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十五、紅葉と夏椿
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突然、視界が開けた。私の目に、広々とした赤色が飛びこんできた。
そこは紅葉でにぎわっていた。風に吹かれ、さわさわと赤色が靡く。上も下も、右も左も、辺り一面全てが赤。
そこにぽつんと、白色が見えた。
「しろちゃん!」
近付いて、それが全然違うものだと分かった。
まるで何かの目印のような大きな石の上に、少し変色した、崩れた白い花が置いてあったのだ。
この花。これだけは珍しく、私が見つけてきたんじゃなくて、しろちゃんが持っていた花だった。
確か名前は。
「それは、夏椿?」
振り向くと、小林君がいた。息を荒くしている。
「小林君? 大丈夫?」
「うん。田辺さんがいきなり行っちゃうから、追いかけたけど、見つかって良かった」
私を探してくれたらしい。申し訳ない気持ちになる。
「それにしても、ここ、きれいだね」
風が吹いた。無数の紅葉が枝から離れ、空を舞い、ひらひらと静かに落ちていく光景が目に入る。
「ここ、しろちゃんに教えてあげようと思ってた場所なの。でも、教えるの、結局忘れてた」
紅葉がひらひらと舞い散り、辺り一面をさらに紅色に染めていく。
私は黙って、降りしきる紅色を眺めていた。
激しい咳が聞こえた。小林君がその場にうずくまる。
苦し気な表情で胸を抑えて、額には丸い汗が浮いていた。
「小林君!?」
「大丈夫、だよ。いつものことだ、から」
そう言って、小林君は苦笑した。弱々しい笑みだった。それを見た私の胸に、少しだけ怒りの気持ちが湧いた。
「小林君、嘘吐いてるね」
小林君は、目を丸くして私を見上げた。私はしゃがんで、小林君の背中をさする。
「お母さんを説得したのも、嘘でしょ。小林君、嘘吐く時、ちょっと困ったみたいに笑う」
何か言おうとした小林君だったけど、咳込んだせいでそれは無理だった。
「下りよう」
「それはだめだよ!」
「いいから!」
小林君の手を握った。その手は骨ばっていて、今にも折れそう。
でも小林君は、首を横に振り続ける。私が立ち上がっても、座り込んだまま。
「まだ白鬼を見つけられていない! そのためにこの山に来たのに!」
「そんなに鬼に会いたいの!?」
「だって田辺さん、白鬼にまた会えたら嬉しいでしょ!? 田辺さんの、大事な人なんだから!」
息を飲んだ。てっきり、小林君が会いたいからついてきたんだと思ってたのに。私のためだったの?
大声を出したせいか、小林君はさっきよりも激しく咳をした。
私は小林君の脇に腕を通して、支えるようにして立ち上がらせた。そして来た道を戻る。
「田辺、さん、だめ、まだ」
「しろちゃんにまた会えたら嬉しいよ。でもそれは、小林君を放っておいてまで叶えたい願いじゃない。だって、小林君も、大事なんだもん」
小林君は黙った。それをいいことに、私はずんずんと先を急ぐ。
途中で五十嵐さんと合流し、小林君を背負ってもらって、私たちは山を下りた。
そこは紅葉でにぎわっていた。風に吹かれ、さわさわと赤色が靡く。上も下も、右も左も、辺り一面全てが赤。
そこにぽつんと、白色が見えた。
「しろちゃん!」
近付いて、それが全然違うものだと分かった。
まるで何かの目印のような大きな石の上に、少し変色した、崩れた白い花が置いてあったのだ。
この花。これだけは珍しく、私が見つけてきたんじゃなくて、しろちゃんが持っていた花だった。
確か名前は。
「それは、夏椿?」
振り向くと、小林君がいた。息を荒くしている。
「小林君? 大丈夫?」
「うん。田辺さんがいきなり行っちゃうから、追いかけたけど、見つかって良かった」
私を探してくれたらしい。申し訳ない気持ちになる。
「それにしても、ここ、きれいだね」
風が吹いた。無数の紅葉が枝から離れ、空を舞い、ひらひらと静かに落ちていく光景が目に入る。
「ここ、しろちゃんに教えてあげようと思ってた場所なの。でも、教えるの、結局忘れてた」
紅葉がひらひらと舞い散り、辺り一面をさらに紅色に染めていく。
私は黙って、降りしきる紅色を眺めていた。
激しい咳が聞こえた。小林君がその場にうずくまる。
苦し気な表情で胸を抑えて、額には丸い汗が浮いていた。
「小林君!?」
「大丈夫、だよ。いつものことだ、から」
そう言って、小林君は苦笑した。弱々しい笑みだった。それを見た私の胸に、少しだけ怒りの気持ちが湧いた。
「小林君、嘘吐いてるね」
小林君は、目を丸くして私を見上げた。私はしゃがんで、小林君の背中をさする。
「お母さんを説得したのも、嘘でしょ。小林君、嘘吐く時、ちょっと困ったみたいに笑う」
何か言おうとした小林君だったけど、咳込んだせいでそれは無理だった。
「下りよう」
「それはだめだよ!」
「いいから!」
小林君の手を握った。その手は骨ばっていて、今にも折れそう。
でも小林君は、首を横に振り続ける。私が立ち上がっても、座り込んだまま。
「まだ白鬼を見つけられていない! そのためにこの山に来たのに!」
「そんなに鬼に会いたいの!?」
「だって田辺さん、白鬼にまた会えたら嬉しいでしょ!? 田辺さんの、大事な人なんだから!」
息を飲んだ。てっきり、小林君が会いたいからついてきたんだと思ってたのに。私のためだったの?
大声を出したせいか、小林君はさっきよりも激しく咳をした。
私は小林君の脇に腕を通して、支えるようにして立ち上がらせた。そして来た道を戻る。
「田辺、さん、だめ、まだ」
「しろちゃんにまた会えたら嬉しいよ。でもそれは、小林君を放っておいてまで叶えたい願いじゃない。だって、小林君も、大事なんだもん」
小林君は黙った。それをいいことに、私はずんずんと先を急ぐ。
途中で五十嵐さんと合流し、小林君を背負ってもらって、私たちは山を下りた。
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