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終章
この物語に終幕を。
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学園最終学齢の三年になってから、王太子たちの熱烈ラブコールが続いた。お昼休みや学園行事などでは、何かとわたしを最優先にしようとしてくる。
わたしのめんどくさい出自は伏せといてね、とお願いしてたのに、内部生の王太子派が外部生の、それもラフネスのわたしを構おうとしてたら、どうしたって目立つ。
ほら、クラスの男子たちが目を白黒させちゃってるじゃない。
げっ、バヴァルダージュ嬢が話を聞きたそうにうずうずしてるよ……。ナニモハナスコトハナイデスヨ?
「学園内では内外の区別つけろ!」と貴公子どもを叱ったら、放課後にあれこれとエスコートのお誘いをされまくるようになった。
それに対し、すっかりと『ラフネス派』に鞍替えした侯爵令嬢伯爵令嬢たちが、フィーユやアンバー、エルサたちと一緒になって手厳しいダメ出しをする。
やれ流行遅れだのセンスがマッチョすぎるだの女心が分かってないだの、容赦が無い。
王太子側の男たちは手を替え品を替え、令嬢チェックをクリアしたロマンチックな演出のあれこれ使って、わたしに真心を捧げてくる。
もうお腹いっぱい……。
だいたい何で、十年近く前の子供の頃の事なんかで、こんな盛り上がってんのよ……。
王太子派の変わりように、学園内の雰囲気も見違えるほど軽くなった。
貴族たろうとする勉学にそれぞれがちゃんと努めながらも、夢で見てたような貴族の子女たちらしい適度な放蕩さを享受している。
でもようやっと気楽に、女友達たちだけじゃなく男友達とも街へ放課後デートで遊びに行ける雰囲気になったってのに、一番遊びたがってたわたしには、新宰相や各部署からの相談事があれこれと舞い込んでくるのだ。
あまりにもめんどくさいから、サッサと終わらせようと昔の記憶を元にちょこちょことアドバイスしたら、素晴らしい!なんという着眼点!お噂通りの叡智だ!と祭り上げられ、余計に忙しくなってしまう。
ちゃうやん。
シャルマン男爵家一派は王家に取り立てられ、王統派の財政補強がなされつつ、王弟派やフェアネス侯爵家が牽制されるようになった。
特にフェアネス家は、次男リチェーンジとリヴァル侯爵家長女アデールとの過去のロマンスが問題となり、逆に王太子派に取り込まれる形になってしまった。リヴァル侯爵家二女のドリアーヌ嬢がくすくすとほくそ笑んでて、ちょっと怖い。
なにより東亜國との貿易が大成功し、ロワイヨーム王家の地盤が確固たるものとなって繁栄の基礎を築き上げた。
夢の中で知識を得ていたため、先手先手を打つことが出来て、二つの文化の交流は歴史的な偉業となった。
人流、物流、文化の流動は繁栄と混乱をもたらすものだが、その起きるであろう問題をさっさと制度で解決する事で、王国と東亜国双方共に、旨味だけをたっぷりと謳歌する事が出来た。
もはやロワイヨーム王家の王権に疑いを持つ者は、議会派にすら居なくなった。誰もが国王と王太子を褒め称える。その下で、王統派と議会派は互いを認め合い、大いに議論し、国の発展に寄与する事になるのだった。
まぁ、そのほとんどが、クソ宰相の手柄になったんだけれども━━━━。
巨大な権勢を誇るようになったディネイト新宰相が、どこかで王位の簒奪なり傀儡化なりを画策するかとずっと警戒していたのに、意外にも王家への忠誠心を失わず誠実に仕えていた。
でも、ずっとわたしを王太子妃にしようと動いていたのは、ホント迷惑この上ないんだよね……。
王太子からのラブコールには、一度冗談で「臣籍降下して伯爵家継ぐならいいよ?」と言ったら、本気で継承権返上しようとしたので慌ててみんなで止めた。
つーか殿下、別にわたしと恋仲になりたいとか思ってないよね?恋心ってより、むしろフィーユが殿下に向けてた憧れとか郷愁とか、そういうのに似た感情でわたしを見てるよね……。
だからわたしは聖女でもなんでも無いってば。何だよ聖女って。マジで。
わたしにとっては伯爵家の後継をどうするかが唯一の目標だった。けど、もたもたしてる間におばあさまから、「わたしは用無しだ」と通告されてしまった。
どういう事?!と思ってたら、王都貴族のスーブレト男爵家から息女のアビゲイル侍従長を伯爵家に貰い受け、五人の男を婿養子にして継がせる、という。
は?何その逆ハーレム??
アビゲイルがいつまでもひとりを選ばなくてもどかしいから、無理矢理に強制したらしい。
生まれた子が誰の子であろうと、アビゲイル次期伯爵の産んだ子にラフネス伯爵家を継がせるんだってさ。
「え、でもそうなると、わたしの立ち位置は……?」
大急ぎで返信の手紙書いたら、
「さぁ、知らないねぇ。どこへなりとも嫁に行けばいいんじゃないかい?」
にべもなく突っぱねられてしまった。
いや、外堀埋め過ぎでしょ…。実の孫になんたる仕打ち…っ!!
「あの子にさんざん身を固めろって言ってたんだ。自分も良縁が寄ってきたなら、さっさと掴んで結んじまいな」
いややー!王太子妃なんて嫌やーっ!働きたくないんやー!贅沢したいんやー!遊びたいんやー!何もせずゴロゴロしたいんやー!
なんて、家庭の事情を皆んなに愚痴って意気消沈してると、
「ならば、私めの伴侶はいかがですかな?」
キザったらしく声をかけられる。
げっ、クソ宰相!わたしに余計な仕事運んでくる筆頭じゃねーか!
無し無し!論外よ!
「我が将軍家なら、家を守っていただけるだけで大丈夫ですよ?」
将軍家子息のレジオン・ド・ヌール卿が、プレゼンに参加する。
アンタんとこは質実剛健で、贅沢のゼもあらへんやんけ。不合格!
「ボクは文官の長になってみせます!アンネ様ひとりの贅沢くらい、叶えてみせましょう!」
力いっぱいアピールしてくるシリウス・プロキオン子爵令息。キミみたいな汚職にガッツリ関われるポジションで贅沢なんてやったら、首がいくつあっても足りなくなるわ!!
「フッ、やはり皆のためにも私が頑張らなくてはならないようだね。さぁアンネセサリー嬢、どうぞ私の手を取り、共に王国の繁栄のために尽くしましょう」
求道者だった頃の彼からは想像つかないような甘い声で、王太子殿下は片膝つき、わたしに十何回目かのプロポーズを捧げる。
王太子妃なんて、絶対いやじゃーーーーーーっっ!!!
「━━━━ホント、比較対象を持ってない子を口説くのって、大変なのね……」
「ホント、ホント(笑)」
エルサとアンバーの、呆れながらもおかしみに笑みが溢れてしまってる声。
「何の話ですの?」
すっかり打ち解けた間柄になったリヴァル侯爵令嬢の疑問に、
「自分が相手にとってどう魅力的かアピールするのは難しいね、って話らしいよ」
コーニーとお菓子を頬張ってるフィーユが、ニコニコと答える。
「いやマジ、王太子さま頑張れ~」
女友達たちは平和で楽しい日常を、心ゆくまで満喫するのだった。
わたしのめんどくさい出自は伏せといてね、とお願いしてたのに、内部生の王太子派が外部生の、それもラフネスのわたしを構おうとしてたら、どうしたって目立つ。
ほら、クラスの男子たちが目を白黒させちゃってるじゃない。
げっ、バヴァルダージュ嬢が話を聞きたそうにうずうずしてるよ……。ナニモハナスコトハナイデスヨ?
「学園内では内外の区別つけろ!」と貴公子どもを叱ったら、放課後にあれこれとエスコートのお誘いをされまくるようになった。
それに対し、すっかりと『ラフネス派』に鞍替えした侯爵令嬢伯爵令嬢たちが、フィーユやアンバー、エルサたちと一緒になって手厳しいダメ出しをする。
やれ流行遅れだのセンスがマッチョすぎるだの女心が分かってないだの、容赦が無い。
王太子側の男たちは手を替え品を替え、令嬢チェックをクリアしたロマンチックな演出のあれこれ使って、わたしに真心を捧げてくる。
もうお腹いっぱい……。
だいたい何で、十年近く前の子供の頃の事なんかで、こんな盛り上がってんのよ……。
王太子派の変わりように、学園内の雰囲気も見違えるほど軽くなった。
貴族たろうとする勉学にそれぞれがちゃんと努めながらも、夢で見てたような貴族の子女たちらしい適度な放蕩さを享受している。
でもようやっと気楽に、女友達たちだけじゃなく男友達とも街へ放課後デートで遊びに行ける雰囲気になったってのに、一番遊びたがってたわたしには、新宰相や各部署からの相談事があれこれと舞い込んでくるのだ。
あまりにもめんどくさいから、サッサと終わらせようと昔の記憶を元にちょこちょことアドバイスしたら、素晴らしい!なんという着眼点!お噂通りの叡智だ!と祭り上げられ、余計に忙しくなってしまう。
ちゃうやん。
シャルマン男爵家一派は王家に取り立てられ、王統派の財政補強がなされつつ、王弟派やフェアネス侯爵家が牽制されるようになった。
特にフェアネス家は、次男リチェーンジとリヴァル侯爵家長女アデールとの過去のロマンスが問題となり、逆に王太子派に取り込まれる形になってしまった。リヴァル侯爵家二女のドリアーヌ嬢がくすくすとほくそ笑んでて、ちょっと怖い。
なにより東亜國との貿易が大成功し、ロワイヨーム王家の地盤が確固たるものとなって繁栄の基礎を築き上げた。
夢の中で知識を得ていたため、先手先手を打つことが出来て、二つの文化の交流は歴史的な偉業となった。
人流、物流、文化の流動は繁栄と混乱をもたらすものだが、その起きるであろう問題をさっさと制度で解決する事で、王国と東亜国双方共に、旨味だけをたっぷりと謳歌する事が出来た。
もはやロワイヨーム王家の王権に疑いを持つ者は、議会派にすら居なくなった。誰もが国王と王太子を褒め称える。その下で、王統派と議会派は互いを認め合い、大いに議論し、国の発展に寄与する事になるのだった。
まぁ、そのほとんどが、クソ宰相の手柄になったんだけれども━━━━。
巨大な権勢を誇るようになったディネイト新宰相が、どこかで王位の簒奪なり傀儡化なりを画策するかとずっと警戒していたのに、意外にも王家への忠誠心を失わず誠実に仕えていた。
でも、ずっとわたしを王太子妃にしようと動いていたのは、ホント迷惑この上ないんだよね……。
王太子からのラブコールには、一度冗談で「臣籍降下して伯爵家継ぐならいいよ?」と言ったら、本気で継承権返上しようとしたので慌ててみんなで止めた。
つーか殿下、別にわたしと恋仲になりたいとか思ってないよね?恋心ってより、むしろフィーユが殿下に向けてた憧れとか郷愁とか、そういうのに似た感情でわたしを見てるよね……。
だからわたしは聖女でもなんでも無いってば。何だよ聖女って。マジで。
わたしにとっては伯爵家の後継をどうするかが唯一の目標だった。けど、もたもたしてる間におばあさまから、「わたしは用無しだ」と通告されてしまった。
どういう事?!と思ってたら、王都貴族のスーブレト男爵家から息女のアビゲイル侍従長を伯爵家に貰い受け、五人の男を婿養子にして継がせる、という。
は?何その逆ハーレム??
アビゲイルがいつまでもひとりを選ばなくてもどかしいから、無理矢理に強制したらしい。
生まれた子が誰の子であろうと、アビゲイル次期伯爵の産んだ子にラフネス伯爵家を継がせるんだってさ。
「え、でもそうなると、わたしの立ち位置は……?」
大急ぎで返信の手紙書いたら、
「さぁ、知らないねぇ。どこへなりとも嫁に行けばいいんじゃないかい?」
にべもなく突っぱねられてしまった。
いや、外堀埋め過ぎでしょ…。実の孫になんたる仕打ち…っ!!
「あの子にさんざん身を固めろって言ってたんだ。自分も良縁が寄ってきたなら、さっさと掴んで結んじまいな」
いややー!王太子妃なんて嫌やーっ!働きたくないんやー!贅沢したいんやー!遊びたいんやー!何もせずゴロゴロしたいんやー!
なんて、家庭の事情を皆んなに愚痴って意気消沈してると、
「ならば、私めの伴侶はいかがですかな?」
キザったらしく声をかけられる。
げっ、クソ宰相!わたしに余計な仕事運んでくる筆頭じゃねーか!
無し無し!論外よ!
「我が将軍家なら、家を守っていただけるだけで大丈夫ですよ?」
将軍家子息のレジオン・ド・ヌール卿が、プレゼンに参加する。
アンタんとこは質実剛健で、贅沢のゼもあらへんやんけ。不合格!
「ボクは文官の長になってみせます!アンネ様ひとりの贅沢くらい、叶えてみせましょう!」
力いっぱいアピールしてくるシリウス・プロキオン子爵令息。キミみたいな汚職にガッツリ関われるポジションで贅沢なんてやったら、首がいくつあっても足りなくなるわ!!
「フッ、やはり皆のためにも私が頑張らなくてはならないようだね。さぁアンネセサリー嬢、どうぞ私の手を取り、共に王国の繁栄のために尽くしましょう」
求道者だった頃の彼からは想像つかないような甘い声で、王太子殿下は片膝つき、わたしに十何回目かのプロポーズを捧げる。
王太子妃なんて、絶対いやじゃーーーーーーっっ!!!
「━━━━ホント、比較対象を持ってない子を口説くのって、大変なのね……」
「ホント、ホント(笑)」
エルサとアンバーの、呆れながらもおかしみに笑みが溢れてしまってる声。
「何の話ですの?」
すっかり打ち解けた間柄になったリヴァル侯爵令嬢の疑問に、
「自分が相手にとってどう魅力的かアピールするのは難しいね、って話らしいよ」
コーニーとお菓子を頬張ってるフィーユが、ニコニコと答える。
「いやマジ、王太子さま頑張れ~」
女友達たちは平和で楽しい日常を、心ゆくまで満喫するのだった。
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完結おめでとうございます。
最後までワクワクと楽しませていただきました。
アビゲイルの逆ハーの話や、フェアネス家次男視点の話なども読んでみたいなーと思いつつ、とりあえずこの完結の余韻を楽しみます(笑)
素敵な作品をありがとうございました。
コメント本当にありがとうございました。
頂けた感想は、想像していたよりもはるかに力となりました。
自分が読みたい事だけ書き散らせたらそれでいいやと始めたモノに思わぬ共感をいただけて、それが原動力となって思い描いていたラストまで完走する事が出来ました。
途中どうしても解決しとかなきゃ収まりが悪い展開があって、文章の未熟さもあって「あれ?」と思われたかも知れませんが(笑)、お陰様で最後あたりは元のイメージしてた通りに書き上げれたと思います。
このパターンが好きなのは自分ひとりじゃないんだと思えたのは望外の収穫でした。
読んでいただき、心より感謝申し上げます。
返信長文失礼しました。
完結ありがとうございます。
サリーちゃん、良かったねえ!という思いをアビゲイルさんが全て持って行ってしまいました。
どういうこと?
サラッと流さないで!
その逆ハーの成り立ちをぜひとも詳しくお願いします!
という気持ちで今溢れています。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
自分だけが楽しめればいいやっていう独りよがりな気分で始めた物語を、何人かの方々にも共感してもらえて、とても嬉しく思っています。
アビゲイルみたいな、いつの間にか成長してた頼れるキャラって、良いですよね…。
主人公に逆ハーレムは難しいので、代わりにダイジェストでヒロインやってもらいました。
数ある作品の中からコレを探し出して読んでくださり、本当にありがとうございました。なんとか書きたいこと全部書ききる事が出来ました。多謝!
とうとう身バレ!待ってました!
コメントありがとうございます。自分が読みたいシチュエーションを好きなだけ書き込む事が出来ました。共感していただける展開があったのなら嬉しいです。数多ある物語の中から見つけていただいてありがとうございました。