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転換点

査読依頼

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 王国の研究機関はいくつかあるけど、農務卿管轄の薬理学研究室は王都郊外にある。


 これからそっちへ向かうと言ったら、ユージーンが同行しようと言ってきた。
「男のボクが居た方が何かと都合が良いだろう。荷物持ちでも何でもしてやるよ」
 と、話し合いに必要だと集めてた書類の束を、軽くヒョイっと持ち上げてくれる。

「あ、ありがと…」
「友達のためさ、気にするな」
 言って、スタスタと駅に向かった。

 皆んな紳士だねぇ。


 公共の乗り合い馬車で研究室近くまで移動して、そこからしばらく歩く。

 荷物はほとんど、ユージーンが持ってくれた。助かるけど、ちょっと親切にされ過ぎてて、こういうのに慣れてないから照れ臭くて居心地悪い。ユージーンからしてみれば、同じエルサを救う者同士で協力してるだけのつもりなんだろけどね。
 仕方ない、お礼に「ユージーンくんは誰にでも分け隔てなく親切だよ」とアンバーたち相手にヨイショしといてあげる事にしよう。好感度ポイント高いよ。



 到着した研究所では、建物入ってすぐのとこに案内窓口があったので、そこで該当する部署はどこかと尋ねる。アポ?取ってないよ。

 それでもロビーでしばらく待たされて、終業時間前には希望のとこに案内してもらえた。
 さすが腐っても王立学園生。王国の機関では融通が利く。それにユージーン。ラフネスの名前出さなくてもいいのは助かるわ。


 通された資料室らしき部屋で、いかにも研究者という風体の男性から、

「そんな査読依頼は受けていないな」

 と、にべもなく突っぱねられた。

 え?学園からの依頼だよ?そんなはず無いでしょう?

 隠しているのか?と強く問い詰めると、どうやら本当に依頼されていないようだ。それくらいの時期の記録には、どこにも学園からという記載が無い。
 このおじさんのわたしたちに対するつれない態度は、単に当人の地の性格っぽいのか。学生相手にも、ちゃんと台帳で確認してくれてる。


(おいおいおい、あんだけ問題視しといて検証すら妨害してるの?!)
 となると、学園運営部に対し怒りが込み上げる。
「ここじゃない別のとこと間違えた、とかじゃないのか?」
 ユージーンが論文の送り先を調べ直す?と言ってくれたけど、学園が公共機関以外に外部委託するとは思えないし、ここ以上の相応しい機関を、わたしは知らない。
 なんてったって国の機関だ。他との権威が段違いだ。

 ここに依頼してないなら、最初から論文の正誤を調べる気なんて無い証左だ。


「そもそも機関紙に乗せた時点で査読は済んでいるだろう?そこが問題なしと通したのなら、論旨として問題ないはずだ」

 わたしが持参したエルサの論文を軽く流し読みしながら、そのおじさん研究員はつまらなさそうに言った。パッと見でも問題らしきとこに引っかからないから、仕事でもないなら見る気にすらならないらしい。


「では改めて査読をお願いする事は可能でしょうか?」
「無理だね。仕事が立て込んでいる」
「問題なし、と添え書きいただくだけでも?」
「正式な手続きがいるんだ。適当に処理出来るものではない」

 まぁ、そらそうか。

 でも学園がやらない以上、エルサの潔白を裏付けするためには、公的機関からのお墨付きがどうしたって欲しい。


「順番抜かしの抜け道は?」
「金がかかる」
 お嬢ちゃんにはとても払えない額だよ、と、おじさん研究員はもう興味を無くしたかのように帰る支度を始めた。

 いや、待って。
「え?お金で解決できますの?」


「あぁ。依頼申請窓口でここへの寄付を申し出れば、額によって優先権が買えるようになってる。まぁ既に多額の寄付をしている事業者より多い金を積めなければ、そいつらの後に回されるがね」


 なら、話は早いじゃないか。

 すぐさま申請窓口で書類を書き、ついでにラフネスの手形に薬理学研究室の年間予算と同額を記して捩じ込んできてあげた。
 名義にはギョッとされたけど、王都銀行で引き落としが確認でき次第、真っ先に査読に取り掛かってくれるってさ。



「そういうところだよ、お前が男子から敬遠されてるのは……」

 ユージーンが若干引いてた。なんでじゃ。






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