変幻自在のアルマ遣い

黒蓮

文字の大きさ
48 / 92
留学編

実地視察 4

しおりを挟む
 僕が女性恐怖症を患ってしまったあの日、具体的に何があったのかは記憶に無かった。ただただ女性に対する恐怖という感情だけが、強く意識に残っているだけだ。その感情は17歳になる今になっても消えることはなく、僕の中に居座り続けている。
この世界は女性社会なので、こんな恐怖症を抱えている僕は、この先の将来に対して悲観している部分もあった。だからこそこの恐怖症を克服しようと頑張ってきたつもりだったのだが、やってきた事といえば、とりあえず女性と話をする程度のものだった。

結果、女性と目を見て話をする事は出来るが、接近され過ぎたり、密着されると、自分の中の恐怖を押さえられないでいた。ただ偶発的・友好的な接触なら大丈夫なのだが、僕に対して欲情を抱いている感情が垣間見えてしまうと、途端にパニックになってしまう。
こんな状態では結婚なんて出来ないが、男性である僕には、決められた結婚を拒否する術など無い。それこそ序列1位になって、国家間の決闘に勝利しない限り、僕に自由なんて無いだろう。ただ現状は、それすらも暗雲が立ち込めている。キャンベル様の話だと、国家が僕という存在を利用して、最大限自国の益になるように動き出しているというのだ。

これまで頑張ってきた結果として、力があっても無くても自由になれないのではないかという悲観的な考えが湧いてきてしまった。かといって、国から逃げ出すような事をしてしまえば、きっと母さんに迷惑が掛かってしまう。しかしこのままでは国の道具として使われるだけの人生になってしまう。
どうすれば僕は自由に生きられるんだと、答えの無い悩みをずっと抱え込んでいた。


 そして今回、あってはならない大失態を犯してしまった。あろうことか他国の王女殿下に抱きつかれ、気絶してしまったのだ。女性に対してとんでもなく失礼なことをしてしまっただけでなく、下手をすれば国際問題にまで発展するのではないかと恐ろしくなる。
そして、目を覚ました僕の視界に最初に飛び込んできたのは、何やら深刻そうな表情で話し合っている5人の王女殿下達の姿だった。僕が目を覚ましたことに気づくと、ルピス様が急に泣き崩れて、僕から距離をとって何度も頭を下げながら謝ってきた。

「えっ?あの?ルピス殿下?」

突然の行動に理解が及ばず、その行動に何も言えずにいると、レイラ様が優しげな表情を浮かべながら僕の顔を覗き込んできた。

「ジール、体調は大丈夫ですか?」
「え、あ、はい。すみません。ご心配をお掛けしたようで」

レイラ様の問いかけに、僕は上体を起こしながら申し訳なく答えた。

「何が起こったのかは・・・ルピス殿下からある程度聞かせてもらいました」
「ほ、本当にごめんなさいなのです!」

レイラ様が視線をルピス様に向けながら事の顛末について言及すると、ルピス様は再度深々と頭を下げて謝罪の言葉を口にしてきた。

「いえ、ルピス殿下は何も悪くありません。これは・・・僕の方に問題のあることだったので・・・」
「違うのです!ジールさんが女性恐怖症だということを知らなかったとはいえ、ボクの行動の方にこそ問題があったのです・・・」
「っ!?何故そのことを?」

僕が女性恐怖症を患っていることについて言及したルピス様の言葉に、目を見開いて驚いた。

わたくしが皆さんに話したのです」
「レイラ殿下・・・」

レイラ様の言葉に、以前話していたことを思い出す。そして5人の王女殿下の顔を見渡しながら、僕が女性恐怖症だと知ってどんな感情を抱いているか探るように視線をさ迷わせた。

「勝手にジールの悩みを暴露してしまった事には謝罪します。ただ、そうしておかなければ、今回のような事がまた起きるかもしれないと判断したのです」

申し訳なさそうなレイラ様の様子に、僕は恐縮しながら口を開いた。

「謝らないで下さい、レイラ殿下。僕は何とも思っていませんので大丈夫です。ただ、僕が女性恐怖症だと知っても、これまで通り接してくれると嬉しいです」

僕は皆さんを見渡しながらそう告げた。すると、最近はずっと静かで、僕に話しかけてくることもなかったジェシカ様が、意外そうな表情を浮かべて口を開いた。

「ジール殿はそれで大丈夫なのか?無理をするのはあまり感心しないが・・・」

僕のことを想いやってくれる口調に、ジェシカ様の優しさが感じ取れた。

「自分でもこの恐怖症は、致命的だと思っていますから。この世界で生きていくのに、これほどの重荷はないですからね。ですから僕は、出来れば克服したいとずっと思っています」
「さっすがジルジル!パピルの見込んだ男の子なだけはあるわね!そんなジルジルには、パピル達が考案した女性恐怖症克服大作戦を受けてもらいま~す!!」

僕の言葉に、パピル様が指を突きつけながら声高らかにそんなことを宣言してきた。

「・・・女性恐怖症克服大作戦、ですか?」

若干嫌な予感がしつつも、その話の続きを聞いてみる。

「ジルジルの女性恐怖症は、それほど致命的な状態じゃあないと思うんだよね~。だからパピル達はその克服方法を話し合って、女性に対して段階的に免疫を付けていってもらえば、最終的には克服出来るのではないかという仮説を立ててみました!!」
「段階的にですか。それなら現実的に克服出来るような気がしますね」

パピル様は盛大などや顔をしながら話しているが、内容事態は至極当然の考え方だった。今までの僕がやってきた事といえば、女性の目を見て話していくことで、何とかなればという甘い考えだったが、結果としてそれだけやっていても改善しないことは、自分が一番痛感していたことだった。

「具体的な方法なんだけど、先ずはパピルとラブラブになってもらいます!」
「・・・え?」

予想もしていなかった突拍子もないパピル様の言葉に、しばらく僕の思考は停止してしまった。

「パピル殿下。その様な伝え方では、ジール君が怯えてしまいます。ちゃんと具体的な根拠を添えて説明しないと、ジール君も納得できないと思います」

僕の顔色の変化を鋭く察知してか、キャンベル様がパピル様に苦言を呈していた。

「えへへ、冗談だよ~。まぁ、パピルとしてもちょっと心外な部分はあるんだけどさ~。人族から見て妖精族であるパピルは、幼い子供に見えるんでしょ?」

パピル様は、まるで悪びれていない様子をしていて、僕の顔を覗き込んでくると、上目遣いに質問してきた。さすがにそのまま「ハイ」と答えていいのか難しい質問だったが、皆さんの表情や雰囲気から、嘘は述べない方が良いと判断した。

「えっと、そうですね・・・大人の女性であるパピル殿下に対して失礼な話しかもしれませんが、僕達人族から見るとそう感じてしまうのは事実です」

なるべく怒らせないように言葉を慎重に選んで返答したのが、パピル様は全然気にしていない様子だった。

「やっぱそうか~。まぁ、だからこそ今回の作戦が活きてくるんだけどね」
「えっと、それはどういう・・・?」
「つまり人族であるジルジルにとって、女性という認識が低いパピルに先ずは慣れてもらうんだよ!」
「な、なるほど・・・」

パピル様の説明に、段階を踏むとはそういうことはと理解が追い付いた。しかしそうなると、次の段階は誰かという話になり、僕はベッドを囲んでいる王女達に視線を巡らせた。

「パピル殿下である程度慣れたら、次の段階はオレだな。まぁ、自分で言うのは何だが、オレは言動が粗野だし、友人のような立ち位置として慣れてもらうということだ!」

声を上げたのはジェシカ様だ。親指を立てた手を自らの顔に突き立てるようにして、僕の視線を注目させている。僕が気絶している短時間でどんな心境の変化があったのか、ジェシカ様は最近のしおらしい態度から一転、以前の逞しい印象を抱かせる様子へと変貌していた。もしかしたら、僕のために言動を変えてくれているのかもしれない。

「次は私ね。しゃくだけど、私の体型はそれほどメリハリがあるわけじゃないし、ジール君もそれほど女性であることを意識しすぎないだろうっていう考えからね」

キャンベル様は不承不承といった感情を全面に出しながらも、僕の為を思っての事だということがヒシヒシと伝わってきた。確かにキャンベル様の体型については、レイラ様やルピス様、ジェシカ様に比べると、凹凸が少ないということは否めないだろう。

「次はボクなのです。その、ボクの胸は、ジールさんに女性であることを強く意識させてしまうかもしれないですが、治療と思って欲しいのです。それに、ボクは人族から見れば少し動物っぽいですから・・・」

ルピス様は先ほどの件もあって申し訳なさそうに話しているが、内容的には理解出来る。確かにルピス様の胸は女性を強く印象付けられるが、そのケモ耳や尻尾から、動物的な愛らしさがを感じることも間違いない。

「最後はわたくしですわね。この女性恐怖症克服の判断について、最終的にわたくしに怯えず、密着してお話し出来た時、ジールの恐怖症は克服されたと考えて良いはずですわ!」

そう言って胸を張るレイラ様をよく見れば、メリハリのある体型に長い銀髪、更に整った顔立ちは、女性として最高峰の存在に思えてしまう。僕の女性恐怖症にとってみれば、絶対強者ような存在だ。
そうして王女達から言われた順に見ると、どの王女殿下も女性としてとても魅力的な人であるということは間違いないが、その中でも段々と女性を意識させられる難易度が上がっているようだと思えた。

(あれ?そういえば、王女達の間に前みたいにピリピリした雰囲気が無くなっている気がするな・・・本当に僕が気絶している間に何があったんだろう?)

疑問はあるが、ピリピリとした雰囲気でいるよりも和気あいあいとした雰囲気の方が良いに決まっているので、あまりその事については指摘しないでおこうと考えた。そして結局僕は、王女達の勢いに呑まれつつも、女性恐怖症克服大作戦に対して承諾の意を示したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

【魔物島】~コミュ障な俺はモンスターが生息する島で一人淡々とレベルを上げ続ける~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
【俺たちが飛ばされた魔物島には恐ろしいモンスターたちが棲みついていた――!?】 ・コミュ障主人公のレベリング無双ファンタジー! 十九歳の男子学生、柴木善は大学の入学式の最中突如として起こった大地震により気を失ってしまう。 そして柴木が目覚めた場所は見たことのないモンスターたちが跋扈する絶海の孤島だった。 その島ではレベルシステムが発現しており、倒したモンスターに応じて経験値を獲得できた。 さらに有用なアイテムをドロップすることもあり、それらはスマホによって管理が可能となっていた。 柴木以外の入学式に参加していた学生や教師たちもまたその島に飛ばされていて、恐ろしいモンスターたちを相手にしたサバイバル生活を強いられてしまう。 しかしそんな明日をも知れぬサバイバル生活の中、柴木だけは割と快適な日常を送っていた。 人と関わることが苦手な柴木はほかの学生たちとは距離を取り、一人でただひたすらにモンスターを狩っていたのだが、モンスターが落とすアイテムを上手く使いながら孤島の生活に順応していたのだ。 そしてそんな生活を一人で三ヶ月も続けていた柴木は、ほかの学生たちとは文字通りレベルが桁違いに上がっていて、自分でも気付かないうちに人間の限界を超えていたのだった。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。 大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。 そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。 しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。 戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。 「面白いじゃん?」 アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました

久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。 魔法が使えるようになった人類。 侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。 カクヨム公開中。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

処理中です...