3 / 43
3
しおりを挟む
家からタクシーで人目に晒されることなく辿り着いた料亭は、手入れの行き届いた石畳の細い小道が奥まった店へと続き、中へ上がれば広く美しい内庭のある風情溢れる場所だった。
予約の名前を告げ、案内をされるが、さすがの高級店か、こんな格好をした瀧に対して従業員は顔色ひとつ変えなかった。
通された部屋からも中庭が楽しめ、市松模様型に抜かれカットされた差鴨居が涼しげで広々とした作りになっている。
間仕切りの障子が開かれると、広い座卓に肘掛けの着く座椅子が六席ほどあり真ん中の席に一人の男が待っていた。
「あのー、‥お約束した瀬乃生です」
瀧が話しかけた途中で男は立ち上がりこちらへ二、三歩進み出た。
瀧よりも5センチほどだろうか背が高い。
「お待ちしておりました!私はヒュー•アンドロシュと申します。是非、私のことはヒューと呼んでください」
丁寧な日本語のネイティブの発音でそう言うと少しはにかむ様な笑みを浮かべて右手を差し出した。
ヒューは艶があり少しうねる黒髪をやんわりと後ろに流しており、彫りの深い精悍な顔つきをしている。意志の強そうな凛々しい眉毛は鼻梁へと美しく続いており、瞳は深く澄んだ湖の色で見る者が溺れてしまうような誘い込む色香がある。
顔が小さく、脚は長い。瀧より一回りほどではないがヒューの方がやや大きい。全体のバランスがとてもよく、まるで高級ブランドのカタログから現れたようだ。
どことなく上品な佇まいとそれを裏付けるような上質な艶のあるスーツ。瀧の周りにはいないタイプのハイソサエティな男だ。
瀧は相手が外国人だと知り、さらに驚くほどの美貌と品のよさに呆気に取られた。
「あ、お、俺は瀬乃生‥静湖‥」
の、弟。というのは黙っておく。
まあ、どう見ても美しい女装をした男なんだけれども。
「来てくれて本当に嬉しいよ‥。その、えっと‥、と、とりあえず座ろうか?」
ヒューは瀧が女の名前で紹介したことも、ちゃんと理解しているようだがそれをまるで気にする様子はなく、それよりも瀧に対して緊張しているのか言葉が辿々しい。
静湖によると男を相手に連れて行ってお見合いの意味をなくすという作戦と聞いていたが、見る限りヒューに怒った様子はない。むしろ明るい喜びのオーラすら漂っていて顔の横からぽんぽんと花でも咲きそうだ。
さっきから瀧に対して照れながら元気にあいさつしたかと思えば、今度は緊張して、そして今は喜びを隠せないでいる。
黙っていれば目を奪われるような男前が気持ちを隠しきれずくるくると表情を変えているのが瀧にはおかしかった。
向かいの席に腰を下ろし、ヒューと迎え合わせになる瀧。
「乾杯しませんか?無事二人が会えたことに」
ヒューはうっとりと恍惚の表情をこちらに向けて僅かに微笑む。男女構わず撃沈させる美の神がヒューの肩に乗っている気がした。
思わず見惚れてしまいそうになるのをグッと我慢して瀧は平静さを保つようにした。気を取り戻すとヒューの態度が気になった。ヒューは瀧が来たことに全然驚いていないし、それに無事二人が会えたとはどういうことだろうか?
お見合いの席にオカマがやってきたら、決して無事ではないだろう。
そもそも無事でなくする為に瀧は来たはずだ。
「‥無事、ではないですよね?その、俺、コレだし‥」
「ああ、全然問題ありません。瀧さんはとても綺麗です」
瀧は姉の話と違うヒューの言葉に焦った。
しかも、名前もバレている。
問題無いなんて、問題有りである。
「ちょっと待って‥。そもそも、どうして‥お見合いをすることに?」
「私の部下の写真を見せてもらっていた時に、とても気になる人を見つけてしまって‥。私がどうしてもその方に会いたいと望んで今日の場をセッティングしてもらったんです」
話はこうだ。
ヒューが部下である長谷部のスマホで取引先の家族や友人を交えたバーベキューのSNSの写真を見せてもらった時に気になる人を見つけた。それが瀧だった。
長谷部は静湖の会社の大きい取引先の相手であり、瀧も静湖に誘われてそのバーベキューに参加した思い出がある。去年の秋口だ。瀧は見た目が良く、それは姉の静湖の自慢でもあり、昔から色んなところに連れ回されており今回もそれだった。バーベキューは比較的若い人が多く、軽く合コンのような意味合いも兼ねている気がした。瀧もよく女の人に連絡先を聞かれたからだ。
瀧は引き攣った笑みを浮かべる。ヒューは静湖の会社の取引先の上司だ。
なんて断りずらいパスを回してくるんだねーちゃん!
それに静湖が推し進めたこの女装はヒューが望んだことなのだろうか?
春色のワンピースの下に着けている程よく盛られたブラジャーの締め付けがやけに苦しく感じた。何時間か前まで、女の人はこんなモノつけてるのか、なんて面白がって女装していた自分を責めたくなった。なんとしてでもこんなバカみたいな話に乗るんじゃなかったのが正解だ。
「私は男も恋愛対象に入るけど、女装は好みではないよ。私の趣味ではない。だけど‥、その、嬉しいよ。お見合いの席にしたのは私の真剣さを知ってほしいからで、君も合わせた格好をしてきてくれたから。君もそういう気があるってことだろう?」
そんなつもりは毛頭ないのだが、ついていけない状況に呆気に取られて喋れない瀧とやや興奮気味のヒュー。
彼は一呼吸置くと、少し声のトーンを下げ、明確にゆっくりと自分の思いを言葉に乗せた。
「私は君と結婚前提のお付き合いをしたい」
その煌めくブルーアイズで瀧を見つめてくる。そこには確固たる強い意志を感じた。
「け‥」
結婚‥?
予約の名前を告げ、案内をされるが、さすがの高級店か、こんな格好をした瀧に対して従業員は顔色ひとつ変えなかった。
通された部屋からも中庭が楽しめ、市松模様型に抜かれカットされた差鴨居が涼しげで広々とした作りになっている。
間仕切りの障子が開かれると、広い座卓に肘掛けの着く座椅子が六席ほどあり真ん中の席に一人の男が待っていた。
「あのー、‥お約束した瀬乃生です」
瀧が話しかけた途中で男は立ち上がりこちらへ二、三歩進み出た。
瀧よりも5センチほどだろうか背が高い。
「お待ちしておりました!私はヒュー•アンドロシュと申します。是非、私のことはヒューと呼んでください」
丁寧な日本語のネイティブの発音でそう言うと少しはにかむ様な笑みを浮かべて右手を差し出した。
ヒューは艶があり少しうねる黒髪をやんわりと後ろに流しており、彫りの深い精悍な顔つきをしている。意志の強そうな凛々しい眉毛は鼻梁へと美しく続いており、瞳は深く澄んだ湖の色で見る者が溺れてしまうような誘い込む色香がある。
顔が小さく、脚は長い。瀧より一回りほどではないがヒューの方がやや大きい。全体のバランスがとてもよく、まるで高級ブランドのカタログから現れたようだ。
どことなく上品な佇まいとそれを裏付けるような上質な艶のあるスーツ。瀧の周りにはいないタイプのハイソサエティな男だ。
瀧は相手が外国人だと知り、さらに驚くほどの美貌と品のよさに呆気に取られた。
「あ、お、俺は瀬乃生‥静湖‥」
の、弟。というのは黙っておく。
まあ、どう見ても美しい女装をした男なんだけれども。
「来てくれて本当に嬉しいよ‥。その、えっと‥、と、とりあえず座ろうか?」
ヒューは瀧が女の名前で紹介したことも、ちゃんと理解しているようだがそれをまるで気にする様子はなく、それよりも瀧に対して緊張しているのか言葉が辿々しい。
静湖によると男を相手に連れて行ってお見合いの意味をなくすという作戦と聞いていたが、見る限りヒューに怒った様子はない。むしろ明るい喜びのオーラすら漂っていて顔の横からぽんぽんと花でも咲きそうだ。
さっきから瀧に対して照れながら元気にあいさつしたかと思えば、今度は緊張して、そして今は喜びを隠せないでいる。
黙っていれば目を奪われるような男前が気持ちを隠しきれずくるくると表情を変えているのが瀧にはおかしかった。
向かいの席に腰を下ろし、ヒューと迎え合わせになる瀧。
「乾杯しませんか?無事二人が会えたことに」
ヒューはうっとりと恍惚の表情をこちらに向けて僅かに微笑む。男女構わず撃沈させる美の神がヒューの肩に乗っている気がした。
思わず見惚れてしまいそうになるのをグッと我慢して瀧は平静さを保つようにした。気を取り戻すとヒューの態度が気になった。ヒューは瀧が来たことに全然驚いていないし、それに無事二人が会えたとはどういうことだろうか?
お見合いの席にオカマがやってきたら、決して無事ではないだろう。
そもそも無事でなくする為に瀧は来たはずだ。
「‥無事、ではないですよね?その、俺、コレだし‥」
「ああ、全然問題ありません。瀧さんはとても綺麗です」
瀧は姉の話と違うヒューの言葉に焦った。
しかも、名前もバレている。
問題無いなんて、問題有りである。
「ちょっと待って‥。そもそも、どうして‥お見合いをすることに?」
「私の部下の写真を見せてもらっていた時に、とても気になる人を見つけてしまって‥。私がどうしてもその方に会いたいと望んで今日の場をセッティングしてもらったんです」
話はこうだ。
ヒューが部下である長谷部のスマホで取引先の家族や友人を交えたバーベキューのSNSの写真を見せてもらった時に気になる人を見つけた。それが瀧だった。
長谷部は静湖の会社の大きい取引先の相手であり、瀧も静湖に誘われてそのバーベキューに参加した思い出がある。去年の秋口だ。瀧は見た目が良く、それは姉の静湖の自慢でもあり、昔から色んなところに連れ回されており今回もそれだった。バーベキューは比較的若い人が多く、軽く合コンのような意味合いも兼ねている気がした。瀧もよく女の人に連絡先を聞かれたからだ。
瀧は引き攣った笑みを浮かべる。ヒューは静湖の会社の取引先の上司だ。
なんて断りずらいパスを回してくるんだねーちゃん!
それに静湖が推し進めたこの女装はヒューが望んだことなのだろうか?
春色のワンピースの下に着けている程よく盛られたブラジャーの締め付けがやけに苦しく感じた。何時間か前まで、女の人はこんなモノつけてるのか、なんて面白がって女装していた自分を責めたくなった。なんとしてでもこんなバカみたいな話に乗るんじゃなかったのが正解だ。
「私は男も恋愛対象に入るけど、女装は好みではないよ。私の趣味ではない。だけど‥、その、嬉しいよ。お見合いの席にしたのは私の真剣さを知ってほしいからで、君も合わせた格好をしてきてくれたから。君もそういう気があるってことだろう?」
そんなつもりは毛頭ないのだが、ついていけない状況に呆気に取られて喋れない瀧とやや興奮気味のヒュー。
彼は一呼吸置くと、少し声のトーンを下げ、明確にゆっくりと自分の思いを言葉に乗せた。
「私は君と結婚前提のお付き合いをしたい」
その煌めくブルーアイズで瀧を見つめてくる。そこには確固たる強い意志を感じた。
「け‥」
結婚‥?
25
あなたにおすすめの小説
悪魔はかわいい先生を娶りたい
ユーリ
BL
天界にて子供達の教師を勤める天使のスミレは、一人だけ毎日お弁当を持ってこない悪魔のシエルという生徒を心配していた。ちゃんと養育されているのだろうかと気になって突撃家庭訪問をすると…??
「スミレ先生、俺の奥さんになってくれ」一人きりの養育者×天使な教師「いくらでも助けるとは言いましたけど…」ふたりの中を取り持つのは、小さなかわいい悪魔!
元カノの弟と同居を始めます?
結衣可
BL
元カノに「弟と一緒に暮らしてほしい」と頼まれ、半年限定で同居を始めた篠原聡と三浦蒼。
気まずいはずの関係は、次第に穏やかな日常へと変わっていく。
不器用で優しい聡と、まっすぐで少し甘えたがりな蒼。
生活の中の小さな出来事――食卓、寝起き、待つ夜――がふたりの距離を少しずつ縮めていった。
期限が近づく不安や、蒼の「終わりたくない」という気持ちに、聡もまた気づかないふりができなくなる。
二人の穏やかな日常がお互いの存在を大きくしていく。
“元カノの弟”から“かけがえのない恋人”へ――
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
優しい檻に囚われて ―俺のことを好きすぎる彼らから逃げられません―
無玄々
BL
「俺たちから、逃げられると思う?」
卑屈な少年・織理は、三人の男から同時に告白されてしまう。
一人は必死で熱く重い男、一人は常に包んでくれる優しい先輩、一人は「嫌い」と言いながら離れない奇妙な奴。
選べない織理に押し付けられる彼らの恋情――それは優しくも逃げられない檻のようで。
本作は織理と三人の関係性を描いた短編集です。
愛か、束縛か――その境界線の上で揺れる、執着ハーレムBL。
※この作品は『記憶を失うほどに【https://www.alphapolis.co.jp/novel/364672311/155993505】』のハーレムパロディです。本編未読でも雰囲気は伝わりますが、キャラクターの背景は本編を読むとさらに楽しめます。
※本作は織理受けのハーレム形式です。
※一部描写にてそれ以外のカプとも取れるような関係性・心理描写がありますが、明確なカップリング意図はありません。が、ご注意ください
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
【完結】生まれ変わってもΩの俺は二度目の人生でキセキを起こす!
天白
BL
【あらすじ】バース性診断にてΩと判明した青年・田井中圭介は将来を悲観し、生きる意味を見出せずにいた。そんな圭介を憐れに思った曾祖父の陸郎が彼と家族を引き離すように命じ、圭介は父から紹介されたαの男・里中宗佑の下へ預けられることになる。
顔も見知らぬ男の下へ行くことをしぶしぶ承諾した圭介だったが、陸郎の危篤に何かが目覚めてしまったのか、前世の記憶が甦った。
「田井中圭介。十八歳。Ω。それから現当主である田井中陸郎の母であり、今日まで田井中家で語り継がれてきただろう、不幸で不憫でかわいそ~なΩこと田井中恵の生まれ変わりだ。改めてよろしくな!」
これは肝っ玉母ちゃん(♂)だった前世の記憶を持ちつつも獣人が苦手なΩの青年と、紳士で一途なスパダリ獣人αが小さなキセキを起こすまでのお話。
※オメガバースもの。拙作「生まれ変わりΩはキセキを起こす」のリメイク作品です。登場人物の設定、文体、内容等が大きく変わっております。アルファポリス版としてお楽しみください。
側仕えに選ばれた少年は、伴侶として愛される
すいかちゃん
BL
家紋を持たず生まれたため、家族に疎まれて育った真人(まなと)。そんな真人の元に、貴梨家から側仕えの話がくる。自分を必要としてくれる存在に、真人は躊躇いながらも了承する。
貴梨家に着いた真人は、当主である貴梨隆成から思いがけない事実を知らされる。最初は隆成を拒む真人。だが、「愛している」と真摯に告白されその身を委ねた。
第一話
「望まれる喜び」では、家族に冷たくされている真人が側仕えに選ばれるまでが描かれています。
第二話
「すれ違う心と身体」
抱かれる事に不安を覚える真人。そんな真人に焦れた隆成は、強引に…。
第三話
「重なる心と身体」
花火大会の夜。隆成と真人は、伴侶として1つになる。
第四話
「譲れない想い」
除籍のために梅咲家へ戻った真人。が、父親によって桐野と共に囚われてしまい…。
第五話
「愛を誓う夜」
王宮に挨拶に行く真人。
その夜。隆成から改めてプロポーズされる。
第6話
「生真面目な秘書は、苦手だった男の腕に甘く抱かれる」
隆成の秘書である桐野と、普段はお調子者の拓磨の話となっています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる