変幻自在のアルマ遣い

黒蓮

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留学編

凶報 5

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「・・・ジールに、お願いがあるんですの」

 神妙な顔つきをしたレイラ様が、意を決したように僕に向かって口を開いてきた。その様子に、何か重大な話なのだろうと姿勢を正した。

「はい、何でしょうか?」
「今回の討伐作戦の要である、ミュータント・1と他の害獣の分断・・・ジールにその役を担ってもらいたいと考えています」
「僕が・・・ですか?」

レイラ様の言葉に、僕は目を丸くして呟いた。今回の討伐作戦では、各国の序列50位以内の実力者を集結させて行うと聞いている。確かに僕は今回の連合軍の指揮を執る王女殿下達の補助的な役割として組み込まれているが、実際に討伐作戦に戦力として参加するとは思っていなかった。何故なら、僕の序列は圏外だからだ。

「驚くのも無理はない。聞けばジール殿は、実際の害獣討伐の作戦に参加していないと聞くし、日々駐屯地での鍛練に明け暮れているようだな?」
「は、はい。その様に指示されています。僕が男性で未成年であるということを考慮されてか、実力が確実に付くまでは、他のクルセイダーとの連携行動を伴う作戦には従事させられないと・・・」

ジェシカ様からの問いかけに、僕は直接司令官から伝えられた言葉を話した。しかし、そんな僕の言葉をジェシカ様は鼻で笑って見せた。

「ふっ、可笑しいと思わないのか?ジール殿は試合とはいえ、オレを圧倒して見せたのだぞ?これでもオレは、ダイス王国で序列2位の存在だ。他者との連携を含めた総合的な実力は置いておいても、ジール殿の攻撃力はこの大陸でも屈指のものと言っても過言ではない!」
「で、では、僕は何故実戦に参加出来ないでいたのでしょうか?」

純粋な疑問だった。クルセイダーとなってから、僕は今まで一度もこの国の害獣討伐に従事したことはない。基本的には鍛練をしているように命じられ、まるで必要とされていないような扱いでもあった。ジェシカ様の言うことが本当なら、僕は何故・・・

「多少の推測も混じっていますが、ジールはクルセイダーの運用については文官、つまり武力を持たぬ役職の方々が、様々な決定権を持っているということは知っていますね?」
「はい。それは学びました」

レイラ様の質問に首肯すると、僕の反応を確認して、小さく頷きながら続きを話してきた。

「この構造を文民統制と言うのですが、簡単に表現するならば、武力や権力がクルセイダーに集中して、力を持たぬ国民が圧政に曝されないようにするためのものです」

レイラ様の説明に僕は何度か頷く。そういった国の構造については、学園の時にしっかり学んでいた。ただ、その文民統制の話が僕とどう関係しているかは分からない。疑問を抱きながらも、レイラ様の話に耳を傾ける。

「この世界では、男性の立場と言うものは非常に弱くあります。実力的にもそうなのですが、男性が知識を学んでも仕方ないという考えも蔓延っていると言っていいでしょう」
「・・・そうですね。実際、顕在化も出来なければ、僕は学園で学ぶ機会もなかったでしょう・・・」

この世界で男性とは、言ってみれば女性の付属品的な扱いだ。僕みたいに偶々具現化まで出来なければ、外見を磨き、家事能力を磨いて女性に取り入るしか生きていく術が無いと言えるほどに。

「この状況を受け入れている男性がほとんどかもしれませんが、中には反発を抱くものも居るでしょう。そしてそんな人達に、ジールという男性としては規格外の実力を持った人物が存在するとおおやけに知られれば、どうなるか想像はつきますか?」
「・・・???」

レイラ様の質問に、僕は頭を傾げる。現状の男性の立場に不満を持っている人が居るというのは分かるが、僕の実力が知られたところで、どうこうなるものでも無いだろうと思ったからだ。そんな僕の様子に、レイラ様は深刻な表情を浮かべながら口を開いてきた。

「例えば、ジールを男性という勢力の錦の御幡にして、反乱を起こすとは考えられませんか?」
「っ!?そ、そんなまさか!?」

突拍子もないレイラ様の言葉に、僕は空いた口が塞がらなかった。そんなやり取りに、今まで書類仕事をしていたキャンベル様が手を止めて立ち上がると、僕の方に歩み寄ってきた。

「ジール君。良い機会だから教えておくわ!この国における政治的な思惑をね・・・」
「キャンベル殿下・・・」

寂しげな表情を浮かべながら会話に入ってきたキャンベル様のその言葉に、僕は少し身構えた。

「本来、ジール君のアルマエナジー量と実力を考えれば、序列としては一桁でもおかしくないわ。でもそれは、今まで非力だと蔑まられていた男性に対する評価が、根底から覆るほどの衝撃を国民に与えてしまうかもしれない。そしてその衝撃は、今の女性を主体とする国家の体制に異を唱える勢力を産み出し、結束させかねないと王国は考えたの」
「・・・・・・」

僕としては信じられない話だが、キャンベル様の真剣な眼差しや、それを聞いて頷いているレイラ様やジェシカ様の様子に、その言葉が真実なんだと理解する。

「ジール君を害獣討伐の任務に就かせれば、その実力はおのずと広がっていくでしょう。例えば砦で働く男性達の世間話から・・・。その噂を聞き付け、ジール君に接触しようとする勢力も出てくるかもしれない。だったら最初からそんな不穏分子を作らないために、ジール君を任務とは無関係な場所に置いておくことで、王国の安定は保たれるということよ」
「で、でも、もしそうだとしても、僕が拒否すれば良いのでは?」
「ジール君が拒否したとしても、男性でクルセイダーになったという事実と、平均的な女性クルセイダーをも凌ぐ実力があるとなれば、その存在だけを利用し、男性の革命の象徴として勝手に名前を使われ、無理矢理引き込まれる可能性もあるわ・・・」
「えぇ・・・」

関わるのを断っても否応なしに巻き込まれてしまうのでは、もはや僕はどうすることもできない。その理不尽さに、脱力したようなため息しか出なかった。

「ま、まぁ、そうならない為の処置が、今のドーラル王国のジールへの対応ということなのですわ!」

僕の反応に、レイラ様が労るような表情を向けながら、これまでの王国からの処遇についての理由を要約してくれた。


「前段が長くなったが、要はジール殿は十分な実力があるって事だ!政治的な背景で活躍の場は得られなかったが、今回の標的はそんな事を言ってる場合じゃなさそうだからな。出し惜しみは無しだ!最大戦力でもって事に当たる必要がある!!」
「そ、その、僕も戦力として参加する理由は分かりましたけど、具体的にはどうやって分断すれば・・・」

 ここでようやく僕が分断役を担うという当初の話に戻ってきたのだが、そもそもどうやって相手を分断したら良いか分からなかった。

「オレとの試合で見せた、具現化した弓による遠距離攻撃だ!本来クルセイダーに遠距離攻撃手段は無かったのだが、ジール殿のお陰で色々な可能性が見えてきた!」

そう言って、ジェシカ様は嬉しそうに僕に話してくる。ジェシカ様の言う通り、今までのクルセイダーの戦い方は、具現化した武器を使っての近接攻撃に限定されていた。それは、通常の武器での攻撃では、害獣に致命的なダメージを負わせることが出来ないからだ。
普通の鉄製の武器では、そもそも害獣の大きさもあって、精々皮膚に傷が付く位になってしまう。すると、こちらの攻撃に気づいた害獣は、即座に体表にアルマエナジーを纏ってしまうので、具現化した武器以外は受け付けないのだ。そうなれば、いくら鉄製の剣や槍や弓で攻撃を加えたところで無意味になってしまう。
ただ、アルマエナジーで遠距離攻撃をしようとしても、手元から具現化武器が離れると、その分のアルマエナジーがゴッソリと消失してしまうので、効率が滅茶苦茶悪い。僕のような規格外の量を持っているならまだしも、一発打てばアルマエナジーが枯渇して、もう戦えなくなってしまうような戦闘手段を選ぶ人など存在しない。
だからこそ僕の出番ということは分かるが、同時に疑問にも思う。

「それなら、僕の具現化した弓で直接ミュータント・1を討伐すれば良いのではないですか?」
「それも案としてはあるのだが、現在の情報では、ディザスター・1は自らの操る害獣達の中心に居るようなのだ。奴だけを狙って仕留めるには、1km~5km程の距離から、体長2m程度の目標物を精密射撃出来る実力が要求される。しかも、奴に弓が到達するまでには、何十体という害獣がひしめいているのだ。他の害獣と接触した衝撃で、方向が微妙に変化してもおかしくないし、そうなると距離が長くなればなるほど方向が微妙に変化し、着弾するまでに目標からかなり逸れてしまうことになる」

ジェシカ様の説明に、僕はなるほどと頷いた。言われてみれば、何の障害もなく一方的に有利な距離から攻撃できるなんてことはあり得ないのだ。言われなければ分からない自分に、経験の無さを思い知らされた。だからこそ、分からないことは積極的に聞こうと思い直した。

「では、僕はどうやって相手を分断すれば良いのでしょうか?」
「具体的な作戦は威力偵察を行ってからだが、ジール殿の遠距離攻撃手段が成否を分けることになるかもしれない。作戦開始まで、遠距離攻撃の精度を上げる鍛練をお願いするぞ!」
「分かりました!」


 その日、討伐作戦の大まかな方向性が決まった。具体的な部分は威力偵察を行ってから情報を精査した後という事になるが、自分がその作戦には必要だと言われたことが僕には嬉しかった。
また、最後まで言い争いをしていた威力偵察におけるジェシカ様の参加だったのだが、結局レイラ様が折れる形で認める事となり、準備が整い次第出立することになったのだった。そしてその偵察には、具現化で盾を作り出すことが出来る僕が、防御要員として同行することになった。
実は作戦に必要だと言われた事が嬉しくて、僕自らお願いをしたのだが、最初は皆さんから猛反対を受けた。ただ、粘り強く自分の考えや想いを訴え、「ジェシカ殿下の事を守りたいんです!」と声を大にして言うと、ジェシカ様が瞳を潤ませつつ、無言で僕を抱き締め、「オレはジール殿と共に、この大陸の危機を救うぞ!!」と叫び出して、混沌とした状況になってしまった。
最終的には、無茶をしないという条件付きで無理矢理同行できることになった。


 そして1週間後、準備が整った僕とジェシカ様は、夢幻大地の仮設拠点へと降り立っていた。
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