変幻自在のアルマ遣い

黒蓮

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留学編

凶報 1

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 各国の王女殿下達が留学という名目でドーラル王国に滞在してから、早くも2ヶ月が過ぎようとしていた。
ここ1ヶ月は、各国の連携を強化し、友好関係を深めるための協定内容を詰める為の会議を行っていた。出来上がった草案には、各国の資源や製品についての貿易上のルールなどが盛り込まれていたが、その影でひっそりと、種族を超えた婚姻について可能とする文言が盛り込まれていたという。
この草案は、このまま決定というわけではなく、このあと各国の大臣レベルでの精査を受け、最終的に各国の女王陛下の認可を受ければ、条約として施行されることになる。実現されるのは早くても1年後ということになるが、それでもキャンベル殿下以外の王女殿下達は、国際的な決まり事として、異種族であっても婚姻が出来るという事に期待を向けていた。自国では既に他種族との婚姻を認める法律は制定されつつあるが、肝心の人族の国が認めなければ、ジールを娶るということが出来ないからだ。
更に、先日ジールの身に起こった3人のクルセイダーから襲われるという事件も、当初は女性恐怖症が急激に悪化するのではないかという懸念があったのだが、蓋を開けてみれば5人の王女殿下以外の女性をほとんど受け付けなくなるという、彼に懸想する5人の王女殿下達にとってみれば願ってもない展開になった事も合わせて、ここ最近の王女殿下達は楽しそうに過ごしていた。

そして、留学期間もあと1ヶ月を残すこととなったある日、大陸を震撼させる知らせが各国に届けられたのだった。




side ドーラル王国


「なにっ!?夢幻大地で未知の害獣が目撃されただと!?」

 ドーラル王国王城にある女王の執務室で、この部屋の主である女王陛下は、驚きも露わに書類整理をしていた机から立ち上がると、報告をもたらした文官に向かって唾を飛ばす勢いで確認するように聞き直した。

「はい。今期の決闘勝利国であるダイス王国からの報告です。夢幻大地中央に聳える山での鉱石の採掘中に、今まで見たこともない害獣が出現したとのことです。更にその害獣から襲撃を受けたため、護衛として派遣されていたダイス王国のクルセイダーが対応したとのことですが、その強大な力に奮戦虚しく、12名が犠牲になったとのことでした」
「馬鹿な・・・12人ものクルセイダーが犠牲になる程の力を有した害獣など・・・未知の害獣、それは本当に害獣だったのか?」
「ダイス王国から、目撃した害獣の姿絵を各国に配り、注意喚起をしているようです。これがその害獣の姿絵でございます」

そう言うと文官は、懐に忍ばせていた筒を女王陛下へと差し出すと、訝しげな表情を浮かべながら女王は中身を確認した。

「こ、これは・・・」

その姿絵は、一言で言い表せば人の様な形をした何かだった。全体的な形状は人形をしているのだが、頭はカウディザスターのような禍々しい角が6本生え、口からはピッグディザスターの様な牙が上下に2本づつ、腕や足は異常なくらい膨れ上がり、背中からはバードディザスターのような羽が生えているのだ。

「報告によりますと、身長は約2mと、魔人族の平均ほどです。人語は発せず、意味の無い鳴き声を喚くだけとありますが、警戒すべきはその能力の方のようです」
「能力?」

文官は、女王陛下が姿絵を確認し終わったとみて、ダイス王国から寄せられた情報を伝えていった。そして未知の害獣に対しての情報に、女王陛下は眉を潜ませながら先を促した。

「どうにもその未知の害獣は、他の害獣達を従える事が出来るようなのです」
「っ!?馬鹿な!害獣を従えるだと!?まさか、ダイス王国のクルセイダーが襲われた際に、本来縄張り争いをしている3種の害獣が共闘したとでも言うのか!?」

文官からの報告に、女王陛下は目を見開きつつ驚きも露に確認するように詰問した。

「ダイス王国からは、その様な報告が来ております。未知の害獣自体の実力もさることながら、従えている害獣の連携に苦戦を強いられ、多数の犠牲者が出たと。これを踏まえ、5か国による緊急首脳会談を開きたいという打診も来ておりますが、如何致しましょうか?」
「当然開催すべきだろう!害獣を従える未知の害獣だ。どのような行動原理で動いているか分からぬ以上、我が国に害獣を引き連れてこられては甚大な被害となりかねん。夢幻大地に留まっている内に、5カ国共同で討伐すべきだろう」
「畏まりました。では出席の意向を先方に連絡し、開催の日時を確認しまして、再度ご報告に上がります」
「頼んだぞ」
「はい。失礼いたします」

切迫した表情を浮かべる女王陛下の言葉に、文官は恭しく頭を下げて執務室をあとにした。

「・・・まったく、あいつの息子のことで上手く立ち回れていると安堵していたのに、今度は別の悩み事が来るとは・・・騒ぎを呼び込む才能まで遺伝してるんじゃないだろうな!」

文官が退出し、誰も居なくなった部屋で女王陛下は、誰ともなく独り言を発していた。その視線は、ここではない何処か過去を見るように宙を彷徨っており、その表情は言葉とは裏腹に優しげな顔をしていた。




「えっ?新種の害獣ですか?」

 その日の夕食、いつものように5人の王女殿下達と食卓を共にしていると、キャンベル様から驚きの情報を聞かされた。

「えぇ、ダイス王国から連絡があったのだけど、どうやら夢幻大地で見たこともない害獣が目撃されたということよ」
「しかもその新種、オレの国のクルセイダーを12人も葬ったらしく、とんでもない力を有しているようだ」

キャンベル様の言葉に付け加えるように、ジェシカ様が諦念を滲ませた表情をしながら、その新種がもたらした被害状況を教えてくれた。どの程度の実力者だったのかは分からないが、それでも正規のクルセイダーは単独でも害獣の成体を討伐することが可能なはずなので、それを考えれば異常な位の戦闘能力だということが伺える。

「新種自体の実力もさることながら、より注意すべきはその能力でしょう。全ての種類の害獣を操れるという事が事実なら、恐ろしいことになるでしょう・・・」
「害獣を操る害獣ですか?」

レイラ様の言葉に、僕は目を見開いて聞き返した。そもそも3種類の害獣達は互いに縄張り争いをしていて共闘することがない。だからこそ討伐においては、数こそ脅威だが、それ以外、老成体に出会うことさえなければ危険度はそれほどない。
現に、害獣討伐を行っているクルセイダーの被害というものはほとんど無い。事前に周辺を調査し、生息数からその行動を予測、安全面を考慮した討伐計画が立てられるからだ。特に、単一の種族で生活している害獣は行動予測が立てやすく、余程のイレギュラーが起こらなければ、被害など怪我をする程度なのだ。
しかしこれが3種類の害獣が連携しながら襲ってくるとなると話が変わってくる。それぞれに攻撃スタイルが異なるのでその対応が厄介だし、操られているとなれば、今までの経験もあって無いようなものになってしまう。そう考えると、12人ものクルセイダーが犠牲になったという話も頷けるものだ。

「どうやらその新種、3種の害獣達を巧みに操って退路を断ち、更には連携した攻撃でこちらを分断、その後に各個撃破されたと報告が上がっている」
「その新種、相当知能があるんですね・・・」

苦々しい表情を浮かべながら、ジェシカ様が何があったのかの詳細を語ってくれた。単独の実力もさることながら、周りを上手く使う頭脳があるということは厄介極まりないだろう。

「そのことで後日、各国が集まって対策の為の会談を行うそうよ」
「5カ国が共同で対処するということなんですか?」

キャンベル様の言葉に、僕は別の意味で驚かされた。大陸の5カ国は、最近交流があるとはいえ、軍事的に共闘するまで友好関係が進んでいるとは言い難いだろうと思っていたからだ。
そんな僕の疑問に応えてくれたのは、レイラ様だった。

「夢幻大地はこの大陸の中央に位置しており、どの国とも接しています。つまり、その新種が害獣の軍勢を率いて、己の国へ来る可能性を警戒してのことでしょう。夢幻大地内で片が付けば、自国への損害は少ないですから」
「問題は、その操る能力がどこまで及ぶかだよね。数に制限があるのか、老成体まで操れるのかで、その脅威度は全く異なってくるし・・・」

パピル様がいつになく深刻な表情を浮かべてそんな事を言っていた。もし、パピル様の危惧する中で最悪の場合、害獣の老成体の軍勢が各国に襲いかかってくるということだ。僕はその光景を思い浮かべて戦慄し、不安なため息をつくのだった。
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