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7 不死王
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ショウの家に戻った3人は、早速機械を庭に出しました。機械は大きなトリのような形をしています。これで上空へ飛び立ち、黒雲を吸い取っていくというものです。
「それじゃあ、飛ばすよ」
ショウの言葉に、セツナは空に視線を向けました。その時、黒雲よりもさらに黒い小さなものが現れました。コウモリのような羽を大きく広げています。
「不死王!」
同じように空を仰いでいた白鬼が、怒りを込めてその名を口にしました。それからショウの足元に置かれた機械を振り返ります。
「そいつに俺を乗せろ」
「えっ、乗るの? これに?」
「ああ。今こいつを飛ばしても、不死王に壊される。だから俺も一緒に行って、壊させないようにする」
「わ、分かった。でも気を付けてね?」
心配そうなショウとセツナに、白鬼はただ頷きだけを返しました。
白鬼を乗せて、機械は黒雲へと飛び立ちました。それに気が付いたらしい不死王が近づいてきます。
白鬼は刀を抜くと、機械から不死王へと飛び移りました。彼が背中から生やしている羽の片方にしがみついたので、不死王はぐらりとバランスを崩します。
その間に、機械は黒雲の中に入ると、それらを吸い込む装置を稼働させました。ぐんぐんと黒雲が、装置の中に吸い込まれていきます。吸い込まれた黒雲は、機械の中できれいな空気に浄化されて、外に排出されます。
「このっ、小癪な!」
バランスを崩しているせいでうまく機械に近づけない不死王は、悪態を吐きながら、懐から手の平に収まるぐらいの機械を取り出しました。それを下に落とします。
それが原爆だと気づいた白鬼は、ぱっと羽から手を離して落下物を掴みました。そしてそれを、パクリと食べてしまいました。
「白鬼、貴様!!」
不死王が怒声を上げました。白鬼は落下しながら、そんな彼を見てニヤリと笑います。
瞬間、不死王の背後にある黒雲が薄くなり、隙間から太陽の光が差し込み始めました。そのうちの一筋が、不死王の片羽に当たります。
「ぐァっ……!!」
叫び声を上げる不死王の片羽が、灰に変わりました。ぐらりと体を傾けると、彼も白鬼と一緒に落下していきます。
白鬼は落下途中で態勢を整えて、横に見えた建物の壁に刀を突き刺し、地面との激突を防ぎました。一方の不死王は、そのまま地面に叩きつけられてしまいました。
その音を聞きつけたのか、〈霧の街〉の住人が建物の中から顔を覗かせます。
「なんだ?」
「おいおい、誰か死んでんぞ」
「つかこれ本当に人間か? 羽生えてるんだが……」
「それより見ろよ! 空が!」
人々が空を見上げると、黒雲はすっかり消え失せていました。そこに広がっていたのは抜けるような青い空と、真っ白な太陽の光でした。
青空を見上げて歓声をあげる人々の間を縫って、セツナは壁を伝って下りてくる白鬼の所へと向かいました。
「ミタマ! 平気? 怪我は?」
「大丈夫。この通りピンピンしてる」
胸を反らす白鬼に、セツナは安堵の息を漏らしました。
「ぐぁぁ!!」
不意に絶叫が聞こえました。見れば、太陽の光を浴びた街の住人の数人が、灰になって消えていくところでした。傍にいた人は、みんな驚いた様子でその灰を見下ろしています。
「街に潜んでいた不死のやつらか」
白鬼の言葉を聞いてはっとしたセツナは、きょろきょろと周囲の地面を見回します。
「不死王も一緒に落ちたのよね? どこにいったの、あいつ」
「そういえば」
白鬼も不死王を探そうと、セツナから目を離した時でした。
セツナの背後から、不死王が現れました。その体は所々崩れ、辺りに灰を散らしています。
彼はセツナの首に、牙を立てました。
「いっ!」
セツナの悲鳴を聞いて、白鬼は不死王に気が付きました。刀を振るいますが、その刃はいとも簡単に避けられてしまいました。
「こいつが、お前の待ち焦がれていた”約束の女”だろう!? 俺達不死者は太陽の光を浴びれば、その肉体はおろか魂も灰となって消える。今、俺と同じものになったこいつは、もう二度と生まれ変わることはない! 俺達とは違う不死を持つ鬼よ、何があっても死なない者よ、これより先は、絶望しながら生き続けるがいい!!」
勝ち誇ったような笑顔を浮かべながら太陽の光を一身に浴びた不死王は、全身が灰となりそのまま霧散しました。
セツナは噛まれた部分から、じわじわと熱が広がっていくのを感じました。首に触れると、ざらりとした感触がありました。それを掴んで見ると、灰でした。
セツナの鼓動が急速に早くなりました。冷や汗が彼女の体の温度を下げていきます。
「セツナ」
白鬼が絶句して、地面に膝をついたセツナを見下ろしました。
セツナのうなじの熱は、どんどん広がっています。この熱が体全体に回った時、自分は完全な不死になるのだと、彼女は理解しました。そして同時に灰となり、魂ごと消えてしまうのだということも。
「ミタマ! 私を殺して!」
セツナは顔を上げました。右の頬がざらりと崩れます。白鬼の目が、大きく見開かれました。
「まだ間に合う! 私は完全に不死になってない! そうなる前に早く殺して!」
「だ、けど、セツナ、俺が、お前を」
「このままだと約束を守れない! 魂が灰になったら、二度とあなたに巡り会えない!! お願い、お願いミタマ!! 早く!! 私があなたの待っている、約束の女なら、お願い!!」
白鬼にすがりつくセツナの右腕が、ぼろりと崩れました。白鬼を見上げる目から、涙がとめどなく溢れます。
歯を食いしばり、刀を強く握った白鬼は、セツナの首を一閃しました。
地面に落ちたセツナの首は、白鬼と目が合って嬉しそうに微笑んだかと思うと、そっと目を閉じました。
セツナの体から、ふわりと魂が飛び出しました。それは白々と輝く太陽に向かって、まっすぐ昇っていきました。
それを見送った白鬼は、刀を強く握りしめたまま、声を上げることなく涙を落としました。
こうして、この世界を覆っていた黒雲はすっかり晴れ、私たちは太陽を取り戻すことができたのです。
「それじゃあ、飛ばすよ」
ショウの言葉に、セツナは空に視線を向けました。その時、黒雲よりもさらに黒い小さなものが現れました。コウモリのような羽を大きく広げています。
「不死王!」
同じように空を仰いでいた白鬼が、怒りを込めてその名を口にしました。それからショウの足元に置かれた機械を振り返ります。
「そいつに俺を乗せろ」
「えっ、乗るの? これに?」
「ああ。今こいつを飛ばしても、不死王に壊される。だから俺も一緒に行って、壊させないようにする」
「わ、分かった。でも気を付けてね?」
心配そうなショウとセツナに、白鬼はただ頷きだけを返しました。
白鬼を乗せて、機械は黒雲へと飛び立ちました。それに気が付いたらしい不死王が近づいてきます。
白鬼は刀を抜くと、機械から不死王へと飛び移りました。彼が背中から生やしている羽の片方にしがみついたので、不死王はぐらりとバランスを崩します。
その間に、機械は黒雲の中に入ると、それらを吸い込む装置を稼働させました。ぐんぐんと黒雲が、装置の中に吸い込まれていきます。吸い込まれた黒雲は、機械の中できれいな空気に浄化されて、外に排出されます。
「このっ、小癪な!」
バランスを崩しているせいでうまく機械に近づけない不死王は、悪態を吐きながら、懐から手の平に収まるぐらいの機械を取り出しました。それを下に落とします。
それが原爆だと気づいた白鬼は、ぱっと羽から手を離して落下物を掴みました。そしてそれを、パクリと食べてしまいました。
「白鬼、貴様!!」
不死王が怒声を上げました。白鬼は落下しながら、そんな彼を見てニヤリと笑います。
瞬間、不死王の背後にある黒雲が薄くなり、隙間から太陽の光が差し込み始めました。そのうちの一筋が、不死王の片羽に当たります。
「ぐァっ……!!」
叫び声を上げる不死王の片羽が、灰に変わりました。ぐらりと体を傾けると、彼も白鬼と一緒に落下していきます。
白鬼は落下途中で態勢を整えて、横に見えた建物の壁に刀を突き刺し、地面との激突を防ぎました。一方の不死王は、そのまま地面に叩きつけられてしまいました。
その音を聞きつけたのか、〈霧の街〉の住人が建物の中から顔を覗かせます。
「なんだ?」
「おいおい、誰か死んでんぞ」
「つかこれ本当に人間か? 羽生えてるんだが……」
「それより見ろよ! 空が!」
人々が空を見上げると、黒雲はすっかり消え失せていました。そこに広がっていたのは抜けるような青い空と、真っ白な太陽の光でした。
青空を見上げて歓声をあげる人々の間を縫って、セツナは壁を伝って下りてくる白鬼の所へと向かいました。
「ミタマ! 平気? 怪我は?」
「大丈夫。この通りピンピンしてる」
胸を反らす白鬼に、セツナは安堵の息を漏らしました。
「ぐぁぁ!!」
不意に絶叫が聞こえました。見れば、太陽の光を浴びた街の住人の数人が、灰になって消えていくところでした。傍にいた人は、みんな驚いた様子でその灰を見下ろしています。
「街に潜んでいた不死のやつらか」
白鬼の言葉を聞いてはっとしたセツナは、きょろきょろと周囲の地面を見回します。
「不死王も一緒に落ちたのよね? どこにいったの、あいつ」
「そういえば」
白鬼も不死王を探そうと、セツナから目を離した時でした。
セツナの背後から、不死王が現れました。その体は所々崩れ、辺りに灰を散らしています。
彼はセツナの首に、牙を立てました。
「いっ!」
セツナの悲鳴を聞いて、白鬼は不死王に気が付きました。刀を振るいますが、その刃はいとも簡単に避けられてしまいました。
「こいつが、お前の待ち焦がれていた”約束の女”だろう!? 俺達不死者は太陽の光を浴びれば、その肉体はおろか魂も灰となって消える。今、俺と同じものになったこいつは、もう二度と生まれ変わることはない! 俺達とは違う不死を持つ鬼よ、何があっても死なない者よ、これより先は、絶望しながら生き続けるがいい!!」
勝ち誇ったような笑顔を浮かべながら太陽の光を一身に浴びた不死王は、全身が灰となりそのまま霧散しました。
セツナは噛まれた部分から、じわじわと熱が広がっていくのを感じました。首に触れると、ざらりとした感触がありました。それを掴んで見ると、灰でした。
セツナの鼓動が急速に早くなりました。冷や汗が彼女の体の温度を下げていきます。
「セツナ」
白鬼が絶句して、地面に膝をついたセツナを見下ろしました。
セツナのうなじの熱は、どんどん広がっています。この熱が体全体に回った時、自分は完全な不死になるのだと、彼女は理解しました。そして同時に灰となり、魂ごと消えてしまうのだということも。
「ミタマ! 私を殺して!」
セツナは顔を上げました。右の頬がざらりと崩れます。白鬼の目が、大きく見開かれました。
「まだ間に合う! 私は完全に不死になってない! そうなる前に早く殺して!」
「だ、けど、セツナ、俺が、お前を」
「このままだと約束を守れない! 魂が灰になったら、二度とあなたに巡り会えない!! お願い、お願いミタマ!! 早く!! 私があなたの待っている、約束の女なら、お願い!!」
白鬼にすがりつくセツナの右腕が、ぼろりと崩れました。白鬼を見上げる目から、涙がとめどなく溢れます。
歯を食いしばり、刀を強く握った白鬼は、セツナの首を一閃しました。
地面に落ちたセツナの首は、白鬼と目が合って嬉しそうに微笑んだかと思うと、そっと目を閉じました。
セツナの体から、ふわりと魂が飛び出しました。それは白々と輝く太陽に向かって、まっすぐ昇っていきました。
それを見送った白鬼は、刀を強く握りしめたまま、声を上げることなく涙を落としました。
こうして、この世界を覆っていた黒雲はすっかり晴れ、私たちは太陽を取り戻すことができたのです。
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