変幻自在のアルマ遣い

黒蓮

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出会い編

出会い編 エピローグ

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「失礼するぞ!!」
「っ!?で、殿下!?」

 必要な準備を整えたオレは、迷惑を掛けてしまった少年の割り当てられている部屋へと訪れた。訪問の先触れを出すべきかとも考えたが、謝罪は早い方が言いと思って直接押し掛けた。
勢いよく扉を開けると、そこには制服の上着を脱ぎ、ラフな格好をした少年が、驚きに目を見開いてベッドの上からオレを見つめていた。どうやら彼はひと休みしていたようだ。

「ふむ、休んでいるところ申し訳ないが、今良いだろうか?」
「ちょ、ちょっと待ってください!今、服を着ますので!」

少年の都合を確認すると、彼はベッドから飛び起きてクローゼットへと駆け寄り、慌ててクルセイダーの制服を着込んでいた。オレは別に格好なんて気にしないのにと思ったが、彼の着替えが終わるまで静かに待っていた。


「あ、あの、それでどのようなご用件なのでしょうか?」

 少年が着替えを終え、改まった態度でテーブルに座ると、さっそくオレの用件を確認してきたが、何やら警戒したような表情を浮かべていた。彼には迷惑をかけてしまったという自覚があるので、またオレが変なことを言うのかと警戒しているのかもしれない。

「先程の親善試合の件なのだが・・・ジール殿には大変申し訳ない事をした!!」
「っ!?で、殿下?頭を上げて下さい!」

オレは精一杯の謝意を表現するため、テーブルに額をぶつけながら彼に謝罪を行った。少年はオレの行動に動揺してしまったようで、椅子から立ち上がってオレに駆け寄り、頭を上げさせようと焦ったような声を漏らしていた。

「姉上から、オレの行動がどれだけジール殿に心労を掛けていたのか、事細かに説教されてな・・・何も考えずに親善試合をしようなどと言い出し、本当に申し訳なかった!」
「い、いえ、結果として問題ない所に収まった格好になりましたので、気にしていませんよ」
「その・・・今回の事について、ドーラル王国が問題にしないだろうか・・・?」

オレは恐る恐るといった感じで今回の件についての扱いを聞いてみると、彼はキョトンとした表情を浮かべていた。

「えっと、シュラム隊長からは特に問題にするような話は出ていませんでしたので、大丈夫だと思いますよ?もしかしたら、両国の友好関係を結ぶ上で貸しを作った程度の認識なのかもしれませんが・・・」

オレの質問に彼は苦笑いを浮かべつつ、そう答えてくれた。政治的な駆け引き要素になった云々については姉上か母上が何とかしてくれるだろうと考え、一先ず安堵の息を吐く。ただ、一番迷惑を掛けてしまった少年の思いを確認しなければならない。

「そ、そうか。それは良かった。しかし、君自身はどう思っているのだ?オレに気を使う必要はない!本音を聞かせてくれ!!」
「僕ですか?いや、その・・・確かにちょっと困ったことになったなと思いましたけど、何事もなかったのですから、本当にもう何とも思っていませんので、安心して下さい」

下げていた顔を上げ、オレの傍らにいる少年の顔を覗き込むと、彼は困ったような表情をしながらも、気にしていないと言ってくれた。これで何とか姉上へ良い報告が出来そうだ。


 安心したオレは脱力したようにテーブルに突っ伏すと、足元に置いておいた風呂敷に包んできたものを思い出した。

「そうだ!腹は減ってないか?」
「えっ?お腹ですか?ま、まぁ・・・」

オレの質問に、彼は困惑しながらも腹が減っていると答えてくれた。

「実は姉上からも、オレの身体を使ってでも今回の件を収めてこいと言われてな。準備してきたんだ!」
「か、身体を使う・・・ですか?」

何故か少年はオレの言葉に対して、急に恐怖に囚われたような表情を浮かべた。理由は全く分からなかったが、構わず持ってきた風呂敷をテーブルに置く。

「・・・こ、これは?」

風呂敷を取り出したオレに、彼は怪訝な表情を浮かべながら中身を聞いてきた。

「ふふふ。オレの趣味は料理でな!腕によりをかけて作ってきた!一緒に食べよう!」

そう言いながら風呂敷を開け、3段重ねの重箱を出した。中身が見えるようにテーブルに置くと、彼は目に見えて安堵した表情を浮かべているようだったので、オレと同じく美味しい料理を食べるのが好きなのだろう。

「す、凄いですね・・・美味しそうです!」

感嘆の声を漏らす彼に、オレは嬉しくなって作った料理の説明をした。

「上段は主に肉料理だ!バードディザスターの肉を低温調理という手法でジューシーに仕上げている。このニンニクを使ったソースも絶品だぞ!中段は、ダイス王国の特産品である米を使ったおむすびだ!菜っ葉とゴマを混ぜ、醤油を少量混ぜている。下段はロールケーキだ!やはり食事のシメは甘味でなければな!!苦手なものがなければ良いのだが・・・」

料理の説明をしているオレの言葉を、彼は何度も頷きながら聞いてくれていた。その表情は、オレの料理にとても興味を持ってくれているようだった。

「苦手なものは無いので大丈夫です。しかしこれがお米というものですか。知識では知っていましたが実物は初めてです。僕も男ですから料理を良くするので、殿下の言う色んな調理法を知れて嬉しいです!」
「そ、そうかそうか!よし!見ていてもしょうがないし、実際に食べてみてくれ!」
「はい!頂きます!」

彼はそう言うと、先ずはおにぎりに手を伸ばしていた。大きな口で頬張り、幸せそうな表情を浮かべる様子を見て、オレの料理が彼をこんな笑顔にしているのだと思うと、心の中がとても温かくなる。

(・・・今までも姉上達に食べさせていたのに、それとはまた違った感覚だ・・・何で彼に対してだけこんな気持ちになるんだ?)

自分の初めて感じる感情に困惑しながらも、彼がオレの作った弁当を食べ進める様子を見つめる。その様子は、熱心に料理方法や味付けを探るような表情もしていた。その顔は、今までの彼からは考えられないような表情だ。

(そういえば、彼は困ったような表情を浮かべていることが多かったな・・・だが、戦いの時には一転して真剣な表情をしていたし、そうかと思えばこんな可愛らしい顔もするのか・・・)

じ~っと彼を見つめるオレの視線に気づいたのか、彼は気恥ずかしそうな表情を浮かべてしまった。

「あ、すみません。ガツガツ食べるような真似をしてしまって・・・お見苦しかったですよね・・・」

申し訳なさそうにする彼に、オレは慌ててその言葉を否定する。

「そんな事はない!良い食べっぷりだ!作ったかいがあるというものだ!それに、幸せそうに食べる君を見ていると、オレも幸せな気持ちになれる!ずっと見ていたいほどだ!!」
「えっ?そ、そうですか。お気に障らなかったのなら良かったです」
「オレがそんな事を気にするものか!それに、そんな堅苦しい言い方もしなくていいぞ!オレの事はジェシカと気軽に呼んでくれ!!敬称もいらんぞ!」

オレの言葉に彼はまた困ったような表情を浮かべるが、今はそれを全力で無視した。何故ならオレは、彼から名前で呼ばれたいからだ。

「えぇ?で、ではその・・ジェシカ・・様・・・」
「むぅ、まぁ良いだろう。お互いを名前で呼び合うのは親密である証だ!オレも君の事をジール・・殿と呼ぶことにしよう」

彼の事を名前で呼び捨てにしようとした瞬間、何故か猛烈に羞恥心を感じてしまい、取り繕うように殿という敬称を付けていた。今までこんな恥じらいを感じるということもなかったオレは、自分の変化に戸惑ってしまい、彼の顔が直視出来ないようになってしまう。

(何だ?身体が暑い!?もしかして、今のオレの顔は真っ赤になっているんじゃ・・・何なんだ、この感情は!?一体オレはどうしたと言うんだ!!)

困惑するオレは、アワアワとしながら部屋の中を落ち着き無く歩き回ってしまった。そんなオレの行動を、ジール殿から不思議な顔をして見られてしまった。それからオレは、慌ててジール殿の部屋を逃げ出すように後にした。





 ダイス王国に来てから色々な事があったが、とりあえず大事になることもなく帰国の運びとなった。
親善試合の後、僕の部屋を訪れてからジェシカ様の様子が少しおかしく、その後に催された歓迎の式典では、僕の方を遠くからチラチラと見てくるのだが、決して話しかけてくることはなかった。
いったいどうしたのだろうかと疑問にも思ったが、僕から話し掛けようと近付くとどこかに行ってしまい、気づくとまた遠くから僕を見ているということを繰り返した為に、僕にはどうすることも出来なかった。

そんな感じでしばらくジェシカ様から監視される日々が続いたが、その態度は段々と元に戻っていった。そして、両国の友好関係構築についての会議も一応の成果が纏まったということで、帰国することになったのだ。
送迎の式典では、ジェシカ様がモジモジとしながらも再会を誓う約束を申し出てきたので、僕はそれを笑顔で了承し、互いに固い握手を交わした。落ち着いて考えると、僕は全ての国の王女と面識があり、4カ国の王女と再会の約束をしているという、とんでもない状況になっていた。

(何だか世界を旅してみたいという僕の夢が、違った形で実現しているような気がするけど、今の僕にはまだ自由は無い・・・本当の意味で自由になるまで、もっと頑張ろう!)

帰国する飛空挺から外の景色を眺めつつ、改めて自分の夢に対する決意を思い浮かべた。異国の地での料理はとても美味しく、調理法も興味深かった。それに、ドーラル王国とはまた違った趣ある風景も感動した。そうした事を思い返しながら、もっと力をつけて自由を手に入れようと、自分の未来について思いを馳せた。

しかし帰国の後、今回の件の報告を聞いたドーラル王国と諸外国が動き出すのだが、今の僕にそんな事は知るよしもなかった。
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