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十二、赤髪
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「この間僕の話を止めたのはどうして? あ、答えたくないならいいんだけれど」
躊躇いがちに振られた質問に、答えるかどうか迷った。
視線を庭に背ける。青々とした空に、真っ白な雲がふわふわと漂っている。遠くには、赤や茶に染まる山が見えた。
私は視線を小林君に戻した。彼は優しげな目で私を見ていた。その目に、何故だか安心感を抱く。
「私、私は」
質問に答えようとした、その時だった。玄関の扉が開く音がした。廊下をずんずん歩いてくる音がする。
足音はすぐ側で止まった。部屋の襖が勢いよく開いた。
すらりとした女性が立っていた。顔立ちがどことなく小林君に似ている。けれど瞳が違う。彼女には、鋭い光が宿っていた。小林君の母親だろう。
鋭い光が私を捉えた。怖い。視線を膝に向ける。
母親の視線はしばらく私に降り注いでいた。
「この子は?」
冷たい声がした。質問は、小林君に向けられたもののようだ。口をぎゅっと結ぶ。
「田辺さんだよ。寺子屋で一緒に学んでいる……」
「ふうん。そうやって河次郎を誑かしているのね」
誑かす? 人を騙す、そういう意味だ。しろちゃんが教えてくれた。
「河次郎よくお聞き。この子は鬼よ」
母親はまっすぐ私を指さした。私は心臓が止まる思いがした。小林君はため息をひとつ吐く。
「そんなわけありませんよ、母上」
「この子の髪を見なさい。血の色よ」
違うと声に出したかった。私の赤と、血の赤は別だ。真っ白だったしろちゃんを染めた、あの赤色とは違うのだ。
でも言えなかった。ぶるぶると口を震わすことしかできない。
「この子と仲良くなったせいでまた倒れたんだわ。昨日まではとっても元気だったのに」
「母上、前から言っていますけれど、鬼なんていません。いたとして、どうして僕を攻撃するのですか」
「鬼は昔から悪いものと決まっているわ」
私の中で、何かがふつりと切れた。
「悪くない鬼だっている」
声が出た。2人の視線が注がれる。
怖いという気持ちはあった。けれどそれ以上の怒りが、口を動かしていた。
私のことはいくら悪く言われても我慢できた。けれど、鬼のことを、しろちゃんのことを悪く言われるのは我慢できなかった。
「だって、だってしろちゃんが悪い鬼だったら、私を育てようとなんてしなかった。しろちゃんは最期まで、いい鬼だった!」
叫び終えると、辺りはしんと静まりかえっていた。風までもが動きを止めている。
「は? 何を言っているの。誰よ、しろちゃんって」
小林君の母親は、怪訝そうな顔をした。
怖くて、腹立たしくて、悔しくて、悲しかった。ここにいることが、耐えられなくなった。
すぐに地面を蹴って、その場から逃げ出した。
そして数日の間、私は家から外へ一歩も足を出そうとしなかった。
躊躇いがちに振られた質問に、答えるかどうか迷った。
視線を庭に背ける。青々とした空に、真っ白な雲がふわふわと漂っている。遠くには、赤や茶に染まる山が見えた。
私は視線を小林君に戻した。彼は優しげな目で私を見ていた。その目に、何故だか安心感を抱く。
「私、私は」
質問に答えようとした、その時だった。玄関の扉が開く音がした。廊下をずんずん歩いてくる音がする。
足音はすぐ側で止まった。部屋の襖が勢いよく開いた。
すらりとした女性が立っていた。顔立ちがどことなく小林君に似ている。けれど瞳が違う。彼女には、鋭い光が宿っていた。小林君の母親だろう。
鋭い光が私を捉えた。怖い。視線を膝に向ける。
母親の視線はしばらく私に降り注いでいた。
「この子は?」
冷たい声がした。質問は、小林君に向けられたもののようだ。口をぎゅっと結ぶ。
「田辺さんだよ。寺子屋で一緒に学んでいる……」
「ふうん。そうやって河次郎を誑かしているのね」
誑かす? 人を騙す、そういう意味だ。しろちゃんが教えてくれた。
「河次郎よくお聞き。この子は鬼よ」
母親はまっすぐ私を指さした。私は心臓が止まる思いがした。小林君はため息をひとつ吐く。
「そんなわけありませんよ、母上」
「この子の髪を見なさい。血の色よ」
違うと声に出したかった。私の赤と、血の赤は別だ。真っ白だったしろちゃんを染めた、あの赤色とは違うのだ。
でも言えなかった。ぶるぶると口を震わすことしかできない。
「この子と仲良くなったせいでまた倒れたんだわ。昨日まではとっても元気だったのに」
「母上、前から言っていますけれど、鬼なんていません。いたとして、どうして僕を攻撃するのですか」
「鬼は昔から悪いものと決まっているわ」
私の中で、何かがふつりと切れた。
「悪くない鬼だっている」
声が出た。2人の視線が注がれる。
怖いという気持ちはあった。けれどそれ以上の怒りが、口を動かしていた。
私のことはいくら悪く言われても我慢できた。けれど、鬼のことを、しろちゃんのことを悪く言われるのは我慢できなかった。
「だって、だってしろちゃんが悪い鬼だったら、私を育てようとなんてしなかった。しろちゃんは最期まで、いい鬼だった!」
叫び終えると、辺りはしんと静まりかえっていた。風までもが動きを止めている。
「は? 何を言っているの。誰よ、しろちゃんって」
小林君の母親は、怪訝そうな顔をした。
怖くて、腹立たしくて、悔しくて、悲しかった。ここにいることが、耐えられなくなった。
すぐに地面を蹴って、その場から逃げ出した。
そして数日の間、私は家から外へ一歩も足を出そうとしなかった。
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