外国人御曹司と結婚を前提にお付き合いすることになりました。が、

ミネ

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家からタクシーで人目に晒されることなく辿り着いた料亭は、手入れの行き届いた石畳の細い小道が奥まった店へと続き、中へ上がれば広く美しい内庭のある風情溢れる場所だった。


予約の名前を告げ、案内をされるが、さすがの高級店か、こんな格好をした瀧に対して従業員は顔色ひとつ変えなかった。


通された部屋からも中庭が楽しめ、市松模様型に抜かれカットされた差鴨居が涼しげで広々とした作りになっている。

間仕切りの障子が開かれると、広い座卓に肘掛けの着く座椅子が六席ほどあり真ん中の席に一人の男が待っていた。


「あのー、‥お約束した瀬乃生せのおです」
瀧が話しかけた途中で男は立ち上がりこちらへ二、三歩進み出た。

瀧よりも5センチほどだろうか背が高い。

「お待ちしておりました!私はヒュー•アンドロシュと申します。是非、私のことはヒューと呼んでください」

丁寧な日本語のネイティブの発音でそう言うと少しはにかむ様な笑みを浮かべて右手を差し出した。

ヒューは艶があり少しうねる黒髪をやんわりと後ろに流しており、彫りの深い精悍な顔つきをしている。意志の強そうな凛々しい眉毛は鼻梁へと美しく続いており、瞳は深く澄んだ湖の色で見る者が溺れてしまうような誘い込む色香がある。
顔が小さく、脚は長い。瀧より一回りほどではないがヒューの方がやや大きい。全体のバランスがとてもよく、まるで高級ブランドのカタログから現れたようだ。

どことなく上品な佇まいとそれを裏付けるような上質な艶のあるスーツ。瀧の周りにはいないタイプのハイソサエティな男だ。

瀧は相手が外国人だと知り、さらに驚くほどの美貌と品のよさに呆気に取られた。

「あ、お、俺は瀬乃生‥静湖‥」

の、弟。というのは黙っておく。
まあ、どう見ても美しい女装をした男なんだけれども。


「来てくれて本当に嬉しいよ‥。その、えっと‥、と、とりあえず座ろうか?」

ヒューは瀧が女の名前で紹介したことも、ちゃんと理解しているようだがそれをまるで気にする様子はなく、それよりも瀧に対して緊張しているのか言葉が辿々しい。

静湖によると男を相手に連れて行ってお見合いの意味をなくすという作戦と聞いていたが、見る限りヒューに怒った様子はない。むしろ明るい喜びのオーラすら漂っていて顔の横からぽんぽんと花でも咲きそうだ。

さっきから瀧に対して照れながら元気にあいさつしたかと思えば、今度は緊張して、そして今は喜びを隠せないでいる。
黙っていれば目を奪われるような男前が気持ちを隠しきれずくるくると表情を変えているのが瀧にはおかしかった。

向かいの席に腰を下ろし、ヒューと迎え合わせになる瀧。

「乾杯しませんか?無事二人が会えたことに」
ヒューはうっとりと恍惚の表情をこちらに向けて僅かに微笑む。男女構わず撃沈させる美の神がヒューの肩に乗っている気がした。

思わず見惚れてしまいそうになるのをグッと我慢して瀧は平静さを保つようにした。気を取り戻すとヒューの態度が気になった。ヒューは瀧が来たことに全然驚いていないし、それに無事二人が会えたとはどういうことだろうか?

お見合いの席にオカマがやってきたら、決して無事ではないだろう。
そもそも無事でなくする為に瀧は来たはずだ。

「‥無事、ではないですよね?その、俺、コレだし‥」

「ああ、全然問題ありません。瀧さんはとても綺麗です」

瀧は姉の話と違うヒューの言葉に焦った。
しかも、名前もバレている。

問題無いなんて、問題有りである。


「ちょっと待って‥。そもそも、どうして‥お見合いをすることに?」


「私の部下の写真を見せてもらっていた時に、とても気になる人を見つけてしまって‥。私がどうしてもその方に会いたいと望んで今日の場をセッティングしてもらったんです」


話はこうだ。

ヒューが部下である長谷部はせべのスマホで取引先の家族や友人を交えたバーベキューのSNSの写真を見せてもらった時に気になる人を見つけた。それが瀧だった。

長谷部は静湖の会社の大きい取引先の相手であり、瀧も静湖に誘われてそのバーベキューに参加した思い出がある。去年の秋口だ。瀧は見た目が良く、それは姉の静湖の自慢でもあり、昔から色んなところに連れ回されており今回もそれだった。バーベキューは比較的若い人が多く、軽く合コンのような意味合いも兼ねている気がした。瀧もよく女の人に連絡先を聞かれたからだ。


瀧は引き攣った笑みを浮かべる。ヒューは静湖の会社の取引先の上司だ。

なんて断りずらいパスを回してくるんだねーちゃん!

それに静湖が推し進めたこの女装はヒューが望んだことなのだろうか?

春色のワンピースの下に着けている程よく盛られたブラジャーの締め付けがやけに苦しく感じた。何時間か前まで、女の人はこんなモノつけてるのか、なんて面白がって女装していた自分を責めたくなった。なんとしてでもこんなバカみたいな話に乗るんじゃなかったのが正解だ。


「私は男も恋愛対象に入るけど、女装は好みではないよ。私の趣味ではない。だけど‥、その、嬉しいよ。お見合いの席にしたのは私の真剣さを知ってほしいからで、君も合わせた格好をしてきてくれたから。君もそういう気があるってことだろう?」

そんなつもりは毛頭ないのだが、ついていけない状況に呆気に取られて喋れない瀧とやや興奮気味のヒュー。

彼は一呼吸置くと、少し声のトーンを下げ、明確にゆっくりと自分の思いを言葉に乗せた。

「私は君と結婚前提のお付き合いをしたい」

その煌めくブルーアイズで瀧を見つめてくる。そこには確固たる強い意志を感じた。


「け‥」


結婚‥?


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