変幻自在のアルマ遣い

黒蓮

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留学編

実地視察 2

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 憂鬱な気分で自分に割り振られている部屋へと戻り、今後について想いを馳せる。

(王女殿下達と恋仲になるなんて・・・とてもじゃないけど、気が進まないな・・・)

ベッドや机、クローゼット等最低限の家具が置かれている簡素な部屋で、僕はベッドに腰掛けながら項垂れていた。そして、繰り返し命令書を見返しながら、何度となく大きなため息を吐いた。

(所詮男なんて、女性に取ってみれば道具に過ぎないんだよな・・・今回の場合は、ドーラル王国の道具か・・・このままじゃ自由を手にする前に、僕の未来は雁字搦めになってしまいそうだ・・・)

政治的な策略での結婚は聞いたことがあるが、まさかその役割が自分に負わされるとは予想外だ。それに、各国の王女殿下と結婚するなど、生半可な覚悟では出来ないだろう。何故なら王女達と結婚するということになれば、きっと何をするにも、どこに行くにも承認が必要になる。それこそ、ちょっとそこまで買い物に行きたいと言っても、了承を得るために数日要する可能性すら考えられる。

(しかも、5カ国の王女殿下となんて・・・無茶苦茶だ)

幼い頃に見ていた父さんと母さんの様子は、互いに想いを通わせ、尊重し合っていたような覚えがある。簡単に言えば、とても仲が良かったのだ。母さんは父さんを男性だからと卑下することはなく、大切に想っていたような気がする。もしも僕が女性恐怖症を克服することが出来たら、両親のような家庭を築きたいと思えるほどに。
しかし今回の命令では、5人の女性に対して同時にアプローチを仕掛けろというもので、およそ誠実さとは真逆の行動だ。もし殿下達がその背景を知れば、激怒することは想像に難くない。
更に言うならば、殿下達が僕のことをどう思っているかなんて具体的には分からない。今までの様子から、嫌われているということはないだろう。むしろ好感を抱いていてくれているとは思う。ただそれが、友人に対して持つような感情なのか、異性に対して持つような感情なのかは判断できない。もし異性に対するものだった場合、僕の行動が不純なものに映るだろう。

(下手な対応をして国際問題に発展すれば、どんな処罰になるか検討もつかないし・・・)

5人と恋仲になろうと頑張った結果、「不敬だ!」「最低だ!」と激怒されて処刑されるかもしれないと思うと、およそ積極的には動きたくない。しかし命令書がある以上、動かないわけにもいかない。ここは仕事と言い聞かせ、女性恐怖症という自分の感情を押し殺して殿下達に接しなければならない。

(幸い今日の夕食後に、殿下達と一人づつ会う予定になっているんだ。まずは、皆さんが僕に対してどんな感情を抱いているのか探ってみよう!)

本当に感情を殺せるかどうかはこれから先の課題として、一先ずは情報収集に専念しようと心に決めた。


 夕食後、ついに王女殿下達の部屋を回る時間が来てしまった。予め決められた時間と順番を守るべく、僕は最初のルピス様の部屋を訪れる。
一応は、食後の夕涼みというか散歩と言われており、格好は失礼にならないくらいのラフなもので、黒のジョガーパンツに白いワイシャツ姿だ。
扉をノックする前に深呼吸して心を落ち着かせ、これから自分がするべきこと今一度思い浮かべる。

(不自然にならないように、皆さんが僕についてどう思っているかを聞き出さないと・・・)

皆さんを案内する場所と言っても、この砦の中庭に行くだけだ。しかも、中庭と言ってもここは軍事施設だけあって、緑溢れる公園の様な所ではなく、訓練が出来るように立木があるだけの簡素なものだ。隅には申し訳程度にベンチが数個あるだけなので、少し歩いてそこに座りながら話を聞き出そうと算段をつけていた。

『コンコン!』
『ジールさんなのですか?』

扉をノックすると、間髪入れずにルピス様の声が聞こえてきた。予め時間は決めていたので、この素早い対応も理解できるが、声が聞こえてきた位置から考えると、まるで扉のすぐ側で待っていたかのように近くから聞こえてきた。

「はい。お約束通りお伺いさせていただきました。準備はよろしいでしょうか?」

確認の為に問いかけると、扉が中から開かれた。

「どうぞなのです!先ずは入って欲しいのです!」
「えっ?あの、中庭を散策されるのでは?」

僕に入室を促してくるルピス様の様子に呆気に取られていると、当然のような顔をしながら予想外の事を言い出した。しかも、ルピス様はかなりラフな格好をされているようで、いわゆるナイトガウンを着用している為、薄っすらとピンク色の下着が透けているように見え、更にはルピス様の豊満な胸元が、白日の元に晒されているような状況だ。

「2人っきりの時間は20分しかないのです。だったら散歩よりお話がしたいと思ったのです。紅茶も準備してるですから、遠慮せず入って欲しいのです」
「えっ?あの?」
「さぁさぁ!」

腕を掴まれ、グイグイと部屋の中に入れようとしてくるルピス様に、僕は困惑しながら僅かばかりの抵抗を試みた。しかし、ルピス様はアルマエナジーすら纏っていないのに、その小柄な体格からは想像も出来ないほどの力強さで、抵抗の余地も無く部屋に引きずり込まれてしまった。

「あ、あの・・・さすがに部屋に2人っきりというのは外聞が・・・しかも、その格好ですと、なおさら・・・」

他国の王族だけあって、おそらく砦の中でも来賓用の広い部屋になのだろう、4人掛けのテーブルを置いても余裕のある広さだった。そんな部屋で僕は、ルピス様に淹れていただいた紅茶を前に、この状況に焦りを浮かべていた。

「大丈夫なのです。部屋に入る時に近くには誰も居なかったです。それに、噂になったとしても、ボクは全然困らないのです」
「えぇ?いや、その、こんな時間にルピス殿下の部屋に男の僕が居るという状況は、その・・・逢い引きをしていると思われるかもしれないですよ?」

ルピス様の発言に驚かされるが、逆に僕の事をどう思っているか確認するチャンスとも考え、この状況を第三者が知った時に思うであろう事を聞いてみた。

「ジールさん。2人っきりの時はそんな敬称ではなく、呼び捨てで良いのです。さぁ、ボクの名前を呼び捨てで言ってみるのです」
「えぇ?いや、そうではなくてですね、僕が言いたいことはーーー」

ルピス様は僕の懸念を全く聞かず、椅子から立ち上がると、姿勢を低くして上目遣いにこちらににじり寄ってきた。胸元を強調するようなルピス様の姿勢に、僕は恐怖で立ち上がったのだが、そのまま身体が動かなくなってしまった。

「ふふふ、ジールさんの言う通り、今はこの部屋にボクと2人っきりなのです。ここでジールさんがボクに何をしても、誰にも知られることは無いのですよ?」
「あ・・・う・・・」

ルピス様は頬を赤く染めながら、煽情的な言動をしてくるのだが、今の僕の耳には何も聞こえてこなかった。過去の記憶がフラッシュバックし、頭の中が真っ白になっていく。

「ジールさん、ボクを好きにして良いのですよ?」
「う・・・あーーー」

遂にルピス様の豊満な胸が押し当てられ、同時にルピス様の尻尾が僕を逃さないようになのか、足に絡みついてきた。その瞬間、僕の感情は許容量を超え、意識は闇に包まれてしまった。

「っ!?ジールさん!?ジールさん!?目を覚まして下さい!ジールさん!!」

閉ざされつつある意識の中、最後に聞こえてきたのは焦りの表情を浮かべながら、僕の名前を何度も叫び続けるルピス様の声だった。
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