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本編
ドレスを仕立てる
しおりを挟むその日、父と長兄は忙しく帰宅せずだった。
(やっぱ国のお仕事って激務なんだな…)
夢でのことを思い出し、あんなのをわたしが実際にやるなんてお断りだわ!と怖気立った。
晩ごはんをさっさと食べ終えて、いつも通り引きこもり。愚鈍なわたしには、この食っちゃ寝のくらしが最高に合ってる。
フェアネス侯爵家万歳!権力万歳!いつの日か放り出されるであろうその時まで、出来る限り寄生しまくってやる。
翌日、朝食前に父から呼び出しを受けた。
(朝帰りかぁ、ホントお疲れ様ですわ)
おかげさまで、侯爵家では贅沢な食事にありつける。残飯を食らわされるのに比べ、なんと素晴らしい事だろうか。
ノックをして名乗り、執務室に招き入れられた。フェアネス侯爵の隣りには、長兄の姿もあった。
「殿下主催のお茶会だそうだな」
次兄から伝えられたであろう事情を再確認し、預けていた宝飾品を再度渡された。
「侯爵家の令嬢として、相応しい振る舞いをするように」
長兄の、吐き捨てるような警告。
釘を刺された??!
(いや、ちゃうやろ、権力で断り入れろよ!)
「承知しております」
殊勝に頭を下げたが、腹が立つ。わたし自身乗り気じゃないのに苦言言われて、朝飯前に心底気分が悪い。言っても詮ない事だけど。
食事もそこそこに、仕立て部屋に行く。
適当に端布を抜き取って、自分用のドレスを縫っていく。
夢では華々しく可愛らしいドレスに憧れあったけど、やっぱそれよりも性格的に、実用的なものの必要性に駆られる。派手にしすぎると、今回着けていくのが義務の装飾品の邪魔にもなるしね。シックな方が合うだろう。
型紙はメイド服を流用してサイズダウンさせた。ついでだから普段使い出来るのにしてしまえ。
と、自分で仕立ててたら、数日して測ったばかりのわたしのサイズ表が盗まれてしまった。メイドども、嫌がらせもホント陰湿だな。まぁ自分のサイズくらい自分の身体計ればいいだけだから、痛くも痒くもないけど。
そんなこんなで日を潰し、お茶会の前日。
次兄がわざわざわたしと侍女をドレッシングに呼んで、どうだ!と用意した衣装のお披露目をした。
「あら、わたくしの分は自分で仕立てましたから、わざわざ必要なかったですのに」
と、既に自分で仕立てたシックなドレスを慣らしで身につけていたわたしの言葉に、次兄は絶句していた。
いや、言っておいたよね?要らない、って。
話を聞けよ。
せっかくだからと、次兄があつらえてきたドレスを鑑賞してみる。フリフリのキラキラで子供こどもした、プリティーなドレスだ。
刺繍も可愛らしく繊細。ドレス全体の色味が黄色と緑青の高貴な貴族色になってる。
(なるほどね、確かにわたしくらいの年齢の女児に着せるなら、こういうのの方が可愛いわ)
使ってる生地も悪くないし、仕立ても良い。サイズも、誂えたようにピッタリだ。さすがフェアネスが購入したドレスだわ。
それを、次兄がわたしのために用意した、ってのが不思議ではあるけれども。
「とても素敵なドレスですね、ありがとうございます。ですが今回は、殿下から拝領した宝石たちを着けていかねばなりませんので…」
この子供服じゃあ、安っぽい。
「……っ!!」
次兄は一瞬、言葉を飲み込んだ。それから、「もういい!じゃあ勝手にすればいいさ!」と声を荒らげて、乱暴に扉を閉めて出て行ってしまった。
「あらら、拗ねちゃった」
メンツを潰された、とか思っちゃったかな?
侍女のアビゲイルが、呆れ顔でこっちを見てくる。知らんがな。
でもまぁ、次兄が用意してくれたアビゲイル用のドレスも、なかなかの品質だ。わたし用のとセットになってるっぽいデザインだけど、単体でも着れるでしょう。
「お兄さま、ありがたく頂戴いたしますね」
どうせならわたしのより、こっちのドレスをもう一着作ってくれてた方が良かったけれども。
「何よ、侍女のあたしにでも媚びるつもり?」
次兄が怒って出ていった時にあわあわと狼狽してたわりには、なにやらと憎まれ口を叩いてくる。自分用のドレスと言われてついうっとりと眺めてしまってたくせに、素直にならない奴だな。
「あんたなんかに、何であたしが媚びないといけないのよ?今回でも次回でも、あんたの嫁ぎ先あればさっさと片付けるためよ。理解しときなさい」
厄介払いは早い方がいいに決まってるからね。
そう言うと、アビゲイルまで不機嫌になった。なんだコイツ?
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