56 / 75
Trash Land
impossible is made possible II
しおりを挟む
データの転送は既に終わっている。だがそれは〝RAR・ラボ〟の中に満たされている羊水に浸かっている状態でしか効果を発揮しない。
そしてこの状態――脳と脳幹のみで其処から出てしまうと、もう二度と再生は出来ない。
この瞬間、ジェシカは死んでしまった。
「さて、そのデータを渡して貰おうか」
床を濡らす羊水や、押し流されたジェシカのそれに一瞥すら与えず、彼はベスの傍を素通りしてキーボードに手を掛ける。そしてキーを打ち始めた。
ベスは、その場に崩れ落ちて自失している。
やがてマスターデータが入っている記録キューブを取り出し、マーヴェリーは満足げに笑った。
それを懐に仕舞いその場を去ろうとしたとき、病棟の入り口に立っている人物――ファウル・ウェザーが目に付いた。
「おやおや、これは困った。最も会いたくない方に遭ってしまいましたね」
呟き、溜息を吐いて再び腕に風を纏う。
だがファウル・ウェザーはそれを無視して、床で蹲っているベスに近付き、抱き起こした。
「……ほう、私とは戦わないのですか?」
腰に手を当て、心の底から意外そうに言う。それを聞き、彼は鼻で笑った。
「私が手を下すまでもない。貴様は【Vの子供達】最後の一人が消し去るだろう。……さあ、もう全ての治療は終わった。いい加減に起きろ――〝Seelie Court〟」
傍にあるジェシカの脳と脳幹を愛おしげに撫でる。
そしてそれが合図であったかのように、脳細胞が、そうなる筈がないのに、脈動し始めた。
脳が急激に成長し、その表面が高質化して頭蓋となった。
脳幹が延びて脊髄を形作り、更に頸椎、胸椎、腰椎が滲み出る様にして生えて来る。
頸椎から肩甲骨、鎖骨、胸骨が生え、その胸骨が延びて肋骨を形作っていく。
腰椎から骨盤が延び、其処から大腿骨が続けて延びる。
肋骨が形作られると、今度はその内側に内臓器官が滲み出る様にして形作られた。
肩甲骨から上腕骨が延び、更に前腕の橈骨、尺骨と手根骨が形成られ、その手が床につくと中手骨と基節骨、中節骨、そして末節骨が生え、途端に神経系、腱、筋肉が滲み出る。
その出来事に、マーヴェリーは言葉を失った。
なんの手助けもなく脳が勝手に成長し、そして人を形成するなどということは出来る筈がない。
それに、これほどまでに急激に成長することは有り得ないのだ。
見る限りその再生能力は〝ヒーラー〟を軽く凌駕する。
再生を続けるそれを見詰めていたマーヴェリーは我に返ると、両手に風を纏わせて叩き付けた。
彼の本能が、それは危険だと判断したのである。
だがその風は、再生途中で所々骨格が覗く筋肉組織が剥き出しの腕に阻止された。
「……いきなり……なにをするの?」
自分を攻撃する風を消し去り、再生途中のその人物が言う。筋肉組織はいつの間にか皮膚に覆われ、完全に人として再生が終了していた。
「お前は、一体なんなんだ!?」
そのあまりに非常識な出来事を、マーヴェリーは否定した。そんなことが、物理的にあり得る筈はない。
だが目の前で起きた出来事も、事実に他ならないのに。
「私……私は……」
銀色の膝まである長い髪を撫で、その人物は茫洋と呟いた。まだ、自分が何者かが解らないようだ。
「〝PSI〟で、一六番目の〝能力〟を知っているか?」
困惑しているマーヴェリーへ、ファウル・ウェザーが言った。
だが彼は答えない。そうする必要がないと思っているから。
彼は幾度となく、〝PSI〟を研究して新たなものがないかを模索した。
その結果、新たなものは発見出来なかった。
そして既存の一五種――〝テレキネシス〟〝リーディング〟〝テレパス〟〝スキャナー〟〝サイコプレイヤー〟〝エレクトロキネシス〟〝ヴァンパイヤ〟〝テレポーター〟〝ヒーラー〟〝サモナー〟〝エアリアル〟〝ナイトメア〟〝グラビドン〟〝イレイザー〟〝タイムウォーカー〟のみという結論に至ったのである。
だがその結論を、ファウル・ウェザーはあっさりと否定した。
「既存の一五種。まぁ、人類が習得出来るものはそれだけだろうが、実はある特定の条件とあるものが揃えば、一六番目の〝能力〟が出来上がる。それが――彼女だ」
言われた彼女は、その白く美しい裸身を隠そうともせずにただ茫洋と周囲を見回している。
その左の胸には、懐中時計と重なる月の刺青が施されていた。
「……私は……ラッセル・Vに……『作られた』――〝Seelie Court〟」
「お前は【Vの子供達】最後の一人。フィンヴァラ、DB、私、そしてリケットと続く『出来損い』達のデータを集結させて出来た……唯一の成功例」
彼女の肩に、自分が羽織っていた白衣を掛ける。彼女はそれを握り締め、俯いた。
「私は――成功例なんかじゃ……ない……だって……私……人じゃないもの……」
俯いたまま呟く。その空色の瞳が濡れ、涙が零れて来た。
自分を作るために、あの人は沢山の人を不幸にしていた。
そのデータが、自分の脳に刻み込まれている。
そして結局、あの人はなにも生み出さずに去った。
なにをしたかったのか、その目的がなにであったのか、その全ては闇の中だ。
そしてこの状態――脳と脳幹のみで其処から出てしまうと、もう二度と再生は出来ない。
この瞬間、ジェシカは死んでしまった。
「さて、そのデータを渡して貰おうか」
床を濡らす羊水や、押し流されたジェシカのそれに一瞥すら与えず、彼はベスの傍を素通りしてキーボードに手を掛ける。そしてキーを打ち始めた。
ベスは、その場に崩れ落ちて自失している。
やがてマスターデータが入っている記録キューブを取り出し、マーヴェリーは満足げに笑った。
それを懐に仕舞いその場を去ろうとしたとき、病棟の入り口に立っている人物――ファウル・ウェザーが目に付いた。
「おやおや、これは困った。最も会いたくない方に遭ってしまいましたね」
呟き、溜息を吐いて再び腕に風を纏う。
だがファウル・ウェザーはそれを無視して、床で蹲っているベスに近付き、抱き起こした。
「……ほう、私とは戦わないのですか?」
腰に手を当て、心の底から意外そうに言う。それを聞き、彼は鼻で笑った。
「私が手を下すまでもない。貴様は【Vの子供達】最後の一人が消し去るだろう。……さあ、もう全ての治療は終わった。いい加減に起きろ――〝Seelie Court〟」
傍にあるジェシカの脳と脳幹を愛おしげに撫でる。
そしてそれが合図であったかのように、脳細胞が、そうなる筈がないのに、脈動し始めた。
脳が急激に成長し、その表面が高質化して頭蓋となった。
脳幹が延びて脊髄を形作り、更に頸椎、胸椎、腰椎が滲み出る様にして生えて来る。
頸椎から肩甲骨、鎖骨、胸骨が生え、その胸骨が延びて肋骨を形作っていく。
腰椎から骨盤が延び、其処から大腿骨が続けて延びる。
肋骨が形作られると、今度はその内側に内臓器官が滲み出る様にして形作られた。
肩甲骨から上腕骨が延び、更に前腕の橈骨、尺骨と手根骨が形成られ、その手が床につくと中手骨と基節骨、中節骨、そして末節骨が生え、途端に神経系、腱、筋肉が滲み出る。
その出来事に、マーヴェリーは言葉を失った。
なんの手助けもなく脳が勝手に成長し、そして人を形成するなどということは出来る筈がない。
それに、これほどまでに急激に成長することは有り得ないのだ。
見る限りその再生能力は〝ヒーラー〟を軽く凌駕する。
再生を続けるそれを見詰めていたマーヴェリーは我に返ると、両手に風を纏わせて叩き付けた。
彼の本能が、それは危険だと判断したのである。
だがその風は、再生途中で所々骨格が覗く筋肉組織が剥き出しの腕に阻止された。
「……いきなり……なにをするの?」
自分を攻撃する風を消し去り、再生途中のその人物が言う。筋肉組織はいつの間にか皮膚に覆われ、完全に人として再生が終了していた。
「お前は、一体なんなんだ!?」
そのあまりに非常識な出来事を、マーヴェリーは否定した。そんなことが、物理的にあり得る筈はない。
だが目の前で起きた出来事も、事実に他ならないのに。
「私……私は……」
銀色の膝まである長い髪を撫で、その人物は茫洋と呟いた。まだ、自分が何者かが解らないようだ。
「〝PSI〟で、一六番目の〝能力〟を知っているか?」
困惑しているマーヴェリーへ、ファウル・ウェザーが言った。
だが彼は答えない。そうする必要がないと思っているから。
彼は幾度となく、〝PSI〟を研究して新たなものがないかを模索した。
その結果、新たなものは発見出来なかった。
そして既存の一五種――〝テレキネシス〟〝リーディング〟〝テレパス〟〝スキャナー〟〝サイコプレイヤー〟〝エレクトロキネシス〟〝ヴァンパイヤ〟〝テレポーター〟〝ヒーラー〟〝サモナー〟〝エアリアル〟〝ナイトメア〟〝グラビドン〟〝イレイザー〟〝タイムウォーカー〟のみという結論に至ったのである。
だがその結論を、ファウル・ウェザーはあっさりと否定した。
「既存の一五種。まぁ、人類が習得出来るものはそれだけだろうが、実はある特定の条件とあるものが揃えば、一六番目の〝能力〟が出来上がる。それが――彼女だ」
言われた彼女は、その白く美しい裸身を隠そうともせずにただ茫洋と周囲を見回している。
その左の胸には、懐中時計と重なる月の刺青が施されていた。
「……私は……ラッセル・Vに……『作られた』――〝Seelie Court〟」
「お前は【Vの子供達】最後の一人。フィンヴァラ、DB、私、そしてリケットと続く『出来損い』達のデータを集結させて出来た……唯一の成功例」
彼女の肩に、自分が羽織っていた白衣を掛ける。彼女はそれを握り締め、俯いた。
「私は――成功例なんかじゃ……ない……だって……私……人じゃないもの……」
俯いたまま呟く。その空色の瞳が濡れ、涙が零れて来た。
自分を作るために、あの人は沢山の人を不幸にしていた。
そのデータが、自分の脳に刻み込まれている。
そして結局、あの人はなにも生み出さずに去った。
なにをしたかったのか、その目的がなにであったのか、その全ては闇の中だ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる