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背水決戦
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対峙する隊員を大きく斬り付けたドラキュラが飛ぶ。
「これで、お前らが原発を破壊した事になるっ! 事実は勝者の都合で創り上げられるんだ!」
高く飛んだ先から断言し、原子炉を目掛けて血刃を放つ。
「そうはいくかっ!」
原子炉の前にいる二人が手を前にし、シールドを強化させた。
「雑魚共がっ!」
血刃を防いだシールドに、ドラキュラ軍人は斬り掛かる。
絶対絶命に、前にいる三人が振り向いてしまう。
河上と対峙するドラキュラが、隙につけ込み斬り付けようとした。
直後、倒れたのはドラキュラ軍人の方だった。シールドを斬ろうとしたドラキュラ軍人も、頚動脈を斬られ死亡している。
上から那智が刃を飛ばしていた。
「何だっ⁉︎ 今更死ににきたかっ⁉︎」
河上の前で倒れたドラキュラが吠える。腰を斬り付けられ、剣を杖に立とうとしている。
「上官の役目を担いに来たんです」
厳しい表情で言い終わると同時に、那智は首を斬り落として河上の隣に着地した。
「手出し無用です!」
自身に顔を向けた那智に、遠藤は強く断りを入れる。
この死闘に、誰の力も借りちゃいけない。
払われてばかりの刀を、遠藤は振るい続ける。
交わす剣撃から、互いの思いが行き来する。
剣撃に一切の侮辱がない。
ドラキュラ軍人の顔は真剣そのものだ。眼差しも鋭利に研がれている。
仲間を殴ったこのドラキュラ軍人は、自身を武人として認めていると分かった。
押されるも、左足の向きを変えて踏ん張る。
劣勢になりながらも、視線は勝機を捉えている。
遠藤が劣勢を覆せると信じ、那智は真剣に、ただ黙って眺めていた。
捕えた剣撃を、遠藤は体当りで押し返し、剣を斜め上に払う。
ドラキュラ軍人の右手から剣が離れていく。左手が剣を支えきれていなかった。
ドラキュラ軍人の剣が飛んだ瞬間に、下がって踏み込む。遠藤の剣撃は、首から脇腹までを見事に斬り裂いた。
死の間際、ドラキュラ軍人の瞳は遠藤の顔を見据えていた。
決死を超えた誠の信念が確と宿っている。
これなら悪くない。
恥ずべき弱者の死ではない。
武人の死ならば心して受け入れよう。
淡く微笑み、目を閉じた。
ドラキュラ軍人の遺体が、冷たいコンクリートに叩き付けられる。
遠藤もコンクリートに崩れ落ちる。
刀を支えに刺すも、立ち上がれない。全身のあちこちから流血し、遠藤は満身創痍だ。
他の隊員もだ。
原子炉の前にいる二人も立ってはいるが、刃を何度も浴びた体に余裕は残っていない。
那智が遠藤に肩を貸す。
「遠藤君。礼を表するまで、真剣勝負は終われません。支えていますから——」
「大丈夫です。自分で——」
笑みの戻った那智の申し出を、遠藤は拒む。
最後まで自分の力で終わらせたい。那智が忠告するまでもなかった。
「すみません。剣を……」
息も絶え絶えに、遠藤は剣を戻そうとする。
飛んでいった剣を、那智が拾い上げる。
剣を受け取り、遠藤はドラキュラ軍人の遺体に持たせた。手ごと心臓の上に置く。
すると、剣が心臓に吸い込まれる。
持ち主、自身の剣であった証だ。
「皆さん、欠点は克服出来ていましたね。安心しましたよ」
遠藤が一礼を終え、刀を鞘に納める礼法を見届けた。那智は優しく労う。
「えっ?」
全員、思わず声が出る。
やはり那智は抜け目ない。
「劣勢に焦りもなく、姿勢が崩れていませんでした。河上君も左足の動きが良く出来ていました。。白井君、原田君も山崎君もお見事です。全員が攻めの姿勢に徹底出来ていました」
「すみません。でも、実は……」
那智の優しい言葉に、河上が気まずく発する。
「武が悪ければ一度退き、態勢を立て直すのは正しい判断です」
続く言葉を聞く必要はない。
やはり、那智に抜け目はない。
分隊に亀裂が入るのを良しとせず、那智は河上の顔を見て、遠藤の判断を肯定した。
「有り難う御座います」
これまでの過程を容易く見透かす那智に、唖然としながら遠藤は礼を言う。
那智は全員のウェアラブル端末を確認した。
全員のウェアラブル端末、黒いバンド部分に赤いラインが入っている。
これはトリアージだ。この場合、画面をタッチすればバイタルサインが表示される。
「直ぐに、搬送可能ですからね」
那智の呼び掛けには、全員が反応していた。
ウェアラブル端末のトリアージは、軽傷の場合は表示されない。最悪のケースである場合には、喪を意味する白いラインが入る。
那智の発言通りに、原子炉建屋にはドクターヘリが向かっていた。進路は旭が護っている。
「これで、お前らが原発を破壊した事になるっ! 事実は勝者の都合で創り上げられるんだ!」
高く飛んだ先から断言し、原子炉を目掛けて血刃を放つ。
「そうはいくかっ!」
原子炉の前にいる二人が手を前にし、シールドを強化させた。
「雑魚共がっ!」
血刃を防いだシールドに、ドラキュラ軍人は斬り掛かる。
絶対絶命に、前にいる三人が振り向いてしまう。
河上と対峙するドラキュラが、隙につけ込み斬り付けようとした。
直後、倒れたのはドラキュラ軍人の方だった。シールドを斬ろうとしたドラキュラ軍人も、頚動脈を斬られ死亡している。
上から那智が刃を飛ばしていた。
「何だっ⁉︎ 今更死ににきたかっ⁉︎」
河上の前で倒れたドラキュラが吠える。腰を斬り付けられ、剣を杖に立とうとしている。
「上官の役目を担いに来たんです」
厳しい表情で言い終わると同時に、那智は首を斬り落として河上の隣に着地した。
「手出し無用です!」
自身に顔を向けた那智に、遠藤は強く断りを入れる。
この死闘に、誰の力も借りちゃいけない。
払われてばかりの刀を、遠藤は振るい続ける。
交わす剣撃から、互いの思いが行き来する。
剣撃に一切の侮辱がない。
ドラキュラ軍人の顔は真剣そのものだ。眼差しも鋭利に研がれている。
仲間を殴ったこのドラキュラ軍人は、自身を武人として認めていると分かった。
押されるも、左足の向きを変えて踏ん張る。
劣勢になりながらも、視線は勝機を捉えている。
遠藤が劣勢を覆せると信じ、那智は真剣に、ただ黙って眺めていた。
捕えた剣撃を、遠藤は体当りで押し返し、剣を斜め上に払う。
ドラキュラ軍人の右手から剣が離れていく。左手が剣を支えきれていなかった。
ドラキュラ軍人の剣が飛んだ瞬間に、下がって踏み込む。遠藤の剣撃は、首から脇腹までを見事に斬り裂いた。
死の間際、ドラキュラ軍人の瞳は遠藤の顔を見据えていた。
決死を超えた誠の信念が確と宿っている。
これなら悪くない。
恥ずべき弱者の死ではない。
武人の死ならば心して受け入れよう。
淡く微笑み、目を閉じた。
ドラキュラ軍人の遺体が、冷たいコンクリートに叩き付けられる。
遠藤もコンクリートに崩れ落ちる。
刀を支えに刺すも、立ち上がれない。全身のあちこちから流血し、遠藤は満身創痍だ。
他の隊員もだ。
原子炉の前にいる二人も立ってはいるが、刃を何度も浴びた体に余裕は残っていない。
那智が遠藤に肩を貸す。
「遠藤君。礼を表するまで、真剣勝負は終われません。支えていますから——」
「大丈夫です。自分で——」
笑みの戻った那智の申し出を、遠藤は拒む。
最後まで自分の力で終わらせたい。那智が忠告するまでもなかった。
「すみません。剣を……」
息も絶え絶えに、遠藤は剣を戻そうとする。
飛んでいった剣を、那智が拾い上げる。
剣を受け取り、遠藤はドラキュラ軍人の遺体に持たせた。手ごと心臓の上に置く。
すると、剣が心臓に吸い込まれる。
持ち主、自身の剣であった証だ。
「皆さん、欠点は克服出来ていましたね。安心しましたよ」
遠藤が一礼を終え、刀を鞘に納める礼法を見届けた。那智は優しく労う。
「えっ?」
全員、思わず声が出る。
やはり那智は抜け目ない。
「劣勢に焦りもなく、姿勢が崩れていませんでした。河上君も左足の動きが良く出来ていました。。白井君、原田君も山崎君もお見事です。全員が攻めの姿勢に徹底出来ていました」
「すみません。でも、実は……」
那智の優しい言葉に、河上が気まずく発する。
「武が悪ければ一度退き、態勢を立て直すのは正しい判断です」
続く言葉を聞く必要はない。
やはり、那智に抜け目はない。
分隊に亀裂が入るのを良しとせず、那智は河上の顔を見て、遠藤の判断を肯定した。
「有り難う御座います」
これまでの過程を容易く見透かす那智に、唖然としながら遠藤は礼を言う。
那智は全員のウェアラブル端末を確認した。
全員のウェアラブル端末、黒いバンド部分に赤いラインが入っている。
これはトリアージだ。この場合、画面をタッチすればバイタルサインが表示される。
「直ぐに、搬送可能ですからね」
那智の呼び掛けには、全員が反応していた。
ウェアラブル端末のトリアージは、軽傷の場合は表示されない。最悪のケースである場合には、喪を意味する白いラインが入る。
那智の発言通りに、原子炉建屋にはドクターヘリが向かっていた。進路は旭が護っている。
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