Utopia Crime -彼方の森-

Arumi

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0. 『それは、水面に映る月のように』 

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 繰り返す日常に、日々悩まされていた。
 僕は貧しい国のように、道端で夜を過ごす必要もないし、飢餓に侵されて人肉を貪る必要もない。極めて平穏な、国際的に幸せな生活を送っている。それは単調でモノクロの退屈な世界。そうとも言い換えられるが、僕はそれなりに自分の生い立ちに感謝している。死に怯えることもなく、美味しいご飯をたらふく食べられることは至福。そうとさえ思っている。だから、運命を憎んだことは無い。
 そのうえ、思春期故の悩みがあるわけでもない。彼女はいないが、欲しい欲しいと苦悩することはないし、友達にも恵まれている。だから、疎外感を感じたこともない。平凡だけど和やかな、学生らしい生活を過ごしている。
 さして自慢できることではないが、勉強も好きだ。僕は知識欲が旺盛な方で、特に歴史の分野は小学生の頃から成績が良かった。
 そして、趣味もある。読書。深夜アニメ。1人で旅行。どれも僕の暇を幸せに変えてくれる。趣味にのめり込んでいる時間は、楽しい。


 では。では僕は、どうして日常に辟易しているのか。
 問いに対する答えを見つけようとしたが、考えるのをやめた。きっと、嫌な事を思いだしてしまうから。過去を、後悔してしまうから。
 きっと僕は、この悩みを死ぬまで抱え続けることになるだろう。そう思った。


『お兄ちゃん、ありがとうね。この髪留め、大切にするよ』
 不意に、懐かしい声が脳裏をよぎる。曖昧で朦朧とした、過去の記憶。
 もう遥か昔に聞いた、あいつの声。今では水面に映る月のように、手が届かない。
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