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Trash Land
10the last battle I
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43番街にあるカフェ[セフィロート]にフィンヴァラが戻ったのは、18.00タイムを僅かに過ぎた頃だった。
エントランスのウッドドアに掛かっている『準備中』の札を裏返して『営業中』に変え、アンティークな鍵を挿し込み開錠して中に入る。
小売店やカフェ、レストランなど不特定多数が出入りする店舗は概ね電子キーや指紋認証、網膜パターン認証、中にはDNA認証までをも取り入れているものだが、フィンヴァラはそれらを一切使っていない。
こだわりがあるという理由ではなく、ただなんとなく、である。
それに本気で侵入しようとする者共には、どのような対策も無意味だ。
そのような者共はお行儀良く開錠作業などという面倒はしない。そのままドアをブチ破る。
薄暗い店内の照明を点けながら奧に行き、身に纏っている白いロングコートを脱いで素早く着替えて何事もなかったかのように、最初からその場にいたかのようにカウンターに立つ。
湯を沸かし、自分用に紅茶を煎れているとき、入り口が開いてドアベルが鳴った。
「イラッシャイマセ」
無表情にそう言い、入って来た客を見る。白いコートを羽織り、眼鏡を掛けた長い黒髪の女性だった。
「あー、良かった。やっぱり此処はやっていたのね」
その女性はそう言うとカウンターに座り、持っていた紙袋から食器を出した。
その食器の底には天使の絵が描かれており、更に『Sephiroth』と書かれてある。
それは[セフィロート]の食器であり、そのデザインの優美さと描かれている絵の端麗さで一部のマニアに絶大な人気があったりする。
然も、その食器をデザインをしているのがフィンヴァラであり、更にそれを描いているのも彼なのだ。
料理の腕といい、食器のデザインといい、そして画才といい、実は多才なフィンヴァラだった。
「御馳走様、マスター」
その食器をカウンターに置き、その女性は頬杖を付いて微笑みながら彼を見詰めた。そしてフィンヴァラが自分のために煎れた紅茶を見る。
「ドウ致シマシテ。ソレヨリ持ッテ来テ頂キ、有リ難ウ御座イマス。デモワザワザ洗ワナクテモ良イノデスヨ」
その視線に気付き、その女性にも紅茶を煎れる。そして更にクッキーを小皿に乗せてその前に置いた。
それを早速摘み、その女性――リエ・クラウディアは唇を尖らせた。
「洗うのは当たり前の礼儀でしょ。それに、実は全部ミィに食べられたの」
洗わなくても良いと言われたことで口を尖らせたのではなく、折角の料理を全部食べられたのが気に入らなかったらしい。
幾ら忙しくて手が離せなかったとしても、幾らフィンヴァラの料理だったとしても、全部独りで食べるのはあんまりじゃないか。そう思うリエだった。
然も、それはファウル・ウェザーがリエのために頼んだものであり、更に言うなら彼女の大好物の盛り合わせだったのだ。
「ソレハ……オ気ノ毒ニ」
「ふっふっふ、でも良いのだ。今からたっぷりとミィに奢って貰うから」
そう言い、不敵に笑うリエだった。
そして少しすると再びドアが開き、赤いコートを羽織り、薄茶色の眼鏡を掛けた女性が入って来た。
「イラッシャイマセ」
「ちょっとリエ、あたしにタクシーの料金払わせるなんて酷いじゃない。貧乏人の部下に支払いをさせるなんて、それでも貴女社長なの?」
その女性は、入って来るなりカウンターに座って落ち着いているリエに、フィンヴァラの言葉を遮るようにして捲し立てる。
だがリエは鼻で笑い、
「ふふん、私にそんなことを言って良いのかなぁ? あーあ、ファルが折角私だけのために注文してくれた、私だけのために私の大好きな物を見繕って注文してくれた料理、食べたかったなぁ……」
頬に手を当て、切なそうに溜息を吐く。それを見て、彼女――副社長兼秘書のミリアムは言葉に詰まってしまった。
「ううん、良いの、怒っていないわよ。ただ、ファルが私だけのために注文してくれた、私だけのための特別料理が食べたかっただけなのよ。あ、誤解しないで、全然怒っていないから」
不自然に、やけににこやかに笑いながら、然も「私だけのため」を強調してリエが言う。明らかに嫌がらせなのだが、自分が悪いだけに怒ることが出来ない。
あのときミリアムは、届いた出前をなにも考えずに食べてしまい、殆ど食べ終わった時点でメモに気付き、顔面蒼白になった。そのメモには流暢な文字で、
『ファウル・ウェザーより依頼されたものです。後日で構いませんので彼に連絡をして下さい』
と、書かれていた。
ファウル・ウェザーとリエの関係を、実は誰よりも詳しいミリアムだけに、その事態の深刻さに暫し頭を抱えて悩んでしまった。
別にファウル・ウェザーからリエへのものでなければ全然悩まないのだが、お互いに忙しくて逢う機会がほぼない二人だけに、たったそれだけのことがとても大切であると解っているし、それが二人を繋ぐ絆だと理解出来るから、余計に自分がしてしまったことが悔やまれてならない。
だが後悔役立たず、悩んでいても仕方ない。ミリアムは思い切ってリエに打ち明けようと思っていたら……、
「ねぇ、これって、ファルからのだよねぇ?」
時、既に遅し。
いつの間にか現れたリエが、落ちているメモを見付けてそう言った。その瞬間、ミリアムの頭の中が真っ白になり、リエが俯いてその場に座り込んでしまった。
その後一悶着あり、結局ミリアムがご飯を奢るということで手を打ったのである。
エントランスのウッドドアに掛かっている『準備中』の札を裏返して『営業中』に変え、アンティークな鍵を挿し込み開錠して中に入る。
小売店やカフェ、レストランなど不特定多数が出入りする店舗は概ね電子キーや指紋認証、網膜パターン認証、中にはDNA認証までをも取り入れているものだが、フィンヴァラはそれらを一切使っていない。
こだわりがあるという理由ではなく、ただなんとなく、である。
それに本気で侵入しようとする者共には、どのような対策も無意味だ。
そのような者共はお行儀良く開錠作業などという面倒はしない。そのままドアをブチ破る。
薄暗い店内の照明を点けながら奧に行き、身に纏っている白いロングコートを脱いで素早く着替えて何事もなかったかのように、最初からその場にいたかのようにカウンターに立つ。
湯を沸かし、自分用に紅茶を煎れているとき、入り口が開いてドアベルが鳴った。
「イラッシャイマセ」
無表情にそう言い、入って来た客を見る。白いコートを羽織り、眼鏡を掛けた長い黒髪の女性だった。
「あー、良かった。やっぱり此処はやっていたのね」
その女性はそう言うとカウンターに座り、持っていた紙袋から食器を出した。
その食器の底には天使の絵が描かれており、更に『Sephiroth』と書かれてある。
それは[セフィロート]の食器であり、そのデザインの優美さと描かれている絵の端麗さで一部のマニアに絶大な人気があったりする。
然も、その食器をデザインをしているのがフィンヴァラであり、更にそれを描いているのも彼なのだ。
料理の腕といい、食器のデザインといい、そして画才といい、実は多才なフィンヴァラだった。
「御馳走様、マスター」
その食器をカウンターに置き、その女性は頬杖を付いて微笑みながら彼を見詰めた。そしてフィンヴァラが自分のために煎れた紅茶を見る。
「ドウ致シマシテ。ソレヨリ持ッテ来テ頂キ、有リ難ウ御座イマス。デモワザワザ洗ワナクテモ良イノデスヨ」
その視線に気付き、その女性にも紅茶を煎れる。そして更にクッキーを小皿に乗せてその前に置いた。
それを早速摘み、その女性――リエ・クラウディアは唇を尖らせた。
「洗うのは当たり前の礼儀でしょ。それに、実は全部ミィに食べられたの」
洗わなくても良いと言われたことで口を尖らせたのではなく、折角の料理を全部食べられたのが気に入らなかったらしい。
幾ら忙しくて手が離せなかったとしても、幾らフィンヴァラの料理だったとしても、全部独りで食べるのはあんまりじゃないか。そう思うリエだった。
然も、それはファウル・ウェザーがリエのために頼んだものであり、更に言うなら彼女の大好物の盛り合わせだったのだ。
「ソレハ……オ気ノ毒ニ」
「ふっふっふ、でも良いのだ。今からたっぷりとミィに奢って貰うから」
そう言い、不敵に笑うリエだった。
そして少しすると再びドアが開き、赤いコートを羽織り、薄茶色の眼鏡を掛けた女性が入って来た。
「イラッシャイマセ」
「ちょっとリエ、あたしにタクシーの料金払わせるなんて酷いじゃない。貧乏人の部下に支払いをさせるなんて、それでも貴女社長なの?」
その女性は、入って来るなりカウンターに座って落ち着いているリエに、フィンヴァラの言葉を遮るようにして捲し立てる。
だがリエは鼻で笑い、
「ふふん、私にそんなことを言って良いのかなぁ? あーあ、ファルが折角私だけのために注文してくれた、私だけのために私の大好きな物を見繕って注文してくれた料理、食べたかったなぁ……」
頬に手を当て、切なそうに溜息を吐く。それを見て、彼女――副社長兼秘書のミリアムは言葉に詰まってしまった。
「ううん、良いの、怒っていないわよ。ただ、ファルが私だけのために注文してくれた、私だけのための特別料理が食べたかっただけなのよ。あ、誤解しないで、全然怒っていないから」
不自然に、やけににこやかに笑いながら、然も「私だけのため」を強調してリエが言う。明らかに嫌がらせなのだが、自分が悪いだけに怒ることが出来ない。
あのときミリアムは、届いた出前をなにも考えずに食べてしまい、殆ど食べ終わった時点でメモに気付き、顔面蒼白になった。そのメモには流暢な文字で、
『ファウル・ウェザーより依頼されたものです。後日で構いませんので彼に連絡をして下さい』
と、書かれていた。
ファウル・ウェザーとリエの関係を、実は誰よりも詳しいミリアムだけに、その事態の深刻さに暫し頭を抱えて悩んでしまった。
別にファウル・ウェザーからリエへのものでなければ全然悩まないのだが、お互いに忙しくて逢う機会がほぼない二人だけに、たったそれだけのことがとても大切であると解っているし、それが二人を繋ぐ絆だと理解出来るから、余計に自分がしてしまったことが悔やまれてならない。
だが後悔役立たず、悩んでいても仕方ない。ミリアムは思い切ってリエに打ち明けようと思っていたら……、
「ねぇ、これって、ファルからのだよねぇ?」
時、既に遅し。
いつの間にか現れたリエが、落ちているメモを見付けてそう言った。その瞬間、ミリアムの頭の中が真っ白になり、リエが俯いてその場に座り込んでしまった。
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