10番目の同級生

ジャメヴ

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製造部長大迫

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翌週月曜日
  休み明け、出勤した中西は部下達がいつもよりよく喋っている事に違和感を覚えた。何か変だなとは思うものの、話題は昨日のドラマか何かかなと思い、通常通り仕事の準備をした。
  10時の休憩時間になり、中西はいつものように食堂で休憩をする。食堂と言っても、厨房でおばちゃんが料理を作ったりする訳では無い。正面にテレビがあり、長机が8つ置いてあるだけ。弁当やパン等を食べる為の場所だ。決められている訳では無いが、左側の長机は女性、右側の長机は男性と暗黙の了解になっている。中西の特等席、前から3列目、右側の長机の左端に座り、両腕を枕代わりにうつ伏せで仮眠をとる。すると、左からヒソヒソ話が聞こえてきた。
「大迫部長不倫だそうよ」
「えっ?!  そうなの?」
「相手は松本さんだって」
「いや~、見たまんまね」
中西は寝ている振りをしながら、キッチリ聞いていた。
(そうか……。朝の話題も、もしかしたらそういう事だったのかも知れないな……)


「大迫部長、狩野常務がお呼びです」
「分かった、直ぐ行く」

コンコンコン
「どうぞ」
「失礼します。お疲れ様です」
部屋に入ると常務の狩野が神妙な面持ちで待っていた。狩野はハンサムだが、幼い目つきの為か、どこか頼り無い顔に見える。勿論、仕事は良く出来る。170センチぐらいの身長で、痩せているのにビール腹なのを気にしてか、いつも、お腹が見えないようにジャケットを脱ぐ事は無い。ただ、社員にはバレている。
  狩野はフウッと溜め息をつくと、大迫に告げた。
「御苦労様、言いづらいんだが、会社内にあなたの不倫疑惑が流れている」
「!」
「心当たりがあるようだね」
「……はい……」
「どうするか、少し考えてくれるか」
「……はい……」
大迫は自業自得の背徳感と製造部長の責任感で胸を挟み潰されそうな感覚になっていた。

30分後
コンコンコン
「どうぞ」
「失礼します」
「結論は出たかい?」
「はい。辞職させていただこうと思います」
「そうか……。事が大きくなる前に動いてくれて、うちにとっても助かるよ。君は会社に貢献してくれたし、退職金も上乗せしておく」
「ありがとうございます、御世話になりました」
「ああ、ご苦労様、今までありがとう」

  大迫は、色んな意味で迷惑を掛けるであろう家族に伝える言葉を見つける事ができず、社内のトイレで途方に暮れていた。

  大迫の送別会は、会社的に行う事は出来なかった為、小規模で行われた。少し前までは、女性社員人気も高かった大迫だが、送別会では男性4人女性2人と人気を落としていた。
「今日は私の為に集まってくれてありがとう。もう、部長でもないし、気を使わなくていいから、楽しく盛り上がろう」

「大迫さん、運が悪かったですね」
「いやいや、私の心の弱さだよ」
「しかし、手のひらを返すように、皆離れていきましたね。女性社員は特に……」
「さすがに不倫となると、女性は毛嫌いするだろう」
「しかし、松本は普通に働いてますね。製造部だったら居づらいと思いますが、他部署なんでそこまで感じないんでしょうか?  異性トラブルに慣れてるんですかね?」
「でもあれ、ハニートラップだと思うんですよ」
「?!」「えっ!」
中西が推理を話し出した。
「歓迎会の前に熊谷次長が松本さんと話してたんですけど、何か怪しい感じでした。作戦会議のような雰囲気だったんですが、部署も違うし仕事の話は、しないと思うんですよ」
「でもまあ、それだけで熊谷さんが仕向けたとは言えないし、まあ、どっちにしても私の心の隙です」
「でも、大迫部長が辞めて、うちの部署やっていけますかね?」
「まあ、熊谷次長がいるし安泰だろう」
「いやいや、100歩譲って今回の大迫さんの件が関係無いとしても、熊谷さんは昇進するなら何でもする感が出過ぎですよ。犯罪まがいの事もしてるでしょう?」
「それを含めても、彼は仕事が出来る優秀な男だよ。コスモグループは今後、彼と土井営業部長が引っ張って行くんじゃないかな。中西君も彼らについていくと出世間違い無しだよ」
「土井部長にはついていきますが、熊谷次長にはちょっと……」
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