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Trash Land
death player II
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その歓楽街のすぐ西側には高級マンションが立ち並んでおり、路地裏とは全く違う様相を呈している。
何故このような、いわば光と影のように対照的な街になったのか、それはこの都市を創造した人々ですら判らないだろうし、予測すら出来なかっただろう。
マンションはどれも巨大で、低いものですら50階を越えるほどだった。
そしてそれらは中心に行くほど高くなっており、遠目にはそれが一つの建造物にすら見える。
その姿は神々を降臨させるべく創られたもののように神秘的で、荘厳な印象を人々に与えている。そしてこのマンション群を、人々はこう呼んでいた。
「『バビロン・タワー』……か」
歓楽街とマンション群を一望出来るマンションの一室から、外に輝くネオンと小さく細かい明りを点々と発しているマンション群を見詰めながら、ジェシカ・Vは溜息をついた。
彼女のマンションは歓楽街の丁度南側にあり、そのマンション群――「バビロン・タワー」とも比較的に近い。
「羨ましいとは思わないなぁ……」
「バビロン・タワー」に憧れていた時期もあったが、考えてみればあんな得体の知れない場所より普通のマンションの方がずっと良い。それに……。
「あそこって、一体どのくらいするんだろう?」
値段が気になって仕方がない。そもそもあんな所、一体誰が住むんだろう?
「きっと納税率が遥かに多い人が住むんだわ」
億万長者とは言わない。それが彼女にとってのささやかな抵抗だった。
だがそれでも、言っていて虚しくなってくる。そしてそんな自分が嫌いだ。
彼女は思考を切り替えることにしたが、どうしても窓の外から見える「バビロン・タワー」と自分のマンションを比べてしまう。
「比べたって、仕方ないのにね……」
独白する。更に、伝承と同じく崩壊すればいいのにと、わりと本気で邪悪な考えが浮かんで、だがすぐに頭を振ってその思考を追い出した。
因みに彼女のマンションはワンフロアのリビングの他に寝室とダイニングキッチンがある、俗に言う1LDKだ。トイレと浴室は同然別個にある。ユニットバスは御免だ。
「息抜きのつもりだったんだけどね……」
窓のブラインドを降ろし、コンピューターのモニターを一瞥する。それには機械と生体との不具合に付いてまとめたものが表示されている。
「全然そうならなかったなぁ。レポートの提出、明日なのに……」
考えていても仕方ない。そう思い、今度こそ気分を変えるべくシャワーを浴びることにした。
だが気分を変えるというのは言い訳でしかないことに、実は気付いていた。
本当は想い出したかったのだ、あのときのこと、あの人のことを。
「想い出しても、仕方ないのにね……」
シャワーを浴びる度、自分が裸になる度に、あの人のことが思い出される。
自分の左胸には、懐中時計と重なる月の刺青が刻まれている。
これはあの人との誓いの証し、もう二度と離れることがないように刻んだもの。
そして、あの人の〝能力〟を象徴するもの。
〝時間〟と〝月〟。
あの人の左胸にも、同じ刺青がある。二人で、同じものを刻んだから。
「あの人は――だよね。私が、間違える筈ないもの……」
五年前に起きたあの事故から私を救い出して、だけどそれが原因で生体として再生不能となったあの人。
そして自分の父である生体機械工学者ラッセル・Vが、その全ての知識と技術を注いで生き長らえたあの人。
狂科学者と呼ばれ、数々の〝サイバー・ドール〟や〝サイ・デッカー〟を創り出した父。
だが人の親としては他の誰と比べても恥ずかしくない、優しい父だった。
「この思い出より……『バビロン・タワー』の方がましだったかな……」
頭からシャワーを浴び、金色の髪が顔を覆う。
それは、今自分がその青い瞳を濡らしているのを否定するための行為かも知れない。
辛過ぎる想い出、自分には優しかった父は、もういない。そしてあの人は……
「一体、何処にいるのよ……」
以前、一度だけ見たことがある。
漆黒のコートを羽織り、黒錆色の長い髪を靡かせて戦う非情な〝ハンター〟。
顔の半分を隠すかのように大きなサングラスをしていたために顔は良く解らなかったが、彼は間違いなくあの人だ。
「ずっとずっと、捜していたんだから……逢いたいよ、『――』」
あの人の名を呼び、顔を拭う。
どんなことをしていてもいい、どんな姿をしていても構わない、生きていてくれさえすれば。
生きて逢えれば、また自分の時間は動き出す。
そう、自分は五年前から時間が止まっている。身体は大人になっても、どれだけ知識を得ようとも、心はまだ少女のままだ。
「早く、私を見つけてよ『――』。じゃないと、私、消えちゃいそうだよ……」
彼に関する情報は集めた。大した情報ではないが。そしてハンターギルドにも行った。
更に水晶の森美術公園にいるという情報屋にも会った。残念だが彼の情報は高過ぎて買えなかったが、それでも自分が彼を捜しているという『情報』は流れるだろう。
リスクは高いが、効果的な筈。後は、信じて待つだけ。彼が、自分を捜しているという女の『情報』を掴み、会いに来るのを待つだけ……。
何故このような、いわば光と影のように対照的な街になったのか、それはこの都市を創造した人々ですら判らないだろうし、予測すら出来なかっただろう。
マンションはどれも巨大で、低いものですら50階を越えるほどだった。
そしてそれらは中心に行くほど高くなっており、遠目にはそれが一つの建造物にすら見える。
その姿は神々を降臨させるべく創られたもののように神秘的で、荘厳な印象を人々に与えている。そしてこのマンション群を、人々はこう呼んでいた。
「『バビロン・タワー』……か」
歓楽街とマンション群を一望出来るマンションの一室から、外に輝くネオンと小さく細かい明りを点々と発しているマンション群を見詰めながら、ジェシカ・Vは溜息をついた。
彼女のマンションは歓楽街の丁度南側にあり、そのマンション群――「バビロン・タワー」とも比較的に近い。
「羨ましいとは思わないなぁ……」
「バビロン・タワー」に憧れていた時期もあったが、考えてみればあんな得体の知れない場所より普通のマンションの方がずっと良い。それに……。
「あそこって、一体どのくらいするんだろう?」
値段が気になって仕方がない。そもそもあんな所、一体誰が住むんだろう?
「きっと納税率が遥かに多い人が住むんだわ」
億万長者とは言わない。それが彼女にとってのささやかな抵抗だった。
だがそれでも、言っていて虚しくなってくる。そしてそんな自分が嫌いだ。
彼女は思考を切り替えることにしたが、どうしても窓の外から見える「バビロン・タワー」と自分のマンションを比べてしまう。
「比べたって、仕方ないのにね……」
独白する。更に、伝承と同じく崩壊すればいいのにと、わりと本気で邪悪な考えが浮かんで、だがすぐに頭を振ってその思考を追い出した。
因みに彼女のマンションはワンフロアのリビングの他に寝室とダイニングキッチンがある、俗に言う1LDKだ。トイレと浴室は同然別個にある。ユニットバスは御免だ。
「息抜きのつもりだったんだけどね……」
窓のブラインドを降ろし、コンピューターのモニターを一瞥する。それには機械と生体との不具合に付いてまとめたものが表示されている。
「全然そうならなかったなぁ。レポートの提出、明日なのに……」
考えていても仕方ない。そう思い、今度こそ気分を変えるべくシャワーを浴びることにした。
だが気分を変えるというのは言い訳でしかないことに、実は気付いていた。
本当は想い出したかったのだ、あのときのこと、あの人のことを。
「想い出しても、仕方ないのにね……」
シャワーを浴びる度、自分が裸になる度に、あの人のことが思い出される。
自分の左胸には、懐中時計と重なる月の刺青が刻まれている。
これはあの人との誓いの証し、もう二度と離れることがないように刻んだもの。
そして、あの人の〝能力〟を象徴するもの。
〝時間〟と〝月〟。
あの人の左胸にも、同じ刺青がある。二人で、同じものを刻んだから。
「あの人は――だよね。私が、間違える筈ないもの……」
五年前に起きたあの事故から私を救い出して、だけどそれが原因で生体として再生不能となったあの人。
そして自分の父である生体機械工学者ラッセル・Vが、その全ての知識と技術を注いで生き長らえたあの人。
狂科学者と呼ばれ、数々の〝サイバー・ドール〟や〝サイ・デッカー〟を創り出した父。
だが人の親としては他の誰と比べても恥ずかしくない、優しい父だった。
「この思い出より……『バビロン・タワー』の方がましだったかな……」
頭からシャワーを浴び、金色の髪が顔を覆う。
それは、今自分がその青い瞳を濡らしているのを否定するための行為かも知れない。
辛過ぎる想い出、自分には優しかった父は、もういない。そしてあの人は……
「一体、何処にいるのよ……」
以前、一度だけ見たことがある。
漆黒のコートを羽織り、黒錆色の長い髪を靡かせて戦う非情な〝ハンター〟。
顔の半分を隠すかのように大きなサングラスをしていたために顔は良く解らなかったが、彼は間違いなくあの人だ。
「ずっとずっと、捜していたんだから……逢いたいよ、『――』」
あの人の名を呼び、顔を拭う。
どんなことをしていてもいい、どんな姿をしていても構わない、生きていてくれさえすれば。
生きて逢えれば、また自分の時間は動き出す。
そう、自分は五年前から時間が止まっている。身体は大人になっても、どれだけ知識を得ようとも、心はまだ少女のままだ。
「早く、私を見つけてよ『――』。じゃないと、私、消えちゃいそうだよ……」
彼に関する情報は集めた。大した情報ではないが。そしてハンターギルドにも行った。
更に水晶の森美術公園にいるという情報屋にも会った。残念だが彼の情報は高過ぎて買えなかったが、それでも自分が彼を捜しているという『情報』は流れるだろう。
リスクは高いが、効果的な筈。後は、信じて待つだけ。彼が、自分を捜しているという女の『情報』を掴み、会いに来るのを待つだけ……。
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