BloodyHeart

真代 衣織

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パワーワールド

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「有能ならば経歴も出自も、全ての過去を問うべきではない」
「はいっ」
 軍人二人と向き合い、帝王は正論のように断言する。
「故に……犯罪者でも構わないと……?」
「ああ、当然だ。能力に相応しい役職を与え、存分に役立たせろ」
 片方の軍人は懐疑に揺れていた。カイ・クライツは平然と肯定する。
 強国政策による軍事国家になり、軍人の社会的地位は飛躍的に向上した。軍人の多くが現帝王を支持していたが、この考えには否定的な者が多かった。
 軍内の風紀が乱れただけじゃない。殺人等の大罪を犯した凶悪犯罪者すら、裁かれずに入隊させている。それも士官としてだ。
 当然、犯罪率は急増している。
「ただし、活かすものを持たない弱者は生きるにも値しない。これが、真の平等であり強国に導く要——。理想的な競争社会だ」
 誰もが恵まれた環境で育っている訳じゃない。
 先天性でも後天性でも、誰もが病を患う。障害を負う者もいる。
 身を持って知っている事実だろうに……。
 近衛隊長は声には出せないが、無慈悲な政策と常日頃から嘆いていた。
 この政策により、尊厳を貫く安楽死を建前に、一方的に弱者と決め付けられた者は処刑されている。
 だが、意義を唱えたところで、帝王には誰の言葉も届かない。
 堂々と発する持論に、帝王は一切の疑念を抱いていないからだ。
 間違っていると指摘されれば、その者を否定する。
「……はっ、はい!」
「仰せの通りですっ!」
 誰の意見も聞き入れない暴君に、軍人二人は忠義を表すしかなかった。
 カイ・クライツは近衛隊長に目をやる。不敵な笑みを浮かべる。
「代わりはいくらでも出てくる。油断出来ないと、肝に命じておけっ」
 一度、近衛隊長に目をやった帝王は、軍人二人を脅しにかかる。
   軍人の地位は上がり、高給取りになったが、内部競争が激化した。労働環境は苛酷を極めている。
 脅えやかされた二人は、強張る声で「はいっ!」と強く返事をした。
「もう、下がっていい」
 悲痛な表情で、近衛隊長は二人に言う。
 肩と水平に腕を上げる。親指を伸ばした手の平を見せた後、その左手を胸に当てる。新帝王即位後に改正された敬礼をし、二人は玉座の間を後にした。
「お持ち致しました」
 入れ替わるように、側近のレオナ・バートリーが入って来た。
「ルゥーガ、お前も下がれ」
 椅子の肘掛けに肩肘を突き、帝王は太々しく命じる。
 一礼し、近衛隊長も退出する。玉座の間は帝王と側近の二人きりになった。
 
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