政府の方針で正直者になりました

tell a lie

  ナキリ君はそれを見るなり「あっ、凄い」と言った。普通の小学生であれば、何も思わないだろう。ナキリ君は英語を勉強しているから気付いたんだ。僕の名前が『tell a lie』嘘をつく、だという事を。僕は英語を勉強していないけど、ネットで『あらいてる』って調べた事があるから知っている。
「僕は産まれた時から嘘つきなんだ」
「いや、嘘つきじゃないよ」
「ん？  英語で言う時はテルアライになるでしょ？」
「いや、マイネームイズアライテルで良いんだ」
「えっ？」
「兄ちゃんの英語の教科書を見せてもらったんだけど、2020年から正式に苗字、名前の順で言うようになったらしいんだ。色んな教科書のほとんどが苗字、名前の順で書いているんだって」
「そうなんだ」
「だから、新井君は今まで嘘つきだったけど、これからは嘘つきじゃなくなるんだ。だって、これは国が決めた事だからね」
ナキリ君はニコッと微笑んで言った。
  その日以来、僕は嘘をつくのをやめた。百田達にも、もう嘘はつかないと謝った。もちろん、それも嘘かもと警戒されていたかも知れないけど、徐々に分かってくれて、小学校を卒業する頃には、昔のように一緒に遊ぶようになった。ナキリ君はと言うと、私立の小学校へ入学した。家が遠い訳でも無いし、どこかで会うだろうと思っていたけど、卒業以来会っていない。