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「おかえり」

ヒューが仕事から帰ってくると瀧は玄関まで出迎えにきて、さらに食事の支度もしていた。

瀧一人での料理は失敗を恐れてか、具材を炒めてペーストを入れるだけの簡単なおかずとお湯を注ぐだけの味噌汁だったが、ヒューは喜んでそれを瀧と一緒に食べた。


ヒューが瀧を受け入れる宣言をした翌日から瀧は進んで朝食や夕食の用意をしたり、ほぼヒューがしていた食事の片付けを手伝ようになった。

昼休みや休憩時間の隙間にするメッセージのやり取りも、今までヒューからしかしなかったのが瀧からも送るようになり、大学の帰りに寄り道してヒューの好きそうなお菓子も買ってくるようになった。


食事が終わりゆっくりしたあと、瀧はヒューをお風呂に誘う。最近は一緒に入るのがお決まりだ。

暖かい湯気で湿るバスルームで二人は交代交代でお互いの頭と身体を洗い合う。

瀧はソープをさらに足して泡を立てるとヒューのつるりとした毛の無いそこを両手で丁寧に洗った。

「後ろも洗っていい?」

風呂の度に瀧はヒューの後ろを洗おうと試みるがなかなか上手くいかない。

洗っていいか聞くとヒューの身体は強張り、眉間に深い皺を寄せる。ヒューは過去を思い出し、その怒りを鎮めようと深呼吸をするのだが、瀧はそれを拒否だと受け取ってしまう。

今日もまたヒューが強く口を結び、ぐっと何かに耐えるように苦しそうな表情を浮かべると瀧は諦めの色を顔に滲ませ、ヒューの頬に軽くキスをして先にバスルームを出た。



しょんぼりしながら洗い残した部分を手早く洗い、ヒューもバスルームから出るとリビングでミネラルウォーターを飲みながらくつろぐ瀧の隣に腰掛けた。

「瀧、明日も私と一緒にお風呂入ってくれる?」

不安そうなヒューに瀧は吹き出す。

「明日も晩飯作って待ってる」

「瀧‥」

二人はお互いの肩に腕を回すと何度か啄むようなキスを繰り返す。

「まだスキンシップが足りないのかなー。ヒュー、後ろから抱かせて」

瀧はヒューの身体を少しずらすとソファとヒューの間に入り、背中から抱きしめながら軽いタッチで胸を弄る。

「おっぱい嫌い?ヒュー、こっち見て」

「ん、瀧、好きだよ」

顔を見れば安心なのか、ヒューは色気のある表情で瀧を見る。

「ヒューの顔、えろい‥」

瀧はふざけてわざとゆるく腰を振る動作をしてヒューの尻の辺りに下半身を優しくぶつける。

ヒューはくすくす笑いながら今度は自分が瀧を下にして唇を奪いにいくと再び二人はバードキスを顔中に降らせた。

ソファの上でじゃれ合いながら瀧の膝の上に軽く乗ったヒューが、ふと思い出したように話した。

「そうだ瀧、今年の夏はまとまった休みが取れそうだからどこか旅行に行こうか。それか瀧が乗り気ならアメリカでする挙式の詳しい打ち合わせを向こうに行って二人でしたいなって考えてるんだけど」

「えっ、ごめん。夏休みはインターンがあるから時間ない」

「‥‥‥瀧、就職するの?」

「は?」

二人の間に一瞬沈黙が訪れ、すぐに瀧が口を開いた。

「なに?ヒュー、俺が働かないとでもおもってんの?」

瀧の声色は怒りに満ちており、膝に乗せていたヒューを邪魔だと言わんばかりに退かせる。

「ち、違う!働かないと思ってるんじゃ無くて、働いて欲しくないんだ!いや、働いてもいいのだけど、今のままアルバイトとか、そう言うもので‥」

ヒューは慌てて弁解するが、その言葉はさらに瀧の怒りを掻き立てた。

「働いてもいいんだけどって何?俺は働くことをヒューに許してもらわなきゃいけないわけ?」

「ちがう!ちがうよ!瀧、ごめん!言い方が良くなかった。大学を卒業したらもっと一緒にいる時間が増えると勝手に思ってたんだ!今でも学校にアルバイトもしてて時間は少ないくらいだし。働くより私のそばにいてほしいと思ってただけなんだよ‥!」

ヒューはソファから降りると下に轢いてあるラグに膝を突き、瀧の投げ出された手を両手で握りしめるが瀧はそうするヒューを冷たい目で見下ろすだけだった。

「ヒューってさ、俺のこと本当は下に見てない?働かないでそばにいろってなんだよ。俺はヒューのペットじゃねえよ」

「そんな事思ってない!瀧、お願いだよ、私の言葉を悪いふうに捕らえないでほしい」

ヒューは必死になって訴えるが瀧の怒りは収まらない。瀧は自嘲するような薄笑いを浮かべ吐き捨てる。

「後ろ入れられんのも俺にマウント取られるみたいで嫌がってんじゃねえの?」

「瀧!!」

心外だったのかヒューも思わず声を荒げた。しかし瀧はヒューを無視すると部屋に行ってルームウェアを着替えるとスマホと財布を片手に家を出て行ってしまった。
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