変幻自在のアルマ遣い

黒蓮

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留学編

凶報 3

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「連合軍の指揮ですか!!?」

 夢幻大地にて、未知の害獣出現の話を聞いてから2週間が過ぎたある日、僕は王女殿下達に呼び出され、驚愕の話を聞かされた。ここ最近の王女殿下達は、専ら例の害獣対策についての話し合いの場に参加しており、そこでもたらされた情報を分析している。そのため、今まで以上に忙しい日々を送っていたが、僕はといえばそんな話し合いの場に男性が参加することは無いので、いつも通りの鍛錬に精を出していた。
しかし、今日は朝から会議室に来るようにと言われていたので、何か話に進展があったのだろうとは思っていたが、僕にとってはあまりにも予想外の話だった。

「そうです。各国の政治的・軍事的バランスを考えて、今回の未知の害獣討伐に係る作戦立案・指揮・命令について、わたくし達5カ国の王女達の話し合いでもって決定せよとの命令です。そしてその中にジール、あなたも含まれることになりました」
「・・・・・・」

レイラ様がもう一度今回の話の要旨を伝えてくれているのだが、あまりの衝撃に僕の頭が理解しようとしてくれなかった。

「まぁ、安心してくれ!ジール殿はあくまで補助!関係各所への伝令係といった立ち位置だ!直接何かを決めたり、責任を負うようなものではない。それは、オレ達の仕事だからな!」
「・・・・・・」

僕の呆然とした様子を見てか、ジェシカ様が親指を自分の顔へ向けながら、笑みを浮かべてそう言ってきた。おそらくは僕を安心させるようにという意図なのだろうが、それでも大陸の命運がかかった話し合いの場に、男の僕が居るというのは場違い感が凄かった。

「私も困惑していますが、この国の王女として、経験を積む良い機会だとお母様に言われれば、確かにその通りだと思っています。だから、ジール君も私の事を助けてくれると嬉しいのだけど・・・」

僕が何も言えずにいると、キャンベル様もこちらに向き直りながら口を開いた。上目遣いに僕を覗き込んでくるキャンベル様の表情は、申し訳なさの中に期待が含まれているようだった。

「も、もちろん僕で出来ることがあれば全力でサポートしますが・・・本当に僕なんかで大丈夫でしょうか?」

キャンベル様の言葉に、僕は不安な思いを吐露した。王女殿下達の力になりたいと思ってはいるが、果たしてそんな能力が僕にあるのかの自信は皆無だった。これから国を背負って行くであろう王女殿下達が、今回のように重要な役を任せられるのは理解できるが、何故そこに僕が含まれているのか、困惑しかない。

「まぁ、ぶっちゃけて言うと~、ジルジルはパピル達にとっての抑止力的な存在なんだよね~」
「・・・えっと、パピル殿下?それはどういう意味でしょうか?」

少しだけバツの悪そうな表情をしたパピル様が、静かに口を開いた。

「つまり、女王陛下同士の話し合いで連合軍を動かすとなると、どうしても政治的な思惑が絡んで、決定に相当時間が掛かっちゃうわけ。でも、パピル達ならそこまでのしがらみがまだ少ないし、クルセイダーとしての立場と同時に、王族という立場もあるから、現場の運用にも理解が深いし、政治的な駆け引きを学びつつ、その決定には従わざるを得ない後ろ盾も十分ってわけ。しかも、パピル達はジルジルに良いところ見せたいと張り切るし、そういった思惑もあっての人選、ってことだと思うんだよね~」

パピル様の言葉に、納得できる部分があると同時に、疑問も浮かんだ。

「あの、僕に良いところを見せたいって、どういった意味なのでしょうか・・・?」

恐る恐る聞いた僕の疑問に、例え話を交えて答えてくれたのはルピス様だった。

「えっと、ジールさんは誠実な人と不誠実な人だったら、どっちに好感を抱くです?」
「えっ?それは・・・誠実な人ですね」
「じゃあ、自分の事しか考えない人と、周りの人の事まで気遣う人だったら、どっちに好感を抱くです?」
「周りの人の事まで気遣う人です」

質問に素直に答えると、ルピス様は当然だと言わんばかりに大きく頷き、話を続けた。

「ボクは過去に、ジールさんから命の危機を救ってもらった経験があるです。だからこそボクは、ジールさんに感謝と敬意と・・・えっと、他の感情もあるですが、ボクに幻滅して欲しくないのです。だから、ジールさんがボクに好感を抱いてくれそうな行動を選択しているです。それが今回は、未知の害獣討伐の作戦立案や指揮に良い影響をもたらすだろうということなのです!」
「・・・・・・」

ルピス様の話に、僕は目をしばたたかせながら聞き入っていた。どう反応していいか分からず固まっていると、キャンベル様が口を開いた。

「その考えは私も同様ですね。私も過去にジール君から助けられた事があります。だからこそ、そんな人から幻滅されたくないという思いを抱くのは当然です。連合軍の運用にしても、大陸全土の利益を見越した作戦を策定することが、ジール君の好感度に繋がりそうですし・・・」
「まぁ、ここに居る全員、ジルジルに好かれたいと思ってるって事だね~!その考えが、大陸の命運を良い方向へ導くと陛下達は考えたんだよ~!」

そんなパピル様の言葉に、僕の心臓は大きく脈打った。それは、その言葉を素直に聞くのなら、王女殿下達は僕に対して好意を持っているということになるからだ。ただ、それが人としてなのか、異性としてなのかは確証を持つまでには至らなかった。
それはきっと10歳のあの時から、僕が女性に対する接し方が特殊だった為に、相手の感情を読み取る部分が極端に鈍いからなのだろう。これまで女性恐怖症を治そうとするあまり、目を見て話すという事だけを心掛けた結果、相手からどう思われているかを考えることなく、自分が女性と話すことが出来たかどうかに主眼を置いてしまった事で、相手の感情の機微を感じ取る部分の成長が皆無だった気がする。
そんな僕だが、こうして人から純粋な好意を向けられるというのは、とても嬉しいものだった。ただ、事が大陸全土に関わる内容なので、僕の方を見るあまり、誤った判断をさせるわけにはいかなかった。

「えぇと、皆さん王女殿下でありながら、男性である僕に親しくして下さる事に対して、とても感謝していますし、敬意を持っています。ですので、皆さんがどのような判断や行動をされたとしても、僕が幻滅するようなことは無いです」

それは偽らざる僕の本心なのだが、レイラ様はそんな僕の言葉に、苦笑いを浮かべながら口を開いた。

「ジールならそうでしょうね。ですが、分かってはいても儘ならないというのが乙女心なのですわ。他の誰よりも、自分を一番に見て欲しいと思ってしまうものなのです・・・」
「で、ですが、僕の目を気にするあまり、間違った判断をされる可能性だってーーー」
「そうならない為の、オレ達5人ってわけさ!お互いがお互いの考えや提案を精査して、その方向性が本当に正しいか監視し合うわけだ。そこで独りよがりな考えや、一方的に特定の国が有利になるような作戦の提案をすれば、他の王女から糾弾される。そんな様子をジール殿に見られたくはないからな!」

僕の不安な言葉を遮って、ジェシカ様がニカッと笑みを浮かべながら言い放ってくる。

「その通りなのです!ジールさんにみっともない姿は見せられないのです!」
「これでも私達は一国の王女なんだから、ジール君に心配されずとも、ちゃんとやれるわよ!ただ、ジール君が側に居てくれれば心強いってだけよ・・・」
「そうそう!だから、ジルジルが敬意を抱いてると言ってくれたパピル達のことを、信じて見ていて欲しいんだよ~」

ジェシカ様に続いてルピス様は、決意に満ちた表情で、キャンベル様は少し恥ずかしがるように、パピル様は微笑みを浮かべながら僕に言い募ってきた。皆さんのその真っ直ぐな眼差しに、そうまで言われてしまっては、僕が何を言うことも出来ない。ただ、皆さんを信じて見守ろうと決めた。

「分かりました。僕に何が出来るもありませんが、全力で皆さんをサポートさせて下さい!!」
「はい。よろしくお願いしますね、ジール」

優しげな笑みを浮かべるレイラ様の返答の後、今後の方針やスケジュールを殿下達が話し合い始めるのだった。
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