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営業部長土井
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営業部長の土井は、見た目はパッとしないしトーク力が有る訳でも無いが、利益の出る仕事を取ってきて、利益の出ない仕事は取らないと評判の営業部のエースだった。着実に昇進し、最近は部下に仕事を任せて人材管理に重点を置いている。会長信長、社長信忠、専務信雄、常務狩野に次ぐナンバー5で次期取締役だと話題だ。そこに目をつけたのが熊谷次長だった。熊谷は身長が180センチ以上あり、かなり痩せ型の為、もっと背が高いように見える。黒縁メガネの黒髪天然パーマ。鷲鼻で頬が痩けており、ギョロッとした目は、眼鏡から飛び出てるのじゃないかと思わせる。近付きづらい見た目とは違い、話すと意外にユーモラスだ。休みの日はサイクリングを楽しんでいるようで、見た目と反して、かなり健康的。熊谷は事務の女性1人に狙いを絞り、高級レストランにイケメン社員を連れて食事会を開き、土井部長の接待と売り上げ金額のデータを手に入れる事に成功する。自分の仕事は部下に全て振り、土井の粗探しに時間を費やした。
土井に営業力があるようには思えなかった為、必ず悪い事をしていると熊谷は感じていた。だが、熊谷の思惑とは裏腹に、土井部長は接待費に金を注ぎ込むでも無く仕事を取っていた。あまりの凄さに熊谷は、土井が自腹を切って接待しているのでは無いかと心配する程だった。
土井が営業のエースとして、活躍していた約10年間のデータを見直したが、半日費やしても熊谷は悪事を1つも見つける事が出来なかった。
どんな聖人でも、営業なら叩けば埃が出る筈と考えていた熊谷は、少しの悪さもせず10年で部長に昇りつめた土井を調べれば調べる程、逆に尊敬してしまうという不思議な現象が起きていた。諦めかけていた熊谷だったが、書類の中から、あまり聞かない会社を見つけた。
ウェル株式会社
聞いた事のない会社に時々数万円の振り込みがある。尻尾を掴んだかも知れないと、熊谷はウェル株式会社に焦点を絞り、再調査を行ない、遂に証拠を押さえた。
土井のからくりとは
顧客から少しだけ多めに請求し、会社には正規の額を振り込む。その後、差額分を顧客へ返却せず、ウェル株式会社に振り込むという手口だ。ほとんど誰も損はしない、Win-Winとは、こういう事だという見本のような手口だった。土井部長は私欲の為にやってはいない。金額も少なく、顧客の担当者に金品を配れる程度の着服だ。但し、微量でも着服は犯罪だ!
熊谷は土井部長を呼び出した。
「土井部長、お疲れ様です」
「熊谷次長、どうされました?」
「ウェル株式会社についてお話を伺えないかと思いまして……」
「!!」
「勿論、御存知ですよね?」
熊谷は勝ち誇った顔を隠しきれない。
「……ええ……告発しますか?」
「いえ、しません」
「?!」
「告発すると、うちの会社や他社に迷惑が掛かります。土井部長、責任を取って辞職をしていただけませんか?」
「それだけで済ましてもらえますか?」
「ええ、殆ど誰も損はしないでしょう? Win-Winとは、こういう事です」
土井に営業力があるようには思えなかった為、必ず悪い事をしていると熊谷は感じていた。だが、熊谷の思惑とは裏腹に、土井部長は接待費に金を注ぎ込むでも無く仕事を取っていた。あまりの凄さに熊谷は、土井が自腹を切って接待しているのでは無いかと心配する程だった。
土井が営業のエースとして、活躍していた約10年間のデータを見直したが、半日費やしても熊谷は悪事を1つも見つける事が出来なかった。
どんな聖人でも、営業なら叩けば埃が出る筈と考えていた熊谷は、少しの悪さもせず10年で部長に昇りつめた土井を調べれば調べる程、逆に尊敬してしまうという不思議な現象が起きていた。諦めかけていた熊谷だったが、書類の中から、あまり聞かない会社を見つけた。
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顧客から少しだけ多めに請求し、会社には正規の額を振り込む。その後、差額分を顧客へ返却せず、ウェル株式会社に振り込むという手口だ。ほとんど誰も損はしない、Win-Winとは、こういう事だという見本のような手口だった。土井部長は私欲の為にやってはいない。金額も少なく、顧客の担当者に金品を配れる程度の着服だ。但し、微量でも着服は犯罪だ!
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「!!」
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「……ええ……告発しますか?」
「いえ、しません」
「?!」
「告発すると、うちの会社や他社に迷惑が掛かります。土井部長、責任を取って辞職をしていただけませんか?」
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