嫉妬が憧憬に変わる時

ジャメヴ

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ピアノ線

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  新品のピアノ線が2つ、机の上に置いてあった。博文の部屋を出て、自分の部屋に戻る。
  衝撃の事実に秀英は言葉も出ない。ショックだった。怒りよりも失望が強い。1分程、脱力感で動けなくなった。

(信頼していたのに……。どういう方法か分からないが、わざわざピアノ線を使うという事はトリック殺人だと言う事だ。と言う事は、やはり、唐沢か他の誰かに入れ知恵されている。兄貴の手先が器用なのは分かっている。どんなものでも指示されれば作れるだろう……。兄貴の処分は後々考えよう。とにかく、入浴後のワインに睡眠薬を入れるのは確定だ。今日が最後の晩餐になる!)

  博文が帰って来ると秀英は出掛ける準備をした。
「兄貴!  ちょっと出掛けてくる。2時間程帰らないと思う」
「承知致しました」

(兄貴に俺を殺すよう唆した奴がいる。恐らく唐沢だろう。となると脅迫状は唐沢か、唐沢に指示されて兄貴が作った事になる。どちらにせよ、俺は狙われ続ける……。俺が殺された様に見せるしかないな)

  秀英は車で街に戻り、大型ディスカウントストアーに向かった。帽子とマスクを着け、サングラスを外し、一般人にバレないよう変装する。
  大きめで濃い、高級なサングラス7つとスパイダーマンの覆面、博文に似た色の毛染め液、ブリーチ剤、金髪ロングのカツラ、風船、ハサミ、大型ニッパー、大量のマスクと消臭剤を購入し、別荘へ戻った。
  別荘に戻ると、既に斎藤が夕食の食材とその他、必要な物を持ってきていて、屋敷へ戻るところだった。
「おお、斎藤、悪いな」
「いえいえ、日曜の夕方に迎えに参ります。それではごゆっくり」

午後9時
秀英は夕食と入浴を済ませた後、博文が風呂から出てきた時に話し掛けた。
「兄貴、今日は雰囲気を変えて、2階の真ん中の部屋で飲みたいんだが……」
「分かりました。準備致します」
「ワインはマルベックを持ってきてくれ」
「承知致しました」
秀英は既に、2階の真ん中の部屋にエアチェアーを2つ移動させていた。博文はマルベックのワインとチーズ、チョコ等を用意した。
  博文はワインを開けグラスに注ぐ。乾杯の準備が整ったところで秀英が話す。
「少し小腹が空いたな。ローストビーフの残りを持ってきてくれないか?」
「承知致しました」
  秀英は博文が部屋を出ていくのを確認すると、博文のワイングラスに睡眠薬を入れて軽く回して混ぜた。
ガチャ……バタン
  博文が戻って来た。博文はローストビーフの残りを机に置き、箸を2膳、ナプキンの上に置いた。
  2人がグラスを持ったところで秀英が話す。
「兄貴、いつも迷惑を掛けてすまないな。今夜は執事という立場を忘れてゆっくりしてくれ。兄弟水入らずで飲もう。乾杯!」
「乾杯!」
チン
  2人はグラスを重ねた後、半分程ワインを飲んだ。その時、秀英は博文が涙ぐんでいるのを見逃さなかった。

(やはりこいつ……殺そうとしている奴が、自分に労いの言葉を掛けたもんだから、色々な感情で泣いているじゃないか。少しは悪いと感じたのか?)

  博文は睡眠薬の効果が現れ眠りについた。
「兄貴、ありがとう。今まで世話になったな」
秀英は感謝の気持ちから一転、心を鬼にする決意をした。

(俺を殺す為に準備したピアノ線で自分が殺されるんだ。自業自得と言うものだな。兄貴……死ぬまでに反旗を翻した事を後悔する時間を与えてやるよ。反省しながら地獄へ落ちな!)
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