スキルゼロの欠陥転生~覚醒し聖女の婚約者として世界最強へと成り上がらん~

神無フム

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 国に帰還して聖女様達と解散したら、そのまま狩りの報告をする為に大聖堂に向かった。
 時刻は丁度昼になる前、狩りの報告に来ている同業者達の姿は少なく窓口に座っている天使達の数も半分程度しかいない。

 中央にある本日起きたニュースを知らせる掲示板に目を向けると、そこには例の四人を含むFランク狩人達が俺の一件以外にも色々と重大な違反行為を行った内容と処分内容が大きく記載されていた。
 やはりというか何というか、余り言葉にはしたくないが全員処刑される事が決ったらしい。
 きっと違法ポーションの情報を全て聞き出した後に、彼等はどこにあるのか詳細は不明の処刑場に連れていかれる事だろう。

 ちなみに今回危害を加えられた自分の名前は、一切載っていない。
 察するに〈スキルゼロ〉が第二エリアにいた事は秘密にするつもりのようだ。
 まぁ、余計な混乱とか騒ぎを避けるのならば当然の対応だ。それよりも今の胸中を占めているのは、

 ああ、これで奴らの顔を見ることもなくなるのか。

 この半年間ずっとアイツ等からの陰湿なイジメにあってきたが、それが無くなると思ったら胸の内が少しだけ軽くなった。
 そもそも自身の研鑽けんさんで忙しいはずなのに中毒性のあるポーションに手を出し、尚且つ最弱の狩人に構っている暇がある時点で彼等が狩人として上を目指す意識は低かった事がうかがえる。

 反面教師として自分も、上を目指す狩人として気を引き締めようと改めて思った。
 掲示板を見るのを止めた後は周囲を見回して、そこで何やらそわそわしているアスファエルを見つける。

 いつも冷静沈着で堂々としている彼女が、人前であんな落ち着かない姿を見せているのは実に珍しい
 一体どうしたのか疑問に思いながら真っ直ぐ歩み寄ると、こちらに気が付いた彼女はつぶらな瞳を大きく見開いた。

 慌てて駆け寄ってきたアスファエルは、半目で睨み何か言いたそうな顔をする。
 だがこちらを注目している周囲の天使達を見て、それをグッと呑み込み小さな溜息をした。

「……ソウスケ、こっちに来るのじゃ」

「わ、わかった」

 いつもより声のトーンは低く、ただならぬ圧を感じる。
 手を強く握られると、強引に引っ張られてどこかに連れて行かれる。
 彼女に連行されて向った場所は、いつもの防音処理が施されている個室。

 先に中に通されたら、最期に入室して来たアスファエルは扉を勢いよく閉める。
 鍵をかけた彼女は振り向くなり、急に俺の身体を正面から強く抱きしめてきた。

「え、え……!?」

 これは一体どういう状況なんだ。
 胸に顔を押し付ける美少女天使に、驚きのあまり固まってしまった。

 周囲を見回すも、この場にいるのは自分と彼女だけ。
 この状況を一から説明してくれる者は、残念ながら今は一人もいなかった。

 服がじんわりと湿る感触から、アスファエルが涙を流している事が分かる。
 なんで涙を流しているのか。先程の普段と少し違った彼女の様子を思い出した自分は、頭の中で考えて一つの答えに行きつく。

 たぶん第二エリアに行くことを先日伝えていた為に、Fランク狩人達の事件に巻き込まれたと考えたのだろう。

 ここまで心配してくれていた事に大きな喜びを感じるが、同時に心配させた事を心の底から申し訳なく思った。
 コミュ力の強い主人公ならば、こういう美少女が泣いているシーンは優しく抱きしめた後に、心配かけた事を謝罪するのだろう。
 でも残念ながら自分は、超が付く話下手である。そんな事ができるのなら女性との付き合い方に困ったりしない。
 だから今は全身を石像のように硬直させて、彼女が落ち着くのを待つことしかできなかった。

 耳に聞えるのは緊張して高鳴る自身の心音、それと目の前にいる天使の小さな嗚咽おえつだけ。
 天使特有の甘い香りに黒い欲望が「今だ押し倒せ!」と叫んでいるけど、生憎とそんな事をする度胸は微塵もなかった。
 むしろ不用意に彼女の身体を触らないように、中途半端な位置で両手を浮かせた状態をどうしたものか困っていたら。

 数分くらい経過した後、アスファエルはようやく身じろぎをして小さな吐息を一つする。
 恐る恐る顔を上げた彼女は、つぶらな瞳を赤く腫らしていた。

「……すまないのじゃ。Fランクの狩人達が重大な違反行為をしたと〈百獣ギルド〉の方々が連行して来たとき、攻撃した対象がソウスケだった事を知ってしまって。無事な姿を見たら安心した……」

「う、うん。それは全然構わないんだけど、大丈夫?」

「もう落ち着いたから大丈夫、女性が苦手なのに迷惑をかけたのじゃ」

「気にしないで、俺も色々とお世話になってるからさ。こういう時は、いくらでも胸を貸すよ」

 この世界に来た時から、アスファエルには沢山助けられた。この程度の事では迷惑の内には絶対に入らない。
 安心させるために精一杯の笑顔を浮かべると、彼女は頬を少しだけ赤く染めて恥ずかしそうにうつむいてしまう。
 可愛らしいその仕草を見ていたら、何だか胸の内を温かい感情が満たしていくのを感じた。

 ああ、こんなにも自分の事を本気で心配してくれるなんて。本当に姉のようだ。
 彼女が担当天使で良かった、と心から思っていると不意に右の袖を指先で引っ張られる。

「ソ、ソウスケ!」

「な、なんだ」

「……その、事務処理をするからこっちにくるのじゃ!」

「事務処理……あ、ああ、わかった」

 すっかり忘れていた当初の目的であった狩りの報告をする為に、再び彼女に引っ張られると今度は上質なソファーに揃って腰掛ける。
 今回も対応はテーブルを挟んで対面ではなく、真横に座っての作業であった。
 アスファエルが目の前に出現させた薄い画面には、今回の俺の活動が事細かく表示される。

 相変わらずこの近い距離感と、彼女のスカートからのぞく白い美脚に目が釘付けとなってしまう。
 なんでシスターの恰好なのにスカートの丈が短いんだよ。胸中で思わずツッコミをする。
 婚約者がいるのだから見てはいけない。自分を叱りつけながら鋼の意思で足から目をそらした。

 そんな自身の中にある、男の欲望と戦いながら待っていたら。
 アスファエルが急に距離をあけて座り直し、その綺麗な太腿に頭を乗せろと言わんばかりに軽く二回叩いてみせた。

 余りにもタイミングが良すぎるその行為に「まさか、俺の欲望が見せる幻覚か?」と思って目をこすって再度見る。
 だが目の前にある幻覚は消えることなく、手招きしていたアスファエルはじれったくなったのか腕を掴むと力を込めて引っ張ってきた。
 想像以上に強い力にバランスを崩した自分は、そのまま綺麗に彼女の膝に後頭部を乗せる形となった。

 下から見上げる格好となり、此方を見下ろすつぶらな瞳と視線がぴったり合う。
 するとアスファエルは大きな溜息を吐いて、俺の頭を優しく撫でてきた。

「……今日のリザルトを見させてもらったのじゃ。率直に言ってソウスケ、どうして強くなったからといって初日から〈アッシュウルフ〉をニ十体に加えて、あのFランク狩人達の〈死神〉と恐れられている〈オルトロス〉と単独で戦うなんて無茶をした? 第二エリアでは一度痛い目を見ているのに、初日から飛ばすどころかエリア制覇しそうな勢いなのじゃ」

 小さな口から出てきたのは、称賛や驚きでもなく少々怒気を含んだお叱りの言葉。
 想定していなかったパターンに、自分は慌てて苦し紛れの言い訳をした。

「それは……えっと、なんというか成り行きでそうなったというか、まさか〈オルトロス〉と戦う事になるとは思わなかったと言いますか」

「ふーん、そうなのか。ソウスケは堅実に行動をすると思っていたのだが、力を手に入れたとたんにこんな無茶をするバカなんじゃな。リザルトを見た時、何かの間違いでは無いのか何度も確認したのじゃ」

「うぐ……っ」

 グサグサと言葉の刃が、次々と胸に突き刺さっていく。
 確かに力を手に入れた自分は、第一エリアのボスの件を含め少し冒険をする回数が増えてしまっているのは事実。

 二十体の〈アッシュウルフ〉戦だって、一つミスをして足を止めていたら攻撃を受けて死んでいた可能性はある。
 オマケに第二エリア最強格の一体〈オルトロス〉と一騎打ちの戦い。Fランク狩人達に危害を加えられたのではないかと心配していたアスファエルからしてみたら、オマエは一体何をしているんだと言われても仕方のない事であった。

「ソロなのだから、もう少し考えて狩りをするのじゃ。万が一の事があったら、わしを含め婚約者である聖女が悲しむ事になるぞ」

「はい、おっしゃる通りです……」

 ぐうの音も出ない正論を突き付けられて、俺は自分の向こう見ずな行動を素直に反省する。
 申し訳ないという顔をしたら、彼女は半目で睨みながらこう続けた。

「次からは気を付けるんじゃよ」

「うん、ごめん。次からは気を付けるよ」

「分かれば良いのじゃ。己の過ちを指摘されて受け入れる姿勢はソウスケの長所の一つじゃ。──もちろん全てを考え無しで受け入れるのはダメだがな。わしの言う事の全てが、必ずしも正しいわけではないからの」

 注意が終ると、流石に疲労が溜まっていたのか頭がフラッとする。
 その様子を見ていた彼女は、いきなり自身の膝を軽く叩いてアピールをしてきた。
 最初意味が分からなくて首を傾げていたら、アスファエルはくすりと笑う。

「ふふふ、流石に疲れてるようじゃな。膝を貸してやるからこのまま少し寝るが良い」

「え、でも仕事は?」

「問題ない、わしはソウスケの担当天使じゃからな。それにこの時間は、皆ヒマしておるから問題ないのじゃ」

「……それなら、お言葉に甘えようかな」

 今日は午前中だけで色々とあった。
 慎重に彼女の膝に頭を乗せた後、俺は彼女に見守られながら目を閉じる。

 意識はあっという間に、深い闇の底に落ちていった。
 それから数時間後に眠りが覚めるまで、アスファエルは飽きることなくずっと膝枕をしてくれていて。
 起きた俺に「おはよう」と言ってくれた彼女は、姉のようだと心の中で思った。
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