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十六、最高の死に方
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短刀が魂美の胸を貫いているのを見た時、白鬼はまるで周囲の時が止まったかのように感じました。瞬間、頭の中が怒りでいっぱいになりました。
白鬼は魂美を奪い返そうと、手を伸ばしました。が、国人は魂美を抱えたまま後ろに下がり、短刀を彼女の体から抜きました。魂美の胸から鮮血が溢れだします。
「国人!」
怒りで目が眩んだ白鬼は、叫ぶなり刀を握りしめ、まるで弾丸のように国人へと飛び掛かります。国人はにやりと笑ったかと思うと、魂美を横に放り出し、構えることなく棒立ちになりました。
「ミタマ! 止まりなさい!」
魂美の声が響きました。白鬼はその声に操られるように、動きをぴたりと止めました。真っ白な刃の切っ先は、今にも国人を仕留めんとする距離で停止しています。
魂美は荒い呼吸を繰り返しながら、ゆっくりと体を起こしました。胸からは血が流れたままです。
「ミタマ、だめよ、その男を殺しちゃだめ」
息は絶え絶えながらも目を爛々と燃やす魂美を、国人が怒りの形相で睨みます。
「止めるな女鬼! 俺は俺の息子の手で、俺が作った最高の刀で殺されるんだ! そうやって死ぬことが俺の願いだ、幸せだ! さぁ息子よ、そのまま俺を殺せ! お前が最初に俺を殺した時のように、愛するものを奪われた怒りのままに、殺せ! 全ての命に幸福を与えたいのならそうしろ!」
「だめよミタマ! あなたはその刀で命を奪いたくないと言った。私はその願いを叶えたいの! あなたの願いを叶えてあげたいの! だから谷場との結婚だって受け入れたわ! 戦のない世界を作りたいという、あなたの願いのために! だからお願い、お願いミタマ!」
魂美はボロボロと涙を零しながら叫びました。
白鬼の呼吸が荒くなっていきます。額には冷や汗が浮かび始めました。
その時、国人の頭上で、ずるりと音がしました。
気配に気づいた国人が顔を上げると、音の主である菊一文字が、国人の顔の真ん中にずぶりと突き立ちました。
その鈍く光る刃を見て、国人は愕然と目を見開きました。
驚きと怒り、それから絶望が混ざりあった国人の表情を見て、魂美が満足そうに笑いました。
「残念ね、国人。あなたを殺すのはミタマじゃない、あなたの作った刀じゃない。菊一文字よ」
「馬鹿、な、こんな、こんな死に方……嫌だ、いやだ!」
国人は白鬼を見て、彼がだらりと垂らしている刀に向かって、懇願するように手を伸ばしました。が、それは少しも届くことはありませんでした。
そのまま、国人は倒れました。
よろよろと、白鬼は国人へと近づきました。目の光を失った国人の上に、涙がぼとぼとと落ちました。
「ミタマ」
微かな魂美の声を拾った白鬼は、すぐに彼女の元へと駆け寄りました。
「待ってろ、俺の血を塗れば、傷なんかすぐ治るから……」
「やめて、ミタマ。私、もうダメだわ。だから、痛い思いをしないで」
魂美は白鬼のやることを止めるように、彼の手を握りました。その力は死に際の人とは思えないほど強いものでしたが、手はひんやりとしていました。
ゆっくりと、魂美は白鬼を見上げます。
「ミタマ、ごめんね。私、あなたの願いを、叶えてあげられなかった。戦のない世界を作るどころか、そのきっかけを作ってしまった」
「違う、魂美のせいじゃない」
白鬼は悲痛そうな顔で、首を横に振ります。
魂美は一度、深く息を吐きました。それから、国人に刺さったままの菊一文字を見ます。
「菊一文字を、連れて行ってあげて。わざわざ私たちを探して、ここまで来てくれたのよ。そして、私の願いを叶えてくれた。ミタマに誰も殺させたくないっていう、願い。だから、嫌いにならないであげて」
「なるわけないだろ」
白鬼の返答に、魂美は「ミタマらしいわね」と言って小さく笑いました。
それを見下ろす白鬼の双眸に、再び涙が溢れだしました。白鬼は魂美の手を、強く握りしめました。
「魂美、前に嘘を吐いたこと、謝る。俺はお前が好きだ。俺が生きている限り、俺はお前のことをずっと愛し続ける」
魂美は頬を染めて、嬉しそうに笑いました。そんな彼女の全身から、がくりと力が抜けました。
「魂美」
白鬼が呼んでも、魂美は二度と瞼を開こうとしませんでした。白鬼は涙を流したまま、その骸を抱きしめました。
ぐらりと、燃えて炭になった天井の梁が傾いて落ちてきました。とっさに白鬼は、魂美を抱えたまま飛び退きます。
「真人……いえ、白鬼! このままじゃ、抜け道の入り口も燃えてしまうわ。早く行きましょう!」
吹雪が北の壁を叩くと、魂美の部屋にあったのと同じように、壁がくるりと回転しました。そこから風が入り込んできました。外に繋がっているようです。
白鬼は魂美を見下ろしました。そして名残惜しそうにしながら、床に彼女の体を横たえます。
国人に刺さっている菊一文字を抜き、血振りをすると、白鬼は吹雪と一緒に本丸の外へと出ました。
壁の外は、北の山へと繋がっていました。
「山の中ならそう簡単に捜索ができないはずよ。だから追っ手を撒けるんじゃないかしら」
「ああ。山なら任せろ。得意な場所だ」
白鬼は吹雪を安心させるように、自分の胸を叩きました。そして先頭に立つと、山を登り始めました。
白鬼は魂美を奪い返そうと、手を伸ばしました。が、国人は魂美を抱えたまま後ろに下がり、短刀を彼女の体から抜きました。魂美の胸から鮮血が溢れだします。
「国人!」
怒りで目が眩んだ白鬼は、叫ぶなり刀を握りしめ、まるで弾丸のように国人へと飛び掛かります。国人はにやりと笑ったかと思うと、魂美を横に放り出し、構えることなく棒立ちになりました。
「ミタマ! 止まりなさい!」
魂美の声が響きました。白鬼はその声に操られるように、動きをぴたりと止めました。真っ白な刃の切っ先は、今にも国人を仕留めんとする距離で停止しています。
魂美は荒い呼吸を繰り返しながら、ゆっくりと体を起こしました。胸からは血が流れたままです。
「ミタマ、だめよ、その男を殺しちゃだめ」
息は絶え絶えながらも目を爛々と燃やす魂美を、国人が怒りの形相で睨みます。
「止めるな女鬼! 俺は俺の息子の手で、俺が作った最高の刀で殺されるんだ! そうやって死ぬことが俺の願いだ、幸せだ! さぁ息子よ、そのまま俺を殺せ! お前が最初に俺を殺した時のように、愛するものを奪われた怒りのままに、殺せ! 全ての命に幸福を与えたいのならそうしろ!」
「だめよミタマ! あなたはその刀で命を奪いたくないと言った。私はその願いを叶えたいの! あなたの願いを叶えてあげたいの! だから谷場との結婚だって受け入れたわ! 戦のない世界を作りたいという、あなたの願いのために! だからお願い、お願いミタマ!」
魂美はボロボロと涙を零しながら叫びました。
白鬼の呼吸が荒くなっていきます。額には冷や汗が浮かび始めました。
その時、国人の頭上で、ずるりと音がしました。
気配に気づいた国人が顔を上げると、音の主である菊一文字が、国人の顔の真ん中にずぶりと突き立ちました。
その鈍く光る刃を見て、国人は愕然と目を見開きました。
驚きと怒り、それから絶望が混ざりあった国人の表情を見て、魂美が満足そうに笑いました。
「残念ね、国人。あなたを殺すのはミタマじゃない、あなたの作った刀じゃない。菊一文字よ」
「馬鹿、な、こんな、こんな死に方……嫌だ、いやだ!」
国人は白鬼を見て、彼がだらりと垂らしている刀に向かって、懇願するように手を伸ばしました。が、それは少しも届くことはありませんでした。
そのまま、国人は倒れました。
よろよろと、白鬼は国人へと近づきました。目の光を失った国人の上に、涙がぼとぼとと落ちました。
「ミタマ」
微かな魂美の声を拾った白鬼は、すぐに彼女の元へと駆け寄りました。
「待ってろ、俺の血を塗れば、傷なんかすぐ治るから……」
「やめて、ミタマ。私、もうダメだわ。だから、痛い思いをしないで」
魂美は白鬼のやることを止めるように、彼の手を握りました。その力は死に際の人とは思えないほど強いものでしたが、手はひんやりとしていました。
ゆっくりと、魂美は白鬼を見上げます。
「ミタマ、ごめんね。私、あなたの願いを、叶えてあげられなかった。戦のない世界を作るどころか、そのきっかけを作ってしまった」
「違う、魂美のせいじゃない」
白鬼は悲痛そうな顔で、首を横に振ります。
魂美は一度、深く息を吐きました。それから、国人に刺さったままの菊一文字を見ます。
「菊一文字を、連れて行ってあげて。わざわざ私たちを探して、ここまで来てくれたのよ。そして、私の願いを叶えてくれた。ミタマに誰も殺させたくないっていう、願い。だから、嫌いにならないであげて」
「なるわけないだろ」
白鬼の返答に、魂美は「ミタマらしいわね」と言って小さく笑いました。
それを見下ろす白鬼の双眸に、再び涙が溢れだしました。白鬼は魂美の手を、強く握りしめました。
「魂美、前に嘘を吐いたこと、謝る。俺はお前が好きだ。俺が生きている限り、俺はお前のことをずっと愛し続ける」
魂美は頬を染めて、嬉しそうに笑いました。そんな彼女の全身から、がくりと力が抜けました。
「魂美」
白鬼が呼んでも、魂美は二度と瞼を開こうとしませんでした。白鬼は涙を流したまま、その骸を抱きしめました。
ぐらりと、燃えて炭になった天井の梁が傾いて落ちてきました。とっさに白鬼は、魂美を抱えたまま飛び退きます。
「真人……いえ、白鬼! このままじゃ、抜け道の入り口も燃えてしまうわ。早く行きましょう!」
吹雪が北の壁を叩くと、魂美の部屋にあったのと同じように、壁がくるりと回転しました。そこから風が入り込んできました。外に繋がっているようです。
白鬼は魂美を見下ろしました。そして名残惜しそうにしながら、床に彼女の体を横たえます。
国人に刺さっている菊一文字を抜き、血振りをすると、白鬼は吹雪と一緒に本丸の外へと出ました。
壁の外は、北の山へと繋がっていました。
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