嫉妬が憧憬に変わる時

ジャメヴ

文字の大きさ
上 下
10 / 15

塩見のタロット占い

しおりを挟む
  俺が部屋へ戻ると、スマホに塩見からの着信履歴があった。塩見はチームのムードメーカーとしては1流だけど、2人で話すと意外としんどいと感じる事がある。もちろん良い奴なのは間違い無いんだけど、こちらの気分次第では鬱陶しいと思ってしまう。だけど、今は問題無い。とにかく暇なのだから。こういう時に塩見はうってつけだった。俺は直ぐに塩見へ電話をした。
「もしもし、時雨か?」
「どうした塩見?  何かあったのか?」
「ああ、俺がタロット占いに嵌まっているのは知っているよな?」
「いや、知らね~よ!  聞いてね~し!」
「言ったよ!」
「いつだよ?!」
「今言ったじゃないか!」

  とまあ、少し相手をするのがしんどい時もあるが、今なら問題無い。今、俺はとても暇だ。余裕で相手が出来る。

「で?  そのタロット占いがどうかしたのか?」
「時雨の事を占っていたら、不吉なカードが出たんだよ」
「頼んで無いのに勝手に占うなよ」
「まあまあ」
「それで?」
「いきなり死神のカードが出たんだよ」
「まあ、出る事もあるわな。タロットの事は全く知らないけど、何か悪そうなカードだな」
「実際悪いんだよ。これから不吉な事が起こりそうな場所に行って無いか?」
「おっ!  やるじゃないか。ちょっと当たっているよ」
「その次に出たカードは皇帝なんだ。信頼できる人から連絡とかあったか?」
「信頼できる人?」
「例えば先生とか?」
「いや、無いな」
「尊敬している人とか?」
「尊敬している人ねえ……あっ!  先輩!」
「それだ!」
「塩見やるじゃないか!」
俺は暇なので塩見を担いでいる。簡単に言えば、凄いと思っているフリをしているんだ。今のところ、塩見の占いは大した事を当てていない。誰にでも当てはまる事を言っているだけだ。それを俺が強引に当たっているかのように誘導している。

◆心理学用語に『バーナム効果』と言うものがある。主に占いで使われる手法で、誰にでも当てはまる事を言って、占いが当たっていると思わせるのだ。例えば、血液型占いで言うと、A 型の人に対して、「あなたは几帳面で綺麗好きですね?」と言うと「当たってる~!」となるのだが、O 型であろうと B 型であろうと AB 型であろうと、几帳面な部分はあるし、そもそも、汚い好きの人間など存在しない。試しに、あなたと違う血液型の血液型占いの本を見てみると良い。恐らくあなたにも当てはまる筈だから◆

「その次に出たカードは女帝なんだ。母性のようなイメージだな。今日は子守りでもしていたのか?」
「いや、子守りはしてないな。子供は近くにいない」
「誰かを守ったとか?」
ボディーガードの事か!
「塩見!  その占い良い線いってるぞ」
「だろ?  よく当たるんだよ。監視でもしていたのか?」
「おお!  良いぞ塩見!」
「あとは……節制のカードが逆向きで出たんだ。何か贅沢したか?」
「贅沢?  高校生が贅沢出来ないだろ」
「何か高い物買ったとか、旨い物食べたとか」
「やるな塩見!  今日、高級寿司を食べたよ!」
俺もようやく、塩見の占いに興味を持ち出した。ドンピシャとは言わないけど、結構当たっている部分がある。
「いやいや、占い当たっているならダメだぞ。死神のカードが出ているからな。これから不吉な事が起こるぞ」
「じゃあ、対処法を占ってくれよ」
「分かった。じゃあ、ちょっと待っていてくれ」
塩見はぶつぶつ言いながらカードを引いているようだ。
「時雨……」
「どうだった?  対処法は分かったか?」
「審判のカードが逆向きで出たよ」
「それはどうなんだ?」
「ダメだ。対処法は無い……」
「何だそれ!  そんな救いようの無い占いあるのか?」
「すまん、俺では力不足のようだ」
「いやいや、何とかしろよ。嘘でも良いから」
「ダメだ、占いは絶対だ。じゃあ、俺はこれで」
「はあ?」
塩見は電話を切ったようだ。

  何だアイツ……。まあ、暇潰しにはなったけどな。

  塩見の占いが当たっているところもあったけど、俺は信心深く無い。全く気にならないタイプだった。
しおりを挟む

処理中です...