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第一章 シャラ
十五、急襲
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振り向くと、白髪を揺らした女が立っていました。長さは肩ぐらいまでしかありません。
前髪は長く、目を覆い隠しています。
口角を吊り上げる彼女を、シャラはぼんやりと眺めていました。
「誰?」
「おや、私のことを忘れるなんてひどい。私はお前のことを、一時だって忘れたことがないのに。お前に角を取られてから」
女は前髪をかき分けました。その顔を見たシャラは、目を大きく見開きます。
彼女はシャラが前世、角を折った同輩の白鬼でした。
「カスミなのね」
シャラにカスミと呼ばれた女は、歯を見せて笑いました。ミタマと同じような、鋭く尖った牙が見えました。ただ、彼女の目は金色で、額に角はありませんでした。
「お前のせいで、私は鬼のなり損ないになってしまった。お母様は治そうと仰ったが、私は断った。お前に同じ屈辱を味わってもらう、その決意を忘れないために。だのにお前は勝手に死んだ」
カスミは笑みを消すと、シャラをギロリと睨みます。
「私は待った。お前が生まれ変わってくるのを。サラの血で鬼になったその男を見張っていれば、必ずその近くに現れると確信していた。そいつの持っている刀は、サラの体で作ったものだからな。魂が惹かれないわけがない」
ミタマが目を見張り、刀を強く握ります。
ミタマとカスミの間に、一瞬バチリと火花が飛んだように、シャラは感じました。
次の瞬間には、ふたりとも動いていました。カスミは懐から短刀を取り出し、ミタマに向かって突き出します。が、ミタマはそれを、抜刀ついでにいなしてしまいました。
鋼のぶつかる音が何度も響きます。シャラはミタマの邪魔にならないように、そっと後ろに下がります。
戦況はミタマが有利でした。それもそのはず、ミタマは刀の扱いに長けている上、傷を負ってもすぐ治る白鬼の血を持っています。
圧されているカスミは、歯を食いしばって短刀を振り回します。
そんな彼女の後ろの茂みに、ナナシが現れました。
「ナナシっ……」
思わず出た声を咄嗟に抑えましたが、すでに遅く、カスミが後ろを振り向いてしまいました。
ナナシを捉えたカスミは、踵を素早く返してそちらへと地面を蹴りました。
「ミタマ! ナナシを!」
シャラがそう言うのと同時に、ミタマは動いていました。カスミの襟首を掴み、自分の方に引き寄せます。
引き寄せられたカスミは、再び体を半回転させると、ミタマの角に食らいつきました。
食らいつかれたミタマは、苦悶の表情を浮かべます。
「ミタマ!」
シャラが飛び出し、カスミの着物を引っ張ります。が、カスミは離れません。
バキリと嫌な音が、辺りに響きました。
角を食いちぎられたミタマは、その場に倒れてしまいました。意識がないのか、ぴくりとも動きません。
「ミタマ! ミタマ!!」
駆け寄ろうとしたシャラでしたが、その胸を、ズブリと短刀が貫きました。
短刀はすぐに抜かれ、そこから大量の血が溢れます。
立つ力をなくしたシャラは、ミタマと同じように地面に突っ伏してしまいました。
「ふふ、フフフフフ! アハハハハハハ! ようやく、ようやくやり遂げた! これでお母様の元に帰れる! 白鬼に戻れる!」
大きく笑いながら、カスミは食いちぎったミタマの角を持って、坂を駆け上って行きます。その姿は、ふいに消えてしまいました。
紅葉がひとひら、はらりと地面に落ちていきました。
【第一章 シャラ 完】
前髪は長く、目を覆い隠しています。
口角を吊り上げる彼女を、シャラはぼんやりと眺めていました。
「誰?」
「おや、私のことを忘れるなんてひどい。私はお前のことを、一時だって忘れたことがないのに。お前に角を取られてから」
女は前髪をかき分けました。その顔を見たシャラは、目を大きく見開きます。
彼女はシャラが前世、角を折った同輩の白鬼でした。
「カスミなのね」
シャラにカスミと呼ばれた女は、歯を見せて笑いました。ミタマと同じような、鋭く尖った牙が見えました。ただ、彼女の目は金色で、額に角はありませんでした。
「お前のせいで、私は鬼のなり損ないになってしまった。お母様は治そうと仰ったが、私は断った。お前に同じ屈辱を味わってもらう、その決意を忘れないために。だのにお前は勝手に死んだ」
カスミは笑みを消すと、シャラをギロリと睨みます。
「私は待った。お前が生まれ変わってくるのを。サラの血で鬼になったその男を見張っていれば、必ずその近くに現れると確信していた。そいつの持っている刀は、サラの体で作ったものだからな。魂が惹かれないわけがない」
ミタマが目を見張り、刀を強く握ります。
ミタマとカスミの間に、一瞬バチリと火花が飛んだように、シャラは感じました。
次の瞬間には、ふたりとも動いていました。カスミは懐から短刀を取り出し、ミタマに向かって突き出します。が、ミタマはそれを、抜刀ついでにいなしてしまいました。
鋼のぶつかる音が何度も響きます。シャラはミタマの邪魔にならないように、そっと後ろに下がります。
戦況はミタマが有利でした。それもそのはず、ミタマは刀の扱いに長けている上、傷を負ってもすぐ治る白鬼の血を持っています。
圧されているカスミは、歯を食いしばって短刀を振り回します。
そんな彼女の後ろの茂みに、ナナシが現れました。
「ナナシっ……」
思わず出た声を咄嗟に抑えましたが、すでに遅く、カスミが後ろを振り向いてしまいました。
ナナシを捉えたカスミは、踵を素早く返してそちらへと地面を蹴りました。
「ミタマ! ナナシを!」
シャラがそう言うのと同時に、ミタマは動いていました。カスミの襟首を掴み、自分の方に引き寄せます。
引き寄せられたカスミは、再び体を半回転させると、ミタマの角に食らいつきました。
食らいつかれたミタマは、苦悶の表情を浮かべます。
「ミタマ!」
シャラが飛び出し、カスミの着物を引っ張ります。が、カスミは離れません。
バキリと嫌な音が、辺りに響きました。
角を食いちぎられたミタマは、その場に倒れてしまいました。意識がないのか、ぴくりとも動きません。
「ミタマ! ミタマ!!」
駆け寄ろうとしたシャラでしたが、その胸を、ズブリと短刀が貫きました。
短刀はすぐに抜かれ、そこから大量の血が溢れます。
立つ力をなくしたシャラは、ミタマと同じように地面に突っ伏してしまいました。
「ふふ、フフフフフ! アハハハハハハ! ようやく、ようやくやり遂げた! これでお母様の元に帰れる! 白鬼に戻れる!」
大きく笑いながら、カスミは食いちぎったミタマの角を持って、坂を駆け上って行きます。その姿は、ふいに消えてしまいました。
紅葉がひとひら、はらりと地面に落ちていきました。
【第一章 シャラ 完】
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