10番目の同級生

別れ

  九十九さんは表情を変えず俺を見続けていたが、少し微笑んだような感じに見えた。俺は話を続ける。
「六角にとって……と言うか、誰にとっても鍵を渡す相手は九十九さんになるだろう。だって、虫も殺さない性格だから自分が殴り殺されるなんて夢にも思わない。だが、唯一の選択ミスだった。九十九さんは六角が五木を轢き殺したと思っていた。だから、五木の敵を取るつもりで金槌を使い六角を殴り殺す。その後は八重樫に鍵を渡して完全犯罪の成立の筈だった」
「ミスは……六角君の眼鏡かな？」
「そうだね。六角の眼鏡は八重樫が踏み潰した後、フレームを蹴っ飛ばしたんだろう。三橋さんがガラスを踏んで足を切った時には既にそこに無かったんだ。でも、九十九さんは目隠しを付けていない時に、六角の近くに眼鏡が落ちていたのを見ていて無意識に言ってしまった」
「一ノ瀬君に指摘されたときにバレたかなと思っていました」
「そして、三橋さんから五木を轢き殺したのは六角ではなくて兄の信雄だと聞く」
九十九さんは目を見開いた。
「しかも、六角信雄の接待食事会に誘われるかも知れないが行くなと忠告される。だが、こんなチャンスは無い！」
九十九さんは再度、目を見開いた。
「そして、信雄を練炭自殺に見せかけて殺す」
「……全部分かっているのね」
「信雄殺害は殆ど推測だけどね」
「全部当たっているわ……。一ノ瀬君、私どうしたら良いかな？  自首すれば良い？」
九十九さんは自分で判断せず俺に意見を求めた。自首をしても、犯罪者とはいえ2人の命を奪っている。最低でも無期懲役は免れないだろう。死刑もあり得る。その為、俺に助けを求めたんだと思う。
「警察官の野々村さんが来ただろう？  その時に俺は小さなミスをしたんだ。アンケートの意図が分からず真面目に答えてしまって、六角を殺したのは九十九さんだと分かる可能性を高めてしまった。野々村さんなら気付いていると思う。だから、九十九さんが捕まるのは時間の問題だ」
九十九さんは黙ったまま俺の話を真剣に聞いている。
「俺は五木の敵討ちとして、信雄から4,000万円を奪い取ったんだ。九十九さんのように信雄を殺す事も考えたけど、五木だったらどう考えるかなと思って、命は取らず金を取ったんだ。勿論、九十九さんも五木の事を思っての行動だったと思う。結果は違ったけど、俺も九十九さんも五木の事を思って行動した仲間なんだ」
俺は徐に鞄から銀行の封筒を取り出した。
「200万円ある。これを逃走資金として使ってくれ」
「えっ！」
九十九さんは驚きの表情で声をあげた。
「俺も今更『炎のティアラ』窃盗や信雄から4,000万円脅し取った事を自首するつもりは無いし、仲間である九十九さんに捕まって欲しくは無い。逃げ切ってくれ。俺と五木の為にも。俺達はチームなんだ！」
「……分かった。逃げ切るわ」
「今日は日曜日だから野々村さん達も休みの筈。今日中に旅立てば逃げ切れる確率が上がる」
「そうね……。私、貯金が100万円あるの。それに、こんな事もあるかと思って、信雄から200万取ってきたわ。」
「やるね！  その日、信雄は300万持ってたんだな？  そのうち100万円は残して自殺の可能性を上げるなんて策士だな」
「ふふ、五木くんの力を借りて六角兄弟を倒したのは伊達じゃないわよ」


  俺を喫茶店に残して、九十九さんは軽自動車に乗り込んだ。500万円程度の資金では逃げ切る事は出来ないだろう。それでも、何故だか分からないが九十九さんが逃げ切れれば五木の死が無駄にならないような気がした。

  俺は喫茶店の中から九十九さんを見送った。
  2度と会う事は無いかも知れない仲間の1人を……。
  自分よりも五木の事が好きだった人を……。
  殺人を犯す可能性が10番目の同級生を……。


了