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学園にて
敵対すべき人
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その男の名は、スーフィフル・ホスタイルというらしい。痩せぎすで、茶色の髪を神経質な感じにセットしている。
(ホスタイル……?)
聞いた事あるような、ないような。
とにかく生徒指導の責任者で内部生の上級クラス担当教師のホスタイル氏は、挨拶して名乗っただけのわたしを最初から冷笑していた。
「『ラフネス』家の人間は、まるで躾がなってないようだな。やはり血は争えぬというわけか」
見た目の年齢からして三十代後半、世代直撃だからだろうか?同級生たちからはあまり気にされなかったラフネスの名を、明らかな嘲りを込めて当て擦られた。
(ここまであからさまな侮辱は久しぶりだなぁ……)
ウチの担任教師も同年代だろうに、わたしをラフネスだからと嫌う素振りは全然しなかった。担任が素晴らしいというより、この男が教師にあるまじき性根の奴なんだろう。
「わたしがラフネスである事と、生徒が授業終わりの放課後を自主性に委ねられるべきという事は、全く無関係ではないですか?」
「王都学園が公費で用意した寮に住みながら門限間際まで遊び呆け、観劇などという下劣な趣味に現を抜かし、風紀を乱すなど言語道断。学生の本文は学業勉学だ。放課後は自習するかクラブサークルで自己研鑽に努める。それが将来ロワイヨーム王家に奉仕する学園生としての正しい姿だろう?先生が何か間違った事言っているかね?」
軽薄に口の端を歪める。言葉の響きに、教え子たちを下に見ているニュアンスが臭った。
「勉学も確かに大切でしょうが、学園は社交に慣れる練習の場とも思います。それこそ共に学び遊び交流を深め合う事も期待されているのでは?」
「それで男遊びもお盛んなのかな?」
わたしの後ろで控えるフレンを見て侮蔑の言葉を吐いた。
「どうやらラフネスは、男も女もふしだらで賤しい血筋のようだ」
イラッ
このホスタイルという男は、何やらウチに因縁をつけるつもりらしい。
「先生、それは我が伯爵家に対する敵意と看做してよろしい発言でしょうか?」
真意はどこか?わたしへの個人攻撃をしたいのか、外部生を威圧したいのか、生徒全体を管理したいのか。
そもそも嫌われ者の田舎貴族とはいえラフネスは伯爵位だ。この男はそれを軽々しく攻撃できるほどの出身なのだろうか?と考えて、思い出した。
(あぁ、ホスタイルっていったらフェアネス侯爵家の子分だ。……じゃない、『あの女』の実家じゃないか)
つまりはこの男はわたしの……。
(うげげ……っ)
ラフネスの名前を侮辱してくるのも当然だ。スーフィフルというホスタイル子爵家三男は、若き日のフェアネス侯と共に悪のラフネス伯を退治した当事者なのだ。
そら、ウチの名前を敵視するわけだわ。
こんな危険人物がいたなんて全く考えてなかった。というか、わたしの事気づいてないよね…?
「敵意とすれば、どうすると言うのかね?決闘でも申し込むか?ラフネスが?なかなかと面白いジョークだ」
ホスタイル氏は完全にわたしを馬鹿にしたように笑った。ラフネスとして見ているのは確実のようだ。とりあえずは良かった。
「わたしは処分の正当性をお聞きしたいだけです。学園外の事まで管理されるのはいきすぎではないですか?」
「学園生徒の素行を指導するのは学園、ひいては王国の責務だろう。とりわけ品位の点で劣る外部生ならばな」
ホスタイル家は子爵で、王都貴族だ。
領地は持たず、官吏、官僚となって王家に仕えている。最初から、地方貴族を軽蔑しているのだ。
(領地経営をしたことがない小役人の家が、偉そうに……)
こっちはこっちで王都貴族を小物と侮っているのだから、分かり合えないのはお互い様だ。
それにしてもこの男、王太子殿下入学後の綱紀粛正の雰囲気をコレ幸いと利用して、外部生を管理支配する事を狙っているのだろう。そのために風紀委員を指導し、王太子殿下の意向に沿う名目で、学園の締め付けを強化しているのだ。
今の学園の息苦しさは、王太子一派だけのせいじゃなく、意図的に作られたものなのだ。
(少なくともこの教師は、その企みを具体的に進めているわ)
敵はコイツか。
明確になった。
怨敵ホスタイル氏の野望を打ち砕くためにも、その根拠となっている王太子殿下の綱紀粛正の意向を緩ませなければならない。
(まぁ、それに一番手こずってるんだけども……)
どこか周りから、外濠を埋めていく方法も考えてかなきゃいけないかもね。
(ホスタイル……?)
聞いた事あるような、ないような。
とにかく生徒指導の責任者で内部生の上級クラス担当教師のホスタイル氏は、挨拶して名乗っただけのわたしを最初から冷笑していた。
「『ラフネス』家の人間は、まるで躾がなってないようだな。やはり血は争えぬというわけか」
見た目の年齢からして三十代後半、世代直撃だからだろうか?同級生たちからはあまり気にされなかったラフネスの名を、明らかな嘲りを込めて当て擦られた。
(ここまであからさまな侮辱は久しぶりだなぁ……)
ウチの担任教師も同年代だろうに、わたしをラフネスだからと嫌う素振りは全然しなかった。担任が素晴らしいというより、この男が教師にあるまじき性根の奴なんだろう。
「わたしがラフネスである事と、生徒が授業終わりの放課後を自主性に委ねられるべきという事は、全く無関係ではないですか?」
「王都学園が公費で用意した寮に住みながら門限間際まで遊び呆け、観劇などという下劣な趣味に現を抜かし、風紀を乱すなど言語道断。学生の本文は学業勉学だ。放課後は自習するかクラブサークルで自己研鑽に努める。それが将来ロワイヨーム王家に奉仕する学園生としての正しい姿だろう?先生が何か間違った事言っているかね?」
軽薄に口の端を歪める。言葉の響きに、教え子たちを下に見ているニュアンスが臭った。
「勉学も確かに大切でしょうが、学園は社交に慣れる練習の場とも思います。それこそ共に学び遊び交流を深め合う事も期待されているのでは?」
「それで男遊びもお盛んなのかな?」
わたしの後ろで控えるフレンを見て侮蔑の言葉を吐いた。
「どうやらラフネスは、男も女もふしだらで賤しい血筋のようだ」
イラッ
このホスタイルという男は、何やらウチに因縁をつけるつもりらしい。
「先生、それは我が伯爵家に対する敵意と看做してよろしい発言でしょうか?」
真意はどこか?わたしへの個人攻撃をしたいのか、外部生を威圧したいのか、生徒全体を管理したいのか。
そもそも嫌われ者の田舎貴族とはいえラフネスは伯爵位だ。この男はそれを軽々しく攻撃できるほどの出身なのだろうか?と考えて、思い出した。
(あぁ、ホスタイルっていったらフェアネス侯爵家の子分だ。……じゃない、『あの女』の実家じゃないか)
つまりはこの男はわたしの……。
(うげげ……っ)
ラフネスの名前を侮辱してくるのも当然だ。スーフィフルというホスタイル子爵家三男は、若き日のフェアネス侯と共に悪のラフネス伯を退治した当事者なのだ。
そら、ウチの名前を敵視するわけだわ。
こんな危険人物がいたなんて全く考えてなかった。というか、わたしの事気づいてないよね…?
「敵意とすれば、どうすると言うのかね?決闘でも申し込むか?ラフネスが?なかなかと面白いジョークだ」
ホスタイル氏は完全にわたしを馬鹿にしたように笑った。ラフネスとして見ているのは確実のようだ。とりあえずは良かった。
「わたしは処分の正当性をお聞きしたいだけです。学園外の事まで管理されるのはいきすぎではないですか?」
「学園生徒の素行を指導するのは学園、ひいては王国の責務だろう。とりわけ品位の点で劣る外部生ならばな」
ホスタイル家は子爵で、王都貴族だ。
領地は持たず、官吏、官僚となって王家に仕えている。最初から、地方貴族を軽蔑しているのだ。
(領地経営をしたことがない小役人の家が、偉そうに……)
こっちはこっちで王都貴族を小物と侮っているのだから、分かり合えないのはお互い様だ。
それにしてもこの男、王太子殿下入学後の綱紀粛正の雰囲気をコレ幸いと利用して、外部生を管理支配する事を狙っているのだろう。そのために風紀委員を指導し、王太子殿下の意向に沿う名目で、学園の締め付けを強化しているのだ。
今の学園の息苦しさは、王太子一派だけのせいじゃなく、意図的に作られたものなのだ。
(少なくともこの教師は、その企みを具体的に進めているわ)
敵はコイツか。
明確になった。
怨敵ホスタイル氏の野望を打ち砕くためにも、その根拠となっている王太子殿下の綱紀粛正の意向を緩ませなければならない。
(まぁ、それに一番手こずってるんだけども……)
どこか周りから、外濠を埋めていく方法も考えてかなきゃいけないかもね。
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