ポーション必要ですか?作るので10時間待てますか?

chocopoppo

文字の大きさ
5 / 24
第一章 疲労回復のポーション

第5話 就活始めて良いですか?

しおりを挟む
午前6時。
電話としての役目を果たせなくなったスマートフォンが、目覚ましとしての機能を発揮する。
アラーム3回でマツモトは完全覚醒し、素早くスマホを止める。
そして起き上がり、いつものように支度をしようとして……

「……そうか。仕事は行けないんだったな……」

全身の力が抜けるように感じ、マツモトは煎餅布団に再び身を横たえた。


異世界『アナザー』での生活、2日目。
生活を安定させ、日本人共済の掛金を納めなければならない。猶予はたったの1ヶ月半。
悠長なことはしていられないのだが、しかし状況は深刻であった。

初日に夕食を取った後、明日からの方針を立てようとして、就職先の糸口を探してみた。
と言っても受付の男性に相談してみただけなのだが、返ってきた答えは端的に言えば「ありません」だった。

「貴方が取得した初級ライセンスというのは、単に貴方の適性を示しているに過ぎません。いくら適性があっても、素性の知れない実績もない人間を雇いたがる物好きは、まずお目にかかれませんね」
「そ、それじゃあどうすれば良いんですか?」
「まずは実績を積むことです。早く言えば中級ライセンスを取得すること。中級ライセンスの取得要件を満たしながら、地道に金策するしかないでしょう」
「それは……つまり」


つまり、就職して安定した収入を得る前に、自ら対価を得られるような仕事を引っ張ってこなければならない、ということ。
それは大学卒業後すぐに企業に就職し、与えられた仕事を黙々とこなしてきたマツモトにとっては、完全に未知の領域だった。

戦士や銃士など、戦闘技能の中級ライセンスを取得する場合、ほとんどは規定の『ダンジョン』を攻略することが要件となっている。
ダンジョン攻略をする仲間を集め、パーティを組んでモンスターと戦い、戦利品を売却することで金銭を得る……というのが基本的な流れらしい。
実際、戦闘技能の適性を認められた日本人は、殆どがそのようにしてアナザーでの生活を安定させていくのだとか。

しかし、マツモトのように戦闘技能は全滅、という日本人も決して少ないわけではない。
その場合はフリーランスとして営業を行い、日銭を稼ぎながらそれぞれの中級ライセンスを目指すのが安定路線だそうだ。



もっとも、この部屋で悶々と考え込んだところで、名案が思いつく気はしなかった。
とりあえず外出して、この街のこと、この世界のことをより深く知った方が良い。知識は武器になる。
マツモトは昨日のうちに買っておいた朝食をさっさと食べ終え、宿舎を後にした。

#備考
・エピタン
エトール地域で親しまれている、パン状の食べ物。具材を練り込んで焼き上げており、手軽に栄養補給を行えるのが特徴。根菜類と魚介類を煮込んだものを具材にしたエピタンが一般的。価格帯に幅はあるが、150レナスから。




「やあ、いらっしゃい……お、誰かと思えば昨日のお兄さんか」
「どうも」

特に行く当てもなく、マツモトはふらりと『嗤うヒツジ亭』に立ち寄った。
店は開いており、数人の客はいるものの、やはり早朝なので活気はない。
酒場のマスター、ミシュアはニコニコと笑っている。マツモトはカウンターの席に腰かけた。

「どしたの? 朝っぱらから酒でも呑みたくなった?」
「いや、酒は苦手なんだ。……どうやって金を稼ごうかと思ってさ。話を聞かせてもらえると助かるんだけど」
「あぁー、最初はやっぱりそこで躓くよねぇ。特にお兄さんみたいな適性だと、苦労するでしょ」

マツモトの目の前に、スッとお通しが出された。
こんなことに金を使っている余裕は無いのだが、かと言って何も払わずに居座るのは社会常識に反する。
そう考え、渋々お通しを口に運ぶ。新鮮な野菜のシャキシャキした歯応えが心地いい。

「どうにか、知恵を貸してもらえんでしょうか」
「んー、そう言われてもねぇ。自分がやりたいことをやるのが一番じゃない? 皆、大体そうしてると思うけど」
「やりたいことね……」

やりたいことと言われても、すぐには思い浮かばないのが悲しいところ。
早く生活を安定させたい。就職して収入を得たい。そういう願望ばかりが浮かんできて、『何をしたいか』の部分は空白のままだった。


「そうだ、ウチで働きたくない? 酒類取り扱いの中級ライセンス取ってよ~」
揶揄うような口調でそう言うと、ミシュアはいきなりマツモトの腕を取る。
そしてそのまま自分の胸元へ持っていき、マツモトに熱い視線を向けた。


Q4:ミシュアに揶揄われて、マツモトはどう反応したか。


「ちょっと、やめ……」

振り払おうとするマツモト。しかし、身体が不意に強張った。
服越しに伝わる柔らかな感触。それはマツモトが、これまでに遭遇したことのない未知の感触だった。
TPOには人一倍厳しいマツモトであったが、逆にビジネスが絡まない場では、マツモトもただの男性に過ぎない。

「あれあれ? お兄さん、意外にむっつり? 昨日は全然そんな風じゃなかったのに」
「はっ……離してもらえます……?」
「やーだー。お兄さんの反応面白いんだもーん」

急速に顔が紅潮するのを感じる。既にマツモトは冷静な思考を失いつつあった。


Q4:ミシュアに揶揄われて、マツモトはどう反応したか。
A4:人並みに興奮した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...