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学園にて

向上心

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 後期の中間テストは、外部一年生にとって最大のネックだ。

 男子の剣術は別にして、今までの筆記試験以外に乗馬、狩猟弓術、お茶の所作やダンスの姿勢、詩作、審美学の小論文、それらを書く飾り文字に女子はパルファムの調香と聴香などなど、実技がメインになる。
 貴族マナーに不慣れな子たちでは、どうしたって点数を伸ばせない。



「内部クラスには負けたくないんだよ」
 と、クラスの子達が口を揃えて言った。外部生だからって、劣ってるなんて思われるのは嫌だ。幼学院を訪問して、余計に強く感じたらしい。

 わたしが配ったガリ版印刷の冊子を手に、神妙な顔つきになってる。


 ある程度の読んでおくべき参考文献や、どういう勉強の仕方で備えておくかなどをまとめといたものの、実践しなきゃ分からないものが多い。
 ひと通り全部読んだ上で、「無理だ…」と痛感したらしい。

 そこで、貴族出の子達を講師にして、全員で点数の底上げがしたい、という。ついてはわたしにも参加して欲しい。



(元々フィーユたちと傾向と対策を練るつもりではいたけど……)

 例えば馬術なんかは、授業以外で馬に触れる機会が無い。
 かろうじて馬術部の子たちは部活で乗れるのかな?王都貴族の内部生たちとわたしたちとでは、絶対的に条件が違う。
 外部生が出来るのは、振り落とされず優雅に姿勢よく乗るため、体幹鍛えて体力をつけとくくらいだ。

 特に今世だと、わたし自身があまり馬術を嗜んでこなかった。授業時間に少し乗っただけで、身体中がバッキバキになってた。
 横掛けで座って身体を捻って乗るなんて、どだい無茶な話だよ、ホント。
 それくらい、実技試験は外部生に不利なんだ。


 詩作と小論文も、それこそ過去に名作に触れまくって、自身の目を肥やしとかなきゃ話にならない。
 知識と教養を踏まえて課題に合った回答を求められるから、貴族の家なら幼少期から自然と教えられた常識でも、平民出の子たちじゃ問われてる意味すら分からなかったりする。


 「それでも」と皆んなからお願いされて、わたしは仕方ないなぁ…とため息ついた。
 このクラスじゃ、“伯爵家”の出のわたしが、一番貴族の嗜みに関して知ってるはずだからね。クラスに貢献しないと、高い身分に留まってる価値はない。

 貴族の子や商家の子らのそれぞれ得意な分野の手を借りて、全員でクラスの成績維持に頑張るか……。


(なんだか王太子の影響を直接受けてる内部クラスより、必死になってない?)
 前期のクラスの思わぬ好成績が、えらく大事になってしまった。

 わたしの求める楽しい学園生活、どこ行った?








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