ポーション必要ですか?作るので10時間待てますか?

chocopoppo

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第一章 疲労回復のポーション

第6話 ポーション作って良いですか?

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「いやヤバい! 本当にヤバいから離し……っ」
「にゃはは、このまま続けたらどうなるの~? 私知りたーい」

意外にも力強いミシュアの腕が、マツモトの頭をがっちりとロックして剥がせそうにない。
独特の匂い、そして肌の感触。このままでは1分と経たずに、マツモトの脳は焼き切れてしまうだろう。


「おいよマスター、いつものポーションくれ」
「ん。ああ、毎度どうも」

不意に力が緩み、マツモトの身体はどさりと床に落ちた。
窒息寸前だった呼吸をなんとか整える。見れば、白髪の老人がミシュアから袋に入った大量の粉末を受け取っているところだった。

「はい。10回分、3000レナスね」
「いつもありがとよ」

代金を支払い、老人は店を去っていく。
何故だか、無性に老人の受け取った粉末が気にかかった。マツモトの表情から先程までの緩みは一切消え失せ、今はビジネスの顔つきに戻っている。

「……今のご老人は?」
「名の知れた魔法使いだよ。定期的にああやってポーションを買っていくのさ」
「ポーション……というのが、さっきの粉末?」
「そうそう。平たく言えば水薬だね。種類は色々あって、さっき買っていったのは疲労回復のポーション」


ミシュアは更に、ポーションの歴史についても説明をしてくれた。
元々は水薬として、小瓶に液体を入れたものがポーションとして売られていたという。
しかしポーションの種類が増えてくると、割れやすい上にかさ張る瓶容器はひどく不便になった。
そこでポーション研究が進み、大抵のポーションを結晶化・粉末化する製法が確立されたため、今では粉末として取引されるのだとか。

「使う時は定量の水に溶かして飲むの。この方が持ち運びやすいし、大量に用意してもかさ張らないし、粉末化は近代の大革命だよねぇ」
「水薬……つまり、薬だよな。ということは……」

マツモトの脳内で、ようやく点と点が繋ぎ合わさった。
『薬学』。マツモトが適性ありと判定されたライセンスのひとつであり、薬剤の精製に必要な資格。
マニュアル通りに作業を踏めば、知識がなくとも薬を作ることが出来る。

「……なあマスター。もし俺がその、ポーションとやらを作ったとして……この酒場で買い取って貰えるかな」
「えっ? ……お兄さん、もしかして薬学ライセンスを仕事にしようってこと?」

意外そうな顔をするミシュア。
そんな反応をされては、マツモトも少し不安になる。

「……何か問題でも?」
「うーん。あんまりおススメはしないというか……」

理由を聞くと、ミシュアは簡潔に一言「初期費用がかかる」と答えた。

当たり前のことだが、薬剤の精製には十分な設備が必要になる。
自分で道具を揃えても良いが、かなり場所を取るし、今のマツモトの現状から言って現実的ではない。
アトリエ(工房)を借りて作業するのが無難だろうとのこと。そのレンタル料がかかってくることになる。

「それに、薬剤精製のための原料費。マニュアルの購入費。それだけかかる上に、精製には時間も手間もかかるからねぇ」
「なるほど……」
ミシュアの説明は理に適っている。
ただでさえ元手に困っている現状、それだけのコストをかけて失敗しました、ではいよいよ行き詰まってしまうだろう。

しかし何故かは分からないが、マツモトは珍しく理屈ではなく、この『薬学』という分野に惹かれていた。
他のライセンスを仕事にするイメージが掴みにくかったのもあるが、ライセンス試験結果を見た時から、妙に頭に残っていたのだ。


「ひたすらにマニュアルと睨めっこする、地味で地道な作業だよ。まあ、お兄さんはそういうの得意かもしらんけど……」

地味。地道。
そのミシュアの言葉が、マツモトの心を決めた。
ガタン、と勢いよく立ち上がり、ミシュアの両手をがっしりと握る。

「それで、ポーションは買い取って貰えるのか?」
「えっ。う、うん、まあ……一応、取り扱ってはいるけど……」

そうと決まれば、こうしてはいられない。一刻も早く準備をしなくては。
お礼もそこそこに、マツモトは『嗤うヒツジ亭』を飛び出した。
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