変幻自在のアルマ遣い

黒蓮

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留学編

実地視察 3

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side ルピス・エレメント


 久しぶりの再会を果たしたジールさんは、以前に比べ身長も伸び、昔の幼く中性的な顔立ちから、格好良い大人の男性へと変わり始めていたのです。
しかもジールさんはボクを前にすると、どこか憂いを帯びた表情と態度を見せるので、その姿にボクの女性としての本能が刺激され、どこまでも彼の事を心が追い求めてしまうのです。
ただ予想外だったのは、ジールさんを想うライバルがとても多かった事なのです。しかも相手は、今回の留学で集まった各国の見目麗しい王女達なのです。これは生半可な事では、彼の心をボクに釘付けにするのは困難なのです。しかも事前に過度な抜け駆けを出来なくするように、ボク達は淑女協定を結んでジールさんと相対する事になってしまったのです。

(ふふふ。ジールさんと会えなかったこの3年、ボクの身体は女性として更に魅力的な姿になったのです。ボクの全力でジールさんを篭絡して、2人で幸せになるのです!)

そう決意し、ボクは他の王女達を出し抜く気満々でジールさんがエスコートしに来るのを、部屋の中で今か今かと待っていたのです。しかも、ジールさんを陥落させるために用意した、下着が少し透けるナイトガウンという名の戦闘服を纏い、幾度となく脳内でシュミレーションを重ね、どう迫れば自分が一番可愛く妖艶に見られるかの準備は怠らなかったのです。
そうして遂にボクの部屋にやって来たジールさんに、予め予習していた通りに迫ったですが、彼は急に虚空を見つたかと思うと顔が真っ青になり、そのまま気絶するように倒れてしまったのです。

「っ!?ジールさん!?ジールさん!?目を覚ましてください!ジールさん!!」

あまりの出来事に我を忘れ、ジールさんを抱き抱えつつ泣き叫びながら彼の名前を呼んでいると、異変を聞き付けてきたのか、誰かが扉を凄い勢いでノックしてきたのです。

『ドンドンドン!!!』
『どうした!?ジール殿に何があった!?』

その声から、相手はダイス王国のジェシカ殿下だと分かったのです。一瞬、各国の王女の部屋割りは少し離れた場所に位置しているのに、何故彼女が最初に駆けつけてきたのか疑問が浮かびそうになったのですが、今はそれよりもジールさんを優先すべきだと、外にいる彼女に助けを求めたのです。

「た、助けて欲しいです!ジールさんが急に気を失ってしまったです!」
『何だと!?くっ!入るぞ!!』

ボクが端的にジールさんの様子を説明すると、ジェシカ殿下は焦りの声を漏らしつつ、鍵の掛かっていた部屋の扉を蹴破って入室してきたのです。

「っ!!ジール殿!一体何があったんだ!?」

駆け込んできたジェシカ殿下が、ボクに抱き上げられているジールさんの様子を見つけると、目を見開きながら焦りの表情を浮かべて、気を失っている理由を聞いてきたのです。ただ、自分がした様子をそのまま伝えることに抵抗があったボクは、詳細を省いて簡潔に伝えることにしたのです。

「わ、分からないです。ジールさんと話していたら急に顔色が悪くなって、そのまま・・・」
「むぅ、どういうことだ?・・・かなり冷や汗をかいているようだな。とても体調が悪そうだ。ベッドに寝かせた方が良いのではないか?」
「そ、そうなのですね。水とタオルを持ってくるです」

ジェシカ殿下は、ジールさんの額に手を当てたり、注意深く様子を観察しながらテキパキ指示を出してくれたのです。ボクはそれに従って、ジールさんを介抱する準備を始めたのです。


 ジールさんをボクのベッドに寝かせ、水を絞ったタオルを彼の額に乗せて様子を見ていると、騒ぎを聞きつけたのか、他の王女達が集まってきたのです。

「こ、これは一体何が・・・」
「ジルジル!?何っ?何がどうしたの?」
「ジール君!?凄い汗・・・彼に何があったの?」

レイラ殿下、パピル殿下、キャンベル殿下がジールさんの様子を見ながら、この部屋で何が起こったのかを詰問してきたのです。その様子から、皆さんかなりジールさんの体調を気遣っているようなのですが、その原因がボクにあると疑っているようで、向けられる視線に恐怖を感じたのです。

「あ、あの、えっと、ジェシカ殿下にも説明したですが、ジールさんと話していたら急に顔色が悪くなって、そのまま・・・」
「急に顔色が?待ってくださいまし。ルピス殿下のその格好・・・もしかして、ジールに対して過度に密着しませんでしたか?」

皆さんの迫力に萎縮してしまったボクは、少しぼかした説明をしたですが、レイラ殿下が厳しい眼差しと共に、ズバリこの部屋でのボクの行動を指摘してきたです。

「え、えっと、それは、その・・・」
「そういえばルピス殿下のその格好・・・過度な露出でジール殿を誘惑するのは禁止だと、オレ達は協定を結んだはずではないか!?」

目を背け、しどろもどろになってしまったボクの様子に、最初に駆けつけてきたジェシカ殿下が非難するような声音で詰問してきたです。その体格差もあって、ボクは怯えながら数歩後退りしたですが、部屋の壁に行く手を阻まれ、逃げ道がなくなってしまったのです。

「ルピスっち、まさかジルジルと既成事実を作ろうとしたんじゃ?」
「それが本当なら、由々しき事ですね。ルピス殿下は、ジール君と接触禁止にすべきでは?」

壁を背後にしながら、皆さんに取り囲まれてしまい、パピル殿下とキャンベル殿下から更に詰め寄られ、事態は段々と深刻になってしまったのです。このままでは協定違反の名の元に、ジールさんと会えなくなってしまうかもしれないと悲観し始めた時、レイラ殿下が口を開いたのです。

「皆さん、よろしいでしょうか?」
「ん?どうしたんだ?」

右手を上げ、深刻そうな表情をしたレイラ殿下に、ジェシカ殿下が怪訝な顔をしながら何事かと尋ねたのです。

「本当はわたくしにとって有利な情報と考えて伏せていましたが、この先同じ様な事が起こり、ジールに心労を掛けるのは心苦しいですわ」
「ん~?勿体ぶって何なの?早く言ってよ」

レイラ殿下の言い回しにしびれを切らしたパピル殿下が、その小さな頬を膨らませていたのです。

「分かりました。実はジールですが・・・女性恐怖症なのですわ!」
「「「・・・えぇ~~~!!!?」」」

ボク達はレイラ殿下の発言に一瞬の静寂後、一斉に驚愕の声を上げたのです。ただ、キャンベル殿下は特に驚いていないようだったので、どうやら彼女も知っていたようだったのです。

「じゃ、じゃあジールさんが気絶したのは・・・」
「恐らくルピス殿下がその薄着で密着した影響で、女性恐怖症の原因となった過去の記憶がフラッシュバックしたのでしょう。そして精神が耐えられずに気を失った・・・ということなのでしょうね」
「・・・・・・」

レイラ殿下は慈しむような視線をジールさんに向けながら、今回彼が気絶してしまった理由について推察していたのです。その言葉に、ボクは大きなショックを受け、申し訳なさで何も言えなくなってしまったのです。
知らなかったとはいえ、気を失ってしまうほどの恐怖を自分の想い人に与えてしまったことで、絶対に嫌われてしまったと絶望したのです。


「し、しかしオレ達は、密着しただけで気絶してしまうほどの女性恐怖症を患う男性を慕ってしまったということなのか・・・レイラ殿下はそれでもジール殿を好いているのか?」

 しばらく部屋に静寂が漂っていたのですが、ジェシカ殿下が悲痛な声で、ジールさんが女性恐怖症だということを知っていたレイラ殿下に質問を投げかけたのです。

「ふふふ。覚悟が無いようでしたら、潔く身を引くことをお勧めしますよ?」
「なっ!そ、そんなことはない!オレは自分の想いが報われないかもしれない事などどうでもいいが、オレ達の行動で、ジール殿を苦しめたくないだけだ!彼には・・・幸せになって欲しい」
「「「・・・・・・」」」

ジェシカ殿下の言葉に、この場の誰もが静かに同意をしたのです。世の中には、自分の好みの男性を強引にでも手に入れる女性の事を、猛獣系と呼ぶらしいのですが、今のボクはまさにそう呼ばれるに相応しい行動をしてしまったと反省するのです。

(猛獣系女子は、男性も好みが分かれると聞くのです。どう考えてもジールさんは、ジェシカ殿下の様な控えめでお淑やかな女性が好みのはずなのです・・・)

ジェシカ殿下はその大柄な見た目に反して、昔の書物の中でしか知らないようなお淑やかな女性だったのです。普段の粗野な言動からは遠く離れているのですが、自分の慕う男性に対してだけは、あんな態度を取られたら、相手の男性も悪い気はしないはずなのです。

(それに比べてボクは・・・)

先程から盛大なため息が止むことがなく、どんどんと深い闇の中に自分の精神が消え入りそうになっていると、キャンベル殿下が手を上げながら話し始めたのです。

「あの~皆さん、ちょっと良いでしょうか?」
「どうされましたか?」

レイラ殿下が反応すると、皆さんキャンベル殿下に注目を向けたのです。

「ジール君は女性恐怖症と言っても、それほど重度のものではないはずです。それに人伝ですが、彼自身も自らの恐怖症を克服しようと努力していると聞いています」
「「「・・・・・・」」」

キャンベル殿下の話に、皆さん興味を唆られているようで、静かに聞き入っているのです。

「そこから考えれば、ジール君は女性を遠ざけたいとは考えておらず、むしろ積極的に関わりたいと思っている!いえ、ジール君も思春期ですから、きっと私達同様に異性に対する欲求はあるはず!その為に恐怖症の克服を努力しているのであれば、私達がそのお手伝いをした方が良いと思うんです!」

キャンベル殿下の話は、ジールさんの考えに対して少し飛躍している部分もあるですが、女性恐怖症を克服しようとしているという話については信じられると思ったのです。そうでなければ、いや、そうしなければ、女性しかいないクルセイダーになろうとは思わないはずなのです。

「ジールが異性に対する欲求があるかは分かりませんが、わたくしが初めて出会った時、彼は女性の目を見て話すことすら出来ていませんでした。それが先日再会した時には、しっかりと目を見て話していましたから、少なくとも昔よりは改善しているのでしょう。ですので、恐怖症を克服できる可能性は高いと考えます」
「なるほどね~。でも、治療するにも荒療治じゃあ・・・ジルジルの恐怖症は逆に悪化しそう~」

レイラ殿下の言葉に、パピル殿下がベッドで目を瞑ってうなされているジールさんをチラリと見つめて、ため息を吐きながらあり得そうなことを言ってきたのです。その言葉に、何となくボクが責められているような気がして、身体が萎縮してしまったのです。

「なら、優しくゆっくりと時間を掛ければ良いんじゃないか?そうすればジール殿の恐怖症もいつかは治るものなのだろう?」
「いえ、既にわたくしが彼の恐怖症を知ってから5年も経っているのにこの状態ということは、あまりに消極的な方法では完治させることは難しいと考えますわ」
「となると、私達のとるべき行動は・・・」

それからジールさんの目が覚めるまで、皆さんは彼の女性恐怖症の治療方針を話し合い、ボクはそこで決まったことに反論することなく頷き、全員で協力して彼の恐怖症克服をサポートする事が決まったのです。

(せめてもの罪滅ぼしに、全力を尽くすのです!それで少しでもボクの事を嫌いにならずに、好きになってくれれば・・・)

その時、ボクは床に落ちている封書に気が付いて視線を向けると、ドーラル王国の女王陛下の蝋印がなされた書簡だったのです。ただ、女王陛下の蝋印がある封書なのに、少しクシャクシャになっている事に疑問を抱きながらも拾い上げて見ると、宛名はジールさんになっていたのです。

「あっ」

宛名を確認した拍子に中の書類が落ちてしまい、ボクは偶然その内容を目にしてしまったのです。

「どうしたのですか?」

ボクが小さな声を上げたことにレイラ様が気づかれたようで、こちらの様子を伺ってきたのです。そして皆さんも注目をボクというよりは、ボクの持っている封書と、落ちた中身の文面をマジマジと見つめ、異口同音で叫んだのです。

「「「こ、これはっ!!!」」」
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