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ルゥーガ・リヒトー近衛隊長
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『ルゥーガ、ルゥーガ、一緒に遊ぼう』
公園の花畑で幼き王女が呼んでいる。
『私、ルゥーガの事大好きだから』
綺麗な花で作った花冠を、王女が頭に乗せる。
満面の笑みを浮かべた王女に、片膝を突いた近衛隊長は優しく微笑む。
後悔に、幾度も反芻させた思い出だ。
公開処刑の為、王妃と一人娘の王女は幽閉された。
だが、処刑を待たずして、王妃は王女を手に掛け心中していた。
他の王族は、クーデターよりも前に国外に脱出している。
——部下が帝王陛下を殺す前に、この国は既に瓦解していたのだろう。
何度も思い起こし、辿り着いた結論を近衛隊長は胸中で呟く。
ふと立ち止まり、窓の外を眺める。
今は改築され、現帝王の住まいになったが、元は王族が住んでいた離れだ。
あの時、謀反の惨劇が起きた場所だ。
『離せっ! 王族は俺達を、隊長を裏切ったんだっ……』
『動くなっ! 大人しくしろっ』
帝王を殺した近衛兵を、近衛兵の三人が端で取り押さえている。
『心配するな。全員、このまま近衛隊として勤しむといい』
無念に膝を突き、突いた両手で床に爪を立てる。
絶望する近衛隊長に、カイ・クライツは善意を繕い微笑む。優しく言葉を掛けた。
『っ誰が貴様など……。この謀反人がっ!』
鋭く睨み、近衛隊長は振り返る。絶望に落とした剣を拾う。
カイ・クライツに剣を向けた。
『何を言っている? 謀反人はお前等じゃないか?』
『……っ、黙れっ!」
動揺が掠めるも、向けた殺意には影響しない。近衛隊長の殺気は鋭い。
『名声尽き、死した帝王に仕えるなら、近衛達は国賊になるぞ』
『黙れっ! それ以上、我が君主《あるじ》を侮辱すれば……この剣、貴様の首を一瞬で斬り捨てるだろう』
言葉巧みに嗾けるカイ・クライツを、近衛隊長は凍り付く殺意で貫く。
『ならば仕方ない。民意で動いているのはこっちだ! 近衛達以外、この国からいなくなる。それでいいなら斬るといい!』
意気揚々と両手を広げた。
カイ・クライツの後ろには大勢の軍人が続いている。
近衛達長は正義に揺れた。
『ルゥーガ。これは帝王、我が王家が背負う罪です』
『王妃様っ⁉︎』
王妃の声に、近衛隊長は振り向く。
帝王の亡骸に寄り添っていた王妃が立ち上がった。傍らに娘を抱き寄せ、王妃は近衛隊を憂いている。
『ルゥーガ……? ルゥーガは家族だよね』
王妃の傍らにいる王女は、上目で母親を窺う。
当然、血の繋がりはないが、同じ時間を過ごしている。幼き王女にとって、ルゥーガは家族同然の存在だった。
『いいえ、違います。この国の為、ルゥーガは家族を辞めるんです』
『王妃様っ、私は王家に仕える近衛達です! 忠義に生き抜いた私に、謀反人になれと言うのですかっ⁉︎』
既に、王妃は覚悟を決めている。
王族として、遺された任務を背負おうとしている。
たった一人で、この場を治めるつもりなのだ。
だが、たとえ威厳を護れたとして、王家に仕えてきた長として、そんな命にルゥーガ・リヒトーは従えない。
『国民を護り、民意を反映させるのが王の務め——。民意に剣を向ける事は許しません!』
もう、従うしかなかった。
これが最期の命令になった。
戦争には大敗したが、最後の王族には、国民の為に命を賭す覚悟はあった。
現帝王にはない覚悟だ。
国民の為になど生きていない。
——結局、何も護れなかった。
王族の願い、自身の務め、意に反した道を歩んでいる。
今に至った過ちに、ルゥーガ・リヒトー近衛隊長は溜息が出た。
権力の暴走を止められるのは民意のみ——。
だが、その民意は恐怖政治に絶たれてしまっている。
近衛隊長は歩き出す。
いつまでも、感傷に浸っている事は許されない。
無念に背を向けた。
出来る事なら希望を探しに行きたい。でも、見付かりはしないだろうと、霞む願いを消し去った。
ルゥーガ・リヒトーは、意に反した道を進んで行く。
行く先に、望んでいた希少な希望が見付かった時、彼は現帝王の為に切り捨てるのか?
それとも、国民の声に命を捧げた王妃の為、自身を慕う近衛隊員を捨てるのか?
どちらにしても幸無き道だ。
公園の花畑で幼き王女が呼んでいる。
『私、ルゥーガの事大好きだから』
綺麗な花で作った花冠を、王女が頭に乗せる。
満面の笑みを浮かべた王女に、片膝を突いた近衛隊長は優しく微笑む。
後悔に、幾度も反芻させた思い出だ。
公開処刑の為、王妃と一人娘の王女は幽閉された。
だが、処刑を待たずして、王妃は王女を手に掛け心中していた。
他の王族は、クーデターよりも前に国外に脱出している。
——部下が帝王陛下を殺す前に、この国は既に瓦解していたのだろう。
何度も思い起こし、辿り着いた結論を近衛隊長は胸中で呟く。
ふと立ち止まり、窓の外を眺める。
今は改築され、現帝王の住まいになったが、元は王族が住んでいた離れだ。
あの時、謀反の惨劇が起きた場所だ。
『離せっ! 王族は俺達を、隊長を裏切ったんだっ……』
『動くなっ! 大人しくしろっ』
帝王を殺した近衛兵を、近衛兵の三人が端で取り押さえている。
『心配するな。全員、このまま近衛隊として勤しむといい』
無念に膝を突き、突いた両手で床に爪を立てる。
絶望する近衛隊長に、カイ・クライツは善意を繕い微笑む。優しく言葉を掛けた。
『っ誰が貴様など……。この謀反人がっ!』
鋭く睨み、近衛隊長は振り返る。絶望に落とした剣を拾う。
カイ・クライツに剣を向けた。
『何を言っている? 謀反人はお前等じゃないか?』
『……っ、黙れっ!」
動揺が掠めるも、向けた殺意には影響しない。近衛隊長の殺気は鋭い。
『名声尽き、死した帝王に仕えるなら、近衛達は国賊になるぞ』
『黙れっ! それ以上、我が君主《あるじ》を侮辱すれば……この剣、貴様の首を一瞬で斬り捨てるだろう』
言葉巧みに嗾けるカイ・クライツを、近衛隊長は凍り付く殺意で貫く。
『ならば仕方ない。民意で動いているのはこっちだ! 近衛達以外、この国からいなくなる。それでいいなら斬るといい!』
意気揚々と両手を広げた。
カイ・クライツの後ろには大勢の軍人が続いている。
近衛達長は正義に揺れた。
『ルゥーガ。これは帝王、我が王家が背負う罪です』
『王妃様っ⁉︎』
王妃の声に、近衛隊長は振り向く。
帝王の亡骸に寄り添っていた王妃が立ち上がった。傍らに娘を抱き寄せ、王妃は近衛隊を憂いている。
『ルゥーガ……? ルゥーガは家族だよね』
王妃の傍らにいる王女は、上目で母親を窺う。
当然、血の繋がりはないが、同じ時間を過ごしている。幼き王女にとって、ルゥーガは家族同然の存在だった。
『いいえ、違います。この国の為、ルゥーガは家族を辞めるんです』
『王妃様っ、私は王家に仕える近衛達です! 忠義に生き抜いた私に、謀反人になれと言うのですかっ⁉︎』
既に、王妃は覚悟を決めている。
王族として、遺された任務を背負おうとしている。
たった一人で、この場を治めるつもりなのだ。
だが、たとえ威厳を護れたとして、王家に仕えてきた長として、そんな命にルゥーガ・リヒトーは従えない。
『国民を護り、民意を反映させるのが王の務め——。民意に剣を向ける事は許しません!』
もう、従うしかなかった。
これが最期の命令になった。
戦争には大敗したが、最後の王族には、国民の為に命を賭す覚悟はあった。
現帝王にはない覚悟だ。
国民の為になど生きていない。
——結局、何も護れなかった。
王族の願い、自身の務め、意に反した道を歩んでいる。
今に至った過ちに、ルゥーガ・リヒトー近衛隊長は溜息が出た。
権力の暴走を止められるのは民意のみ——。
だが、その民意は恐怖政治に絶たれてしまっている。
近衛隊長は歩き出す。
いつまでも、感傷に浸っている事は許されない。
無念に背を向けた。
出来る事なら希望を探しに行きたい。でも、見付かりはしないだろうと、霞む願いを消し去った。
ルゥーガ・リヒトーは、意に反した道を進んで行く。
行く先に、望んでいた希少な希望が見付かった時、彼は現帝王の為に切り捨てるのか?
それとも、国民の声に命を捧げた王妃の為、自身を慕う近衛隊員を捨てるのか?
どちらにしても幸無き道だ。
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