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婚約が決まった7歳から、通常の淑女としての教養に加え、王妃教育も叩き込まれた。
単純に計算して、普通の貴族令嬢の倍の勉強量だ。とてもじゃないけれど、愚鈍なアンネにはついていくのもやっとのこと。
自分の人生を犠牲にして必死に食らいつくも、すぐに落ちこぼれ、家庭教師の子爵夫人から、何度も何度も鞭で打擲された。
寝る時間を削って、吐きそうになりながら遅れた分を取り戻し、それでも全く足らずに翌日また叱責され、鞭で打たれ、更に積み上がった学習内容に押し潰される。
本来なら自分ひとりしか生徒は居ないのだから、自分に合わせた早さで教えてくれればいいはずだ。だけどそれでは、幼学校進学に間に合わないからと、容赦をしてくれない。
「貴女のお兄様方や従兄弟の方々は、こんな程度で躓いたりしなかったというのに…」
という呆れを含んだ嘆きの言葉は、子爵夫人の口癖のようになっていた。それを聞くたび、アンネは自分の哀れな脳みそを悲しく思った。何一つ出来ない自分が情けなすぎて、涙が出てくる。
(このままじゃ王太子殿下にも、父や母や兄たちのように失望をされてしまう…)
焦燥感に襲われ、ますます自室に篭って勉強する時間が増えた。
9歳になり、王都の幼学校に入学した。
王都に邸宅を持つ大貴族や有力貴族の子供たちが通い、将来の国家の中枢を担う幹部候補生の卵として共に学んでいく。王太子も、同じように一生徒として入学していた。
アンネはレグノ殿下と逢える喜びで幼学校進学を心待ちにしていたけれど、実際は講義の合間に一言二言挨拶を交わせるくらいの交流しか持てない。
それでも、わずかに自由になれる時間は仔犬のようにレグノ殿下の元へ参じ、敬愛と忠誠を捧げた。殿下も心から慕うアンネに満足しているのか、アンネが来れば近くに招き、周りにもアンネは特別な存在だと公言してくれていた。
アンネはそれだけでもう感激し、ますますレグノ殿下に傾倒していった。
が、幼学校で学ぶ事と王妃教育で学ぶ事は、全く違っている。放課後はレグノ殿下たちと交流を深める時間など無く、即座に帰宅して、寸暇を惜しんで勉学に励む生活になってしまった。
アンネにとっては、唯一自分を求めてくれる大切な人と親しくなれるだろうと期待していたのに、結果、自分の愚鈍さで思ったように時間が取れず、名残惜しいまま毎度帰路につかなければならない。
当然のように、同じクラスの子たちとも仲良くなれるわけもない。ただただひたすらに、勉強だけを悲壮な顔してやりながら王太子殿下にまとわりついてる可哀想な子、と思われていた。
更に悲惨な事に、学期末の学力試験で、あれほどこれみよがしに勉強をやってみせているアンネの成績は、百人ちょっとの生徒数で総合14位という、優秀ではあるけど微妙な順位に終わっていた。その後も王妃教育との並行で疲弊し、トップ10にすら入れないどころか、最終的には30位近くまで順位を落とし、幼学校の五年間を卒業する。
フェアネスの令嬢が、だ。
同級生は、王都に住む上級貴族の子女たちだ。当然、フェアネス家と同格の家の子も居る。
その子たちが家に帰り、自分の親に何と言うか。そしてそれを聞いた口さが無い貴族の男たち女たちが、大貴族然としたフェアネス侯爵家に対し、どう思うか。
アンネの存在は、それだけでフェアネスの恥と見做されるようになり、主人を貶められる要因となったアンネを、執事や侍女といった使用人たちが更に嫌悪していくようになるのも、自然な流れだった。
それでもアンネは、ひたすらにひたむきに努力していくしかない。陰口が聞こえてきても、抗議してる暇なんて無い。
物理的に、無い。
いつの日か、王太子殿下の隣りに立つのだ。
それに足りる自分に、ならなければならない。
報われる日が、来てくれるはずだ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
幼学校を卒業した貴族の子弟たちは、その後王都の王立学園に集められ、高等教育を施される事になる。
これには王都に住む有力貴族たちだけでなく、各地方の幼学校に通っていた男爵や子爵たちの子も含まれる。ほとんどが付き人を伴った寮生活で三年間の貴族教育を受け、その後の領地経営や国家経営に携わっていくことになっていた。
この三年間は、貴族としての立身を掴むためでもあるし、パートナーを探すためでもある。将来的な社交での予行演習のような、小さな社会を築いていた。
学園では建前上、身分の差は問わず公平に学びの機会を与えられる、と謳っている。が、地方出身と王都出身は外部生、内部生と呼び合って区別され、特に内部生の中の高位貴族の子弟たちは、代々少数精鋭のサロンを結成して、学園内での自治を司る憧れとなっていた。
フェアネス侯爵家令嬢アンネセサリーも、当然、王太子と共にサロンのメンバーに選ばれた。
今年は王国の小太陽とその妃候補が入学してくるという、期待に輝いている世代なのだ。先輩方も心待ちにしていらした。
なのにアンネは、その自身に注がれる視線を、心ならずも早々に裏切ってしまった。
王妃教育が終わったアンネには、王太子妃候補、つまりは次期ロワイヨーム国王妃としての公務がのしかかってきたのだ。
王立学園の自治などにかかずらわっている時間は、愚鈍なるアンネには、とてもの事だが取れるわけがない。
学園の自治活動にはほとんど参加せず、そのくせ華々しい催し物の時だけ、ちゃっかりと王太子殿下の隣りに座る。学業が特別優秀というほどではないし、見栄えも大してずば抜けているわけでもない。
ただ、フェアネスの家に生まれた、という価値だけの女。
「それも怪しいわよね(笑)」
学園内や貴族間の噂話、果ては口さがないフェアネス家のメイドたちまで、公然とアンネを嘲笑していた。
フェアネスらしくない、という致命的な一点で、アンネはフェアネスに対する嫉妬と羨望の吐口、程のいい中傷する的に据えられた。
なのに、その陰口すら、アンネの耳には入らないのだ。確かにほんの少しは入る。わざわざ面白がって御注進してくる生徒もいたりするからだ。
だが基本的に、学園には講義中しか居らず、終わればすぐに王城へ出仕して遅くまで公務に専念し、また授業を受ける時間のためだけに学園に通う。陰口の相手してる時間がそもそも無いし、わずかに耳にした侮辱も、アンネ本人が「確かにそうだ」と素直に頷く内容だから、腹も立たない。
自分自身情けなくはあるが、同級生たちの嘲笑なぞ心底どうでもいいのだ。それより目の前の書類を、少しでも片付けていかなければならない。
いつしか、休み時間にレグノ殿下の元へ通うのも無くなっていた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
その少女の存在に気づいたのは、ニヤニヤといやらしく笑うクラスの女生徒たちに差し示されたからだった。
どうやら優秀らしき王太子殿下は、アンネと違って学業公務をなんなくこなした上で、三年間の学園生活も謳歌していた。
友人側近に囲まれクラスの中心となり、学園のイベントや催し物で評判を呼び、名声を得、すでに人気は貴族間のみならず、王都の民衆たちにも広がった王国の希望となっていた。
その王太子の側に、小柄で無邪気な少女が侍っていた。
(……誰?)
という疑問は、したり顔の女生徒が答えてくれた。
フィーユ・シャルマン男爵令嬢。
近頃頭角を顕してきた新興の地方貴族で、王都に住まない成り上がりながら、王家の覚えも悪くないらしい。
フィーユ嬢は外部生ながら学業も優秀、屈託無い可愛らしさだけでなく、しっかりとした意見も言える爽やかな少女として、レグノ殿下から目をかけられているそうだ。
なんでも、内部生と外部生のいがみ合いから、一年目二年目と当初は衝突していたのに、お互い競い合っているうちに認め合うようになって、今では内外の架け橋として、学園の皆から期待される関係になっているとか。
(知らなかった…)
自分の預かり知らぬ間に始まった彼らだけの物語は、もうどうしようもないとこまで進んでいたのだ。
(じゃあ私は、どうしたらいいの…っ?!)
レグノ殿下を盗られる、そう気づいた途端、焦燥に駆られ、冷や汗がドッと噴き出した。
視界がグルグルと眩むように回り、心臓がバクバク早鐘を打つ。思わず、理性も何もかも無くして飛び出してしまっていた。
「殿下っ!!」
悲痛な叫び。向けられる数多の視線。件の男爵令嬢は、怯えて目を見開いている。
だがそれらは一切、アンネの目には入らず、ツッと流して向けられたレグノ殿下のえもいえぬ冷たい視線に、(あ…っ)と絶望へと叩き堕とされた。
あの目、知ってる…。
誰よりも、痛いくらいに。
奈落の闇で、呼吸が止まった。
もはやわたしの言葉は、存在は、レグノ殿下にとって無意味なゴミとなったのだ。
自分が与えられた仕事をこなせぬまま生きあぐねている間に、レグノ殿下の中で存在価値を失っていたのだ。
そう、フェアネス家で両親や兄達から向けられているのと同じ、侮蔑の対象に成り下がってしまっていたのだ。
視界が、暗転した━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
気がつけば、見慣れない天井だった。
あの後昏倒し、介抱してくれた事務員たちの手で、学園の医務室に寝かされていたようだ。
重い頭を抱えて、のそりと起き上がる。医務官からは、疲労が蓄積した貧血だろう、と言われた。しばらく安静にして休みなさい、と。
(休めるわけ、なんてない…)
額に手を当てつつ窓から外を見れば、もう日が暮れているようだ。あの男爵令嬢は気になる。それ以上に、王太子の心持ちが危惧される。
しかし直近、今日やり損ねた公務の事務作業をどうしたものか、悩ましい。
公務に穴を空けたのだ。それを取り戻すのに何日かかるのか。要領の悪いアンネセサリーでは、持ち越した仕事と当日の仕事ですら、どこから手をつけたものか困惑してしまうのだ。
だから遅れを解消するため、寝食を削らねばならない。
安静になど、していられるものか。
なんやかやで、数日学園を休んで、公務の処理をした。
王太子と件の令嬢がずっと気になっていたため、いつもより更に効率が落ちて、遅れに遅れた。幸い食欲もわかず、眠る事も出来なかったため、効率の悪さはその分の時間を充てて、なんとかカバーした。
それでも脳に栄養がいってない上に余計なことも考えていたから、小さなミスをいくつか起こし、その修正でまた時間を取られた。
ようやく事務作業が平常に追いつき、久しぶりに学園に向かった。今度は週巡りで抜けた学業の埋め合わせをしなければならない。
だがそれより真っ先に、アンネセサリーには確認しなければならない事がある。
そう、王太子の事だ。
いつもなら予習復習で必死になる休息時間に、隣りのクラスの王太子の元へ向かった。
が、居ない。
どちらへ?と近くの令嬢に訊くと、クッと鼻で笑うそぶりを見せて「いつものところですわ。お邪魔するなんて野暮な事は、およしになられたら?」と言われた。その令嬢の視線を追った先に、第一と第二教棟の間の中庭で、仲睦まじく寛ぐ男女の姿。
いつものところ━━━━。
そうなのか。もう皆が、あれをそういう認識で見ているのか。
自分は用無しになった。分かっていた事だ。
フェアネス家の落ちこぼれなど、王太子には相応しくない事など…。
嫌だ!捨てられたくないっ!!
けれど、今更すがりついたところでどうにもならないのは、アンネは自分の家の中での人間関係で、痛いほど身に染みて理解している。
それでもあきらめきれない。王太子殿下は、一度はわたしを必要だと言ってくれた人なのだから。
女生徒たちの制止を振り切って足早に階下へと駆け降り、学園の内外部生たちが温かく見守って取り巻いている輪の中に、ズカズカと土足で乗り込む。眉を顰め、軽蔑の視線を送ってくる数多の目が痛い。
それでもアンネセサリーは、言わねばならない。
「殿下、わたくしという許嫁が居ながら、他の女生徒と近しくなされているのは、どういう御了見でしょうか?」
嫌味ったらしく詰ったアンネを、王太子は呆れたように一瞥し、
「学園内での生徒同士での交流は個人の自由だろう。君は許嫁といえど、他人が口を挟むものではないんじゃないかい?」
少し馬鹿にしたため息と共に、嘲笑った。
「わたくしは…っ!」
あなたの妃となるべき者ではないのか?それを他人というのか?
ぐっと唇を噛み、
「そちらの女性が、殿下の近くに侍らせるに相応しいお方だとは思えませぬ」
「それを決めるのは僕だ。君じゃない」
絶望。
忠告もお願いも、アンネの言葉はもう王太子には届かない。
自分の考えをしっかりと持った立派な王国の小太陽は、許嫁の情に絆されて意見を曲げるような不義はなさらないそうだ。
取り巻いている生徒たちが、ヤンヤヤンヤと喝采を送る。
居た堪れなくなったアンネは唇を噛んで、下を向いた。
悔しさと屈辱と、それ以上の情けなさで、ワナワナと色が変わるほど強く握り締めた拳を震わした。
キッ!と、憎々しい件の令嬢を睨みつける。
令嬢は一瞬、ビクッと肩を飛び跳ねさせ、しかしすぐ気丈にも、こちらを見つめ返してきた。
━━━━貴族らしくは、ない。
どちらかと言えば純朴。学園での一、二年間でも垢抜けしきれていなくて、小柄で華奢で、それでいて芯の通った眼差しをしている。
そんな男爵令嬢を庇うように、王太子とその側近候補の貴公子たちが割り込んで背に隠して、全員でアンネをギロリと睨みつけて威嚇してきた。
「フェアネス侯爵令嬢、あなたはもっとご自分の立場を考えられよ。身分の権勢を笠に着て弱き者を詰るなど、未来の王太子妃がやられるような事ではありませぬぞ」
王太子の側近のひとりが、凛として宣言する。
言下に、「みっともない」と侮蔑を含んで。
(あぁ、彼らの中では、わたしはとっくの昔に悪者になってたんだな…)
諦めよりも徒労感が、暗澹たる心にドッとのしかかってきた。
「そのようなつもりはありません。お話しがしたいだけです。わたくしは」
何も、知らないのだから━━━━。
言葉をつまらせるとほぼ同時に、予鈴のチャイムがカーンカーンと鳴った。
時間切れとなり、ゾロゾロと次の講義に向けて立ち去っていく生徒たち。王太子とその側近たちも、男爵令嬢を守るようにこの場を後にしていった。
惨めさいっぱいで残されたアンネセサリーは独り、トボトボと講堂に向けて重い足を引きずっていくしか、出来なかった。
翌日から、なんとか王太子殿下と話し合いは出来ないものかと、あの手この手で縋りついた。
しかし、側近たちの妨害に遭い、王太子からもあからさまに避けられ、休み時間の少ない猶予では、全く上手くいかない。
どころか、アンネセサリーの邪魔によって王太子殿下と男爵令嬢との憩いの時間が阻害されていると、アンネは関係のない生徒たちからも白い眼で見られるようになった。
学園全体が、ふたりの関係を応援しているのだ。高等部入学から二年以上かけて、彼らの物語はゆっくり丁寧に積み上げられてきたのだ。
いまさら悪役にしゃしゃり出てこられても、迷惑でしかない。
━━━━少しは空気読んで大人しくしとけばいいのに。
王太子を追いかけ回すアンネセサリーを、生徒たちは冷ややかな目で軽蔑していた。
フェアネスの出来損ない。
あれが王太子妃、ましてや将来のこの国の王妃になるかと思うと、怖気が走る。
そんな風に、皆がアンネセサリーに嫌悪を抱き出した頃、アンネが学園から長期で姿を消す事になった。
なんという朗報!
学園は再び、王太子と男爵令嬢のグループを中心とした、穏やかな日常を取り戻したのだった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
政務で大問題を抱えたアンネは、ひとまず学園を休んで、問題解消に全精力を傾ける必要に駆られていた。
十数年前に発見された、世界の極限にある亜人の国と、ロワイヨーム王国は交流を図って少しずつ易路を広げていっていた。
お互いに珍しい物品同士を売買し、交易はなかなかの利益を上げている。
だが根底に、未開の僻地の野蛮国だろうという意識があったのだろう。やり取りが増えるにつれ、徐々に、王国側の傲慢さが顕になっていった。
結果、王国は貿易で大損害を叩き出した。
そしてその解消に動いた外交上でも非礼をしでかし、亜人国から断交を宣言されてしまう。
それでもまぁ所詮は未開の亜人国、と軽視した王国は、別の国々との交易路を亜人国の干渉で細められてしまい、それまで世界で優位に立てていた制海権を圧迫される事態に陥いる大失態を演じていた。
ほんの少し前まで国を鎖ざしていたような亜人国家にしてやられたロワイヨーム王国は、事態の収拾に外交力の全てを注がざるを得ない羽目になった。
アンネはその手伝いに、資料集めやら情報集め、使者の歓待その他、求められるあらゆる裏方の雑用を担わされた。
国家の難事に、激務に追われる官僚たちの補佐をする。
彼ら実務者たちに比べれば、学生身分で遊んでいるだけのアンネセサリーは、時間が余っているだろう。ならば、それくらいはやってもらわなければ困る。
そうしてアンネは、将来の王太子妃として課せられた責務を全うするため、積み上がる業務を必死にこなしていった。
だがやはり、愚昧な脳みそだ。学園を休んで十分に確保したはずの時間でも足りず、亜人国の礼儀作法や流儀を調べて学ぶだけにも手こずり、交渉に交渉を重ねて問題解決に漕ぎ着けるまで、最終的には半年以上の日数がかかってしまった。
ようやく王国の損害を最小限に抑えつつ、亜人国側と手打ちをして新しい調印式を行えたのは、もうじき年も明けようかという、冬の頭の頃になっていた。
(もう少し調整をつけてから学園に戻ろう…)
亜人国とは、お互いの文化的価値の齟齬から行き違いが生じないよう、それぞれに外交使節団を置くようにした。相手との交渉前に、出先機関と接触してから事に当たる。もう先のような、無駄なこじれは御免だ。
その亜人国との交渉窓口役を、アンネセサリーは若輩ながら国王から命じられた。押し付けられた、とも言っていい。
他の閣僚大臣有力貴族たちはまだ亜人国を敬遠し、またはいざこざ時の無礼への憤りもあり、貧乏くじを引きたがらなかったのだ。
アンネセサリーとしては、早く面倒な残務処理を終え、業務を安定化させなければならない。その上で、亜人国との交易管理の役職を、旨味のあるものにする必要があった。
(今のままじゃ、成り手が全然居ないもの…)
違法な事は論外だけれど、役得を何か作れれば、愚鈍なアンネより優秀な人物が、亜人国との交渉役に就いてくれるだろう。王国と亜人国のためにも、それは最優先で構築しとかなきゃね。
━━━━この利益誘導の手口がどういう事態を招くか、アンネの軽い頭は気にしようともしなかった。
単純に計算して、普通の貴族令嬢の倍の勉強量だ。とてもじゃないけれど、愚鈍なアンネにはついていくのもやっとのこと。
自分の人生を犠牲にして必死に食らいつくも、すぐに落ちこぼれ、家庭教師の子爵夫人から、何度も何度も鞭で打擲された。
寝る時間を削って、吐きそうになりながら遅れた分を取り戻し、それでも全く足らずに翌日また叱責され、鞭で打たれ、更に積み上がった学習内容に押し潰される。
本来なら自分ひとりしか生徒は居ないのだから、自分に合わせた早さで教えてくれればいいはずだ。だけどそれでは、幼学校進学に間に合わないからと、容赦をしてくれない。
「貴女のお兄様方や従兄弟の方々は、こんな程度で躓いたりしなかったというのに…」
という呆れを含んだ嘆きの言葉は、子爵夫人の口癖のようになっていた。それを聞くたび、アンネは自分の哀れな脳みそを悲しく思った。何一つ出来ない自分が情けなすぎて、涙が出てくる。
(このままじゃ王太子殿下にも、父や母や兄たちのように失望をされてしまう…)
焦燥感に襲われ、ますます自室に篭って勉強する時間が増えた。
9歳になり、王都の幼学校に入学した。
王都に邸宅を持つ大貴族や有力貴族の子供たちが通い、将来の国家の中枢を担う幹部候補生の卵として共に学んでいく。王太子も、同じように一生徒として入学していた。
アンネはレグノ殿下と逢える喜びで幼学校進学を心待ちにしていたけれど、実際は講義の合間に一言二言挨拶を交わせるくらいの交流しか持てない。
それでも、わずかに自由になれる時間は仔犬のようにレグノ殿下の元へ参じ、敬愛と忠誠を捧げた。殿下も心から慕うアンネに満足しているのか、アンネが来れば近くに招き、周りにもアンネは特別な存在だと公言してくれていた。
アンネはそれだけでもう感激し、ますますレグノ殿下に傾倒していった。
が、幼学校で学ぶ事と王妃教育で学ぶ事は、全く違っている。放課後はレグノ殿下たちと交流を深める時間など無く、即座に帰宅して、寸暇を惜しんで勉学に励む生活になってしまった。
アンネにとっては、唯一自分を求めてくれる大切な人と親しくなれるだろうと期待していたのに、結果、自分の愚鈍さで思ったように時間が取れず、名残惜しいまま毎度帰路につかなければならない。
当然のように、同じクラスの子たちとも仲良くなれるわけもない。ただただひたすらに、勉強だけを悲壮な顔してやりながら王太子殿下にまとわりついてる可哀想な子、と思われていた。
更に悲惨な事に、学期末の学力試験で、あれほどこれみよがしに勉強をやってみせているアンネの成績は、百人ちょっとの生徒数で総合14位という、優秀ではあるけど微妙な順位に終わっていた。その後も王妃教育との並行で疲弊し、トップ10にすら入れないどころか、最終的には30位近くまで順位を落とし、幼学校の五年間を卒業する。
フェアネスの令嬢が、だ。
同級生は、王都に住む上級貴族の子女たちだ。当然、フェアネス家と同格の家の子も居る。
その子たちが家に帰り、自分の親に何と言うか。そしてそれを聞いた口さが無い貴族の男たち女たちが、大貴族然としたフェアネス侯爵家に対し、どう思うか。
アンネの存在は、それだけでフェアネスの恥と見做されるようになり、主人を貶められる要因となったアンネを、執事や侍女といった使用人たちが更に嫌悪していくようになるのも、自然な流れだった。
それでもアンネは、ひたすらにひたむきに努力していくしかない。陰口が聞こえてきても、抗議してる暇なんて無い。
物理的に、無い。
いつの日か、王太子殿下の隣りに立つのだ。
それに足りる自分に、ならなければならない。
報われる日が、来てくれるはずだ。
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幼学校を卒業した貴族の子弟たちは、その後王都の王立学園に集められ、高等教育を施される事になる。
これには王都に住む有力貴族たちだけでなく、各地方の幼学校に通っていた男爵や子爵たちの子も含まれる。ほとんどが付き人を伴った寮生活で三年間の貴族教育を受け、その後の領地経営や国家経営に携わっていくことになっていた。
この三年間は、貴族としての立身を掴むためでもあるし、パートナーを探すためでもある。将来的な社交での予行演習のような、小さな社会を築いていた。
学園では建前上、身分の差は問わず公平に学びの機会を与えられる、と謳っている。が、地方出身と王都出身は外部生、内部生と呼び合って区別され、特に内部生の中の高位貴族の子弟たちは、代々少数精鋭のサロンを結成して、学園内での自治を司る憧れとなっていた。
フェアネス侯爵家令嬢アンネセサリーも、当然、王太子と共にサロンのメンバーに選ばれた。
今年は王国の小太陽とその妃候補が入学してくるという、期待に輝いている世代なのだ。先輩方も心待ちにしていらした。
なのにアンネは、その自身に注がれる視線を、心ならずも早々に裏切ってしまった。
王妃教育が終わったアンネには、王太子妃候補、つまりは次期ロワイヨーム国王妃としての公務がのしかかってきたのだ。
王立学園の自治などにかかずらわっている時間は、愚鈍なるアンネには、とてもの事だが取れるわけがない。
学園の自治活動にはほとんど参加せず、そのくせ華々しい催し物の時だけ、ちゃっかりと王太子殿下の隣りに座る。学業が特別優秀というほどではないし、見栄えも大してずば抜けているわけでもない。
ただ、フェアネスの家に生まれた、という価値だけの女。
「それも怪しいわよね(笑)」
学園内や貴族間の噂話、果ては口さがないフェアネス家のメイドたちまで、公然とアンネを嘲笑していた。
フェアネスらしくない、という致命的な一点で、アンネはフェアネスに対する嫉妬と羨望の吐口、程のいい中傷する的に据えられた。
なのに、その陰口すら、アンネの耳には入らないのだ。確かにほんの少しは入る。わざわざ面白がって御注進してくる生徒もいたりするからだ。
だが基本的に、学園には講義中しか居らず、終わればすぐに王城へ出仕して遅くまで公務に専念し、また授業を受ける時間のためだけに学園に通う。陰口の相手してる時間がそもそも無いし、わずかに耳にした侮辱も、アンネ本人が「確かにそうだ」と素直に頷く内容だから、腹も立たない。
自分自身情けなくはあるが、同級生たちの嘲笑なぞ心底どうでもいいのだ。それより目の前の書類を、少しでも片付けていかなければならない。
いつしか、休み時間にレグノ殿下の元へ通うのも無くなっていた。
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その少女の存在に気づいたのは、ニヤニヤといやらしく笑うクラスの女生徒たちに差し示されたからだった。
どうやら優秀らしき王太子殿下は、アンネと違って学業公務をなんなくこなした上で、三年間の学園生活も謳歌していた。
友人側近に囲まれクラスの中心となり、学園のイベントや催し物で評判を呼び、名声を得、すでに人気は貴族間のみならず、王都の民衆たちにも広がった王国の希望となっていた。
その王太子の側に、小柄で無邪気な少女が侍っていた。
(……誰?)
という疑問は、したり顔の女生徒が答えてくれた。
フィーユ・シャルマン男爵令嬢。
近頃頭角を顕してきた新興の地方貴族で、王都に住まない成り上がりながら、王家の覚えも悪くないらしい。
フィーユ嬢は外部生ながら学業も優秀、屈託無い可愛らしさだけでなく、しっかりとした意見も言える爽やかな少女として、レグノ殿下から目をかけられているそうだ。
なんでも、内部生と外部生のいがみ合いから、一年目二年目と当初は衝突していたのに、お互い競い合っているうちに認め合うようになって、今では内外の架け橋として、学園の皆から期待される関係になっているとか。
(知らなかった…)
自分の預かり知らぬ間に始まった彼らだけの物語は、もうどうしようもないとこまで進んでいたのだ。
(じゃあ私は、どうしたらいいの…っ?!)
レグノ殿下を盗られる、そう気づいた途端、焦燥に駆られ、冷や汗がドッと噴き出した。
視界がグルグルと眩むように回り、心臓がバクバク早鐘を打つ。思わず、理性も何もかも無くして飛び出してしまっていた。
「殿下っ!!」
悲痛な叫び。向けられる数多の視線。件の男爵令嬢は、怯えて目を見開いている。
だがそれらは一切、アンネの目には入らず、ツッと流して向けられたレグノ殿下のえもいえぬ冷たい視線に、(あ…っ)と絶望へと叩き堕とされた。
あの目、知ってる…。
誰よりも、痛いくらいに。
奈落の闇で、呼吸が止まった。
もはやわたしの言葉は、存在は、レグノ殿下にとって無意味なゴミとなったのだ。
自分が与えられた仕事をこなせぬまま生きあぐねている間に、レグノ殿下の中で存在価値を失っていたのだ。
そう、フェアネス家で両親や兄達から向けられているのと同じ、侮蔑の対象に成り下がってしまっていたのだ。
視界が、暗転した━━━━━━━━━━━━
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気がつけば、見慣れない天井だった。
あの後昏倒し、介抱してくれた事務員たちの手で、学園の医務室に寝かされていたようだ。
重い頭を抱えて、のそりと起き上がる。医務官からは、疲労が蓄積した貧血だろう、と言われた。しばらく安静にして休みなさい、と。
(休めるわけ、なんてない…)
額に手を当てつつ窓から外を見れば、もう日が暮れているようだ。あの男爵令嬢は気になる。それ以上に、王太子の心持ちが危惧される。
しかし直近、今日やり損ねた公務の事務作業をどうしたものか、悩ましい。
公務に穴を空けたのだ。それを取り戻すのに何日かかるのか。要領の悪いアンネセサリーでは、持ち越した仕事と当日の仕事ですら、どこから手をつけたものか困惑してしまうのだ。
だから遅れを解消するため、寝食を削らねばならない。
安静になど、していられるものか。
なんやかやで、数日学園を休んで、公務の処理をした。
王太子と件の令嬢がずっと気になっていたため、いつもより更に効率が落ちて、遅れに遅れた。幸い食欲もわかず、眠る事も出来なかったため、効率の悪さはその分の時間を充てて、なんとかカバーした。
それでも脳に栄養がいってない上に余計なことも考えていたから、小さなミスをいくつか起こし、その修正でまた時間を取られた。
ようやく事務作業が平常に追いつき、久しぶりに学園に向かった。今度は週巡りで抜けた学業の埋め合わせをしなければならない。
だがそれより真っ先に、アンネセサリーには確認しなければならない事がある。
そう、王太子の事だ。
いつもなら予習復習で必死になる休息時間に、隣りのクラスの王太子の元へ向かった。
が、居ない。
どちらへ?と近くの令嬢に訊くと、クッと鼻で笑うそぶりを見せて「いつものところですわ。お邪魔するなんて野暮な事は、およしになられたら?」と言われた。その令嬢の視線を追った先に、第一と第二教棟の間の中庭で、仲睦まじく寛ぐ男女の姿。
いつものところ━━━━。
そうなのか。もう皆が、あれをそういう認識で見ているのか。
自分は用無しになった。分かっていた事だ。
フェアネス家の落ちこぼれなど、王太子には相応しくない事など…。
嫌だ!捨てられたくないっ!!
けれど、今更すがりついたところでどうにもならないのは、アンネは自分の家の中での人間関係で、痛いほど身に染みて理解している。
それでもあきらめきれない。王太子殿下は、一度はわたしを必要だと言ってくれた人なのだから。
女生徒たちの制止を振り切って足早に階下へと駆け降り、学園の内外部生たちが温かく見守って取り巻いている輪の中に、ズカズカと土足で乗り込む。眉を顰め、軽蔑の視線を送ってくる数多の目が痛い。
それでもアンネセサリーは、言わねばならない。
「殿下、わたくしという許嫁が居ながら、他の女生徒と近しくなされているのは、どういう御了見でしょうか?」
嫌味ったらしく詰ったアンネを、王太子は呆れたように一瞥し、
「学園内での生徒同士での交流は個人の自由だろう。君は許嫁といえど、他人が口を挟むものではないんじゃないかい?」
少し馬鹿にしたため息と共に、嘲笑った。
「わたくしは…っ!」
あなたの妃となるべき者ではないのか?それを他人というのか?
ぐっと唇を噛み、
「そちらの女性が、殿下の近くに侍らせるに相応しいお方だとは思えませぬ」
「それを決めるのは僕だ。君じゃない」
絶望。
忠告もお願いも、アンネの言葉はもう王太子には届かない。
自分の考えをしっかりと持った立派な王国の小太陽は、許嫁の情に絆されて意見を曲げるような不義はなさらないそうだ。
取り巻いている生徒たちが、ヤンヤヤンヤと喝采を送る。
居た堪れなくなったアンネは唇を噛んで、下を向いた。
悔しさと屈辱と、それ以上の情けなさで、ワナワナと色が変わるほど強く握り締めた拳を震わした。
キッ!と、憎々しい件の令嬢を睨みつける。
令嬢は一瞬、ビクッと肩を飛び跳ねさせ、しかしすぐ気丈にも、こちらを見つめ返してきた。
━━━━貴族らしくは、ない。
どちらかと言えば純朴。学園での一、二年間でも垢抜けしきれていなくて、小柄で華奢で、それでいて芯の通った眼差しをしている。
そんな男爵令嬢を庇うように、王太子とその側近候補の貴公子たちが割り込んで背に隠して、全員でアンネをギロリと睨みつけて威嚇してきた。
「フェアネス侯爵令嬢、あなたはもっとご自分の立場を考えられよ。身分の権勢を笠に着て弱き者を詰るなど、未来の王太子妃がやられるような事ではありませぬぞ」
王太子の側近のひとりが、凛として宣言する。
言下に、「みっともない」と侮蔑を含んで。
(あぁ、彼らの中では、わたしはとっくの昔に悪者になってたんだな…)
諦めよりも徒労感が、暗澹たる心にドッとのしかかってきた。
「そのようなつもりはありません。お話しがしたいだけです。わたくしは」
何も、知らないのだから━━━━。
言葉をつまらせるとほぼ同時に、予鈴のチャイムがカーンカーンと鳴った。
時間切れとなり、ゾロゾロと次の講義に向けて立ち去っていく生徒たち。王太子とその側近たちも、男爵令嬢を守るようにこの場を後にしていった。
惨めさいっぱいで残されたアンネセサリーは独り、トボトボと講堂に向けて重い足を引きずっていくしか、出来なかった。
翌日から、なんとか王太子殿下と話し合いは出来ないものかと、あの手この手で縋りついた。
しかし、側近たちの妨害に遭い、王太子からもあからさまに避けられ、休み時間の少ない猶予では、全く上手くいかない。
どころか、アンネセサリーの邪魔によって王太子殿下と男爵令嬢との憩いの時間が阻害されていると、アンネは関係のない生徒たちからも白い眼で見られるようになった。
学園全体が、ふたりの関係を応援しているのだ。高等部入学から二年以上かけて、彼らの物語はゆっくり丁寧に積み上げられてきたのだ。
いまさら悪役にしゃしゃり出てこられても、迷惑でしかない。
━━━━少しは空気読んで大人しくしとけばいいのに。
王太子を追いかけ回すアンネセサリーを、生徒たちは冷ややかな目で軽蔑していた。
フェアネスの出来損ない。
あれが王太子妃、ましてや将来のこの国の王妃になるかと思うと、怖気が走る。
そんな風に、皆がアンネセサリーに嫌悪を抱き出した頃、アンネが学園から長期で姿を消す事になった。
なんという朗報!
学園は再び、王太子と男爵令嬢のグループを中心とした、穏やかな日常を取り戻したのだった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
政務で大問題を抱えたアンネは、ひとまず学園を休んで、問題解消に全精力を傾ける必要に駆られていた。
十数年前に発見された、世界の極限にある亜人の国と、ロワイヨーム王国は交流を図って少しずつ易路を広げていっていた。
お互いに珍しい物品同士を売買し、交易はなかなかの利益を上げている。
だが根底に、未開の僻地の野蛮国だろうという意識があったのだろう。やり取りが増えるにつれ、徐々に、王国側の傲慢さが顕になっていった。
結果、王国は貿易で大損害を叩き出した。
そしてその解消に動いた外交上でも非礼をしでかし、亜人国から断交を宣言されてしまう。
それでもまぁ所詮は未開の亜人国、と軽視した王国は、別の国々との交易路を亜人国の干渉で細められてしまい、それまで世界で優位に立てていた制海権を圧迫される事態に陥いる大失態を演じていた。
ほんの少し前まで国を鎖ざしていたような亜人国家にしてやられたロワイヨーム王国は、事態の収拾に外交力の全てを注がざるを得ない羽目になった。
アンネはその手伝いに、資料集めやら情報集め、使者の歓待その他、求められるあらゆる裏方の雑用を担わされた。
国家の難事に、激務に追われる官僚たちの補佐をする。
彼ら実務者たちに比べれば、学生身分で遊んでいるだけのアンネセサリーは、時間が余っているだろう。ならば、それくらいはやってもらわなければ困る。
そうしてアンネは、将来の王太子妃として課せられた責務を全うするため、積み上がる業務を必死にこなしていった。
だがやはり、愚昧な脳みそだ。学園を休んで十分に確保したはずの時間でも足りず、亜人国の礼儀作法や流儀を調べて学ぶだけにも手こずり、交渉に交渉を重ねて問題解決に漕ぎ着けるまで、最終的には半年以上の日数がかかってしまった。
ようやく王国の損害を最小限に抑えつつ、亜人国側と手打ちをして新しい調印式を行えたのは、もうじき年も明けようかという、冬の頭の頃になっていた。
(もう少し調整をつけてから学園に戻ろう…)
亜人国とは、お互いの文化的価値の齟齬から行き違いが生じないよう、それぞれに外交使節団を置くようにした。相手との交渉前に、出先機関と接触してから事に当たる。もう先のような、無駄なこじれは御免だ。
その亜人国との交渉窓口役を、アンネセサリーは若輩ながら国王から命じられた。押し付けられた、とも言っていい。
他の閣僚大臣有力貴族たちはまだ亜人国を敬遠し、またはいざこざ時の無礼への憤りもあり、貧乏くじを引きたがらなかったのだ。
アンネセサリーとしては、早く面倒な残務処理を終え、業務を安定化させなければならない。その上で、亜人国との交易管理の役職を、旨味のあるものにする必要があった。
(今のままじゃ、成り手が全然居ないもの…)
違法な事は論外だけれど、役得を何か作れれば、愚鈍なアンネより優秀な人物が、亜人国との交渉役に就いてくれるだろう。王国と亜人国のためにも、それは最優先で構築しとかなきゃね。
━━━━この利益誘導の手口がどういう事態を招くか、アンネの軽い頭は気にしようともしなかった。
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