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翼が見えた。藍と黒の翼だ。それは宵藍の背中から生えているようだった。羽が視界を覆う。そこで意識が途切れて、次に目を覚ました時には真夜中だった。
風に頬をくすぐられて目を覚ます。随分開放的な部屋で、ぼんやりとした眼に星空が映った。
「起きたか」
耳を擽る声は宵藍のものだ。懐かしさと心地よさに夢心地でいた。頭がまだ覚醒していない。星空から降りてきたように現れた宵藍は、寝台で眠っていた蓮の頬にかかった髪を避けて、触れた。
「ここは、あの世?あの世のわりには、空が近いなぁ」
「蓮、ここはあの世ではない。さらに言うと、お前の知っている場所のどこでもない。我の巣……家だ」
「……宵藍の…………え、宵藍……?」
宵藍の金の眼に真っ直ぐに、覗かれて、蓮は瞬いた。頭にまだ霞がかっているようではあるが、目の前に宵藍がいた。宵藍に頬を撫でられる。
「そうだが」
「本物?」
「信じるかはお前の自由だが、紛い物でないことは確かだ」
「その抑揚のない感じ、宵藍だね」
ふわりと笑えば、宵藍は目を細める。閉じることはせずにじっと見つめてきて、あまりにも真剣な表情に蓮は困った。
「どうしたの?えっと、近いよ?……拙、頭の中、混乱して、考えがまとまらない」
「今はそれで良い。我に、その顔をよく見せてくれ」
「う、ん?」
しばらく、両頬を捕らえられて宵藍に見つめられるので、羞恥を覚える。昔はこんなんじゃなかったはずだ。いや、さり気なく接触はあったけれど。
昔は。
「宵藍は、あの頃から変わらないね」
「お前は成長したな」
「多分、少し拙の方が背高いよ?多分ね」
「そうだろうな。人の子の成長は早い」
「宵藍は?」
あれから数年経っているというのに、宵藍は変わらない。何も変わっていないのだ。金眼も、藍色の髪の長さも、服装も、耳飾りだって変わっていなかった。
宵藍は口をつぐみ、しばらくしてから口を開いた。
「我は人間ではない――妖だ」
蓮は「そう」と少し首を傾げつつも頷いた。
妖。
普通の人とはかけ離れていると思ったことは何度もある。幻のような人だったと、思ってもいた。思えば人でないと言われた方がしっくり来る。それに、首を刎ねられる直前に空から現れて連れ去るなんて芸当は人間であるはずがなかった。
蓮にとっては宵藍が何者でも良かった。宵藍は嘘を吐かない。宵藍がそうだと言えばそうなのだ。
頭の中は靄がかかったように思考がまとまらない。さっきまであんなに苦しかったのに、目の前が暗かったのに、その全てがぼやけてる。まるでストンと抜け落ちたかのように。
蓮は数日を眠って過ごした。身体が怠いと目を覚ませば、宵藍の気配がして頬を、頭を撫でられる。低い温度に安心して眠りにつく。その繰り返しだった。
覚醒した時には、宵藍はいなかった。やはり夢なのだろうかと思いもしたが、大きな寝台はふかふかで、部屋はガランと広く、天井も高い。見える青い空は近くに感じられた。露台に出て見下ろすと随分高いところにあるのがわかる。山々が広がり、遥か下に森があり、崖の上に建っているようだ。どうやってこんな場所に建てたのだろうと疑問に思う。嵐でも来たら、落ちてしまいやしないだろうかと不安に思った。目に映る全てが蓮の知らない景色で知らない空気だ。
足に付けられた飾りがシャランと音を立てた。己の格好を見れば、両足と両手首に細い金の輪があった。癖のように腕を擦ると剥き出しの腕には変わらず黒い輪があった。宵藍にもらった腕輪は成長するにつれてそれはきつく食い込むようになっていたが、今はぴったりとはまっている。傷だらけの腕を出していることに抵抗があり、かけてあった羽織を肩にかけた。色鮮やかで着心地が良い羽織だ。宵藍が着ているものと似ているので宵藍の好みなのかもしれない。
両手足の輪を眺めていると、空、屋根だろうか、とりあえず上から猫のような影が降ってきた。
「腕輪と足輪は魔除け。邪魔でも付けておいた方が良い」
猫のように身軽でしなやかだが、それは人の形をしていた。濃い灰色の癖毛を無造作に、1つに結えた少年だ。半袖にえんじ色の袴を着ていて、程よく日に焼けている。橙色の瞳は縦に長い瞳孔で、猫を思わせる吊り目だった。そして、猫の耳と尻尾が生えていて、蓮は幻かと目を擦った。何度見ても幻ではない。宵藍も翼が生えたように見えたことを思い出し、こちらのヒトはそういうものなのかもしれないと無理矢理納得することにした。
蓮は言葉に困り、腕輪に目を向けた。
「羽のように軽いから、邪魔ではないよ。それに、魔除けなら、宵藍の仕業でしょう」
猫目がぱちぱちと瞬き、呆れたように息を吐いた。
「宵藍大将、藍将軍、青雷大師父。――ここではそう呼ばれている。俺の前では良いけど、俺以外の前で大将を呼び捨てにするなよ。異邦人」
「異邦人?」
「アンタ、地上界から来たんだろ?とっくに噂になってる。あの、人間嫌いの大将が、地上から人間を連れてきたってな。どんな奴かと思ったけど……」
少年は下から見上げて言った。
「すぐ死にそう。魔除けがなけりゃ、すぐに憑かれそうだ。だから、魔除けは外さないこと」
蓮はその評価に顔を傾げる。別に病弱ではないし、筋力がないわけでも弱々しい見た目でもないはずだった。細すぎると言われることはまぁあり、昔宵藍にも言われた覚えはあるが。
「わかったよ。外さないよう気をつけるよ」
蓮は頷いた。そして、気になることを尋ねる。
「君は?誰?」
「七生だ。ここはオマエに対して友好的な奴が少ない。仙人たちは多忙だし。妖仙を近づけるのは大将が嫌がるだろうからって、俺みたいな半妖がオマエの面倒を見ることになった」
面倒?と疑問に思うが、七生も誰かに言われて来たのだろう。今のところ何もわかっていないので、色々教えてくれるのは助かるなぁと呑気に思う。
「そう。よろしく頼むよ。色々教えてくれると嬉しいかな。拙、正直言えば右も左もわからないんだ。宵藍、大将は何も言ってはくれなかったし。気づけば消えてるし」
蓮が笑って言えば、七生は口をへの字にした。
「大将はこの西方の守護妖仙だ。昼夜脅威と戦っておられる」
「要するに忙しいのか。夜は、拙の近くにいた気がするんだけど、知ってる?」
「夜は爪弾きにされるから、わからねぇけど、爪弾きにされるってことは、いるんだろうよ。自分がいる時に他の奴に近づかれたくはないだろ。妖だし」
「爪弾き?」
「門の外に追いやられる」
「宵藍が?」
「多分な。俺は姿を見ていないから、奥院がそうしているのか、大将がそうしているのかは知らん。ただ、この奥院は許された者しか入れないようになっているし、大将の一存で誰も入れないようにもできる。ここの主人は大将だ」
ここにはごく一部のヒトしか入れないことはわかった。宵藍が許した者だけ、ということだろう。ただ、ここは広すぎる。この階だけでも大分広いというのに、階段があるので下の階もあるのだろう。今のところこの七生という半妖しか見ていない。
そこに、階段からひょこりと猫頭が顔を出す。七生とは違い、頭は猫だった。人間の子どもくらいの大きさがある。
「七生殿、門にお客さまが。仙人様のようです。蓮様にお目通りをと騒いでおりますが」
「追い返せ。聞くまでもなく追い返せ」
七生が言えば、猫頭は「御意」と階段下に消えた。
「いまのは?」
「猫妖精。猫が人間を真似ていると思えば良い。猫だけじゃねぇ。狐もいる。死んで暇な猫や狐が、雑用やってるってだけだ。掃除とかな。広ぇし。飯も作れるけど、オマエの飯は俺が作る。変なもんは食わせられねぇから」
妖に、仙人に、妖仙に妖精にと理解は追いついてない。しかも、至れり尽くせりで、蓮は空いた口が塞がらなかった。
「これが俺の仕事だ。別にただ働きじゃねぇから気にするな。それに大将のためだ」
七生が言うには、宵藍は慕われ、崇められているようだったが、当の本人は神出鬼没。人前にはほぼ現れないという。蓮は「あの大将が」と言われても全くと言って良いほど宵藍のことは知らない。
「妖と人が共存する場所ってことかな。妖、妖ね」
「蓮の国には、妖はいないのか?」
「いない。いやいるのかも知れないけど、拙は見たことがない。10人に尋ねたところで聞いたことはあっても、遭遇したことがあるひとなんかいないよ。所詮物語りの中の話さ。そのあたりにうろうろするような存在でもない。ましてや、料理を手伝う猫頭なんて、聞いたこともない」
階段を降りて、掃除やらに勤しんでいる猫頭やら狐頭を見る。見られていると気づいた彼らはぺこりと深くお辞儀をするので、蓮も苦笑して頭を下げた。
階段を2階分降りると庭に出た。広い庭に鯉のいる池があり、その周りには色とりどりの花が咲いている。見たことがあるものもあればないものもあった。
七生は息を吐いて、札を出す。
「妖がいないのであれば、こういうのもいないのか」
黒いモヤのようなものが庭先で立ち上がる。モヤではあるが実体はあるようだった。七生は腰に下げた剣を抜いて、それを斬った。
「いないよ。いまの何?」
「妖魔。小さければ、こんな感じで簡単に滅ぼせる。大きいと人間食ったりするし強い。俺らはこういう妖魔退治の専門。ここ藍仙郷には妖仙や仙人もいる。その分、妖魔の類もまぎれ込みやすい。常に結界はあるけどな。だから魔除けは外すなってこと」
「ふぅん。拙にもその妖魔退治、というのはできる?」
「お前に武器の類は持たせるなって言われている。下手に動かれると、大変なことになる。お前は守られてろ」
「良い運動になるかなとか思っていたのに」
「……正直、人手はほしいところだけどな。最近、特に妖魔が多すぎる」
であればと期待を込めて見るが七生は「却下」とばっさりと切った。
風に頬をくすぐられて目を覚ます。随分開放的な部屋で、ぼんやりとした眼に星空が映った。
「起きたか」
耳を擽る声は宵藍のものだ。懐かしさと心地よさに夢心地でいた。頭がまだ覚醒していない。星空から降りてきたように現れた宵藍は、寝台で眠っていた蓮の頬にかかった髪を避けて、触れた。
「ここは、あの世?あの世のわりには、空が近いなぁ」
「蓮、ここはあの世ではない。さらに言うと、お前の知っている場所のどこでもない。我の巣……家だ」
「……宵藍の…………え、宵藍……?」
宵藍の金の眼に真っ直ぐに、覗かれて、蓮は瞬いた。頭にまだ霞がかっているようではあるが、目の前に宵藍がいた。宵藍に頬を撫でられる。
「そうだが」
「本物?」
「信じるかはお前の自由だが、紛い物でないことは確かだ」
「その抑揚のない感じ、宵藍だね」
ふわりと笑えば、宵藍は目を細める。閉じることはせずにじっと見つめてきて、あまりにも真剣な表情に蓮は困った。
「どうしたの?えっと、近いよ?……拙、頭の中、混乱して、考えがまとまらない」
「今はそれで良い。我に、その顔をよく見せてくれ」
「う、ん?」
しばらく、両頬を捕らえられて宵藍に見つめられるので、羞恥を覚える。昔はこんなんじゃなかったはずだ。いや、さり気なく接触はあったけれど。
昔は。
「宵藍は、あの頃から変わらないね」
「お前は成長したな」
「多分、少し拙の方が背高いよ?多分ね」
「そうだろうな。人の子の成長は早い」
「宵藍は?」
あれから数年経っているというのに、宵藍は変わらない。何も変わっていないのだ。金眼も、藍色の髪の長さも、服装も、耳飾りだって変わっていなかった。
宵藍は口をつぐみ、しばらくしてから口を開いた。
「我は人間ではない――妖だ」
蓮は「そう」と少し首を傾げつつも頷いた。
妖。
普通の人とはかけ離れていると思ったことは何度もある。幻のような人だったと、思ってもいた。思えば人でないと言われた方がしっくり来る。それに、首を刎ねられる直前に空から現れて連れ去るなんて芸当は人間であるはずがなかった。
蓮にとっては宵藍が何者でも良かった。宵藍は嘘を吐かない。宵藍がそうだと言えばそうなのだ。
頭の中は靄がかかったように思考がまとまらない。さっきまであんなに苦しかったのに、目の前が暗かったのに、その全てがぼやけてる。まるでストンと抜け落ちたかのように。
蓮は数日を眠って過ごした。身体が怠いと目を覚ませば、宵藍の気配がして頬を、頭を撫でられる。低い温度に安心して眠りにつく。その繰り返しだった。
覚醒した時には、宵藍はいなかった。やはり夢なのだろうかと思いもしたが、大きな寝台はふかふかで、部屋はガランと広く、天井も高い。見える青い空は近くに感じられた。露台に出て見下ろすと随分高いところにあるのがわかる。山々が広がり、遥か下に森があり、崖の上に建っているようだ。どうやってこんな場所に建てたのだろうと疑問に思う。嵐でも来たら、落ちてしまいやしないだろうかと不安に思った。目に映る全てが蓮の知らない景色で知らない空気だ。
足に付けられた飾りがシャランと音を立てた。己の格好を見れば、両足と両手首に細い金の輪があった。癖のように腕を擦ると剥き出しの腕には変わらず黒い輪があった。宵藍にもらった腕輪は成長するにつれてそれはきつく食い込むようになっていたが、今はぴったりとはまっている。傷だらけの腕を出していることに抵抗があり、かけてあった羽織を肩にかけた。色鮮やかで着心地が良い羽織だ。宵藍が着ているものと似ているので宵藍の好みなのかもしれない。
両手足の輪を眺めていると、空、屋根だろうか、とりあえず上から猫のような影が降ってきた。
「腕輪と足輪は魔除け。邪魔でも付けておいた方が良い」
猫のように身軽でしなやかだが、それは人の形をしていた。濃い灰色の癖毛を無造作に、1つに結えた少年だ。半袖にえんじ色の袴を着ていて、程よく日に焼けている。橙色の瞳は縦に長い瞳孔で、猫を思わせる吊り目だった。そして、猫の耳と尻尾が生えていて、蓮は幻かと目を擦った。何度見ても幻ではない。宵藍も翼が生えたように見えたことを思い出し、こちらのヒトはそういうものなのかもしれないと無理矢理納得することにした。
蓮は言葉に困り、腕輪に目を向けた。
「羽のように軽いから、邪魔ではないよ。それに、魔除けなら、宵藍の仕業でしょう」
猫目がぱちぱちと瞬き、呆れたように息を吐いた。
「宵藍大将、藍将軍、青雷大師父。――ここではそう呼ばれている。俺の前では良いけど、俺以外の前で大将を呼び捨てにするなよ。異邦人」
「異邦人?」
「アンタ、地上界から来たんだろ?とっくに噂になってる。あの、人間嫌いの大将が、地上から人間を連れてきたってな。どんな奴かと思ったけど……」
少年は下から見上げて言った。
「すぐ死にそう。魔除けがなけりゃ、すぐに憑かれそうだ。だから、魔除けは外さないこと」
蓮はその評価に顔を傾げる。別に病弱ではないし、筋力がないわけでも弱々しい見た目でもないはずだった。細すぎると言われることはまぁあり、昔宵藍にも言われた覚えはあるが。
「わかったよ。外さないよう気をつけるよ」
蓮は頷いた。そして、気になることを尋ねる。
「君は?誰?」
「七生だ。ここはオマエに対して友好的な奴が少ない。仙人たちは多忙だし。妖仙を近づけるのは大将が嫌がるだろうからって、俺みたいな半妖がオマエの面倒を見ることになった」
面倒?と疑問に思うが、七生も誰かに言われて来たのだろう。今のところ何もわかっていないので、色々教えてくれるのは助かるなぁと呑気に思う。
「そう。よろしく頼むよ。色々教えてくれると嬉しいかな。拙、正直言えば右も左もわからないんだ。宵藍、大将は何も言ってはくれなかったし。気づけば消えてるし」
蓮が笑って言えば、七生は口をへの字にした。
「大将はこの西方の守護妖仙だ。昼夜脅威と戦っておられる」
「要するに忙しいのか。夜は、拙の近くにいた気がするんだけど、知ってる?」
「夜は爪弾きにされるから、わからねぇけど、爪弾きにされるってことは、いるんだろうよ。自分がいる時に他の奴に近づかれたくはないだろ。妖だし」
「爪弾き?」
「門の外に追いやられる」
「宵藍が?」
「多分な。俺は姿を見ていないから、奥院がそうしているのか、大将がそうしているのかは知らん。ただ、この奥院は許された者しか入れないようになっているし、大将の一存で誰も入れないようにもできる。ここの主人は大将だ」
ここにはごく一部のヒトしか入れないことはわかった。宵藍が許した者だけ、ということだろう。ただ、ここは広すぎる。この階だけでも大分広いというのに、階段があるので下の階もあるのだろう。今のところこの七生という半妖しか見ていない。
そこに、階段からひょこりと猫頭が顔を出す。七生とは違い、頭は猫だった。人間の子どもくらいの大きさがある。
「七生殿、門にお客さまが。仙人様のようです。蓮様にお目通りをと騒いでおりますが」
「追い返せ。聞くまでもなく追い返せ」
七生が言えば、猫頭は「御意」と階段下に消えた。
「いまのは?」
「猫妖精。猫が人間を真似ていると思えば良い。猫だけじゃねぇ。狐もいる。死んで暇な猫や狐が、雑用やってるってだけだ。掃除とかな。広ぇし。飯も作れるけど、オマエの飯は俺が作る。変なもんは食わせられねぇから」
妖に、仙人に、妖仙に妖精にと理解は追いついてない。しかも、至れり尽くせりで、蓮は空いた口が塞がらなかった。
「これが俺の仕事だ。別にただ働きじゃねぇから気にするな。それに大将のためだ」
七生が言うには、宵藍は慕われ、崇められているようだったが、当の本人は神出鬼没。人前にはほぼ現れないという。蓮は「あの大将が」と言われても全くと言って良いほど宵藍のことは知らない。
「妖と人が共存する場所ってことかな。妖、妖ね」
「蓮の国には、妖はいないのか?」
「いない。いやいるのかも知れないけど、拙は見たことがない。10人に尋ねたところで聞いたことはあっても、遭遇したことがあるひとなんかいないよ。所詮物語りの中の話さ。そのあたりにうろうろするような存在でもない。ましてや、料理を手伝う猫頭なんて、聞いたこともない」
階段を降りて、掃除やらに勤しんでいる猫頭やら狐頭を見る。見られていると気づいた彼らはぺこりと深くお辞儀をするので、蓮も苦笑して頭を下げた。
階段を2階分降りると庭に出た。広い庭に鯉のいる池があり、その周りには色とりどりの花が咲いている。見たことがあるものもあればないものもあった。
七生は息を吐いて、札を出す。
「妖がいないのであれば、こういうのもいないのか」
黒いモヤのようなものが庭先で立ち上がる。モヤではあるが実体はあるようだった。七生は腰に下げた剣を抜いて、それを斬った。
「いないよ。いまの何?」
「妖魔。小さければ、こんな感じで簡単に滅ぼせる。大きいと人間食ったりするし強い。俺らはこういう妖魔退治の専門。ここ藍仙郷には妖仙や仙人もいる。その分、妖魔の類もまぎれ込みやすい。常に結界はあるけどな。だから魔除けは外すなってこと」
「ふぅん。拙にもその妖魔退治、というのはできる?」
「お前に武器の類は持たせるなって言われている。下手に動かれると、大変なことになる。お前は守られてろ」
「良い運動になるかなとか思っていたのに」
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