嫉妬が憧憬に変わる時

ジャメヴ

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オークション

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  そして、10年の月日が流れた。秀英は世界的にも有名な実業家となる。そこで、秀英は、博文の絵画をオークションに掛けた。1枚300万円で!  30万円でも売れなかったのに300万円で売れる筈が無い!  と思うだろう。だが、売れた!  しかも、完売!  その内1枚は、なんと1,000万円で売れた!
  秀英はどんなトリックを使ったのか?  それは、ただ1つ本当の事を伝えただけだった。

『王秀英の兄が描いた、幻の絵画5点』

  芸術作品というのは9割方、付加価値で決まると言って良い。もちろん、作品の良さで高値がつく物もある。だが、その作者の作品が数点しかないと分かったら作品の値段はさらに跳ね上がる。もし、その作者が亡くなったら……。そう、芸術作品の値段は付加価値で決まるのだ。その典型の代表と言えばゴッホだろう。諸説あるのだが、ゴッホは生前、絵が全く売れず、死ぬ半年前に当時の価値換算約4万円で1枚だけ売れたと言われている。たったの1枚だけ。それが今や『ひまわり』は約53億円、『医師ガシェの肖像』はなんと約140億円で競り落とされるのだから、付加価値の凄さが分かるだろう。
  元々上手な絵に、画家を引退している、王秀英の兄、さらに5点のみという付加価値で高値がついたのだった。

  秀英は大金持ちの割りに金を使わない。ケチと言う意味では無く、物欲が無いのだ。物欲が無いと言っても、普通に毎日、高級料理を食べるし欲しい物は買う。だが、総資産1兆円を越えると言うのに大金を使うという事は殆ど無かった。簡単に言うと無趣味なのである。

  近年、日本でも宝くじの当選金額が異常に上がっており、年末ジャンボ宝くじの当選金額は前後賞併せて10億円と考えられないような額にまで増えている。もし、毎月10億円の宝くじが当たる夢のような生活が待っていると考えると想像だけで涎が出る。
  だが、秀英は毎月10億円の宝くじが当たるよりも金を持っているのだ。例えば、この後30年生きるとして、毎月10億円使ったとしても3,600億円。総資産1兆円の凄さが分かるだろう。
  だが、使い道は無い。会長職を辞任したので、時間だけは有り余っているのだが、趣味といえば兄博文の盗聴だけだった。秀英は自分名義で3台のスマホを所有している。自分の立ち上げた会社なので永久に無料だ。もちろん、もっと使用したいと言えば、もっと使用できる。だからと言って、そんなには必要無い。3つで充分過ぎた。その内の1つを博文に渡していた。

  博文は年齢のせいもあるが、基本的に頭が良く無く、あまりスマホを使いこなせなかった。ただ、何とか基本的な使用方法だけはしっかりマスターした。このスマホに秀英は盗聴アプリをインストールしていた。
  元々、この盗聴アプリは、秀英が携帯会社会長をしていた時に、社員に貸与する端末などにインストールしておいて、業務中にサボっていないかを監視する目的で、パソコンの能力が高い優秀な部下に作成させたものだった。この為、盗聴以外にも端末の位置情報や通話、メール記録を送信する機能が付いている。秀英はアプリに録音された音声を全てチェックするのだ。膨大な時間を要するが、仕事を引退した為、あり余る時間がある。
  普通、盗聴される人物というのは、何か秘密があったり、異性関係でトラブルがあったりするから調べられるのだが、博文は異性との交遊も無ければ目立った秘密も無い。一体、何が面白くて秀英は博文の盗聴をしているんだ?  と普通の人は思うだろう。だが、それは一般人の感覚だ。
  秀英は社長を退き、会長職に就くと一転、社員の監視に力を入れた。監視と言うと良いように聞こえるが早い話が盗聴だ。元々は仕事をしっかりやっているかの確認だったが、徐々にエスカレートし、プライベートまで盗聴しだしたのだ。どんな人にも秘密の1つや2つはあるし、恋愛事情も様々だ。秀英は仕事を全くせず、全て盗聴に費やした。当時、最先端のステルス機能だった為、誰にも気付かれなかったのだが、アプリ開発者の部下がさすがに苦言を呈した。ここから秀英の動きは早かった。機敏と言うのはこういう事だ、と言わんばかりに全員のスマホを機種変更し、自分は会長職を辞任した。さらに、持ち株のほとんどを会社に引き取ってもらった。この頃から、盗聴アプリを発見する優秀なアプリが開発され出していて、もし、このタイミングを逃していたら、犯罪者扱いをされる可能性が高かっただろう。
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