変幻自在のアルマ遣い

黒蓮

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出会い編

パピル・リーグラント 3

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「・・・あれが妖精族の国、リーグラント王国」

 他国との共同害獣討伐遠征を命じられてから1ヶ月後、諸々の準備を整えた僕達ドーラル王国のクルセイダーは、総勢20人規模の部隊を編成した。部隊の隊長として、僕の指導係でもあった序列7位のシュラムさんが率いる。
リーグラント王国への移動は、ここ数年で開発されたという飛空艇を使用している。驚くべきことに、空を自由に飛ぶことができるこの乗り物は、どんな理屈で浮いているのかは分からないが、長い楕円形の空気が入った風船のような上部に、操舵室や居住空間が備えられた施設が取り付けられている。最大収容人数は100人で、最高時速200キロという大型の乗り物だ。
動力にはアルマエナジーを使用しており、本来なら5時間毎に数十人掛かりでの補給が必要になるのだが、その補給を僕が一手に引き受けることで、搭乗している他のクルセイダーの負担は皆無となった。時間的には風の影響もあるが、目的地であるリーグラント王国まで15時間ほどで到着できるようだ。ただ、夜間の飛行は危険が伴うので、日暮れになると地上へ着陸し、翌朝出発するというスケジューリングだった。


 そして現在、ドーラル王国の東にあるエレメント王国を飛び越え、更に北に向かったところにあるリーグラント王国の王都の上空から、その街並みを眼下に収めていた。
しばらく上空を旋回した後、駐屯地であろう建物の隣りにある、広大な演習場へと飛空艇は着陸した。そこには、この国のクルセイダーであろう人達が綺麗に整列しており、僕らを迎えてくれた。

「お待ちしておりました、ドーラル王国のクルセイダーの皆様。私はリーグラント王国序列5位、ルーシー・レイダー。今回の共同討伐作戦における、リーグラント王国の部隊を率います。どうぞよろしく」

飛空艇から降りた僕達は、リーグラント王国の人達と相対するように整列すると、あちらの隊列から一人の女性が進み出て、丁寧な挨拶と共に名乗ってきた。
レイダーさんは、肩まで伸びる妖精族特有の緑色の髪を風になびかせ、整った顔立ちで凛とした佇まいを醸し出している。レイダーさんの後方に整列している人達を見やると、30人ほどクルセイダーの制服に身を包んだ人達が、鋭い視線でこちらを見ていた。
その全員が、妖精族の特徴でもある2本の触覚を額から伸ばしており、身長は高い人でも130cmほどと、僕の肩ぐらいの大きさしか無い。そんな見た目も相まって、まるで大きな人形達を見ている様な気分になってしまう。

「私は今回の共同討伐部隊を率いる、ドーラル王国序列7位、シュラム・カークネルです。色々とご迷惑を掛けるかもしれませんが、こちらこそよろしくお願いする」

こちらからはシュラムさんが前に出て挨拶をした後、レイダーさんと固い握手を交わしていた。一見友好的な光景に見えるのだが、雰囲気はピリピリとしており、握手を交わしている2人からも、お互い腹の中を探っているような気配が漂ってくる。
そんな微妙な空気に僕が不安を感じていると、およそこの雰囲気に似つかわしくない声が聞こえた。

「うわ~!本当に男の子がいるじゃん!マジでありえないんですけど!」
「っ!?」

隊列の最後尾に並んでいた僕の背後から、驚きとも呆れともつかない声が聞こえて後ろを振り返った。そこには、僕の事を興味津々といった表情で覗き込んでくる妖精族の女性がいた。

「やっほ~!」
「え?あ、あの?」

振り向いた僕に、片手を上げながら軽い挨拶をしてきた妖精族の人に、僕はどう返していいか分からず固まってしまった。妖精族は種族として身長が低いこともあって、見た目から年齢が判断しづらい。眼の前の女性は大人なのかもしれないし、まだ子供なのかもしれない。また、両国の代表が挨拶している中で、僕の勝手な判断でこの妖精族の方と話をして良いのかも分からなかったので、結果として僕はオロオロすることしか出来なかった。

「あはは!なに焦ってんの?おもしろーーー」
「パピル殿下!!あなたという人は、こんな日にまで遅刻して!いったい何を考えているのですか!!」

彼女の言葉を遮って、握手を交わしていたレイダーさんが、鬼のような表情を彼女へ向けていた。ただ、それより何より、レイダーさんが発した女性の敬称に僕は驚いた。

「えっ?殿下?」
「あちゃ~、ルシルシにバレちゃった。ふふふ、そうだよ、私はこの国の第一王女、パピル・リーグラントだよ~」

悪戯っぽい笑みを浮かべながら、遅刻を指摘されても全く悪びれる様子の無いこの国の王女殿下は、小首を傾げながら上目遣いに僕を見つめてくる。どうしていいか分からない僕は、ただただ困惑した表情を浮かべるしかなかった。

「あれ~、おかしいな?大抵の男の子って私がこうやって覗き込むと、赤い顔しながらモジモジするのに、やっぱり種族の違いなのかな~?つまんない!」
「???」

僕の様子に不満げな声を上げる王女殿下に対して、訳が分からず疑問が浮かぶ。とはいえ、それを表情に出してしまえば不敬になりかねないので、苦笑いを浮かべるしかなかった。


「パピル殿下、いい加減にしなさい!他国からのお客に失礼でしょう!早く隊列につきなさい!!」

 王女殿下の様子を見かねたレイダーさんが、こちらに歩み寄ってくると、厳しい眼差しを向けながら苦言を呈していた。

「は~い。分かりました~。でも~、ルシルシはそんなにお小言ばっか言ってると、顔がシワだらけになっちゃうよ?」
「っ!は、早く行きなさい!!」
「あははは」

まるで悪戯っ子のような言動の王女殿下は、嵐のように去っていった。その背中を見送ったレイダーさんは、大きなため息を吐き出して僕に視線を向けてきた。

「うちの王女殿下が迷惑かけた。殿下は18歳にもかかわらず、あのような子供っぽい性格なのだ。残念な王女ということで、流してくれるとありがたい」

自国の王女に対してとは思えないほど辛辣な口振りだが、あの言動を見てしまうとレイダーさんの苦労の程も理解できてしまう。

「いえ、僕は全然大丈夫ですので、ご懸念には及びません」
「そうか。悪かったな」

レイダーさんは申し訳無さそうな表情をしながら、王女殿下の性格について説明すると、僕の心情を確認して去っていった。この国の王女殿下の年齢は、僕より3歳も年上であの落ち着きの無さに驚いたが、それよりもあんな自由奔放な性格で女王陛下にでもなったら大変だろうな、という益体もない感想を抱いていた。


 その後はリーグラント王国からの歓迎と、お互いの交流を兼ねて立食形式の昼食会が開かれた。
他のクルセイダーの皆さんは各々交流を深めるように談笑しているようだったが、僕はこの場における唯一の男性ということで、居心地悪く壁際で、取り分けてきた食事を食べていた。
異国の料理ということで、今まで食べたことのない味付けは新鮮と驚きに満ちていて、それでいて美味しい食事に舌鼓を打っていた。
そうして一人隅の方で気配を消していたのだが、僕に向かって妖精族のクルセイダーの一団が、ニヤニヤとした表情を浮かべながら近づいてきた。制服の刺繍されたラインを見ると5本あり、リーグラント王国内でもそれなりの実力者であるということが窺える。

「ねえねえ君~?ちょっといい?」
「は、はい。何でしょう?」

声を掛けられた僕は、何を言われるのだろうと身構えながら返事をした。

「あはは、怖がっちゃって、可愛い~!大丈夫、誰も君を取って食べたりしないわよ?」

からかうようなその口調に、苦笑いを浮かべる。

「一応報告は受けてるんだけど、君って本当に具現化出来てクルセイダーになったわけ?」
「はい。間違いありません」
「ふ~ん、本当なんだ。てっきり、演習や作戦行動で昂った衝動の捌け口的なマスコットかと思ったけど、一応戦えるんだ?」
「いやいや、両方こなすように言われてるんじゃないか?割合的に捌け口9、戦力1で!」
「あぁ~!それなら納得!でも、私としてはもう少し成長している方が良いんだけどなぁ」
「あ、もしかして人族ってショタコンが多いんじゃないか?」
「あぁ~、そうかも」

僕を取り囲むようにして口々に言い募ってくる彼女達に、本能的に忌避感を感じた。彼女達からはどことなく悪意の籠もったような心情が感じられ、段々と萎縮してしまう。しかも、どこかで聞いた覚えのある『ショタ』という言葉に、僕の身体が無意識に硬直するような反応をしてしまった。

「何なに~?面白そうな会話してるじゃん~?」
「っ!パ、パピル殿下・・・」

人垣を掻き分けるように現れたのは、薄い笑みを浮かべながら興味深い視線を向けているこの国の王女殿下だった。そんな殿下に対して、僕を取り囲んでいた人達は苦笑いを浮かべながら殿下を迎え入れていた。その様子から、この国における彼女達と王女殿下の関係性は大丈夫なのだろうかと心配してしまうほどだ。

「ねえねえ、パピルも話に入れてよ~!」
「パピル殿下・・・このような下世話な話を殿下に聞かせる訳にーーー」
「え~?他国からのお客様に、下世話な話なんてしてるの?ちょっと、ちょっと、うちの国の品位を下げて欲しくないんですけど~」
「あっ、えっと、その・・・ちょっと用事がありますので、失礼します」

女性の言葉を遮って、殿下が蔑みを含んだ視線を向けていた。そんな殿下の視線に射抜かれた女性達は、冷や汗を浮かべながら焦ったようにこの場を去っていった。彼女達に取り囲まれて困惑していた僕は、追い払ってくれた殿下に対して感謝を伝える。

「あ、あの、ありがとうございます、リーグラント王女殿下」
「ん?何が?パピルはただ、面白そうだと思っただけなんだけど」
「それでも、矢継ぎ早に質問されて困っていましたので助かりました」
「ふ~ん。ちょっと聞きたいんだけど、あんたエレメント王国のルピスって知ってる?」

王女殿下は、急に隣国のルピス殿下について知っているか聞いてきた。その質問の意味は分からないが、疑問を抱きながらも口を開いた。

「え、ええ。偶然ですが知己を得る機会がありましたので・・・」
「へ~。やっぱり本当なんだ」
「あ、あの、何かありましたでしょうか?」

王女殿下は意味ありげに上目遣で僕を見つめてくるが、何故か殿下の服の上のボタンが外れており、胸元が少し覗いてしまっていた。それを見た僕は、昔の嫌な記憶が脳裏を過るが、ここで不敬な態度はとれないので、困惑しながらも少しだけ後ろに下がりながら質問の真意を聞いた。

「エレメント王国が他種族との婚姻を認める法律を制定したらしくてね~、しかもその発起人となったのが、まだ15歳のルピス王女っていうじゃない?何かあると思って調べさせたら、ある男の子との出会いがあったらしくてね。しかも、信じられないことにその男の子、アルマエナジーを具現化したっていうじゃない?」
「そ、それは・・・」

王女殿下の言葉に、そのある男の子というのは僕なのだろうと思い至った。他種族との婚姻云々については、何でそんな法律を制定したのか分からないが、きっとルピス殿下には何か思惑があったのかもしれない。

「だからパピル、君にちょっと興味あるんだよね~」

そう言いながら笑みを浮かべる王女殿下の視線からは、僕に対する興味というよりも、まるで珍しいものを見るような、装飾品の価値を見定めるような、およそ僕という存在に対するような興味の視線ではなく、ものに対するそれと同じような感情を抱いているような気がした。
だからだろう、そんな視線を向けてくる王女殿下に対して、僕は失礼ながらこの短い時間で苦手意識を抱いてしまった。
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