悪役女王に転生したので、悪の限りを尽くします。

月並

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えこひいきします。後

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 私の記憶が戻ったのは、白鬼しろおに様のつのに触った時だった。それならミタマも、あの刀に触れば記憶が戻るんじゃないかしら? そうすれば、彼がシロの生まれ変わりかどうか分かる。
 早く、早く聖堂へ。
 この庭をつっきれば、聖堂に着く。ちょうどその時、引っ張っていた腕が急に動かなくなった。
「止まらないで歩きなさい!」
 怒鳴って振り向いた私は、息をのんだ。ミタマが額を抑えて、尋常じゃないぐらいに顔をゆがめている。多分、苦痛の声を漏らしたいのだろう。でも下唇を噛んで耐えている。牙と見紛うほどに尖った八重歯が皮膚を貫いて、血が出てしまっていた。
「すみません、ソバナ様、これ以上は」
 絞り出すようにそう言った後、ミタマはその場に膝から崩れ落ちた。頭を抱えて丸くなり、ぶるぶると小刻みに震えている。体中が汗でびっしょりだ。
 不安で目の前がぐるぐるした。その場に膝をついて、ミタマの上体を起こす。
「しっかりしてよミタマ! もう聖堂には行かないから、起きなさい! 私の命令が聞けないの!? 起きなさいってば!」
 なんの解決にもならないのに、溢れる涙に腹が立つ。
 ミタマはすっかり意識を飛ばしてしまったようで、持ち上げようとしてもひどく重たい。これを運ぶのは、私の力じゃ無理だ。
「私が運びます」
 空から声が降ってきたのかと思った。
 見上げるとカンナがいた。彼はミタマを迷いなく、軽々と背負う。
「どちらまで」
「あ、じゃ、じゃあ、私の部屋に」
「分かりました」
 さっさと歩き出した彼の後を、急いで追った。



 私が示したベッドに、カンナはミタマを下ろした。無駄に豪華な刺繍を施した布団に彼が沈むのを見て、やっと安堵した。
 容体は落ち着いているようだった。汗がひいて、顔色も悪くない。眉はしかめたままだけど。掛け布団を、彼の上にそっと乗せてやる。
「このベッドは、ソバナ様のものでは?」
「それがどうしたの」
「いや」
 カンナが私とミタマを見比べる。
「ところであなた、どうしてあんなところにいたの?」
「それは」
 彼は一瞬目を泳がせた。けどすぐに、諦めたように視線を戻した。
「ソバナ様とお話がしたくて。先ほどはあいさつしかできませんでしたから」
 私と? 変な人間。
 と、ミタマが目を覚ました。きょろきょろと周囲を見回して、私と目が合って、自分が置かれている状況を確認すると、慌ててベッドを下りようとする。
「ダメ! 寝てなさい!」
 叱りつけると、しゅんとしながら布団にもぐり直した。
 私はその端に腰を下ろす。ミタマは布団の端を握って、縮こまっている。
「申し訳ありません」
「気にしないで。私が悪かったの。でも体調が悪いんなら、早めに教えてほしかったわ」
「体調は悪くありませんでした。聖堂に近づくにつれて、頭がどんどん痛くなっていったんです」
 伏し目がちにミタマはそう言った。私は眉をひそめる。ふと見ると、カンナも不思議そうにしていた。
「えっと……白鬼様からの警告、とか? 金の目の者は聖堂に来るなとか」
 その言葉に怒りを覚えた。
「何? 白鬼様の天罰だって言うの?」
「この国が成って間もない頃、金の目の男が白鬼様に害を成して、そのせいで白鬼様がお隠れになったという話はソバナ様も……」
「それぐらい知ってるわよ!」
 布団をぼふりと叩いた。そこにミタマの足がなくて良かった。間違えて殴ってしまうところだった。
「だからって、金の目の人間全てを貶めなくてもいいと思わない? 悪いのはそいつだけじゃない。白鬼様って心が狭いのね」
 その言葉にカンナが冷や汗を流す。
「い、いくらソバナ様でも、白鬼様に悪態をつくのは……」
「構いやしないわ。天罰を下したいんなら下してみなさいよ。それこそ心が狭い証拠になるわ」
 ふんと鼻を鳴らして、ふんぞり返ってやった。ミタマが目をぱちくりとさせている。
 カンナは開いた口が塞がらないといった様子だった。けどやがて、お腹を抱えてその場にうずくまった。小刻みに震えている。もしかして、笑ってる?
「何がおかしいのかしら?」
「す、すみません、その通りだなと思いまして」
 ひいひい言いながら、口元を緩めて、カンナは立ち上がった。笑いすぎでしょ。でも、なぜだか悪い気はしない。
「ソバナ様ならお気づきかも知れませんが、さっき申し上げたお話、少々妙なんです」
「妙?」
 この国の成り立ちは、勉強はした。けど興味なさすぎて、すぐに頭から追い払ってしまったのよね。
 首を傾げると、私が何も気づいてないことを悟ったのか、カンナはちょっと得意げに胸を逸らした。
「金色の目の男が白鬼様に害を成した、ということなのですが、どういった害を成したのかはどこにも書かれていないんです。それに、お隠れになった白鬼様がどこに行ったのかも」
 カンナの語る内容に、今度は私がその通りだと思う番だった。きっと、それらは作り話だ。白鬼様という信仰を利用して国を統治するための。
 そうなると、ますます白鬼様の存在が怪しくなってくる。
「あ、でも私が調べることができたのはアンスリウム家の蔵書だけですので、他の資料を当たれば、もしかしたら書いてあるかもしれませんけど」
「他の資料って言っても、アンスリウム家にはカンパニュラ王国に関するほとんどの資料があるはずよ。あとはもう、お城の書庫に保管してあるものしか……」
 そこまで言って、顎に手を当てた。このカンナに白鬼様のことを探らせると、面白いんじゃないかしら。
「カンナ、あなた、お城の書庫に入りたい?」
 足を組んでそう尋ねると、カンナは面白いぐらいに動きを止めた。多分呼吸してない。目だけが輝いている。
「よ、良いのですか? 書庫は女王様のみ閲覧が許されているところですが」
「私が許可するわ」
 カンナの目が輝いた。頬も上気している。興奮しているようだ。椿つばきがゲーム売り場に行った時に、こんな顔をしてたっけ。
 顔は似てないけど、ちょっとした表情や態度に椿を感じる。他の人間に対して起きるような、ドロドロとした暗い感情を彼に覚えないのは、そのせいだろう。
「あと、次にやる儀式、白鬼様の刀を運ぶ役はあなたに任せるわ」
 口元をほころばせていたカンナは、驚いた様子で目を丸くした。
「わ、私が、いいんですか? その、ミタマ様に運ばせるのでは……」
「さっきの話を聞いていたでしょう? ミタマは聖堂に近づくと頭が痛くなるの。だからこの子には任せられないわ」
 鼻で笑うと、そういえばそうだったとカンナは頬をかいた。
「女王様のご命とあらば、このカンナ・シンシュ、役目を立派に果たしてみせます」
 さっきまでの緩んだ顔はどこへやら、カンナはキリリとした顔で、恭しく腰を曲げた。
 彼はゲームの登場人物じゃない。赤い目の男は攻略対象にいなかったし、椿から『カンナ』という名前を聞いたことはない。だから、彼に心を許しても構わないのではないか。ミタマ以外にも、そういう人間がいてもいいだろう。
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