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月並

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六、魂を黒く

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 吹雪は己を落ち着かせるかのように、ふぅと息を吐きました。

「魂が見えるだなんて……。確かに晴山家の紫の目を持つ者の中には、不思議な力を持つ者がいるとは聞いています」

 その話は、白鬼には初耳でした。「聞いてないぞ!」と怒りたいのをなんとか堪えます。
 堪える傍ら、白鬼は魂美の目を注視しました。そう言われてみると確かに、彼女の目は紫色のように見えます。その色は濃く、まるでスミレのようだと白鬼は思いました。すると彼の胸が、締め付けられたような心地になりました。
 その視線に気づいたのか、魂美が白鬼を睨みました。真人ならこうするだろうと思い、白鬼は俯きました。が、本心ではもう少し彼女の目を見ていたいと思いました。

 そんな白鬼たちに構わず、吹雪は言葉を続けていました。

「ですが魂が見えるなんて、そんな戯言、どうやって証明できるのかしら? 真朗様も、それを真に受けているわけではありませんよね?」

 吹雪が真朗を振り返ると、真朗は目を逸らしました。

「父上は信じていますよ。10年前、側近の中に間者がいたと大騒ぎになったことがあったでしょう? あの間者を見つけたのが、魂美ですから」

 陸朗の言葉に、吹雪は息を飲みました。

「だ、だとしてもそんな大事なこと、どうして正妻である私に告げなかったのですか!?」
「悪用されると困るから、知っている人は最小限に留めておくべきだというのが父上のご判断です」

 陸朗が笑顔のまま真朗を見やると、彼は重々しく頷きました。吹雪は悔しそうにしましたが、それ以上は何も言わず拳を握るに留めました。
 そんな吹雪を、陸朗は鼻で笑いました。それから、魂美に向き直ります。

「魂美曰く、嘘をついているかどうかは魂の色を見れば分かるそうです。良からぬことを考えている者の魂は、黒く染まっているのだとか。魂美、どうだい? 彼の魂の色は、黒いか?」

 魂美の視線が、再び白鬼に注がれました。正直、この時点で白鬼は諦めていました。
 白鬼を初めて見た時、魂美は驚いた様子を見せていました。その後ずっと白鬼のことを睨んでいたのは、真人ではないと気づいたからではないかと、白鬼は推理しました。
 だから彼は、逃げることを考えました。吹雪が影武者を提案したと知れたら、いくら正室と言えど責任の追及は免れないでしょう。それなら、自分が吹雪をも騙したということにしようと、白鬼は腹を括りました。

 魂美が眉をひそめました。そして口を、ゆっくりと開きます。

「あれは真人兄上よ」

 きっぱりと、魂美はそう言い放ちました。白鬼は驚き、思わず魂美を見つめました。その後ろで、吹雪がそっと息を漏らしたのが白鬼にだけ聞こえました。
 陸郎が慌てた様子で腰を浮かせました。

「ほ、本当か? 魂美、本当にあいつは偽物じゃないのか?」
「私の言うことを疑うの?」

 魂美は眉間にしわを寄せ、じろりと陸朗を見上げました。陸朗は少し体をのけぞらせました。

「い、いや、そういうわけじゃないが……」

 陸朗と時雨は、悔しそうに白鬼を睨みました。そんな彼らに、白鬼は柔らかい笑みを返します。

「疑いが晴れたようで良かったです。さぁ、宴会の続きを行いましょう」

 しかし、その後の宴会はさっぱり盛り上がりませんでした。と言っても、元々最初から盛り上がってなどいませんでしたが。
 しばらくして、真朗が寝床に戻る宣言をしました。そうして冷え切った宴会はお開きとなりました。

 吹雪は、真人の部屋の前まで白鬼についてきました。周囲に誰もいないことを確認した後、大きなため息をひとつ吐きました。

「よく乗り切ってくれました。あの子……魂美は魂が見えるなんて言うから焦ったけど、嘘だったようね。それとも、見た目がそっくりだと魂の色も同じになるのかしら」
「どうでしょうか。俺には分かりませんが、疑いが晴れて良かったです」

 にっこりと白鬼が笑って返すと、吹雪は戸惑った様子を見せました。

「と、とにかく、今日はゆっくり休んでちょうだい」
「はい、母上。おやすみなさい」

 吹雪は白鬼の挨拶に何も返さず、さっさと踵を返してしまいました。
 部屋に入った白鬼は、まず袴と足袋を脱ぎ捨てました。そして襟を緩めて、大きく伸びをします。
 そのまま、用意されていた布団にごろりと寝転がりました。彼の頭の中にぼんやりと浮かんできたのは、魂美の目でした。
 その時、襖が小さく2度叩かれました。

「魂美よ。話があるの。出てきてくれない?」

 ぎょっとして白鬼は飛び起きました。

「ま、待ってくれ。すっかり寝支度をしてしまってるから……」
「どんな格好でも大丈夫よ。私、分かってるから。あなたが真人兄上じゃないってこと」

 その言葉に、白鬼は慌てて袴を履こうとしていた手を止めました。そして若干乱れていた着物を整えると、襖を開きました。
 灯りを手に持った魂美が、白鬼を見上げてにっこりと笑いました。その笑みは怪しく白鬼の目に映りましたが、彼はそんな魂美から目が離せなくなってしまいました。

「庭に出ましょう。この時刻なら、誰もいないわ」

 魂美に連れられて、白鬼は庭に出ました。そこには池がありました。
 その真ん中に掛けられている小橋の上で、魂美は足を止めました。ちょうど頭上には、三日月がかかっています。その白い光が、魂美の抜けるような肌をより一層白く見せています。
 しばらく、静寂が続きました。魂美が口を閉じたままなことに焦れた白鬼は、自分から問うことにしました。

「俺が晴山真人じゃないって、やっぱり気づいてたんだな? だったらなんで、あの場で言わなかったんだ? お前の兄、晴山陸朗は、国主の後継ぎの座を狙ってるだろう?」
「私は兄上が国主を継ごうが、どうでもいいもの。そんな大それた願いを叶えたいなら、私を巻き込まずにひとりでやってちょうだいって話よ」

 魂美はフンと鼻を鳴らしました。

「それよりも、もっと面白いものを見つけたんだから、そっちに味方するのは当然でしょう?」
「もっと面白いって……、それ俺のことか?」
「そうよ。だってあなたの魂の色、真っ白なんだもの」

 白鬼は黙ったまま、魂美の話を聞いていました。が、魂美は彼が無反応だったことが気に食わなかったのか、眉をしかめます。

「ちょっと、何か反応しなさいよ。真っ白だと何が面白いのかとか」
「白い魂なんて、生まれたばかりの子どもにしかない色。普通なら成長するにつれて、経験やそれによって伴われる感情によって色がつく。だから、俺ほどに成長しているくせに魂が白いままなんてあり得ない。そう言いたいんだろ?」
「……そうよ。よく分かったわね。まさかあなたも、魂の色が見えてるの?」
「まーな。俺は鬼なんでね」
「鬼?」
「そ。人の魂が主食のな。まぁ俺は不死身だから、魂なんざ食べなくても平気だがね」

 肩を竦める影武者を、魂美はじっと睨んでいました。その視線は疑わし気なものでした。

「信じるか否かはお前に任せるよ」
「そうね、信じられないわ。鬼だと聞いてますますね。そんな悪い存在なら、真っ黒な魂でもおかしくないのに……」

 魂美はしばらくぶつぶつと呟いていましたが、やがてパッと顔を上げました。その表情は、いたずらを思いついたような笑顔でした。

「いいこと思いついたわ。あなたのその魂、私がもらう。その白を、私好みの黒に塗りつぶしてあげる」

 意地の悪い笑みを浮かべる魂美に、白鬼は目を見開きました。
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