、可笑しいと思ってたのよ!」

殿下は僕の顕在化を見て、何かを確信したように嘲笑ってきた。とはいえ、顕在化できるだけでも結構凄いことだと言われているので、殿下が何をそんなに嘲笑っているのかは分からない。

「キャンベル~。ご託はいいからさっさとやれよ~」

殿下の様子に、先生は短いため息を吐きながら早くしろと指示していた。

「それはそうでしょう。早くしないと彼が昏倒してしまうものね!まったく、先生が私の首席の地位を脅かすかもしれないと言うから、変に気を張ってしまいましたけど、心配する必要なんて微塵もありませんでしたわ!」

そう言うと殿下は自らも顕在化し、アルマエナジーをその身に纏った。殿下の顕在化は、灰色っぽいエナジーが体表に薄く張り巡らされ、形態も安定していることから、かなり制御出来ていることが伺えた。

「さぁ、行くわよ!私との才能の差を、その身に刻みなさい!!」

高らかに宣言する殿下は、顕在化によって強化された脚力と腕力を乗じて、籠手を着けた右の正拳突きを僕の腹部へと放ってきた。速度はお世辞にも速いわけではなく、クルセイダーの駐屯地で鍛練の様子を見ていた僕からすると、むしろ遅いくらいだった。

『ドンッ!!』
「っ!!!?」
「・・・・・・」

周囲に小さく衝突音が鳴り響き、様子を見守っている人々からの視線が痛い程刺さる中、拳を振り抜いた格好の殿下は信じられないという表情で僕を見ていた。そんな殿下に対して、僕は何も言わずに苦笑いを浮かべる。同じような反応はこれまで何回もされているが、僕が変に気を遣って謙遜した言葉を伝えると、相手の反感を買ってしまうことを学んでいたからだ。

「キャンベル~?数値の方はどうだ?」

正拳突きを放った体勢のまま、僕を見詰めて固まってしまっていた殿下に、周囲に集まっていた人々も怪訝な雰囲気を漂わせていたが、その空気を払拭するように、先生が間延びしたような声をあげた。その声にハッと反応した殿下は僕から一歩離れ、籠手の上部の辺りに表示されている数値を確認した。

「・・・はっ?」

殿下が発したものとは思えないような、間の抜けた声が辺りに響く。その反応に、様子を見守っていた周囲の人達も、息をのむように注目していた。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・お~い、キャンベル?」

殿下は表示された数字を見つめると、数回瞬きした後に、今度は自らの目をゴシゴシと擦ってから再度表示されている数値を見直していた。その後、また固まってしまった殿下の様子に、周囲は静まり返ってしまったが、先生がもう一度声を掛けると、古びた扉の様な動きで顔をあげ、重い口を開いた。

「す、数値は・・・999・・・です」
「あ~、やっぱりか・・・」

愕然とした表情で数値を口にする殿下に対して、先生は分かっていたといわんばかりの口調でため息を吐いていた。実際、編入の際にも同じ数値が出ているからだ。これは、この測定器の上限数値が999の為、それ以上計れない際に表示されてしまうものらしい。
当初は計測器の故障だとして再度測定をやり直したが、10回やっても、測定器を交換しても同じ数値が並んだため、測定が30回を越えた辺りでようやく納得されて、編入試験は終了した。

「ど、どういうこと?999なんてありえない!測定器の故障よ!こんなはずないわ!もう一度新しい測定器で計測を・・・」

信じられない、信じたくないといった悲痛な叫びをあげる殿下に、先生がゆっくりと歩み寄ってその肩に優しく手を乗せて殿下を落ち着かせた。

「まぁ、落ち着け。私も編入試験を見ていたが、何度やっても、測定器を交換しても結果は同じだった」
「・・・では、彼は本当に顕在化した強度が999あると?」
「正確にはそれ以上だな。999はあくまで測定限界であって、実際には分からん」
「な、何で男子がこんな・・・」

先生の言葉に悔しげに唇を噛み締める殿下に対して、先生は殿下だけでなく、周囲に集まっていた生徒達にも言い聞かせるような声量で口を開いた。

「世の中には、自分の常識からかけ離れた存在も居るってことだ。将来クルセイダーを目指すなら、どんな想像の埒外の事態にも冷静に対処できるようにならなければ、戦いの場では屍を晒すだけだ。納得しろとは言わんが、理解はしろよ?どんな物事に対しても、例外は存在するんだとな!」

その言葉が聞こえた生徒達の「信じられない」という話し声がどんどんと伝播していき、辺りはざわざわとした喧騒に包まれた。

「・・・・・・」

そんな喧騒の中、殿下は拳を強く握りしめると、キッと僕の方を睨んでから、反転してこの場を去っていった。校舎へ戻ろうとする殿下の通り道を作るように人垣が割れると、殿下はあっという間に見えなくなった。僕は殿下が見えなくなるまで、その背中をずっと見つめていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【魔物島】~コミュ障な俺はモンスターが生息する島で一人淡々とレベルを上げ続ける~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【俺たちが飛ばされた魔物島には恐ろしいモンスターたちが棲みついていた――!?】 ・コミュ障主人公のレベリング無双ファンタジー! 十九歳の男子学生、柴木善は大学の入学式の最中突如として起こった大地震により気を失ってしまう。 そして柴木が目覚めた場所は見たことのないモンスターたちが跋扈する絶海の孤島だった。 その島ではレベルシステムが発現しており、倒したモンスターに応じて経験値を獲得できた。 さらに有用なアイテムをドロップすることもあり、それらはスマホによって管理が可能となっていた。 柴木以外の入学式に参加していた学生や教師たちもまたその島に飛ばされていて、恐ろしいモンスターたちを相手にしたサバイバル生活を強いられてしまう。 しかしそんな明日をも知れぬサバイバル生活の中、柴木だけは割と快適な日常を送っていた。 人と関わることが苦手な柴木はほかの学生たちとは距離を取り、一人でただひたすらにモンスターを狩っていたのだが、モンスターが落とすアイテムを上手く使いながら孤島の生活に順応していたのだ。 そしてそんな生活を一人で三ヶ月も続けていた柴木は、ほかの学生たちとは文字通りレベルが桁違いに上がっていて、自分でも気付かないうちに人間の限界を超えていたのだった。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

テンプレ最強勇者に転生したら魔女が妻になった

紡識かなめ
ファンタジー
七つの大陸、それぞれを支配する“七大魔女”── 魔力あふれる世界《アルセ=セフィリア》は、魔女たちによる統治と恐怖に覆われていた。 だが、その支配に終止符を打つべく、一人の男が立ち上がる。 名はルーク・アルヴェイン。伝説の勇者の血を引く名家の出身でありながら、前世はただの社畜。 高い魔力と最強の肉体、そして“魔女の核を斬ることのできる唯一の剣”を手に、彼は世界を平和にするという使命にすべてを捧げていた。 ──しかし、最初に討伐した《闇の魔女・ミレイア》はこう言った。 「あなたの妻になります。魔女の掟ですから」 倒された魔女は魔力を失い、ただの美少女に。 しかもそのまま押しかけ同居!? 正妻宣言!? 風呂場に侵入!? さらには王女や別の魔女まで現れて、なぜか勇者をめぐる恋のバトルロイヤルが始まってしまう!

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

処理中です...