BloodyHeart

真代 衣織

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今からでも……。

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 横田隊長は呆然と眺めていた。
「どういう事なんだ……。一体、誰の指示で……?」
 訳が分からない展開に、さすがに疑問が漏れる。
「横田隊長——」
 哨戒機内に和左から通信が入った。
「はいっ。どういう事だ⁉︎」
「通信センターの職員が、公開前のプロパガンダ映像を発見しました」
「プロパガンダ……?」
 気付けなかった真実に、横田隊長の瞳が泳ぐ。
「はいっ。その映像では、ロシア兵が核弾頭とドラキュラの血を使い、死刑囚を怪物にしていたんです」
「何っ⁉︎ 怪物だと……?」
 解き明かされた真実が恐怖を突き付ける。
「ドラキュラに忠実な、人を超えた怪物です。本当の目的は、この場に集まる対イーブル軍を忠実な怪物にし、日本の総本部を壊滅させる事だったんです」
 常軌を逸している計画だった。
 もし、未然に防げなかったら……。
「いつ気付いた⁉︎ もしや、結城君は最初っから気付いて……」
 そうなれば、日本は終わりだ。
 最悪の結末を迎えていた。
「はいっ。ですが、全部ではありません。相良と結城は、目的が反抗声明と別である事は、最初から分かっていました」
「そうだったのか……」
 ちゃんと結城君の話しを聞くべきだった。
 今更になってしまったが、横田隊長は激しく後悔した。
 何時だって那智は正しかった。
 那智の上官として器量が足らずに申し訳ない。
 自分では、那智を活かせないのか……?
 渦巻く自責の念が自身を追い詰めていく。
「それで、申し訳ありませんが、緊急事態事案により、指揮権が私に代わりました」
 気持ちを汲み取り、和左は低姿勢に報告する。
「それなら仕方ない。こっちは何をすればいい?」
 せめて、何か……。
 今からでも一躍を——。
 横田隊長は縋る思いだ。
「そこから、状況を知らせて頂けませんか?」
「分かった。今——」
 和左の言葉に、改めて上空から全体を見つめる。
 対イーブル軍が優勢の中、弾丸が無数に飛び交っている。
「この状況で出て行く訳がない。誰か……一人か二人が気付かれないように進入し、ドラキュラ兵を撃てば、人質を解放出来る」
「了解しました。有り難う御座います」
 横田隊長の指示に、和左は丁寧に礼を言う。
 そのまま横田隊長は上空を真剣に見続けた。
 部下の決死作戦を後押ししたが、横田隊長は部下の命も人権も軽視していた訳じゃない。
 隊長として指揮官として、最善策を模索していただけだ。
 誰も死なない事が最善だと分かっている。
 横田隊長が見渡す戦場では、陸軍の中に、数名の特殊遊撃部隊員が交ざっていた。深緑一色だが、両者の見分けはつく。
 空軍を含めて軍服は、深緑で統一されているが、それぞれデザインが異なるからだ。
 何時もはスーツのままで戦闘をする那智と旭も、羽月と伊吹と同じく今回は軍服を纏っていた。
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