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第三章 解毒のポーション
第20話 リスケジュールして良いですか?
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「ま、待ってください、マツモトさん!」
西の森に行く。
そう言ったマツモトの行く手を阻むように、シュカは両手を広げて立ちはだかった。
「どうしたんだ? そんなに慌てて」
「危険すぎます、森に行くなんて! 森にはモンスターがいるんですよ!?」
モンスター。『アナザー』に来てから、何度か耳にした言葉だ。
まだ街の外に出たことがないマツモトは、当然モンスターを見たことがない。何か恐ろしいものが棲みついている……そんな漠然とした想像だけが、フワフワとマツモトの脳内に浮かんでいた。
「……と言われてもなあ。ブラッドベリーを手に入れるためには、森に行かなきゃいけないわけだし……」
「せめて護衛を雇うとかしてください! モンスターに遭遇したらどうするんですか!?」
「護衛か……」
しかし雇うとなれば、当然報酬の支払い義務が発生するだろう。危険を伴う業務でもあり、決して安くはないはずだ。
時給2,000レナスと考えても、半日で24,000レナス。それだけ払ったとして、何回分のブラッドベリーが回収できるのか。
すると、薬屋の店主が豪快に笑い声を響かせた。
「街の子どもは、みんな森に近づくなって教えられてるのさ。確かにモンスターはいるが、ブラッドベリーは森の入り口にも生えてる。森の中に踏み入らなきゃ平気だよ」
マツモトとシュカは顔を見合わせる。シュカは不満そうな顔をしているが、すぐに返す言葉は見つからなかったようだ。
「子どもじゃないです……」ともごもご呟いて、口を尖らせるのが精いっぱいだった。
「……ありがとうございます。今日は帰って、明日の朝に行ってみようと思います」マツモトは店主に頭を下げる。
「わ、私も行きますっ!!」
すぐ横で、シュカが真っ直ぐに手を伸ばしていた。小さな体をぴんと張って、懸命に主張するように。
「……シュカちゃん? わざわざ君まで行くことないだろ、森は危険なんだから」
今度はマツモトが引き止める側になってしまった。
実際、シュカにそこまでさせるつもりはない。興味があるようだったから、作業風景は好きなように見学させていただけだ。シュカに貸しを作っているとは一切思っていないし、事実、大したことはしていないのだから。
だが、シュカは引き下がろうとしない。
「何かあったら、私がマツモトさんを守ります!」
「はっはっは、こりゃあ大した嬢ちゃんじゃねえか! お前さんもさぞ頼もしかろう」
店主はたまらず大笑いしている。
一回り以上も歳の離れた少女に『守る』と宣言されているのだから、まあ笑われるのも致し方ない。
「……分かったよ、明日一緒に行こう。ただし、危なくなったらすぐに逃げてくれ。俺のことは構わずに」
マツモトが真剣な顔でそう告げると、シュカも負けじと真顔で言い返す。
「はいっ。マツモトさんも、私には構わず逃げてくださいね?」
その途端、店主はまた腹を抱えて笑い出した。
#異世界人『マツモト』
5日目~12日目・収支……
+277,000レナス (ポーション買い取り代金)
-12,840レナス (食費)
残金 451,470レナス
所持品……
疲労回復のポーション:250本
マナのポーション:400本
原料セット(疲労回復):21/30
原料セット(マナ):20/30
添加剤:11/30
薬学初級マニュアル
*
異世界『アナザー』での生活、13日目。この日、マツモトは初めて街の外に出た。
シュカとは西門の外で待ち合わせている。西門から一歩を踏み出した途端、朝の爽やかな空気が鼻を通って胸の中を満たした。
──空気が美味しいと感じたのは、これが初めてかもしれない。
「さて……」
シュカの姿は見えない。それもそのはず、待ち合わせの30分以上前なのだ。
別に、初デートで定番の「今来たところだよ」をやりたくて早く来たわけではない。マツモトはシュカを連れていく気などなかったのである。
危ないのが分かっていて、子どもを連れて行くわけにはいかないよな。
昨日はシュカが諦めてくれそうになかったので、同意するフリをしていただけだ。さっさとブラッドベリーを回収して、シュカがやってくる頃に戻ってくれば問題ない。
彼女は多分怒るだろうが、危険な場所に連れていくよりはずっと良い。
鞄の中には、採集したブラッドベリーを入れておくためにスペースを確保している。
空いたスペースには水筒ともしものための食料、更に念のため、精製したポーション粉末をいくつか入れている。
「……よし、行くか」
マツモトは西の森へ向けて歩き出した。
一度だけ振り返ったが、シュカは勿論、そこには人の影ひとつすら見えなかった。
西の森に行く。
そう言ったマツモトの行く手を阻むように、シュカは両手を広げて立ちはだかった。
「どうしたんだ? そんなに慌てて」
「危険すぎます、森に行くなんて! 森にはモンスターがいるんですよ!?」
モンスター。『アナザー』に来てから、何度か耳にした言葉だ。
まだ街の外に出たことがないマツモトは、当然モンスターを見たことがない。何か恐ろしいものが棲みついている……そんな漠然とした想像だけが、フワフワとマツモトの脳内に浮かんでいた。
「……と言われてもなあ。ブラッドベリーを手に入れるためには、森に行かなきゃいけないわけだし……」
「せめて護衛を雇うとかしてください! モンスターに遭遇したらどうするんですか!?」
「護衛か……」
しかし雇うとなれば、当然報酬の支払い義務が発生するだろう。危険を伴う業務でもあり、決して安くはないはずだ。
時給2,000レナスと考えても、半日で24,000レナス。それだけ払ったとして、何回分のブラッドベリーが回収できるのか。
すると、薬屋の店主が豪快に笑い声を響かせた。
「街の子どもは、みんな森に近づくなって教えられてるのさ。確かにモンスターはいるが、ブラッドベリーは森の入り口にも生えてる。森の中に踏み入らなきゃ平気だよ」
マツモトとシュカは顔を見合わせる。シュカは不満そうな顔をしているが、すぐに返す言葉は見つからなかったようだ。
「子どもじゃないです……」ともごもご呟いて、口を尖らせるのが精いっぱいだった。
「……ありがとうございます。今日は帰って、明日の朝に行ってみようと思います」マツモトは店主に頭を下げる。
「わ、私も行きますっ!!」
すぐ横で、シュカが真っ直ぐに手を伸ばしていた。小さな体をぴんと張って、懸命に主張するように。
「……シュカちゃん? わざわざ君まで行くことないだろ、森は危険なんだから」
今度はマツモトが引き止める側になってしまった。
実際、シュカにそこまでさせるつもりはない。興味があるようだったから、作業風景は好きなように見学させていただけだ。シュカに貸しを作っているとは一切思っていないし、事実、大したことはしていないのだから。
だが、シュカは引き下がろうとしない。
「何かあったら、私がマツモトさんを守ります!」
「はっはっは、こりゃあ大した嬢ちゃんじゃねえか! お前さんもさぞ頼もしかろう」
店主はたまらず大笑いしている。
一回り以上も歳の離れた少女に『守る』と宣言されているのだから、まあ笑われるのも致し方ない。
「……分かったよ、明日一緒に行こう。ただし、危なくなったらすぐに逃げてくれ。俺のことは構わずに」
マツモトが真剣な顔でそう告げると、シュカも負けじと真顔で言い返す。
「はいっ。マツモトさんも、私には構わず逃げてくださいね?」
その途端、店主はまた腹を抱えて笑い出した。
#異世界人『マツモト』
5日目~12日目・収支……
+277,000レナス (ポーション買い取り代金)
-12,840レナス (食費)
残金 451,470レナス
所持品……
疲労回復のポーション:250本
マナのポーション:400本
原料セット(疲労回復):21/30
原料セット(マナ):20/30
添加剤:11/30
薬学初級マニュアル
*
異世界『アナザー』での生活、13日目。この日、マツモトは初めて街の外に出た。
シュカとは西門の外で待ち合わせている。西門から一歩を踏み出した途端、朝の爽やかな空気が鼻を通って胸の中を満たした。
──空気が美味しいと感じたのは、これが初めてかもしれない。
「さて……」
シュカの姿は見えない。それもそのはず、待ち合わせの30分以上前なのだ。
別に、初デートで定番の「今来たところだよ」をやりたくて早く来たわけではない。マツモトはシュカを連れていく気などなかったのである。
危ないのが分かっていて、子どもを連れて行くわけにはいかないよな。
昨日はシュカが諦めてくれそうになかったので、同意するフリをしていただけだ。さっさとブラッドベリーを回収して、シュカがやってくる頃に戻ってくれば問題ない。
彼女は多分怒るだろうが、危険な場所に連れていくよりはずっと良い。
鞄の中には、採集したブラッドベリーを入れておくためにスペースを確保している。
空いたスペースには水筒ともしものための食料、更に念のため、精製したポーション粉末をいくつか入れている。
「……よし、行くか」
マツモトは西の森へ向けて歩き出した。
一度だけ振り返ったが、シュカは勿論、そこには人の影ひとつすら見えなかった。
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