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玄関を出てエレベーターに乗り込むと正面の壁には細い姿見が備え付けられており二人の姿が映し出される。
瀧とセオドアは3センチほどしか身長は変わらないが、鍛えているのだろうか服の上からでもわかるような身体の厚みがあってセオドアのほうが大きく立派に見えた。
ヒューと一緒にいることで慣れてはいるが、マンションのエントランスでコンシェルジュに見送られるときも、その後通りに出てからもちらちらと視線を感じる。
横目でセオドアを見れば少し眉を寄せるのが癖なのかしかめっ面で短い髭がもみあげから続いて伸びており、濃い眉毛の下の冷たそうな瞳とその深い森の奥のようなグリーンの虹彩が美しい。
黒い髪は短くセットされて形の良い額がのぞいている。
黙っていれば渋みのあるいい男でヒューと同い年だが歳より何歳も上に見える。
『見惚れてんの?』
『まあ美形だよね』
ふん、と鼻で笑われかちんときたが感情を押し込めて会話を流す。
瀧は店のある駅の方に足を向けたがセオドアは違う角を勝手に曲がり瀧の制止も聞かず寄り道をしだした。
セオドアが入ったのはカフェも併設するペットショップで可愛らしい犬や猫が小さなケージの中で遊んだり寝たりしていた。
『犬飼おう。僕がいる間、ペットが欲しい』
セオドアはトイプードルの檻の前にしゃがみ込み言い放つ。
『冗談』
『名前はミディにしよう。ミニテディでミディ。ヒューに可愛がってもらうんだ』
目の前にいる栗色の毛がふわふわでぬいぐるみみたいな愛くるしいトイプードルを目の前に、なんとも男らしいおまえが何を言っているんだと瀧は言いたくなったが心を聖母にして優しく受け答えをした。
『セオドア、ヒューも俺も忙しいからペットは飼えないんだ』
セオドアは瀧の言葉など一切聞かず甘い声でトイプードルに話し続ける。
『僕のうちでは二匹のポメラニアンとマルチーズ、それからペキニーズを飼ってるんだけど、全部僕の子供だと思ってる。それで新しいこいつはヒューと僕の子供にしよう。な、ミディ』
セオドアはケージの前でふりふりと短い尻尾を振るトイプードルに人差し指を当てて話す。
「くだらねえこと言ってんじゃねえよ」
冗談でも気分が悪く、瀧はつい口に出してしまう。
セオドアはトイプードルに向けていた蜜のような雰囲気を消すと元の冷たい視線で瀧を見据え、しゃがみ込んでいた姿勢から立ち上がると瀧の胸を指で指した。言葉を理解しているのかわからなかったが、険のある言い方に反応したようだ。
『僕が女なら無理矢理ヒューと既成事実を作って子供を産んでおまえからヒューを奪い取ってやりたいよ』
ジャケットの内ポケットからマネークリップに挟まれた100ドル札の束を丸々、瀧の着ているコートのポケットに突っ込むとセオドアは低い声で凄んだ。
『僕がヒューの家にいる間は帰ってくるなよ。ネカフェでも行ってな』
ネットカフェを略すところからしてセオドアはそれなりに日本語や日本の文化を知っているのだろう。
セオドアは店を出ると迷う風もなくマンションの方角へすたすたと歩いて行く。
マンションに来た時もゲストルームの場所を知ってた様だったし、セオドアはこの辺の地理を理解してそうだ。このペットショップももしかしたらヒューと二人で来たことがあるのかもしれない。
そう思うと瀧はむかむかしてきて慌ててセオドアの後を追った。
瀧とセオドアは3センチほどしか身長は変わらないが、鍛えているのだろうか服の上からでもわかるような身体の厚みがあってセオドアのほうが大きく立派に見えた。
ヒューと一緒にいることで慣れてはいるが、マンションのエントランスでコンシェルジュに見送られるときも、その後通りに出てからもちらちらと視線を感じる。
横目でセオドアを見れば少し眉を寄せるのが癖なのかしかめっ面で短い髭がもみあげから続いて伸びており、濃い眉毛の下の冷たそうな瞳とその深い森の奥のようなグリーンの虹彩が美しい。
黒い髪は短くセットされて形の良い額がのぞいている。
黙っていれば渋みのあるいい男でヒューと同い年だが歳より何歳も上に見える。
『見惚れてんの?』
『まあ美形だよね』
ふん、と鼻で笑われかちんときたが感情を押し込めて会話を流す。
瀧は店のある駅の方に足を向けたがセオドアは違う角を勝手に曲がり瀧の制止も聞かず寄り道をしだした。
セオドアが入ったのはカフェも併設するペットショップで可愛らしい犬や猫が小さなケージの中で遊んだり寝たりしていた。
『犬飼おう。僕がいる間、ペットが欲しい』
セオドアはトイプードルの檻の前にしゃがみ込み言い放つ。
『冗談』
『名前はミディにしよう。ミニテディでミディ。ヒューに可愛がってもらうんだ』
目の前にいる栗色の毛がふわふわでぬいぐるみみたいな愛くるしいトイプードルを目の前に、なんとも男らしいおまえが何を言っているんだと瀧は言いたくなったが心を聖母にして優しく受け答えをした。
『セオドア、ヒューも俺も忙しいからペットは飼えないんだ』
セオドアは瀧の言葉など一切聞かず甘い声でトイプードルに話し続ける。
『僕のうちでは二匹のポメラニアンとマルチーズ、それからペキニーズを飼ってるんだけど、全部僕の子供だと思ってる。それで新しいこいつはヒューと僕の子供にしよう。な、ミディ』
セオドアはケージの前でふりふりと短い尻尾を振るトイプードルに人差し指を当てて話す。
「くだらねえこと言ってんじゃねえよ」
冗談でも気分が悪く、瀧はつい口に出してしまう。
セオドアはトイプードルに向けていた蜜のような雰囲気を消すと元の冷たい視線で瀧を見据え、しゃがみ込んでいた姿勢から立ち上がると瀧の胸を指で指した。言葉を理解しているのかわからなかったが、険のある言い方に反応したようだ。
『僕が女なら無理矢理ヒューと既成事実を作って子供を産んでおまえからヒューを奪い取ってやりたいよ』
ジャケットの内ポケットからマネークリップに挟まれた100ドル札の束を丸々、瀧の着ているコートのポケットに突っ込むとセオドアは低い声で凄んだ。
『僕がヒューの家にいる間は帰ってくるなよ。ネカフェでも行ってな』
ネットカフェを略すところからしてセオドアはそれなりに日本語や日本の文化を知っているのだろう。
セオドアは店を出ると迷う風もなくマンションの方角へすたすたと歩いて行く。
マンションに来た時もゲストルームの場所を知ってた様だったし、セオドアはこの辺の地理を理解してそうだ。このペットショップももしかしたらヒューと二人で来たことがあるのかもしれない。
そう思うと瀧はむかむかしてきて慌ててセオドアの後を追った。
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