きっといつかのプレイリスト

ミネ

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 熀雅の高級車がロー・シティの煌びやかなビルに入り、駐車場からエレベーターでそのまま事務所の階まで上がる。

 事務所の傷一つない広いキッチンで丁寧にエスプレッソを入れソファーに寛ぐ。ポケットからメモリーのケースを出すとタブレットに差し込んだ。
 今日撮った紅丸の恥辱の限りを収めた映像が画面に現れる。

 熀雅はエスプレッソの香りを愉しみながら、二人きりで過ごした時間を思い出し、その相手がこうして凌辱される画像を見るのが好きだ。



 事務所の電子ロックが外れ、一人の男がやってきた。ソファーに座る熀雅を見つけると挨拶をする。
 タブレットの画面が男の視界に入った。画面には三人の男に髪の長い少年が犯されており卑猥な言葉を吐きながら狂ったように啼いている。

「あー、この間のガキ」
どうやら熀雅と紅丸が出会ったビルの前に彼もいたようだ。

「なんだか機嫌がいいですね」
 いつもよりやや明るい熀雅の雰囲気を感じ取り声を掛けた。


「まあね」
 熀雅は静かな笑みを浮かべながらエスプレッソを口に運ぶ。

 男はカップをもつ熀雅が腕時計をしておらず何か落書きがされていることに目を留めた。

「なんです?それ」

「ああ、これ。いいだろ」
 カップを置くと袖を捲り、腕時計の落書きを見せた。

「なんの悪戯ですか」

「恋の悪戯」

「なんですか、それ。──時計、どうしたんですか?」
 以前、大きな仕事が成功したときに記念に購入したと聞いたことがあった。

「あげたよ。好きな人に」

「笑わせないでくださいよ」
 男は醒めた目で熀雅を見る。

「僕が恋などしないとでも?」
 
「ええ。しないでしょう」
 男は断言する。
 落とした子達を泡に沈めてるのは誰だというのだ。

 熀雅は一度撮ってしまえば、その後は誰とも会うことはない。しかし、身体を快楽に染められた子たちが、向こうから忘れられないと連絡がある為、然るべき場所を紹介してあげてるだけなのだが。



 熀雅は一口残ったエスプレッソを飲み干すと、時間をかけて描かれた腕の時計をしばらく眺めた。

 恋もするよ。この落書きが消える間くらいまでは。

 熀雅は呟いた。
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