BloodyHeart

真代 衣織

文字の大きさ
上 下
92 / 133

弾丸の雨

しおりを挟む
「——中隊長! ゲートだっ‼︎ 海沿いと国道側に、四つもある!」
 哨戒機にいる横田隊長の声は叫んでいる様だった。全員はウェアラブル端末から知らされる。
「何だとっ⁉︎ どうすればいい⁉︎ てっ、撤退……ひ、避難をっ……」
 驚愕した中隊長は狼狽える。
「お、おいっ! どうすればいい⁉︎」
 死ねばいいと蔑んでいた隊員達に横田隊長は縋り出す。
「はぁっ⁉︎ さっき言ってた通りにすればいいじゃないですか?」
「あと、待機しているDMATと、原子力災害医療派遣チームに、緊急安全確保の指示を——」
 備えてねぇのかよっ……。
 呆れ、軽蔑しながら隊員達は答えた。
 全員が中隊長を軽蔑する中、密かに水路に入った自爆ドローンが結界を破壊した。
 装甲車にいる自衛官が、隊員達に親指を立て成功を知らせる。
「よしっ! 全員、配置に就けっ」
 二個小隊は、羽月に指定されていた場所に散らばる。
「ど、どうしよっ⁉︎ どうしよっ……」
「——避難して下さい!」
「退がって下さい! 緊急安全確保をっ——」
 慌てている中隊長を無視し、自衛官は報道陣と近隣住民、医療チームに避難を呼び掛けだす。
「もっと近付けないか⁉︎」
 哨戒機、胴体部にある機銃を撃つ横田隊長は、焦りながら操縦士に問い掛けた。
「無理です! これ以上は結界範囲ですっ。墜落します!」
 結界は上空も支配出来る。結界範囲では全ての航空機にドローン、空を飛ぶ機械全てが墜落してしまう。
「駄目だっ……。この距離だとあてられないっ」
 機銃は全てシールドに阻まれていた。
 既に結界は破壊されているが、哨戒機にいる誰も気付いていない。
 操縦士は結界内に進入出来ず、飛んでくる血刃を避けるだけで精一杯だった。
 ゲートから現れたドラキュラ達は、全員が黒い軍服を着た軍人だ。合計で七十人近くいる。
 海岸線沿いのゲートから現れたドラキュラ軍人の大半が、原子力発電所に向かって行く。五人が海面に結界を張ろうとし、二人が哨戒機を狙っている。
 哨戒機を狙う二人が飛び、剣を振って血刃を飛ばす。
 横田隊長は、事前に胴体部にある小さなドアを開けていた。その中に手を入れる。グローブから反映されたシールドが哨戒機の側面に現れた。
 血刃から哨戒機を守った。
 だが、もう一人が上から回り込む。哨戒機は挟まれてしまう。
 二人は哨戒機に剣撃を浴びせようとした。
 直後、ドラキュラ軍人は斜め上から機銃を浴びせられる。
 二人は地に墜ちて行く。
 雲の上から、旭が操縦する戦闘機が現れた。
 間一髪で哨戒機を守った。
 二機のヘリが後に続いて来る。
 哨戒機にいる全員が目を見開き驚く。
「駄目だっ! それ以上近付いたら墜ちるぞっ!」
 横田隊長は慌てて、戦闘機にあるマイクから叫んだ。
「もう結界は破壊してます」
 片耳と繋がるヘッドフォンマイクから旭は簡潔に答えた。
「えっ⁉︎」
 横田隊長は拍子抜けし、間抜けた声を漏らす。
「そのデカブツじゃ邪魔です。引っ込んでいて下さい!」
 旭から邪魔者にされ、排除されてしまう。
 旭が操縦する戦闘機は原子炉の上まで行き、反転する。
 低空で停止し、近付こうとするドラキュラ軍人を一掃していく。
 先を行ったヘリから狙撃部隊が次々と飛び降りている。建物を分け、配置の屋根に就く。
 海岸線にいるヘリからは、伊吹が胴体部のドアを開けて重火器を撃っている。
 張ろうとした結界ごと、ドラキュラ軍人を仕留めていく。
 狙撃部隊が降りた後、ヘリは原子炉建屋の上に向かう。
 一時停止も待たずに飛び降りたのは那智だ。珍しく厳しい顔をし、原子炉建屋の屋根に着地した。
 着地前に一瞬で振った剣撃で、那智は屋根の一部を傷付けていた。そのまま突きを入れ、開けた穴から原子炉内に入る。
 国道側には、羽月が率いる二個小隊が到着していた。
 軍用車両のジープを盾に銃撃している。
 反対側から近付く二個小隊は、片側がシールドで援護に徹し、もう片方の小隊が銃撃と役割を分けていた。
 挟み撃ちにされたドラキュラ軍人達は、見る見る内に倒されていく。飛ぼうとすれば狙撃された。
 両側にいる二個小隊の距離が狭まりだす——。
「相良中佐っ! こっちはもう大丈夫ですっ。行って下さい!」
「分かった。任せる」
 横にいる小隊長に言われ、羽月は悲鳴と弾丸の雨の中を駆け抜けて行った。
 
しおりを挟む

処理中です...